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安らぎの国の巫女

作者: もり子

 いつの時代でも、

 人の悩みが共通するように、

 どこの世界でも、

 住人の悩みは共通するものである。

   (サウス・カッハ/『安らぎの国』在住/学者)


   〇


「――ユキ」

 突然名前を呼ばれた少女の肩が、びくりと上下する。振り返ると、白い壁が延々と連なる廊下の先に、姉巫女の姿があった。微笑んでいる。

「はい」呼びかけに応える。天井の高い一本路に、声が幻惑のごとく反響する。「姉巫女様」

「試験の結果、他の巫女より聞きました。――あまり気を落とさぬよう」ユキより少々背丈のある彼女は、穏やかな笑みを口元に湛えながら、滑るように距離を縮めた。「評価は往々にして、時の運に左右される定めです。意にそぐわない結果だったとしても、もし自分を責めているようであれば、お止めなさい。自責も、度が過ぎれば自傷となり得ます。実に、無益なことです」

 二人の身体が交差する。桜色の唇が、耳元で囁く。どこか官能的で、脳が痺れる響き。

 ユキは、顔が赤くなるのを必死に堪えた。「――はい」

「確か、三度目でしたね? しかし、巫女試験には信心ある限り何度でも挑戦できます。決して諦めないでください。私も、微力ではありますが、陰ながら応援していますよ。いつだって、私は貴女の味方です」

 どこまでも慈愛に満ちた声。

「ありがとうございます」鼻の奥にツンとした刺激を感じる。瞬きをすると溢れてしまいそうで、目に力を込める。「勿体ないお言葉です。感謝致します」

「フラハ母神のご加護あれ」

 姉巫女は優雅な仕草で一礼すると、夢に舞う蝶のように音もなく歩み去った。

 そして、一人だけが取り残される。

 再び世界は清浄で静謐で、――それでいて限りなく無機質な表情に戻った。

 潔癖なはずの白い壁は、まるで遺体に施す死に化粧のごとき、虚構の清潔さを露呈する。延々と横たわる長い床も、高い天井も、開放感を感じさせるどころか、際限のない真白な時空的狭間に閉じ込められているようで、冷えた氷のような不安を喚起させる。

 例えるなら、まるで健常者を錯乱に追い込むための、悪魔的監獄。

 あるいは、すでに精神に異常を来した者を強制収容する、瘋癲院。

 いや――いずれにしろ大きな違いはないのかもしれないと、ユキは思う。自分が狂っていてもいなくても、世界の在り方に対して、自身が異質な存在である事実に変わりはないのだから。

 世界が正常であれば己が異常、世界が異常であれば己が正常。

 その明確な隔たりが埋まることはない。

「なんで?」

 なんで私だけが――と、思わず零れた独り言は業火で炙ったような熱を帯び、真黒に煤けていた。


   〇


 ここ『安らぎの国』を象徴する「サン・フラハ寺院」には、毎日大勢の国民が心の安らぎを求めて足を運ぶ。かつて大陸を滅亡から救い、目覚めぬ眠りに就いたフラハ母神の本尊に礼拝することを習慣としているからだ。そのため、寺院を司る大巫女以下巫女達の扱いは、この国に措いては「不可侵なる聖域」である。つまり、フラハ母神に敬虔な気持ちを持ち続けることを忘れず、また母神に安らぎを求める者には老若男女分け隔てなく無償の愛を提供する――そういった重大な役目を負っている彼女らは、まさに清廉潔白な聖人であり、国中の羨望の的なのだった。

 従って、多くの無垢なる少女達は巫女に憧れを抱いた。ユキもその一人だ。幼い頃から見様見真似で所作を学び、意味も分からず言葉遣いまで聞いたままに覚えた。その甲斐あって、彼女は十歳の時に見事、巫女見習いとして寺院に仕えることを許されたのだったが、年に一度行われる巫女試験には三度落ちて、いまだ見習いの座を脱せられずにいる。

 気が付けば十三歳。自分より二つも年下の少女を、「姉巫女様」と呼び慕っている状況に強烈な劣等感を抱いていた。

 無論、巫女には適性があり、能力には個人差がある。一度で試験を通る者もいれば、苦戦する者もいる。しかし、三度挑戦して不合格だった見習いの話は聞いたことがない。どれだけ苦戦しても、大概は二度も受ければ合格する。つまり――。

