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転生して十年経ったので街を作ることにしました  作者: 笹村工事
第一章 街を作る準備をするよ
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4 転生仲間との話し合い その1

「随分とお楽しみのようでしたね」


 転生者の皆と話し合うために応接室へと向かう道すがら、一緒に歩いてくれている菊野(きくの)さんに唐突に言われる。


「……えっと……視ちゃったの?」

「別に、視てませんよ。必要もないのに他人を視るような真似はしません」


 横を歩いている菊野(きくの)さんは、こちらに顔を向けることなく返す。執務室は魔術を使って完全防音仕様なので音はもれてない筈だから、能力を使われちゃったのかと思って反射的に聞いちゃったけど、こっちの勘違いみたいだ。


「ごめん」

「謝らなくても良いですよ。単にかま掛けをしてからかっただけですから」


 変わらず視線も合わせず返す菊野(きくの)さん。口調も淡々としてるので、慣れてないと読み辛いけど、別に怒ってたり機嫌が悪い風じゃない。

 むしろ、楽しそう? と言うよりは、何かを期待しているように気持ちが弾んでいる感じ? ひょっとして――


「久しぶりに、他の転生者のみんなと会えるから嬉しい?」

「何がですか?」


 僅かに顔を向け、どこか憮然とした口調で返す菊野(きくの)さん。

 ……あれ? 機嫌悪くなった? というか、ちょっと拗ねてる?


「別に、その気になれば他の転生者には会いに行けますし、特に思う事はありません」


 静かにこちらを見詰めながら、菊野(きくの)さんは変わらず淡々と言う。

 菊野(きくの)さんは目鼻立ちが整った、可愛いというよりは綺麗な女の人だけど、感情を表に出すのが苦手なせいか、こういう時に損だなぁと、彼女に見詰められながらそんな事を思う。


(慣れてないと無愛想に勘違いされ易いせいで、本人もちょっとコンプレックスになっちゃってるみたいなんだよなぁ……って、あっ!)


「どうかしましたか? 笑ってますけど」


 今更ながらに気付いて表情に出ちゃったのか、俺の顔を見て尋ねる菊野(きくの)さんに、


「ありがとう。眼鏡、使ってくれてるんだ。好く似合ってるよ」


 少し前にプレゼントした眼鏡を使ってくれているのが嬉しくて、つい、口に出してしまう。

 菊野(きくの)さんは伊達で眼鏡を着けてるんだけど、前のヤツはちょっと野暮ったくて重たい感じだったから、造形の神与能力(チートスキル)を持ってる転生者に頼んで、軽くてすっきりしたデザインの眼鏡を作って貰いプレゼントしていたんだ。

 いつも秘書として助けてくれる菊野(きくの)さんに、少しでも日頃の感謝の気持ちを伝えたくてプレゼントしてたんだけど、贈ってすぐには着けてくれてなかったから、気に入らなかったのかと不安になっていたけれど、今日は着けてくれているのが嬉しい。


 なんて、浮かれていたんだけども、


「そうですか」


 菊野(きくの)さんはそっけなく、俺から視線を外して前だけを見て無言で歩き出す。一瞬、機嫌を悪くさせちゃったのかなと思ったけれど、すぐに気付く。


(……耳、赤くなってる。かわいい!)


 なんて思わず口に出かかった言葉をギリギリで飲み込む。照れてるのはかわいいなぁと思うけど、それを言われる方はたまったものじゃない筈だし。

 特に、菊野(きくの)さんみたいに美人さんだと、気分を悪くするかもしれない。


(でも綺麗ってよりも、かわいいって思っちゃうんだよなぁ……)


 転生者の皆の調整役に俺が就いて以来、秘書として手助けしてくれる菊野(きくの)さんと関わっているけども、どうしてもそう思ってしまう。


(でもこれ口に出したら完全にセクハラだよな……気を付けよう)


 形式的に菊野(きくの)さんの雇用主でもあるので、その辺りは肝に銘じないといけない。

 今まで散々助けて貰ってるんだ。気分好く、働けるようにしてあげる義務がある。

 そう思いながら、菊野(きくの)さんと一緒に歩いていく。いま住んでいるここは、場合によっては101人の転生者の皆が集まって活動できるよう建てられた、外見はお屋敷、実態は要塞といった建物なのだけれど、そのせいでむやみやたらと広い。

