12 帰り道で襲撃されました その1 魔物の気配
ほくほく気分で、俺は深夜の道を一人歩いていた。
(次は、純粋に遊びに行きたいな)
カルナとの交渉を終らせて、リリス達の待つ屋敷への帰り道、俺は歩きながらそんな事を思っていた。
2時間ほど話を詰めて交渉したお蔭で、今まで懸念材料だった資材関連の問題は解決の目処が立ったんだけど、そっちに時間を割かれ過ぎちゃったので、カルナやミリィとのお喋りを楽しめてない。
(あの2人の仲が、気になるんだよなぁ)
2人にバレると大きなお世話と言われそうだけども、友達になった相手には幸せになって欲しいのだ。そのために出来る事があるのなら、してあげたいと思う。
(とはいえ、色々と事情がありそうなんだよなぁ、あの2人)
どう見ても両想いなんだけど、そうであるのに2人には壁がある。
より正確に言うならば、カルナの方は踏み込もうとしてるんだけど、ミリィがそれを避けているという感じだけども。
(理由を知りたいけど、今のままだと、聞けないよなぁ)
友達になっては貰ったけども、全然まだお互いの事を知れてないし。
仲が好くなったわけでもない。
(2人の事を聞けるぐらい、仲好くなりたいんだけどなぁ……そのためには、遊ぶ余裕とか作らないと)
だから、一端カルナ達のことは意識から外す。解決しなきゃならない事から、まずはどうにかしないと。
となれば、新しく作る街の諸々を片付けないと。
(資材は確保できるから、これで本格的に街を作れる。そのためにもまず、一番最初にしないといけないのは――)
「そろそろ魔界最接近領に、直接行ってみるか」
新しく作る俺達の街。
そこは、人類圏とは比べ物にならない程の、高密度無尽蔵な魔力が渦巻く地である魔界に隣接する場所。
俺たち勇者が倒した魔王、オールド・ニックが居を構えていた都市だ。
(魔王との戦いで廃墟にして、そのまんまだからなぁ……魔物もあれからどれぐらい増えてんのか、気になるしな)
俺たちが廃墟にした魔王都市シェオルは、魔力の豊富な魔界に隣接しているだけあって、際限なく魔物が湧いて出る。
この世界の魔物は、魔獣のような生物ではなく、現象に近い代物だ。
生物が生み出す負の感情。
怒りや憎しみ、そして恐怖などが魔力と結びつき、実体を持って現れたモノだ。
それは周囲の物体を取り込み自らの肉体にすると、自分自身を強化、あるいは増殖させるために、生物の負の感情を求める。
簡単に言えば、ご飯欲しさに生き物を苦しめようとする、という非常に嫌な性質を持っている。
魔力が薄い場所であるならば、早々発生するモノではないのでまだマシなのだが、魔界最接近領となると別である。
(駆除せんといかんよなぁ……本来なら、王政府の役割なんだけどな、これ)
元々この世界の王族の歴史は、魔界から湧いて出る魔物を駆除し人類圏を守る、という名目で出来上がったものだ。
なので、俺たちが魔王を倒した後は、人類の守護者としての役割を履行する、とか言って、俺たちを魔界最接近領から排除した。
その後、ちゃんと魔物の駆除をしてくれてれば良かったのだけど、びっくりする事にほぼ放置だったらしい。
マジ何してんだお前ら、という話だけども。
(低下してた王政府の権威を回復させるためにも、譲らなきゃいけない所だったからなぁ……あのまま権威が低下してたら、有力な辺境領が独立とかして大荒れしかねなかったし。
それは王政府も分かってたと思ったのに……ほぼ放置って……。
まぁ、そういう事を王政府がちゃんとできるなら、そもそも魔王なんて生まれてなかったよなぁ)
ため息をつきながら、俺は思う。
魔王は、結局の所、王政府の怠慢と傲慢が招いた問題だったよな、と。
なにしろ魔王は、魔界最接近領を治めていた辺境伯、オールド・ニコラウスが魔物と化し生まれたモノだったからだ。
俺たちが廃墟にした魔王都市シェオルは、元々は始まりの王族が、人類の防衛壁として王都を構えていた場所だ。
しかし時代が進むにつれ、王族の主流は安全な後方で新たに都市を作り、シェオルは辺境領として、傍系の王族に治めさせた。
そこで王政府がきちんとサポートすれば良かったんだけど、思いっきり魔物の討伐を丸投げするだけでほったらかし。
更に、魔物の対応で食糧生産が難しいシェオルへの食糧供給を王政府の独占に。
そうして生命線を握った上で、反抗できないように食糧価格を操作。
しかも王政府とねんごろになった大商人の利益と官僚への賄賂確保のために、毎年のように食糧価格を上げ続けるという鬼畜っぷりを発揮。
それだけのことをしてきたので、当然ながらオールド・ニコラウスは反乱を考えるも戦力が足らなかった為に、人を魔物にして強化する禁術開発に手を出してしまったのだ。
思いっきり、失敗したが。
シェオルの民、30万を儀式の生贄として使い潰したというのに、残ったのは千体ほどの魔物と、それらに君臨する魔王のみという大惨事。
それらは、人間を殺すのではなく苦しめるために活動を開始し、俺たちが召喚されるまで暴れまくったのだ。
ということがあったのだから、さすがに反省してるよな、と思ったのが甘すぎた。
(こっちの世界に来て、日が浅かったから対応できなかったってのもあるけども、出来れば最初の段階で手を打っておきたかったよなぁ)
後悔しても後の祭りだけども、それでも愚痴をこぼしたくなる現状だ。
なんてことを、ため息交じりに思っていた時だった。
「――っ!」
ざわりっ、と。肌が粟立つ。
それは、かつて感じた悪寒と同様のもの。
魔王都市シェオルで、魔王の眷属たる魔物達と戦った時に感じた恐怖だった。




