4 すたこらさっさと逃げますよ その2 嫌な事に気が付いた
「気にしなくても大丈夫ですよ、デミウルゴス」
魔物に強力な新種が出た原因が、俺たち勇者と魔王との戦いにあると口にしたデミウルゴスに、俺は軽い口調で返す。
「それはそれ、これはこれってヤツですよ。あの時は、どのみち、ああするしかなかったんですし」
「そうなのだ! だからデミウルゴスが気にする事は無いのだ!」
「事前に気付けなかった自分達のせい、とか言うなよ。
神だからって、何でもかんでもできるって訳じゃないんだし。
自分達が出来ないことをするために、俺達をこっちに喚んだんだろ?
だから、まぁ、今も俺達に頼っとけ」
「……そうか」
俺や出雲、そして八雲の言葉に、デミウルゴスは涙ぐむ。
とりあえず、自分達を責めることは止めたみたいだけど、しめっぽくなっちゃったのはしょうがない。
なので、雰囲気を変えるために、気楽な声で言ってみる。
「なにはともあれ、アレを排除しなくちゃ街は作れないんだし、まずは対策を考えていこう」
「対策ねぇ。どうするの? 魔王の時みたいに、爆弾作って吹っ飛ばしちゃう?」
俺の声に合わせるように、気楽な声で返した薫に、デミウルゴスが応える。
「それは、止めた方が良いだろう。というよりは、あまり勇者たちが本気を出して戦わない方が良い」
「どういうことです?」
俺の問い掛けに、デミウルゴスは考えを纏めるような間を空けて返してくれた。
「今回の新種の魔物だが、ほぼ間違いなく、魔王と勇者の戦いが影響して発生している。
勇者という、それまで存在しなかった強力な存在。
それに対抗するために、魔物は自らを進化させたのだ。
だから、ここで更に勇者が強力な力を振るえば、それに対抗するために、魔物は更に強力に進化しかねん」
「なんか、害虫駆除みたいだな。強い殺虫剤使って駆除すればするほど、より強力になった害虫がはびこるってヤツ」
「そんな感じかも……」
八雲の言葉に、俺は頷く。
今シュオルの中にはびこっている魔物を排除するだけなら、正直どうとでもなるんだけど、そのために手段を選ばず強力な手を使えば、後々しっぺ返しを食らうのが目に見えている。
だから必要なのは、これ以上魔物が進化しない程度の戦力で、魔物を排除できる力だ。
「勇者っていう、強力な『個人の力』が使えない以上、残っているのは平均的な個人の力を巧く運用する『集団の力』なんだけど……」
あいにくと、そんな都合の良いものは持っていない。
俺達がこちらの世界に来て10年。必死に頑張ったけど、だからって、そんな短期間で軍隊みたいな物を持てる余裕なんてどこにもない。
それ以前に、そんな物を持ってたら、王政府に喧嘩を売るようなものだし。
どうしたものか? と悩んでいると、五郎が言った。
「どっかから、借りるしかねぇんじゃないか?」
「……それしかないよね。問題は、どこから借りるかだけど」
「王政府の奴らにやらせれば良いんじゃない? 元々、あそこの魔物をどうにかするのは、あいつらの仕事だった筈なんだし」
「それはそうだけ……あっ!」
薫との会話で俺は、ようやく一つの事に気付ける。
(馬鹿か、俺は。もっと早く気付け!)
「どうしたのよ。いきなり叫んで」
訝しげに聞く薫に、俺は返した。
「……王政府の奴らなんだけど、多分、知ってたんじゃないかな。シュオルに強力な魔物が居ることを」
俺の言葉に、皆は一瞬無言になる。そして、
「そうよ! あいつら知ってたに決まってるわよ!」
「言われてみれば、そうじゃな……」
「……だな。あいつらの性格の悪さ、甘く見てた」
「知ってたくせに、こっちには教えなかったってことっすか……やりかねないっすね、あいつらなら」
皆は口々に、王政府に向かって文句を言う。
それを耳にしながら考えをまとめていた俺は、更に嫌な考えに辿り着く。
「ねぇ、もしかしてなんだけど……強力な魔物が発生して来たから、俺達にあそこの運営をぶん投げて来たってことじゃないかな……それだと、色々とつじつまが合うし」
またしても皆は無言になる。そして、
「それだー!」
「いや、もう! あいつら信じられない! 絶対そうに決まってるわ!」
「ふっ、ふふふふ……イイ性格しとるのぅ、あいつら……殺す」
「ここまできたら、そうとしか思えないっすね」
完全に敵対モードで王政府の悪口を口にする。
ちなみカルナとミリィは、聞いちゃいけない事を聞かされたというように、表情が強張ってたりする。
俺は小さくため息をつきながら呟く。
「魔王の呪いさえなければ、菊野さんにシュオルの状況を覗いて貰って、こうならずに済んだんだけどなぁ……」
魔王との戦いの時、菊野さんには神与能力を使って、シュオルと魔王の周辺を調べて貰っていたんだけど、戦う直前に気付いた魔王が「遠隔視でシュオルを見ることを阻害する」という呪いを街全体に掛けたんだ。
そのせいで未だに、菊野さんでさえ現地に訪れないと、遠隔視でシュオルを見ることは出来ない。
魔王戦の時は、逆にそれが幸いして、シュオルに入ったこちらの動きも魔王に察知されずに済んだので良かったけど、今では完全に邪魔な呪いでしかない。
その解呪のために、薫には来て貰ってたんだけど、新種の魔物のせいで解呪するどころじゃなくなったのは、正直かなり痛い。
とはいえ、無い物ねだりしてもしょうがない。手元にある札で勝負するしかないんだ。
それが嫌なら、手札を増やすしかない。
「とりあえず、屋敷に戻ったら、王政府に事情を聞きに行く事にするよ。対策は、それからにしよう」
俺の提案に、みんなは頷いてくれた。
そんな事があった次の日。
早速俺は、王政府の元に訪れていた。