「私は落ちこぼれ」

 その事実を受け止めないわけにはいかない。

 巫女見習いは試験中に、様々な場面を想定したあらゆる所作、作法、言葉遣い、心構えを試される。その具体的な内容は試験当日になってみないと分からないが、心を痛めている信者への接し方、慰め方、光ある道への説き方等が通例である。また、基礎でもある。そのため、これを満足に行えない見習いは巫女失格ということになるのだが、その点彼女は致命的だった。少なくとも、致命的だと信じ込んでいた。

 頭のつくりが少し違うのか、簡単なことでミスをする。それは例えば右手を差し伸べるところで反対の手を差し伸べてしまうような些細な誤りだが、ユキの場合、その小さな誤りが少しだけ多い。理解しているつもりでも、ふとした瞬間に身体が理解とずれた動きを行っているのだ。

 姉巫女からはよく「注意力が散漫」だと言われる。決して他のことに気を取られたり、何も考えずぼうっとしたりしているつもりはないのだが、確かに「ずれ」が生じる瞬間というのは集中力に欠ける瞬間である。だがそれは細く長く伸びる意識の糸が、長く長く伸び続けることによって、やがては当然の結果として――瞬間的に――ぷつんと切れてしまうようなもの。それはもはや仕方のないことではないのか、とユキは思う。しかし周りの姉巫女達は、その仕方のないことを平然と克服しているように窺える。何故?

 さらに悪いのが、一度ミスをすると焦りからドミノ倒し式にミスを重ねてしまうことである。そして小さなミスは山となり、気が付けば取り返しのつかない事態に陥っている。つまり、どうしようもないくらいに劣っているわけではなく、原因を細分化すれば、一つ一つのミスがほんの些細な内容であるだけに、尚更諦めがつかないのだった。

 己が巫女であろうと、みっともなく執着してしまう。

 執着。……その感情のどれほどみすぼらしく、浅ましいことか!

 執着している時点で、自分は清廉潔白なる巫女失格ではないのか? と、自問せずにはいられない。

 いや――はっきり言って、浅ましい感情はそればかりではないのだ。

 ユキは、自分より見習い経験が短いにも拘わらず、悠々と試験を合格する姉巫女達(元妹巫女達)に強い嫉妬心を抱いている。それにも気付かず、聖人の顔をしながら「諦めないで」「応援しています」と寄って集って無遠慮な言葉を投げかけてくることが、本当に腹立たしくて、鬱陶しい。巫女に「執着」している浅ましさを見抜かれた上で、遠回しにちくちくと皮肉られている気分になってくる。

 勿論、彼女らに悪意がないことは百も承知である。百の善意で言葉を投げかけ、そこに隠されたメッセージ性がまるでないということは、理解していた。

 しかし、しかしだからこそ――負の感情が微塵もないからこそ、執着に呪われ嫉妬に狂う自分が、いかに不健全で救いようのない愚か者であるのかという、残酷な事実を直視させられて、頭を抱えたくなるのだった。

 彼女らが親切にすればするほど、細い指でゆっくりと首を絞められるように、息ができなくなる。

「ああ……」嫉妬。執着。劣等。憎悪。『安らぎの国』の礎となる巫女からは程遠い感情の流動に、我ながら嫌気がさしてくる。「……なんと醜い。なんと醜い」

 こんな自分が試験に合格するとは、到底無理な話ではないのか? 

 こんなにも心は汚れ切っているのだから、この世に生を享けた瞬間から、今の状況に陥ることは決定づけられていたのではないのか?

 ユキが自然に呼吸をするには、この寺院はあまりに純潔だ。

「善意に潰される」

 思わず零れ出た言葉だが、笑う元気もない。


   〇


 少女は、まさに今、天に飛び立つかのような態勢で静止するフラハ母神の前で膝をつき、両手を組んで祈っていた。

 フラハ母神を象った巨大な石像は、寺院から外れた山の奥地にある。そこから慈悲深く国全体を見下ろしているようでもあり、どこか寂し気に微笑んでいるようにも見えるのが印象的だ。きっと、祈る者の心根によって、表情は幾通りにも変化するのだと思う。今の彼女に、石像の主はやはり静かな絶望に浸っているように窺えた。彼女自身が、声も上げられない、底なしの絶望に浸っているためだった。

 ――フラハ母神様、お教えください。

 ――私の浅ましさは罪ですか?

