8 魔術協会に行こう でもその前に屋台で朝ごはん その1
リリスと思う存分イチャイチャして気力充実した次の日、俺は魔術協会目指して朝一で出かけることにした。
「今日も好い天気だねっと」
玄関で背伸びをひとつ。早朝の涼しげな空気を吸って、気分を盛り上げる。
時間は午前6時。お日さまは、もう出ているけれど、朝が早いせいか静かな気配。
(まだ寝てる人達も居るしな)
俺やリリス、そして菊野さんや他にも大勢の人達が住んでいる屋敷を見上げながら、俺は心の中で呟く。
最初は、101人の勇者たち全員が住めるように考えて作った屋敷だけれど、ほとんどみんなが外で活動の拠点を置くようになってからは、みんなの連絡所みたいな場所になっている。
役割としては、ちょっとしたお役所みたいなものだ。
各地で活動している勇者のみんなや、みんなが関わる現地の人々。そんな人達の要望をまとめたり、他の人達に伝えたり。
俺が王国から命じられて街を作る準備をしている今では、関係書類をまとめるだけでも大忙しだ。
それを捌くための人達も今では住んでいるので、結構賑やかだ。
とはいえ、みんなお疲れモードだけども。
(ここ最近、まとめて要望やら発注やら来たからなぁ。みんなが一斉に動き出してるから、タイミングが重なるのはしょうがないんだけど。でも、いい加減休ませてあげないとダメだよな……特に、菊野さん)
朝、俺と一緒に魔術協会に行くと言い出した菊野さんを思い出し、俺は自分の考えの足りなさに反省する。
昨日の夜、リリスとイチャイチャし続けたのだけど、終って少し休んで2人一緒にお風呂に入ってさっぱりした後、出会った菊野さんはへろへろだった。
どうも捌き切れなかった書類を徹夜仕事でこなしていたみたいで、目の下にクマを作ったまま、ふらふらと食事を摂りに独りで食堂に向かっていた所で出会ったのだ。
なぜだかリリスと一緒に居る俺を見て、慌てた口調で挨拶をしてくれた菊野さんだったけど、徹夜明けの妙なハイテンションで、しどろもどろに俺と口をきいてくれた。
少し興奮していたのか、顔を赤らめながら徹夜仕事をしていた事を、どこか言い訳するような口調で早口で喋った菊野さんを見て、俺は思ったのだ。
働かせすぎて、ごめん、と。
とはいえ、下手にそんなことを口にすれば菊野さんに気を遣わせちゃうので、行動で返したけれど。
自分でご飯を作ろうとする菊野さんを止め、胃に優しいおかゆを作って食べて貰った。
溶いた卵に、少し酸味のある漬物を細かく刻んだものに、彩りに香草を少し入れて。
簡素な物だったけど、喜んで食べてくれたのは嬉しかった。
食べ終わって食器を片づけている間に、今日の予定を話していたのだけれど、その時に一緒に付いて行くと言い出したので、強引に止めたのだ。
「ありがとうございます。
でも、絶対にダメです。菊野さん、寝てないんですから。
お願いですから、休んで下さい。
いつも菊野さん、頑張ってくれるから、感謝してるんですよ。
だから、偶には頑張ってる菊野さんを、楽にしてあげたいんです」
下手に道理を口にしても跳ね除けられるのは分かっていたので、思ったままを口にして、とにかく強引に説得した。
その甲斐もあって、どうにか納得してくれた菊野さんを、リリスにお風呂に入れてくれるよう頼み、その間に俺は玄関を出て今ここに居るのだ。
(リリス、ごめん。菊野さん任せちゃうけど、ちゃんと休ませてあげてね)
心の中で謝りながら、俺は屋敷を後にする。
(戻ったら、リリスにも菊野さんにも、埋め合わせしないとな。単純にプレゼント、じゃなんか違う気もするけど……他にいい方法が思いつかないしなぁ……)
後ろめたさにどうしたものかと悩みながら、俺は歩き出す。
屋敷がある場所は、王都の中心部から数キロ離れているので、独り考え事をしながら歩くには十分な距離がある。
俺は少し眉を寄せ、悩みながら歩いている、そんな時だった――
「なに景気の悪い表情してんですか勇者さま! 腹でも減ってんじゃないんですか!」
明るい声で、屋台のオヤジに呼び掛けられた。




