11 秘密な会談 その2 交渉相手の望むもの
「貴方達が、特許庁に提出された技術書を元に、作らせて頂きました」
カルナは平然と言うと、箱から更に、丸められた紙を取出し広げる。
「こちらは、貴方達が作ろうとされている移動機械。それをこちらで予想して描きあげた設計図です」
無言で確認する。
それは確かに、蒸気機関車の設計図だった。
「どういうつもりですか?」
俺はカルナが出して来た物を精査しながら、静かな声で問い掛ける。
それにカルナは、変わらず平然とした声で応えた。
「単刀直入に申し上げます。貴方達と交渉したいのです。魔術協会を挟まずに」
「…………」
応えは、すぐには返さない。
あえて無視するようにして、設計図に目を向ける。
(八雲達の工房から技術を盗んだ……わけじゃないな。技術が荒すぎる。八雲達が作っている物を、外部から集められるだけ集めた情報で強引に作ってる感じだな)
蒸気機関車を作るに当たって、八雲達から教わった知識を総動員して俺は判断する。
(素人考えで判断するのは危険だけど、どう考えても、無理して未熟なことを自覚した上で作ってるようにしか見えない)
要はハッタリ。張りぼての城を背にして、交渉を仕掛けているようにしか思えない。
それは、カルナやミリィ様子を見ても明らかだ。
カルナは笑顔のまま微動だにしないけど、逆にそれが不自然だ。
余裕の無さを無理やり飲み込んで、全力でブラフを掛けて来ているようにしか思えない。
ミリィを見れば、変わらぬ無表情だけど、ずっと祈るようにカルナを見詰めている。
(余裕の無さを隠してる……それ自体が演技の可能性もあるけど……まず無いな)
こちらの世界で、そして元居た世界でも、交渉仕事をしてきた経験から判断する。
だが、油断はしない。油断をしなくても失敗する事は、普通にあるのだから。
「これは、貴方だけの考えなのですか?」
まずは背後関係から探る。
魔術協会を飛ばして交渉しようとしているけれど、だからといって単独行動とは限らない。
するとカルナは、あっさりと応えてくる。
「私だけの考えではありません。もちろん、複数の協力者がいます」
声によどみは無く、平静としている。
おそらく、向こうが予想していた問い掛けだったのだろう。
事前に返答を、練習していたのかもしれない。
(単独ではなく複数……となると、意見を統一できるまとめ役が要るけど……誰なのか……?)
「貴方がリーダーなのですか?」
この問い掛けにカルナは、堂々と応えた。
「はい。私が、今では皆の取りまとめをさせて貰っています」
わずかな揺らぎも感じられない。
自信では無く確信を持って、カルナは応えているのだと感じられる。
そして同時に、嬉しさも滲んでいるように思えた。
(ん……これは……)
確認するために、俺は一つ問い掛ける。
「みんな、好い人達ですか?」
蒸気機関車の設計図から視線を上げ、消していた表情を灯し、俺は尋ねる。
やわらかな笑みを浮かべ、親しい友人に語り掛けるようにして。
それはカルナにとって予想外だったのか、不意を突かれたように黙ってしまったが、
「……はい。みな、好いヤツらです」
ほんの一瞬だけ、自然な誇らしい笑みを浮かべながら、ハッキリとした声で返してきた。
その応えに心地好さを感じながら、俺は確信する。
複数だが少数のグループ。それも意志疎通と目的が巧くいってる集団だと。
(いまカルナが浮かべた表情は、組織の誰か一人を思い浮かべるんじゃなく、一人一人の顔を思い浮かべていないと無理だ。
大企業じゃなくて、意気込みのあるベンチャー企業を相手にするつもりで対応した方が良いのかもしれない)
交渉前に、相手のイメージを作り上げながら、俺は本格的に言葉を重ねていく。
「分かりましたカルナ殿。魔術協会を挟まない交渉、まずはこの場限りですが、行いましょう」
俺の言葉に、カルナの表情が厳しさを増す。
変わらず笑顔のままだったが、伝わってくる必死さは強くなっていた。
「ありがとうございます。では、まずは一つ」
俺が無言で待つ中、カルナは言った。
「貴方達が求められている素材の全てを、私達は提供できる準備があります。
望まれるなら、いつでも差し上げます」
「素晴らしいですね」
俺は静かな眼差しを向け、問い掛けた。
「代償に、なにを望まれるのですか? 我々は、何を差し上げれば良いのでしょう?」
これにカルナが返した応えは、
「貴方達の技術を。この世界ではない、貴方達が元居た世界の技術を、私達は望みます」
期待する中で、もっとも高い物だった。