 少女は、心の中で問い掛ける。だが、返ってくるのは、沈黙。石像は、慈悲深いような、憐れんでいるような、絶望しているような表情を浮かべたまま、動かない。答えない。

 ――どうかお答えください。そして、お許しください。こんなにも浅ましい私を、こんなにも醜い私を。お許しください。お救いください。

 沈黙。

 ――いや、そもそも、救済を求めることが罪なのですか? 巫女失格の分際で、人並みの処遇を求めることが罪なのですか? 私は今、とても恐れ多い大罪を犯しているのですか?

 沈黙。

 ――それでも、どうかお許しください。お見過ごしください。大層なことは決して申し上げられませんが、どうかこんな私にも、ほんの一欠片の幸福で結構でございます、自分を肯定できる言葉を、自分を好きになれる言葉をお与えください。どうか、どうか、どうか、フラハ母神様、フラハ母神様、フラハ母神様。………

「後生でございます」組んだ指に力を込める。強張った背中が前のめりになる。額に汗が浮かぶ。「――お答えください」

 と、その時――。

「ユキ」

 沈黙が破られた。

 

 突然名前を呼ばれた少女の肩が、びくりと上下する。振り返ると、背後に雄大な森を傅かせた、普段は対面も儘ならない大人物――大巫女の姿があった。口元は凛と引き締まっているが、瞳からはこの上なく穏やかな色彩が放たれている。

「あっ……」あまりの事態に、ユキは咄嗟に反応できない。サン・フラハ寺院を司る大巫女は、寺院の最奥部で国の要人と面会するのが常だ。国が平穏そのものとは言え、たった一人で森の中をうろつくとは、立場上考えづらい。彼女との遭遇は、まさに青天の霹靂と言えた。

「どうかしましたか? 口が開いていますよ」そう言って、一歩、大巫女が歩を進める。それでユキは我に返った。

「大変失礼致しました」片膝をついて首を垂れる。目線を降下する。「お師匠様、ご機嫌麗しゅうございます」

「ご機嫌麗しゅう。……敬虔な貴女のことですから、きっとここにいると思っていました。母神像に祈願していたのでしょう?」

 ドキリと心臓が脈打つ。大巫女は自分を探しに来たのだろうか? もし用件があるようなら、遣いの巫女を出せば良いものを、自ら探しに来るとは……。

 きっと、試験の結果が耳に届いたのだろう。三度も不合格だった落ちこぼれに、引導を渡しに来たのかもしれない。これで私の見習い期間も終わりかと、ユキはどこか他人事のように思う。散々うじうじと悩んできたが、幕引きは意外に呆気ないものだ。

 だが、これで良かったのかもしれない。

 執着に取り憑かれ、嫉妬に懊悩する自分は明らかに巫女たる器量ではなかった。これ以上無様な醜態を晒したくない――己を嫌いになりたくない――と、なけなしの自尊心が切実に訴えていた。だから、いっそのこと一思いに「追放」を宣告された方が、永遠に辿り着くことのない希望を追い求めて、生乾きの傷を増やし続けるよりも、ずっとずっと優しい。優しい、はずだ。

 本当に。

 親切すぎて、涙が出る。

「――はい」頬を熱っぽく伝う水滴。頭では納得しようと努めても、心の奥底が鈍く痛んで抗議の声を上げる。

 悔しい。

 ――これまで費やしてきた時間は、苦労は、すべて無駄となってしまうのか? 幼い自分が夢見た、偉大なる未来の自分には、結局会えないままなのか? 夢は所詮、指を銜えて見るものだから、夢なのか?

「私は母神像に祈っておりました。どうか、私をお救いください、と。こんなにもはしたない、浅ましい見習いの分際ですが、もしフラハ母神様に虫ケラをも慈しむ心がおありなら、どうか気紛れで結構でございます、その御手を差し伸べてくださいませと、不相応ながら祈っておりました」

 ユキは一息に、胸に詰まっていた毒まみれの言葉を吐き出した。

 大巫女は沈黙したままである。

 しかし、一度箍が外れた呪詛の念は、留まることを知らない。

 それは、暗黒街を闊歩する百鬼夜行のごとく、涙と共に、後から後から溢れ出す。

「結果、母神像は沈黙を尊びました。しかしそれも道理です。私は、見習いと自称するのも烏滸がましい、不純な身の上なのですから。祈りが届くはずもございません。

 ……どのあたりが不純なのか、具体的に申し上げましょうか?

