2 王に街を作れと命じられました その2
「幾つか条件がございます。よろしいですか?」
「許す。望みを口にするが良い」
(ん……これ、こっちが要求を出してくるのは想定済みか)
間を置かず淡々とした声で返してくる王に、俺は少しだけ警戒心を増やす。
(下手なこと言えば、向こうの思い通りになりかねないか……用心しながら大胆に交渉していかないとダメだな)
俺は、わざと余裕があるような笑みを浮かべ、要求を口にしていく。
「まず一つに、私に王国の公娼権を頂きたい」
「……なに?」
要求の内容が、あるいは順番が、予想外だったのか訝しげな声を王は上げた。けれど、
「そのようなもの、手に入れてなんとする」
すぐに王は落ち着いた声で、こちらに探りを入れるように聞き返した。
「最大の理由は、我が仕えし神のためです」
返す俺は正直に、偽り無き本音を口にする。
「我が仕えし神は情愛の女神リリス。ゆえに、その信仰者の中には娼婦や男娼たちも数多く居ります。
だからこそ、我が神に信仰を捧げる者達に関わるは、女神リリスの神徒たる我が責務と心得ております。たとえ微力なれど我が尽力により、女神リリスへの信仰心がより多くなれば、なによりも我が喜びとなるのです。
その為に、公娼権を賜りたく思います」
王国とそれに属する辺境領、その全てにおける風俗に関わる商売の利権と、規制に関わる法の制定権。極端な事を言えば、家の外でエロいことをするのに関わる一切合財の権利を寄こせと、俺は色々と言葉のオブラートに包んで言っている。
これに、王の周辺にたむろしている家臣団からは失笑めいた気配が漂う。
先ほどまでの身構えるような気配は消えている。
よほど俺の願い出たことが馬鹿馬鹿しいと思っているのだろう。
なにしろ公娼権である。現時点では王国や辺境領が、それぞれにいい加減な、慣習に基づく適当な運用を行っているのがほとんどなのだ。
つまりは、それぐらい重要視されていない、というよりもどうでもいいと思われている。
これは旨味が少ないと思われていることもあるが、同時に汚らわしいだの下劣だの思われているのも原因だ。
人間、エロいことが無きゃ生まれてくることは無いし、エロい気持ち自体はどういう形であれ(反発やら拒絶という形であったとしても)持っている自然なことだってのに、馬鹿にしているのだ。
(オッケー。そのまま勝手に舐め腐っといて)
ほくそ笑みしそうになる自分を抑える。舐めてくれるなら好都合。こちらはそちらの隙をするりと突いて、欲しい物を取っていくだけ。
「王よ。如何でしょうか?」
俺は王の答えを促す。否と言うなら、この場は蹴って即座に帰る覚悟を決めながら。すると、
「良い、許そう。そんな物でよければくれてやる」
物好きだ、とでも言いたげな呆れたような眼差しを向けながら、王は許しを口にした。
(随分あっさりと、許しを出すな……というより、厄介事を押し付けることが出来て清々しているような……)
王の態度にいぶかしさを感じていると、
「ただし、条件がある」
王は続けて言った。
「前王の残した公妾どもの面倒を、貴様が見ろ」