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転生して十年経ったので街を作ることにしました  作者: 笹村工事
第一章 街を作る準備をするよ
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幕間 ミリィの想い ミリィの過去 その2 カルナへの想い

「ミリィ。手、どうしたんだ?」


 鍛錬で傷付いた手。それを見詰めながら、カルナは心配そうに言った。


「ぁ……その、なんでもないです」

「なんでも無いことないだろ。なにかあったのか? ちゃんと教えてくれ」

「…………」


 カルナの問い掛けに、その時初めて、ミリィは答えることを拒絶した。

 心配させてしまうのが、嫌だったからだ。

 それでも諦めずに問い続けるカルナは、ミリィの傷付いた手を痛々しそうに見つめていた。


 たまらず、ミリィは自分の手を後ろに隠した。

 自分がしたくてしている事で、カルナに心配させている事が後ろめたかったからでもある。

 けれどそれ以上に、傷がついた自分の手をカルナに見られるのが恥ずかしかったのだ。


 そんな気持ちを抱えながら、ミリィはカルナに答えた。


「カルナさまを、お守りするために、訓練しています」

「……は? なんだそれ、聞いてないぞ」


 不安に表情を歪め、更に問うてくるカルナに、


「大丈夫です。カルナさまにお仕えした後にしていますから、ご迷惑はお掛けしません」


 ミリィは自分では、カルナを安心させるように返したつもりだった。

 けれどカルナは納得などできない様子で、


「なんでそんな事してるんだ」


 しなくても良い苦労を止めるように言ってきた。だからミリィは、自分の想いを込め返した。


「カルナさまを、お守りするためです」


 なによりも、カルナの役に立ちたいから。カルナに降りかかる不幸があれば、それを少しでも防げるようになりたいから。

 カルナのことだけを想い、ミリィは言ったのだ。


 その応えに、なぜだかカルナは呆然とした表情になった。そしてじわりと、恐怖が滲みかけ、


「ミリィ。体を鍛えるよりも、魔術を覚えた方が効率が良い。だから、魔術を教えてやる」


 ミリィに有無を言わせぬ強い口調で、言ったのだ。


 断ることは出来なかった。それほどに、その時のカルナの表情は、真剣だったのだ。


 それからカルナに魔術を教わることは、何よりもミリィの楽しみになっていった。

 カルナがミリィのために、何かをしてくれるだけでも嬉しくてたまらないのに、自分が頑張れば頑張るほど、褒めてくれたのだ。


「凄いな、ミリィは」


 まるで自分の事のように、カルナはミリィの上達を喜んでくれた。

 そして褒めてくれた。それがくすぐったくて、嬉しかった。


 なによりも、これでもっともっと、カルナの役に立てるのが嬉しかったのだ。


 だからミリィは、どこまでも努力した。

 鍛錬を教わる老人に、魔術を覚えたことを告げ、それも合わせた鍛錬を頼んだりもした。


 老人の、どこか憐れむような眼差しを受けながら、ミリィは強くなっていったのだ。


 そうしたある日、カルナの父に、ミリィが魔術を教わっているのがバレた。


 その後のことは、今でも鮮明に覚えている。

 なぜなら、カルナがミリィのために、怒ってくれていたからだ。


 言葉にする事は無かったけれど、ミリィをけなす父親に、カルナは静かに怒ってくれたのだ。


 あとで一人になった時、ミリィは静かに泣いた。自分のために、カルナが怒ってくれたのが嬉しかったから。 


 嬉しくて嬉しくてたまらなかったけれど、その気持ちは決してカルナには伝えなかった。

 伝えてもどうしようもないと、思っていたからだ。 

 この時には既に、カルナを主人としてではなく男として好きになっていたけれど、だからこそ余計に、何も言えなかった。


 そんな気持ちなど、どうにもならないと自覚していたからだ。

 けれど、決してその想いは消えてくれず、苦しさだけが胸の奥に残り続けた。