 率直に言って、他の巫女達が憎くて憎くてたまらないのです。私がいくら努力しても成し得ないことを、平然とやってのけ、あまつさえ易々と巫女の地位に居座っているからです。これが産まれ持った才能の差なのでしょうか? 姉巫女達の御心は、産まれた直後から巫女になることを決定づけられていたかのように清く澄んでいて、一方で私の心は煤のごとく黒く歪んでいる。これを才能と言わずして、何と言いましょうか? もはや入口からして全てが違うのです。いずれにせよ、劣悪な嫉妬心を禁じ得ません。

 当然のことながら、私だって努力を怠ってはいないのです。しかし、巫女に向いている、向いていないという明確な差はどうしても生じてしまいます。それで言えば、確実に私は巫女に向いていないのです。それでも幼少より志していた手前、諦めきれず、みっともない執着心を抱いてしまいます。不適正の分際で、なんとか恩恵に与ろうと、執拗に足掻いてしまいます。

 本当に、お恥ずかしい話でございます。

 しかし、この恥ずかしいという気持ちが世界に存在していることも露知らず、執着とも嫉妬とも無縁の場所で、他の巫女達が穏やかに微笑んでいると思うと、やはり腸が煮えくり返る想いなのです。私だけが、この国――安らぎの国――から理由もなく疎外されている。爪弾きにされている。そう思えてなりません。一方で、姉巫女達もまた、理由なく安らぎの国に歓迎されている。歓迎される性質を、元来備えている。これは、……これは、まさしく不平等の極みではないのでしょうか?」

 ユキは、口を閉ざして相手を見上げた。どんな反応を期待しているのか、肯定されたいのか否定されたいのか、自分でも分からないまま。半ば酩酊状態で。……

 大巫女は――。

 やはり、凛と口元を結んだまま、穏やかな瞳で彼女を見下ろしている。その表情は、どこか慈悲深くもあり、憂いを含んでいるようにも窺えて、印象が一向に定まらない。

 つまりは、フラハ母神と瓜二つなのだった。

 生きた母神が、見下ろしている。

 両者が見詰め合ってから、いったいどれほどの時が流れただろうか。

 突然。

「――愚か者」

 沈黙を切り裂く声が、ユキの脳天を突き刺した。

 フラハ母神の声ではない。

 大巫女が口を開いたのだ。


   〇


「貴女は根本的に勘違いをしています。そうですね……どこから話せばいいものやら」

 ユキは、口籠る大巫女を初めて目の当たりにした。彼女の知る大巫女は、いつでも達観したように優美に構え、感情の変化を面に出さないからだ。眉根を寄せて、悩んでいる風の表情に、戸惑う。「勘違い、でございますか?」

「ええ、それはもう甚だしい……。しかしそれが、貴女の良さなのかもしれませんが」

「良さ?」素直に訊き返す。「どういうことでしょうか? 理解が出来ません」

「まず一つ」すらりと細い指が立つ。「ユキは自身の執着心と嫉妬心を、唾棄すべき感情とあしざまに言っていましたが、私の見解とは少し異なります。私は、そういった感情を抱くこと、それ自体は、なんら恥じ入ることではないと考えます。なぜならば、人である以上、執着心、嫉妬心、劣等感、悲壮感といった感情を完全に抑制することは不可能だからです。言い換えれば、そういった感情を抱くことが、すなわち人である証左だと言えます。つまり、貴女は自身を不健全だと貶めましたが、実際はその逆――まるで健全なのです。まずは、そのことを正しく理解してください」

 すらすらとリズムよく繰り出される心地良い声音に、ユキは一瞬心を奪われかけるが、瀬戸際で堪える。脳裏に浮かぶのは、憎き姉巫女達の顔触れだ。「お師匠様、そんなことはございません。私を慰めようとしてくださるお気持ちは大変嬉しいのですが、やはり私は人として……いや、巫女見習いとして適性を欠くと言わざるを得ません。事実、姉巫女の皆様は、そのような浅ましい感情とは無縁かと存じます。決して他人を罵ったり、心の内で見下したりするような真似はなさいません。嫉妬も執着もなさいません。なぜならば、それこそがつまるところ、巫女が巫女たる所以だからです。……それこそが、私に一番欠けているものなのです」

