12 ひとまず勝利です。でも―― その3
「うん、そのつもり」
五十鈴の言葉に、俺は返す。
「とりあえず、そのためには足らない所を補っていかないとダメなんだけど、なにが必要だと思う?」
「人やわ。なによりも」
五十鈴は、すぐに返してくれた。
「結局のところ、人が足らへんのんよ。和花の所に救援に向かうんも、人が多ければここの拠点を守れたやろうし。それ以前の問題で、休憩とかどうすんのってのがあるし」
「うん。それが一番の問題だよね」
休憩の問題は、避けては通れない大問題だ。
そもそも人間、休まずに一日中戦える訳じゃない。
まともに休息がとれなければ、本来の力を発揮する事も出来ずに潰れるのがオチだ。
「実際のところ、どれぐらいの人数が足りてないと思う?」
「最低でも今の3倍は居らんと、今の戦力を維持する事も出来へんわ」
「3勤交代制でやるってこと?」
「ちょいちゃうわ。1日12時間をローテーションで回して、3日に一回休みを入れる計算でそれやね。これでも実際は、ギリギリなんよ。まともにやるんやったら、4倍は要るんやから」
「ん……1日8時間交代の3勤交代制で、3日働いて1日休むってこと?」
「本来やったら、個人の性能を落とさへん最低限のラインでそれなんよ。やけど、それでも理想を言うんやったら、全然足らへんけど」
「理想で良いよ。それがきっと、本来必要な物だから。今すぐ実現できるかは置いておいて、目指す目標として聞いておきたいから、教えてくれる?」
少しだけ間を空けて、五十鈴は返してくれた。
「……今の6倍は要るやろね。戦場に出したままやと、間に休憩入れても、精神がやられてまうから。
一度に全員街に戻してもうたら、連携とか効率が逆に悪うなるから、人員の半分ずつを戻す計算やね」
「ここで戦い続ける人員と、それを下げて入れ替える要員。全部合わせて6倍は要るってことだね?」
「今の戦力を、長期的に維持する前提やけどね。短期間でええんやったら、さっきみたいなやり方でもええけど」
「そういう訳にもいかないからね」
占拠されている街を開放するだけなら、短期間で集中すれば良いかもしれない。
けれど、魔物は人が居る限り無限に湧き続けるんだ。終わらないマラソンを意識して、やっていかないとダメなんだ。
「将来的な事を考えたら、継続して数千人体制で動けるように考えないとダメってことだよね」
「直接戦う人員以外にも、後方支援で人員は要るやろうからね」
「今から頭痛くなるけど、とりあえず、それは後々の事として考えよう。まずは、いま出来ることをどうするかを決めないと」
「そやねぇ。実際どうするん?」
「戦略を変えるよ。こちらから出向いて魔物を見つけて倒していくやり方は、一先ず先送りにする。代わりに、拠点防衛と拡大を目標に動く」
「拠点防衛は分かるんやけど、拡大ってどうするん?」
「ぐるっと拠点を囲む形で、壁を造って、それを少しずつ広げていくよ」
「それって、余計に人が要るようになるんとちゃうん? 広がれば広がるほど、見張っとかなアカン範囲は広がるし」
「うん、そうなると思う。だから、まずは現状の人数で、無理なく守りきることのできる広さを見極めようと思う。それを見極められたら、その範囲の中で街を作っちゃおうと思うんだ」
「……ん? どゆことなん? まさか、拠点になる前線基地の中に街作るいうん?」
「うん、そのつもり」
俺の応えに、五十鈴は少し考え込んでから返してくれる。
「……それって、魔物と戦う人らの慰安目的の街ってことなん? それとも、本物の街作ってことなん?」
「両方だよ。さっき五十鈴も言ってたでしょ? 定期的に、戦場からは返してあげないといけないって。毎回王都まで戻って貰ってたら大変だから、すぐ近くに街を作っちゃえばいいんじゃないかなって思ったんだ」
「……ん。確かにそれが出来れば、ええと思うんやけど、それやと街が歪にならへん? 誰かが生活する街やのうて、前線基地のための街になってまうんやない?」
「それは大丈夫。元々、いま前線基地を置いているここは、王都や他の辺境都市から来たお客さん達用の宿泊街にするつもりだったから」
「ん~、どゆうことなん?」
五十鈴は聞き返す。都市計画の方は専門じゃないから、具体的なイメージが湧かないみたいだ。
それを補完するように俺は返す。
「いま居るこの場所は、これから作る街の住人のためってよりも、お客さん用の窓口みたいな区画にするつもりなんだ。
ゆったりと休めるような高級な宿から、気軽に泊まれるお手軽な値段の宿とか、そんな施設が中心になる。それを中心にして、娯楽施設や商業施設も付随するような。
イメージ的には、宿泊施設をメインに置いた、元居た世界の駅中複合商業施設みたいな区画にするつもりなんだ。これなら、元からある意味、日常生活からは乖離した場所になるし、慰安目的として作っておいても、後々使い回しできると思うから」
「ん~、そういうもんなん? 確かに、それならええんかも。ただ、街の施設作る人員はどないするん?」
「そっちは大丈夫。もう智恵に頼んであるから」
大地の女神ガイアの勇者である遠山智恵は、持っている神与能力を活かして、土建業をやっている。
彼女の神与能力「神々の箱庭」は、地形操作と施設設置に関わる能力だ。
対象となる場所の模型を作り、魔力で繋げることで、その模型通りの街を瞬時に作ることが出来る。
対象となる場所の広さに応じて魔力が必要になるし、施設に必要な資材も用意しないといけないのでコストは掛かる。
そして事前に、それらを消費して模型を作っておく下準備が必要ではあるけれど、それさえ出来ていればあっという間に街が出来上がるんだ。
魔王との戦いでは、その能力を使って、魔王とその腹心を隔離する壁を作ってくれ、そこに爆弾を叩き落とすことで先制攻撃が出来たんだ。
「あ、智恵にもう、話は通してあるんやね。やったら、その内ここに来るんかな~。ここ1年ぐらい、会っとらへんかったから、会いたいわ~」
「うん、大丈夫だと思うよ。しばらく滞在すると思うから、その時には会いにいきなよ」
「そうするわ~。楽しみやわ~」
楽しげに五十鈴は言うと、その表情のまま、話を進めてくれる。
「ひいろんの話は分かったんよ~。拠点防衛でええんやったら、いざという時はうちら勇者が前線に立ってフォローすれば、なんとかなる思うんよ~。やけど、それでも拠点は広げられて1キロ四方が限度やわ。それ以上は、人を増やさんと。どないするん?」
これに、俺は前々から考えていた案を口にした。
「冒険者の人達に、協力して貰おうと思うんだ」