 そうした日々は、カルナが15歳になった日に、終わりを告げた。


「ミリィ、私は家を出る。ついて来て欲しい」


 夜。ミリィの部屋に訪れたカルナの言葉に、すぐに返す事は出来なかった。

 けれど思いつめたカルナを放っておくことなど出来ず、カルナについて出ていったのだ。


 それからのカルナは、ただただ、ひたすらにがむしゃらだった。

 なんであろうと自分の利になることなら拘らず、見栄も外聞も投げ捨ててやり通した。


 そんなカルナをミリィは支えながら、少しずつ恐怖と後悔が積み重なっていった。

 なぜならカルナは、ミリィへの好意を言葉にはしないまま、隠そうとしなくなったからだ。


 ミリィが傍に居てくれることを喜び、いつも労りながら、気遣ってくれた。

 だから、思ってしまう。自分のことをカルナは、好きでいてくれていると。


 そう思ってしまったからこそ、ミリィは恐怖した。

 自分のせいで、カルナは家を飛び出してしまったのではないか、と。


 カルナの未来を、自分のせいで台無しにしているのではないかと、恐怖した。

 それと同時に、後ろ暗い喜びも感じずにはおれなかった。


 カルナのことが大事ならば、今すぐどこかに行ってしまえば良いのに、そんなことは出来なかった。

 だからせめて、少しでも多くカルナの役に立ちたかったのだ。

 

 なのに、それは叶わなかった。

 魔物に襲われ、カルナを守ることが出来ず、それどころか自分を助けるために、カルナは自分の身の危険も顧みず戦ったのだ。


(ごめんなさい)


 毒によって失った意識が、ゆっくりと回復するにつれ、浮かび上がって来るのは、その言葉だけ。

 カルナに返す言葉は、それしか浮かばなかった。けれど、


「ミリィ……」


 愛する人の言葉が、暗い気持ちを吹き飛ばしてくれた。


(カルナ……さま?)


 毒で体温が下がり、冷え切った手に、あたたかさを感じ取る。やさしく、強く握りしめてくれるカルナの手に包まれて、後ろめたさなんて感じる余裕は消え失せた。

 それよりも、もっと強く、カルナのことを想う。苦しげに、自分の名を呼ぶカルナを少しでも楽にしてあげたくて、ミリィは声を上げた。


「カルナさま……」


 ただ一言口にするだけで、弱った体は悲鳴を上げる。けれどその苦しみよりも、カルナの苦しみを取ってあげたかった。


「ミリィ……?」


 呆然と、カルナは声を上げ、暗く落ち沈んだ表情が、ゆっくりとほころんでいく。

 何かを口にしようとするけれど、強すぎる想いに何も言葉にならないカルナに、


「大丈夫です。カルナさまを、独りになんか、しませんから……だから、大丈夫です、カルナさま……」


 ミリィは苦しげに、けれど意識せず自然な笑顔を浮かべながら、カルナに呼び掛けた。

 それに応えるように、カルナはぎゅっと、強く強く手を包み込む。

 ミリィもそれに返すように、手を握り返した。

 言葉もなく、お互いが通じ合うように、2人は想いを重ねていた。


 そんな2人が居る医務室の前に、2人の男どもが立っていた。


「……なんか良い雰囲気だから、入り辛いな」

「そんなラブ空間をぶっ壊せる五郎に憧れる~」

「壊さねぇよ。人をなんだと思ってんだ和真」

「リア充ぶっ殺すマン?」

「テメェを殺す」


 毒で疲れ切った体を癒す料理を作り持って来た五郎と、そんな五郎を呼んで医務室まで案内した和真である。

 2人は、部屋の中に聞こえないような小さな声で、


「いやぁ、甘酸っぱいなぁ。こういうの見ると、ちょっかい出したくなる。具体的には、とっとと押し倒せどーんっ、みたいな感じで背中押す感じ?」

「よーし。それしたら俺と戦争だからなテメェ。こういうのは、傍で見守ってるのがわびさびってもんだろうがよ」


 とても楽しげに喋くり合っていた。

 そんなダメな大人どもが若い2人を楽しんでいる頃、陽色達は今後の動きを決めるため話し合いを続けていた。

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