「彼女らの頭の中を覗いたことがあるのですか?」

「えっ」言葉に詰まる。「それは、どういう……」

「先に述べたように、人である以上、喜びもすれば、悲しみもします。喜怒哀楽すべての感情を兼ね備えて初めて、その人物は文字通り一人前となれるわけです。そして、『怒』の感情には嫉妬心が含まれ、『哀』の感情には執着心が含まれます。これら負の感情なくして、人は人たり得ません。『喜』と『楽』だけでは、心理的均整を保てなくなってしまうのです。そういった人物は、例外なく、自重に潰されます。すなわち、『怒』と『哀』は、不思議なことに悪い影響ばかりではなく、心理的負荷を取り除く息抜きの側面も持ち合わせていることになるのです。これは理屈では語れません」

 そしてここからが二つ目――と、二本の指がぴんと立つ。

「巫女も、巫女である以前に人です。で、あれば、当然空腹を覚えれば『お腹が空いた』と考えるし、疲労が溜まれば『疲れた』と考えます。同様に、ときには怒りを覚え、ときには哀しみに打ち拉がれます。何度も繰り返しますが、人である以上、それは至極当然の感情なのです。なにも特別なことではありません」

「そ、それはそうかもしれませんが、しかし実際、姉巫女達はまったく穏やかに……」

「貴女にはそう見えるのでしょう。しかしそれは、彼女らが、そう見えるように振舞っている努力の結果に過ぎません」

「努力、ですか?」まったく関係ない言葉が突然出てきたように感じたので、思わず反応してしまう。その言葉だけは、姉巫女に似合わない。相応しくない。――そう思う。

 大巫女は、ユキから視線を外して、虚空を見詰めた。まるで、記憶の残滓に想いを馳せるかのように。

「ええ。彼女らは皆、陰で努力をしています。なぜならば、この国が、そして国民が、そういったイメージを――清廉潔白な理想像を、巫女に求めているからです。具体的に言えば、フラハ母神に敬虔な志を持ち続ける者には、老若男女問わず無上の愛情でもって応える――そういった形式を、期待されているからです。つまり、巫女とは、国民が欲する型を形成して、初めて巫女と呼べるのです。そのために、彼女らは日夜努力を欠かしません」

 無論、それは私も変わりませんが――と、大巫女は呟く。

「言わずもがな、ここ『安らぎの国』には、フラハ母神を心の拠り所とする者達が大勢在住しています。その体制を揶揄して、近隣諸国の中には悪意を持って『宗教国家』と指をさす国も少なくないと聞きますが、それは中らずと雖も遠からず、といった具合です。この国の秩序は、まさしく宗教によって守られているのですから、『宗教国家』と揶揄されようとも、私はその事実を誇りに感じています。……人を救済する手段は、人の数だけ存在して良いはずです。その手段が偶々宗教で、提供者が巫女達だったという、ただそれだけの話なのですから。人の役に立てられている以上、誇りに感じこそすれ、後ろめたいことは、どこを見渡しても見つかりません」

「………」

「話が些か逸れましたが――貴女の疑問に答えるため、あえて身も蓋もない言い方をすれば――前述した理由から、巫女とはあくまで、この世に存在する数ある職業の中の一つに過ぎないということです。提供者という括りで見れば、食事を提供する者を料理人、技術を提供する者を職人と呼ぶように、救済を提供する者を巫女と呼ぶ――ただそれだけのことなのです。そして、無論、料理人も職人も巫女も、職業という名の幻惑を取り払ってしまえば、その正体は同じ人です。ゆえに、大きな差異が発生するわけもありません。眠ければ『眠い』と考え、嬉しければ『嬉しい』と考え、悔しければ嫉妬心を抱き、諦められなければ執着心を抱きます。……ユキは少々、巫女という存在に憧れを抱きすぎていたのでしょうね。いや、その愚直なまでの真面目さが、貴女の強みなのでしょうが」

