2 王に街を作れと命じられました その1
「元勇者隊ヒイロ。汝に、魔界最接近領の領主としての任を命ずる」
魔術により強化された石材で作られた王宮『シュヴァル』
その中央に位置する玉座の間で、俺は王に無茶振りをぶん投げられた。
「……意見をよろしいでしょうか、王よ」
玉座の間の最奥。
一段高い場所に据えられた玉座に座る王に、俺は片膝を付き頭を下げたまま口を開く。
立場上、臣下ではないとはいえ、礼を欠く訳にはいかないので気を遣っていたというのに、出てきたのが無茶振りだ。
声に不機嫌さが滲まないよう気を付けないと、素が出そうになる。
(あんまりふざけたこと言うなら、このまま帰るか)
一触即発にこちらが気を高ぶらせていると、王は傲慢な声で返してきた。
「許す。表を上げ、思うところを述べよ」
「感謝します。王よ」
心の中でため息をつきながら、俺は身体を起こし顔を上げる。
視線の先には三十路の男。金の髪と、血管が透けそうなほど色素の薄い白い肌。そして伸びやかな手足とすらりとした体つき。控えめに言っても美形な男が、玉座で鷹揚に座っている。
神々に祈りをささげ、101人の勇者を異世界から転生召喚させる大魔術を行った『フラロマ王国』。
その現国王、シャルマ16世だ。
俺は王に顔を向けながら返す。
「恐れながら王よ。この度の御下命、王の臣下ではない私には、荷が重いと感じております。なにより、王の臣下を差し置いて在野の私などが領主など、分が過ぎております」
慇懃な態度で言いはするが、
(テメーん所のヤツにやらせとけ! 外部発注で丸投げしてんじゃねぇぞ!)
内心激オコなのが本音である。なにしろ魔界の最接近領と言えば、誰も住む者の無い荒野な上に、魔界から魔物が無限湧きするような場所なのだ。
そんな場所、誰が要るか。だというのに――
「無用な心配だ。此度の命は、諸侯並びに我が臣下たちも重々承知のことである。気にせず励むが良い」
王は、こちらの逃げ道をあっさり潰してくれる。
(これ、完全にハメに来てるな)
いきなり王に呼び出された時点で嫌な予感はしていたが、これは予想以上だ。
王国の政治中枢に、こちらが直接関わる人間が居ないとはいえ、可能な限り情報は得られるようにしていたのに、これだ。
まず間違いなく、こちらの力を削ぎつつ自分達の影響下に取り込むことが目的だ。
(好き勝手に動き回る元勇者隊に首輪を付けて飼殺したい、ってことなんだろうな)
魔王を殺すため、10年前に俺達が転生召喚され、それぞれが手にした神与能力を駆使して魔王を殺した(具体的には燃料気化爆弾やら電子励起爆弾を作って物理的にダメージ与えた後に、概念系能力者で止めを刺した)後、勇者隊皆で連絡を取り合いながら、この世界で好きに生きて来たんだけど、どうやらそれがお気に召さなかったらしい。
(向こうとしちゃ、いつ国家転覆を図るか分からない不穏分子、放っておけるかってことだろうけど……これ、計画を進めた方が良いかな?)
顔には出さず心の中で俺は笑う。国家転覆なんてするつもりは最初からないけれど、さりとてこの国をこのままで置いておくつもりも、こちらには無い。だからこそ――
「王よ。委細承知いたしました。此度の御下命、お受けすることは可能かと思います。ただし――」
ざわりと、王と王の周囲に立ち並ぶ重臣たちの間に警戒するような気配が滲む。
俺は、突き刺さるような気配を楽しみながら、交渉を開始した。