幕間 闇にて重ねられる談合
創られた偽りの世界で、鳥の面を付けた人物は口を開いた。
「私に協力しろ」
「はぁ? なんでだよ?」
その場は、虚ろな場所だった。酷く現実感に乏しい紛い物の世界。
あるのはただ、1つの円卓。
かつて、12の人物が集まったそこは、今は2人しかいない。
その内の1人、虎の面を付けた人物が、つまらなそうに続けた。
「個別の呼び掛けしやがるから、なにかと思えば。なんで俺が、お前に手を貸してやらなきゃならねぇんだよ」
いま2人が居るその場所は、魔術により創られた仮想の世界。
そこに接続するための、あるアイテムを持った者だけが、訪れることが出来る。
そのアイテムを通して、他のアイテム所持者に呼び掛けをする事が出来るのだが、今回は鳥の面の人物の呼び掛けを受け、虎の面の人物が応える形で訪れたのだ。
「色々と、役に立つことも多いから、ここには顔を出してるけどな。別に俺とテメェは顔見知りでも何でもねぇ。そもそもどこの誰なのかも知らねぇ間柄だ。それでよく、図々しくそんな事が頼めるな?」
いま2人が居るこの場、この世界を去りし外なる神により創られた『魔網回線』は、外なる神が異世界の技術、インターネットなるものを参考にして作られているという。
どこであろうと、相手が誰かも知らずに、関わり合うことが出来る機能を有している。
実際、いま居る2人は、この場で話すことはあっても、どこの誰なのかもお互い知らない。
それは、以前集まった12人すべてがそうではあったが。
そうであるにも拘らず、話を切ることなく続けているのは、何らかの旨味があるかと探っているのだ。
だからこそ、鳥の面の人物は、相手の利益に関わることを口にする。
「これは、貴様にも関わり合いのある話だ」
「……どういうこった?」
探るように、虎の面の人物は聞き返す。
相手の言葉がハッタリだとは思ってはいない。そういう空手形を切るような相手ではないと、今までの言動で知っている。
だが同時に、衝動的な相手である事も、虎の面の人物は感じている。
自覚無く博打めいた真似をして、運がないことに成功し続けた人物。
破滅する前に失敗をする事が出来なかった、根拠のない自信を脹れあがらせた夢想家。
それが、いま相対している相手だと、直感していたのだ。
「巻き込む気か、こっちを」
威嚇するように、虎の面の人物は言う。
この場に訪れる皆が全て、どこの誰であるかは通常は語らない。
例外は、魔王とまでなったオールド・ニコラウスぐらいだ。
だが、名乗らないからと言って、相手がどこの誰であるのか全く予測できない訳ではない。
この場で語る言葉と、その後に起る何らかの事件。
それらを照合して、推測を付けることはできる。
実際、虎の面の人物は、いま相対している鳥の面の人物が何処の誰であるか、大雑把には推測を付けている。
それと同じことを、相手が出来ていないとは限らない。
だからこそ警戒する虎の面の人物に、鳥の面の人物は、どこかなだめるような余裕のある声で言った。
「ああ、すまない。別に、警戒させるつもりはないのだ。ただ、このまま進めば、そちらの計画にも支障が出ると思っただけだ」
「……なんのことだ?」
余計な感情を削ぎ落とした静かな声で問い掛ける虎の面の人物に、鳥の面の人物は言った。
「このまま進めば、勇者共が冒険者の王になるぞ」
「…………」
無言のままの虎の面に、鳥の面の人物は、自覚しない優越感を抱きながら続けた。
「奴らは、新しく作る街に巣食う魔物を駆除するため、魔術協会の力を借り受けた。だが、それでは足らないと自覚している。それを補うために、動き出すようだ」
「……つまり、冒険者を使おうってのか? そんなものは、今まで国王だの辺境伯だの、あいつらが使ってきた手だろ。今さら、それぐらいで――」
「冒険者の統一組織を作るつもりだぞ、奴らは」
返事は返ってこない。それに満足するように、滑らかな声で鳥の面は続ける。
「勇者共にとっては、継続して魔界最接近領からやって来る魔物どもを駆除し続ける必要がある。
つまり、継続して使い捨てる駒が必要だ。それは散発的に集めていたのでは、数が足らなくなる。
必要なのは、必要な時に必要なだけ集められる仕組みだ」
「それを、勇者のヤツらが作るってのか?」
「そうだ。そしてそれが出来たなら、その仕組みに従わない者は邪魔になる。つまりは、お前だ」
再び無言になった虎の面に、畳み掛けるように続ける。
「お前は、自分が王になりたいのだろう? なれば良い。だがその為には、勇者共の動きは邪魔だ」
「……なにが出来るってんだ、テメェに」
どこか冷めた響きを滲ませながら、虎の面は聞き返す。
それは、思い違いに道化を演じる相手を、憐れむような響きがあった。
だが、鳥の面は気付けない。
失敗したことが無い傲慢さに、無自覚に振り回されながら。
それがただ、運の良かっただけとは思うことが出来ず、全て自分の力量だと過信して。
「お前の望みを言ってみろよ。魔術師の王を望む、どこかの誰かさんよ。面白ければ、手を貸してやるぜ」
僅かに楽しげな響きを滲ませ、虎の面は応える。
その響きの真意に気付けず、鳥の面は言った。
「魔術協会の長老どもを殺す。可能なら、勇者共もな。その舞台を作るために、手を貸せ。冒険者の王を望む者よ」
「いいぜ」
即座に、虎の面は返した。
身の程知らずの道化を、嘲笑うような響きを、その声に乗せながら。
今回で、第二章は終わりになります。
投稿再開は、しばらく時間が空きます。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!




