7 リリスと陽色 いちゃいちゃ甘々 その2
ぎゅうっと、リリスは強く強く俺を抱きしめる。
まるで、俺の言葉を確かめるように。
「陽色……」
泣き出しそうな表情で、リリスは俺を見詰める。
そんな表情をさせたくなくて、俺はやさしく見詰めながら、想いを口にした。
「大好き。愛してるよ、リリス。逢えなくたって、それは変わらないから。
だから、大丈夫。寂しくて、苦しいけど、リリスを想うだけで我慢できるから。
リリスが、謝る理由なんてどこにもないんだよ。
苦しまないで。お願い、リリス」
涙を浮かべ、リリスは苦しげに笑みを浮かべる。
自分も、寂しくてつらいのだと、言葉にしたい想いを飲み込むように。
リリスに、そんな表情をさせたくなくて、俺は何かを口にしようと思う。
でも、そんな物は必要ないのだと言うように、リリスは俺の胸にちょこんと額を当てると、
「ありがとう。私も大好きよ。愛してるわ、陽色」
甘えた声を上げてくれた。
それが、嬉しい。頼られているようで、心が浮き立つ。
俺は頭を撫でながら、リリスに返す。
「嬉しいです、そう言って貰えるとすごく。それに、誇らしいんですよ。自分の好きな人が、そんな風に誰かの事を大事に想ってくれるんだって。
きっと、俺以外の勇者も、嬉しくて嬉しくてたまらないと思います。
だって、みんなも自分の大事な神に逢いたいと思ってるんですから」
納得するように言いながら、俺はリリスを抱きしめる。
リリスの選択は、きっと最善の選択だ。
だから、俺は納得しなくちゃいけない。それぐらい我慢できるんだって、見栄を張りたい気持ちもある。
でも、それでも寂しい。その寂しさを埋めるように、俺はリリスを求める。
それは、リリスも同じだった。
「陽色……」
俺の頬に手を寄せて、確かめるように優しく撫でてくれる。
くすぐるように耳を指の腹で滑らせ、やわやわと揉むようにつまむ。
そして小さな子供にするように、髪を梳くように頭を撫でてくれた。
されるがままに、俺はリリスの愛撫を受ける。心地好くて、言葉も無く、俺はリリスを見詰めていた。
同じように、リリスも俺を見詰めてくれる。そして心地好さそうに微笑みながら、
「まだ、大丈夫だから。神々が現世で生きることのできる権能を貸すのは、街が出来て、しばらくしてからにするつもり。
だから、しばらくは離れ離れにならなくても良いの。
それにね、街が発展すればするほど、私が現世で振える力は大きくなるはずだから。
そうなれば、一度に多くの神々を、私も現世に留まったまま、喚ぶことが出来るようになるの。
……そのために、しなきゃいけない事も、出て来るとは思うけど」
気を沈ませるようなリリスに、俺が心配になって問い掛けようとすると、それより早くリリスは続けた。
「街を立派にするの、頑張ってね、陽色。そうすれば、何もかもみんな、上手くいくと思うから」
「…………」
すぐには俺は返せなかった。
少しだけ、リリスは俺に隠し事をしているような気がしたから。
でも、その疑問を俺は飲み込む。リリスがいま口にしたくないのなら、それで良い。きっといつか、伝えてくれる筈だから。
何もかもさらけ出す事と、信じることは違うんだ。少しぐらいの隠し事や嘘ぐらい、許せないのは心が狭い。
それがダメだというのなら、俺がリリスに見栄を張るのだって、いけない事になってしまう。
(それに、なんだか可愛いしな)
隠し事をして、俺に悪いと思っているリリスがかわいい。すごくかわいい。誰が何と言おうがかわいい。
「陽色……?」
リリスの事をかわいいと思うあまり、ゆるんだ表情を見られてしまったのか、不思議そうに呼び掛けるリリスに、
「なんでもないですよ~。リリスはかわいいなぁ、って思っただけですから」
隠す気も無く素直な気持ちを口にする。するとリリスは、ほんのり顔を赤く染めると、
「もう……ばか……」
恥ずかしそうに、そして嬉しそうに、俺の胸に額をちょこんと当ててきた。
「うあっ、もうっ、やっぱかわいいですっ」
「んっ……もう、そんなことばっかり言うんだから」
ぎゅむぎゅむと、俺たちは抱き合う。抱きしめるリリスのやわらかな体が心地好くて気持ちいい。
リリスを感じながら、俺は甘えるように問い掛けた。
「今日は、もう神座に戻らなくても大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫。しばらくは、戻らなくても良いぐらい、話し合いをしてきたもの。だから、ね――」
リリスはうるんだ眼差しで俺を見詰めると、
「今夜はずっと、一緒だよ。一緒に、いようね」
甘えるように言いながら、ねだるように目をつむる。
俺はそれに、キスで応えた――
――そして陽色とリリスは、2人きりの夜を過ごした。
そのお蔭で気力の充実した陽色は、朝一番で、街を作る為の下準備に精力的に動き出す。
そのために向かったのは、魔術協会だった。