3 街予定地に着いたは良いけれど その1 魔物を探そう
「なんだか懐かしい気持ちにならない?」
かつての決戦の地、魔王都市シュオル。そこに足を踏み入れ、俺がみんなに訊いてみると、
「懐かしいっていうより、久しぶりって感じねぇ」
「また来る事になるとは思っとらんかったしのぅ」
薫と和花は肩をすくめるように応える。声の響きは気軽だけど、周囲を油断なく警戒してるのが分かる。
もっとも、それはこの場に居る全員が同じだけど。
蒸気機関車でシュオルの外れにまで辿り着いた俺達は、そこからは徒歩で踏み込んでいる。
辺り一面は瓦礫だらけで、10年経った今でも破壊の跡が生々しい。
「リト達は、残して来て正解だったすね。こんな場所、リト達に見せたくないっすから」
どこか哀しげに有希が言う。有希の言葉通り、シュオルの探索にリト達は連れて来ていない。
蒸気機関車に残しているのではなく、有希のどこでも倉庫の能力を使って、菊野さん達の居る屋敷に戻している。
だから何も知らないどこかの誰かが、今の俺達を見たなら、街の外れに置いてある蒸気機関車には、まだリトたち3人の子供が居るように考える筈だ。
蒸気機関車と一緒にさらうには、絶好の機会だろう。
(ま、ダメ元の餌まきってヤツだけど、何か掛かるかな?)
俺やカルナが正体不明の魔物に襲われてから今まで、なんの手掛かりも掴めてないので、こういう小細工は、ちょくちょくしている。
やらないよりはマシって程度かもしれないけど、訓練の意味合いもあるので無駄じゃない。
「話には聞き及んでいましたが、すさまじい破壊の跡ですね。魔王との戦いの激しさを感じます」
自然な口調で、カルナが俺に言う。今回の探索が、街の状況を直に調べると同時に、何かが引っ掛からないか試している事は伝えている。
この状況で不自然な仕草をしちゃうとマズいんだけど、そういった感じは無い。
カルナの後ろに従うミリィも同様だ。これだけ自然に振る舞えるなら、より深い仕掛けに協力して貰っても良さそうだ。
そんなことを考えながら歩いていると、
「リリスの勇者よ。あちらの方から、負の思念の塊を感じるのだが」
出雲達と歩いていたデミウルゴスが、街の中央を指さした。
「分かるんですか?」
「あれだけの数が集まっておると、さすがにな」
どこか痛ましく、眉を寄せデミウルゴスは返した。
神々は人の想いを奇跡に変える能力を持っているけれど、負の思念に属する物は叶えない。
誰かを、あるいは何かを傷付け呪うこと。
憎悪や怒り、それらは奇跡として消費されず世界に残る。
それが巡り巡って魔力に宿り、魔物へと変わるのだ。
ある意味、神々が切り捨てた想いが叶った形が、魔物と言えるかもしれない。
だからデミウルゴスは、どこか罪悪感を感じているんだろう。リリスも、そうだったし。
自分達が奇跡を叶え続けるから、魔物が生まれ続ける。
そんなことを、心のどこかで思っているのだ。
俺は断固、違うと言いたいけれど。
憎悪も悪意も、全ては人間が生み出した自業自得。その始末をつけるなら、自分達でするべきだ。
この世界は、魔物なんて物が出るから、人はその対処に労力を割かれ、人同士で大きく戦うことは少ない。
何しろ戦争が無いのだ。今まで一度たりとも。
多少の小競り合いはあったとしても、下手に争い膨大な憎悪を産めば、それは大量の魔物として返って来る事を知っている。
だから、この世界の人間は戦争をした事は無い。
それを知っている神々は、思ってしまうのだ。
自分達が居なければ、自分達が奇跡を叶えなければ、人はもっと善く生きていたのではないかと。
元の世界の歴史を知ってる俺としては、気にし過ぎだよ、と慰めることしかできないけれど。
だから、俺はデミウルゴスに言ったんだ。
「魔物が居るんでしょうね、そこに。でも、大丈夫。俺たちが倒しちゃいますよ。勇者なんですから、安心して下さい」
人の業で生まれたモノは、人の手で解決するのが筋ってなもんである。
そう思ったのは俺だけでなく、
「そうなのだ! 私とロコもやっちゃうのだ!」
「俺も居るぜ。だから、気にすんな」
出雲と八雲は、自分達の神であるデミウルゴスを励ますように言う。
ついでにロコも、出雲の頭の上で威勢よく、両手を振り上げた。
「……そうか」
どこか泣きそうな表情で、デミウルゴスは2人の言葉を受け入れた。
ちょっと、湿っぽくなる。これは良くない。
なので、盛り上げるように俺は言う。
「魔物退治も、今回の目的だし、ちゃっちゃかやっちゃおう」
これに五郎も同意してくれる。
「だな。どうせやらなきゃなれねぇんだし、さっさとやっちまおうぜ。あんまり遅くなったら、陽がくれちまう」
そう言って、身体強化魔術を発動する。それに続くように、俺もみんなも、身体強化魔術を使い戦う準備を整える。
「じゃ、一先ずの目的地が出来たって事で。行こうか」
俺の呼び掛けに合わせ、みんなは事前に打ち合わせをした通りに、陣形を取りながら走り出す。
前衛は、俺とカルナとミリィ。左翼後方が薫と和花。右翼後方が五郎だ。
そして不意打ちを防ぐ意味合いでも、後衛には出雲達とデミウルゴスが配置に就く。
陣形を崩すことなく、俺達は疾走する。
10キロ近い距離を瞬く間に縮め、俺達は街の中央へと辿り着いた。
そこは、分厚く高い壁の跡が残っている。
内側からの爆発力で破壊され、まともに形は残っていないが、それでも異様な存在感を放っている。
魔王との戦いの時、地形操作の神与能力を持った勇者たちによって、周囲の地面を盛り上げて造った壁だ。
魔王とその眷属が居る周囲、半径100mを覆う形で、厚さ10m高さ10mの壁を造り、そこに燃料気化爆弾と電子励起爆弾をぶち込んだ跡でもある。
その壁を造ったせいで、その周囲は抉れ、ちょっとした池のようになっている。
それを背にして、そこには無数の魔物が蠢いていた。




