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転生して十年経ったので街を作ることにしました  作者: 笹村工事
第一章 街を作る準備をするよ
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6 疲れていてもお仕事お仕事

「とりあえず、関係書類はこれで終わりっと」


 生産系の職業に就いている勇者への要望書。直近で上げなければいけない書類の最後の1枚を書き上げて、分類してまとめてある書類の山に置いて一息。


「ふぃぃぃ……ちょ~っと、疲れたな~」


 執務机に力なく突っ伏して、疲れを吐き出すように弱音を少し。

 リリスが居れば、こんな姿見せられないけど、いまは居ないので我ながらだらしない。


「他に、すぐに仕上げなきゃいけない書類、残ってたっけな……」


 疲れすぎているせいか、ちょっと記憶があやふやなので、改めて思い出す。


「街に続く道路の保全改修工事は、佐竹(さたけ)組に任せてるから大丈夫。街のインフラは、初期改修は神与能力で智恵(ちえ)組にして貰えるように連絡もしてるし、必要な資材搬入は商業系のみんなに発注済み。街に必要な食料とかの運搬は、八雲(やくも)達が作る蒸気機関車をメインにするから、そっちの制作費用の捻出許可も取ったし、あとは――」


 一通り思い出しチェックを重ね、間違いが無いことを再確認。


「うん、大丈夫。いま、やれる範囲のことは全部終ってるな」


 新しく街を作る。そのために必要な物や仕事は膨大だけど、みんなに協力して貰ってハイペースで進んでいる。

 これは魔王を倒した後に、それぞれが得意なことを仕事にして商会を作っていたのも大きい。

 魔王を倒した後の世界で、自分達の居場所を作るために。そして、これから生きていくこの世界を変えて行くために。

 みんなは、それぞれ自分の居場所で頑張って来たんだ。その積み重ねが、今になって出て来てる。


「とはいえ、気持ちばかり先走り過ぎないように、調整していかないとなぁ」


 元居た世界でいうと中世風のこの世界は、人権や民主主義がしっかりしていた(ばしょ)から来た俺たちには、正直キツイ。

 法律で規制されているとはいえ、普通に奴隷が居るし、そもそもが「人権ってなんですか?」状態だ。

 だからといって、すぐに変えられる訳もない。

 下手に革命なんかして、元居た世界のフランス革命みたいに「ヒャッハー! 明日からギロチン祭りじゃー!」みたいになったら目も当てられない。


 それでストレスを抱えてる仲間もいるから、それをなだめたりしつつ要望を聞いて回って、それを元に他の仲間の所に行って、更に要望を聞いて回って――


 なんてことを1週間ぶっ通しでやってたので、さすがに疲労がたまってる。

 正直怠い、眠い。ほぼ1週間連続で貫徹なので、意識もぼやけてくる。


「……しゃーない。薬に頼るか」


 のろのろと、机に突っ伏していた身体を起こし、引き出しから水色の液体が入った小瓶を取り出す。

 駄菓子のゼリーみたいな体に悪そうな色をした代物だけど、実際劇物なので身体に良いとは言えない。

 俺は、回復の霊薬の瓶のふたを開け、一気に飲み干す。

 とろりとしたなめらかな食感と、焼けるような甘さが口の中に広がる。するりと喉を通り、胃に落ちるなり、かっとお腹の中が熱くなる。

 強い酒を飲んだ時みたいな感覚の後に、じわじわと疲れと眠気が消えて行った。


「相変わらず、怖いぐらい効くな、これ」


 魔術の効果を内封された薬である回復の霊薬だけど、飲めば傷を癒し疲労を消してくれる優れものだ。

 思いっきり内臓を酷使するけれど。

 薬なのだから副作用があるのは当たり前なのだけど、正直かなり酷い。勇者でもない普通の人だと、俺が飲んだ高濃度の回復の霊薬を連続で使うと、身体をぶっ壊す。


 傷も疲労も癒されました。でも死にました。


 なんてことになりかねないヤバさもあるお薬である。


 なので、使ったのがバレないようにそそくさと机にしまう。菊野(きくの)さんにバレでもしたら大変だ。

 彼女は、元居た世界だと過労死で死んだらしいので、こういう薬を使ってるのを知ったら確実に怒る。


(ただでさえ、こっちのフォローで苦労かけてるのに、これ以上神経使わせる訳にはいかないもんな)


 実際、菊野(きくの)さんは良く働いてくれている。仲間内の勇者達との連絡は俺が主にやってるけど、王国関連の申請とかは任せてしまってるのだ。 

 しかも相手がお役所仕事なせいで、ろくに話が進んでいない。菊野(きくの)さんの気苦労を考えると、頭が下がる。


(こっちに公妾(こうしょう)の面倒を見ろと言ったくせに、あれから、とりあえず待ての1点張りだしな。税金関係で気になることもあるってのに、そっちの質問書にも何一つ回答が無い。王国関係で、今の所こっちが動けることは無いな)


 仲間への連絡は一先ず終わり、王国に出来ることは今は無い。となれば――


菊野(きくの)さんには、休んで貰おう。これから忙しくなるんだ、その前に疲れは取って貰わないと)


 頑張ってる人には、ちゃんと報いないといけない。

 俺はそう決めながら、菊野さんに休んで貰っている間に出来ることを考える。


(魔術協会に、少しゆさぶりを掛けてみるか。資材をかなり押さえられてるし、そっちをどうにかしたいしな)


 八雲(やくも)達の懸念を確かめるために魔術協会を調べてみれば、こちらが必要とする資材を先んじて大量購入しているのが分かった。

 お蔭で、その分こちらの動きが鈍くなっている。このまま放置する訳にもいかないので、何か動かないといけないんだ。


「となると、どこに突撃するべきかな……?」


 椅子に身体を預け、つらつらと考える。

 ふと、時計を見れば夜の11時。まだまだ、朝には遠い。

 薬を飲んだお蔭で眠気も消えて、朝一番で仕事が出来る準備をするには十分過ぎる。

 頑張らないと。そうでなければ、みんなの苦労が報われない。それに――


(リリスが帰って来た時に、一緒に居れる時間を作れないもんな)


 リリスが神座に戻ってから、もう1週間が過ぎている。きっと、向こうで頑張っているんだろう。でも――


「逢いたいなぁ……」


 情けないと思うけど、リリスが恋しくて、ため息をつくように言葉が出てしまう。その言葉に――


「私もよ、陽色(ひいろ)


 やさしい声が、応えてくれた。

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