 いま向かっている応接室は、執務室からかなり離れた場所にあるので、辿り着くまでちょっと手持ち無沙汰になる。


(このまま無言、っていうのも気まずいな……)


 無言に耐えられなかった俺は、ついつい菊野(きくの)さんに話し掛ける。


「そういえば、今日は何人来てるんですか? 忙しい人も多いでしょうし、半分ぐらい、ですかね?」

「いえ2人です」


 ……少なくない?

 思わず出かかった言葉を飲み込み聞き返す。


「2人って……みんな忙しかったのかな……?」

「いえ。今回の件で、皆さんには連絡を送っていますが、4割ほどが無条件の委任を。4割が事態の推移を見ながら、場合によっては口を出したいそうです」

「……それって、大多数が、俺に任せるって言ってるってこと……?」

「丸投げとも言いますね」


 ですよねー。


「……ということは、とりあえずは俺に任せるから、大多数のみんなは今日ここに来てないと」

「はい。残りの2割ですが、こちらに出向く暇がないから来てくれと言う層と、街を作るならやりたい事があるからアイデアを持って来る、という積極的過ぎて迷惑なレベルの層に分かれてます」

「……そうなんだ……それで、暴走しそうな感じに積極的なのはどれくらいなの?」

「10人ほどです。大半は、こちらにプレゼン用の資料を持って来るのに手間取って今日は来れていませんが、八雲(やくも)さんと出雲(いずも)さんは、何故か来てます」

「あの2人か~……」


 うっわ、すっごい嫌な予感しかしない。


「他のみんながプレゼン用の資料、間に合ってなかったのに、その2人だけが間に合ったってことは、前々から準備してたんだろうね」

「でしょうね」


 頭が今から痛い。元の世界で死んで、こちらの世界に勇者として転生召喚されて以来、転生者のみんなとは仲良くさせて貰っているけれど、その中でも八雲(やくも)出雲(いずも)の2人は親友と言っても良いぐらいの仲だ。


 2人とも悪いヤツらじゃない。と言うよりも召喚条件が『善人』だったので転生者の中に悪人自体いないんんだけど、だからと言って悪ノリしないヤツらが居ない訳でもない。どんな悪ノリかって言えば、


 現代日本をこっちの世界で再現するぜヒャッハー! その上でゲームとか漫画とか小説みたいなエンタメ溢れるファンタジー世界にするぜ!


 やめろバカ。としか言いようがないのだが、本人達は至って善意なので頭が痛い。

 元の世界で考えてみると良いのだけど、中東の王政国家に、日本の食文化や日本の街並みや日本の風俗文化やらその他諸々が再現された日本街が周囲をいつの間にやら圧迫して、その上で日本の価値観が広がっているとしよう。ついでに至る所にアミューズテーマパークだらけになってる状況を。

 どう考えても排除運動起こるよね、という話である。


 こちらの世界で生きていく上で、その辺りのことをまずは自重して考えて、自分達がこちらの世界にしっかり根を下ろしてから出来るだけ軋轢が起きないように進めていこう。

 という結論にみんなで話し合って決めたので、ひとまずヒャッハー! なヤツらも大人しかったのだけど、今回は新たに新しい街を作るという話なのだ。

 例えると、これまで居候で肩身の狭い思いしてたけど、今度は自分ちを新居で作るので内装からなにから好きにするぜ、みたいな事にならないかが心配だ。


「一番最初に気を付けなきゃならないのが身内の暴走って、どうなんだろう……」

「働き者の無能よりは良いと思います」

「……そうだね」


 有能なのは有能なのだ、本当に。ブレーキぶっ壊れ気味なのが問題ではあるが。


(とにもかくにも、転生者の皆の調整役として、この世界の住人と問題が起らないように頑張ろう)


 そう心の中で決意しながら、応接室に辿り着いた俺はドアを開ける。

 開けた途端そこに居たのは、武骨な蒸気甲冑を身につけたバカ2人だった。

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