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転生して十年経ったので街を作ることにしました  作者: 笹村工事
第二章 街の予定地に魔物が溢れているので対処を始めるよ
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5 王は真っ黒です その2

(なんで今頃になって、俺達にシュオルの運営を投げつけたかと思ったけど、そういうことか)


 王と側近であるアガト公の態度から、俺は一つの仮定を立てる。

 それを確かな物にするために、俺は更に問い掛けた。


「素晴らしい。あの新種の魔物を倒すなど、並大抵の軍事力では不可能です。

 よほど、強力な軍団をお持ちなのですね、アガト公」

「まさか、とんでもない」


 笑顔で、アガト公は俺の言葉を否定した。


「貴方がたが、この世界に召喚された頃と、大して変わらぬ軍勢ですよ。恐ろしい事を仰られる。

 それではまるで、我々が隠れて力を付けていたかのようではないですか」

「暴言に取られたならお許し願いたい。

 ただ、あの魔物を倒すのに、以前聞き及んでいた軍団では苦労なされたのではないかと、思ったものですから」

「はははっ、それは兵の運用を変えたからです。基本的な力は、何も変わっておりませんとも。

 我々は、かつての軍団とは違います。

 王の下知の元、私の指示で効率よく成果を上げられるようになっている。

 ただ、それだけのことです」


 俺は笑顔でアガト公の言葉を聞きながら、心の中で思う。


 コノヤロー、フカシこいてんじゃねぇぞ、と。


(兵の運用が、そんな個人のアイデアでどうにかなるか)


 兵の運用とは、言うまでもなく集団の活用だ。

 一人一人が異なる考えと能力を持った人間を、可能な限り平均化して運用し易くした上で、指示を与える者の思い通りに動かす。

 その根幹を成す運用理念は、何人もの人間の思考実験と実戦での失敗の積み重ねで出来て来るものだ。

 だからこそ、そうそう運用方法は変えられない。

 新しい戦法は、それを実践し習熟していくだけの時間が必要なのだから。


 俺達が、この世界に召喚されて十年。

 魔王による混乱から立ち直り、そこから兵の練度を上げる余裕が出来たのは、ここ数年といった所だ。

 その程度の年数で、技術的革新もなしに、考え方を変えたからいきなり強くなりました、と言われて納得してたらどうかしている。


 強力な重火器も無しに、俺のアイデアで、足軽だけなのに戦車部隊に勝ち続けました。

 例えるなら、そんな世迷言を言っているようなものだ。


 それは、この場に居る誰もが分かっていることだ。

 実際、アガト公と同じ位置に居るブロシェ公など、露骨に胡散臭げな表情をしている。


 だが、アガト公は平然としている。

 それは、状況が分かっていないから平然としているのではなく、分かった上で受け流せる自信がある表情だ。


 俺は嫌な予感をふつふつと感じながら、再び口を開いた。

  

「素晴らしい事です、アガト公。柔軟な考えとひらめきだけで、軍を強くされたと仰られているのですから。

 ですが、我々が相対した魔物は、それでどうにかなるほど弱くはありませんでした。

 教えて頂けますか? 一体、どのようなアイデアで、あの強力な魔物を倒されたのか」

「倒してなどおりませんよ」


 恥ずかしげもなく、アガト公は言い切った。それに俺が訊き返すより早く、アガト公は続ける。


「申し訳ない。言葉が足りませんでしたね。

 我々は、そもそも、いま勇者殿が口にされたような新種の魔物と戦ったこと自体がありません。 

 一度たりとも、遭遇したことはありませんでしたから。

 ですので、倒そうにも倒せません。

 もちろん、遭遇したなら、倒してみせる自信はありますが」


 ハッタリではなく、確信を持ってアガト公は言った。

 その物言いに、俺は確信する。

 こいつは、確実に新種の魔物の事を知っている。その上で、どうにか出来る戦力を保持していると。

 それだけの自信を漲らせるアガト公を、王はちらりとも見ない。

 状況が分かっていない訳じゃない。分かった上で、好きにさせているとしか思えない。

 

(……間違いない。王政府内の勢力闘争に、こっちが巻き込まれてる)


 この場に居る人間の表情を見ながら、俺は確信する。

 自信を持って平然としているのは、王と側近の一派。言わば新勢力だ。

 それに対して疑惑と混乱に包まれているのは、前王に近しかった旧勢力。


 旧勢力の代表であるブロシェ公など、事態が呑み込めつつあるのか、渋面になっている。

 そうして、皆が現状を薄らと察し始めた頃、王は俺に言った。


「ヒイロよ。そろそろ、汝がここに来た用件を、聞かせて貰おう。

 聞けば、新種の魔物に手を焼いている、という事だと思うが、相違ないか?」

「はい。その通りです」


 否定せず、俺は返す。下手に否定すれば、この場に来た理由がなくなる。

 王に謁見を求めておきながら、理由がないではタダでは済まない。

 それを分かった上で、王は更に言った。


「それで、どうするつもりだ? シュオルは、すでに汝に、辺境伯として下賜した土地。

 ゆえに、そこでの全ては、汝と、ひいては汝ら勇者たちの責となる。

 シュオルの地で発生した魔物も、魔界より現れる魔物とて、汝らが処理すべき案件だ。

 そして、万が一にも、そこから王都に魔物が来襲し、被害が出たならば、汝らの責にて賠償をする義務がある。

 分かっておろうな?」


 お前の土地が原因でなんか被害でたら、責任取らせるから覚悟しとけよ。

 遠まわしに王は俺に言う。


(それが狙いかよ……)


 王の言葉に、俺は内心で歯噛みする。

 恐らく、いやほぼ間違いなく、シュオルに発生した新種の魔物を、王は自分の権力固めに利用している。


 シュオルの魔物の対策に当たっていたのはアガト公だが、彼は現王の一派だ。

 当然、新種の魔物に関する情報は伝わっていただろうし、それを利用する事にためらわなかった筈だ。


 新種の魔物が出る、危険な土地を俺たち勇者に丸投げし、俺達に負担を掛け。

 その事を知っているのは、新勢力の一派だけ。

 俺達が、新種の魔物の事を知り王宮に来たなら、あしらいつつ釘を刺し、その上で戦力を保持していることを旧勢力にほのめかす。


 自分達の負担は減らしつつ、周囲に示威行為を取れる、一石二鳥のやり方。


 いや、恐らく、他にも色々とあるのだろう。

 それが何か、必死に考えている中で、アガト公が口を開いた。


「勇者殿。もしよろしければ、我々がお力をお貸ししたいと思うのですが、どうでしょう?」


 慈愛に満ちているとさえ言える表情で、俺に提案して来た。

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