9 魔術協会に行こう その1 待ちぼうけ
三十分ほどかけて魔術協会に辿り着いた俺は、門の前で待たされていた。
「あと少しで、上の者は来ると思いますので、もうしばらくお待ちください」
門衛の若い魔術師が、緊張した声で俺に言う。
「気にしなくても良いですよ。事前の連絡も無しに急に来たのは、こっちなんですから」
どう見ても怯えている、青年というよりは少年と言った方が良い彼に、なだめるように俺は言う。
魔術協会の上の奴ら、一体こっちをどんな風に言いふらしているのやら。
うちとしては敵対してるつもりは全くないのだけど、向こうとしては間違いなく嫌っている。
(収入源の一部、取っちゃったからなぁ。でもその後、盛り返したんだし、むしろ長い目で見てくれたら良いことしたんだけど……とはいえ、そういう理屈と感情は別だからなぁ)
特許制度を利用して、魔術協会の独占していた技術を一旦は過去の物にしたのだけれど、その後の新技術の「調整」で魔術協会は底力を見せていた。
新技術というのは、聞こえは良いけれど、実際は使う側からすれば扱い辛い代物だ。
何しろ今まで使った事の無い技術だ。熟練者が誰も居ない。
どう使えば効率的なのか? そもそも使い方自体が分からない。
そんな事態が平気で起る。防ぐには試行錯誤を繰り返し、地道に慣れていくしかないのだ。
技術は新しく作るのも大変だけど、使いこなせるようにする為にもコストは掛かる。
そのコストを抑えるのに、魔術協会がそれまで培ってきたノウハウは非常に役に立った。
元々、魔術協会が秘匿していた技術を元にした新技術だったってこともあるけれど、それ以上に「人の層」が厚かったのが一番の理由だと思う。
積み重ねてきた先人の知識と経験。それを受け継ぐ多くの魔術師たち。
それまで既得権益というぬるま湯に浸かりまくっていた彼らだったけど、そこから離れ意地を見せた。
心の底から、それが出来たことを称賛したい。
人間、先々確実に破滅すると分かっていても、ぬるま湯には浸かっていたいものだから。
(出来れば、協力関係を作りたいんだけどな)
俺は、魔術協会の象徴を見上げながら考える。
端が見えないほど長い塀と、重々しい鋼鉄の門扉。その先にある巨大な塔こそが、魔術師たちの総本山だ。
六芒陣の塔。
魔力を効率よく集めるための魔法陣が組み込また六角形の塔。こちらの世界だと王城よりも、更に高さを誇っている。
魔術師たちの権力者が集う場所でもあるけれど、今ではかなり、その権力バランスは変わっているらしい。
それも、俺たち勇者のせいだけど。
俺たちが広めた新技術。それを使いこなせる可能性がある人材を、外に貸し出すのかどうなのか?
賛成派と否定派で別れ、色々と摩擦がありながら、今では賛成派が結果を出して力を付けている。
その辺りで、色々と栄枯盛衰があったらしい。
てな事があったので、いま門の中にも入れて貰えずに、放置プレイをさせられてるのも、仕方ないなと思ったりする。
なので静かに待つ。ひたすらに待つ。
暇なので今まで片付けた仕事とこれからしなきゃいけない仕事を頭の中で思い出しスケジュールを組み続けて、ずっと待つ。
その結果、なんてことでしょう。既に一時間が過ぎました。
(さすがに、長いなぁ……)
誰がどう対応するか? 右往左往してるのかもしれない。
その辺りの反応も知りたくて、事前連絡もせず独りで来たのだけれど。
(わざと放置して、こっちに敵対行動を取ってる? それならまだ良いんだけど、単純に対応策も人も決まらず揉めてるだけなら、ちょっと拙いよなぁ……)
他人事ながら、将来的には協力関係を作りたいと思ってるので、その相手がグダグダだったらどうしようと思い、少しだけ眉が寄ってしまう。すると、
「あ、あと少し! あと少しで人が来ると思いますので! それまでどうかお待ちください!」
門衛の少年が、裏返った声で懇願するように言う。
気のせいか、顔の色が青ざめてるし、冷や汗をかいてるようにも見える。
(……いかん。完全に怖がらせてる)
俺に付き合わされて、直立不動で立ち続ける彼が不憫になって、何か声を掛けようとした、その時だった。
ようやく、重々しい門扉が開いたのは。