 と、このとき。

 いつの間にか慈愛の光彩が消え、鋭利に細められていた瞳が、ユキを捉えた。

 その眼光はどこまでも鋭く、そして清らかに透き通り。

 少女の内面を深々と射抜いて、逃がさない。

 ゆっくりと、唇が開閉する。

 ――そう、まさに貴女は、真面目が過ぎたのです。巫女という肩書を持つ彼女らに敬意を払い、献身的な努力を続ける一方、この国の国民と同じように、見当違いの憧れを見出すようになってしまったのです。

 ――それは決して悪いことではありません。現に、同じ幻想を見出した他の者達は、心の安らぎを得て、何一つ不自由なく暮らしているのですから。私共の努力も報われているのです。しかし、不運にも、ユキだけには幻想が悪い方面に作用してしまった。それは私共の努力が足りていなかったことが原因とも言えますし、ユキが規格外に真面目で、繊細な心の持ち主だったことが原因とも考えられます。いずれにせよ、不幸な事故でした。

 ――幼少期より夢見た理想の巫女と、現実の職業としての巫女。

 ――そこの食い違いが、貴女を苦しめていた、異物の正体です。


   〇


「そんな……」華奢な身体が、頭を抱えてくずおれた。「それじゃあ……私は……え? ……だから……そんな……?」

「今はすべてを理解する必要はありません」大巫女が、膝をつく。「少々、思い込みが強いようでしたので、荒療治を施しました。すぐに心の整理のつく問題でないことは、分かっています。時間をかけて、一つずつ、理想と現実の折り合いをつけていって下さい」

 そう言って差し伸べた手を、少し躊躇した末――ユキは拒否した。

「い、いいえ……やはり納得致しかねます!」大巫女目がけて、喉を振り絞って叫ぶ。「お師匠様のお話は、きっと的を射ているのでしょう。恐れ多くも、ご内容を要約すればつまり、神聖なる巫女とはいえ内実は人である、ゆえに邪まな感情を抱く瞬間もある。従って、そのこと自体を、巫女見習いとして恥じる必要性はない――というものですね?」

「ええ。一つ補足を加えるとすれば、そういった断続的に呼び起される負の感情を、意識的に抑制する努力のことを指して、私達は『修行』と呼びます。人である以上、怒りや悲しみは、抑えようとしても中々抑えられるものではありません。抑えた気になっても、いずれは再び甦ります。そのつど、意識して平静を保つ努力をする。これを繰り返す。終着点のない永遠の衝動と抑制……これこそが巫女における『修行』の神髄なのです。ゆえに、生きている限り『修行』の道が途絶えることはありません」

「はい、よく分かりました。お師匠様のお教えは、大変身になります。有難うございます」皮肉の一つも言いたくなる。挑発的な笑みをつくろうとするが、しかし、うまく笑えない。「ともあれ、巫女としての素質云々が私の見当違いだとしても、他の姉巫女に出来て、私に出来ないことがあまりに多いのは歴とした事実です。試験に三度も落ちていることが、その紛れもない証拠です。私は、基礎的な所作を、作法を、言葉遣いを、信じられないほど浅はかな落ち度ゆえに間違えてしまいます。つまり、お師匠様のお言葉を拝借すれば、いわば、巫女見習いとして不完全なのではなく、そもそも人として不完全だということになります。そう、私は、落ちこぼれは落ちこぼれでも、巫女ではなく、人としての落ちこぼれだったのです。平たくいわば――ヒトデナシ、とでも言うのでしょうか? ……ともあれ、私は、まさに常識を形成する部品の足りない、欠陥品というわけでございます」

「何を言っているのですか?」大巫女は、無表情だ。その瞳は、視る者すべてを凍りつかせるかのように、恐ろしく冷え切っている。「貴女は、自分が何を言っているのか、分かっているのですか?」

「分かっています、分かっています……」嘘だ。分かっていない。分かっていないことを証明するかのように、原因不明の涙が止まらない。「……所詮、欠陥品なのです」

 いっそのこと――この身が粉々になるまで嫌われたかった。

 自己嫌悪を凌駕した破滅願望が、腹の底でのた打ち回っていた。

 どうして、そんな危うい心理状態に陥っているのか、自分でも理由が掴めない。しかし、理由なんてものは些細な問題であり、このときの彼女は少しも気にかけていなかった。ただ、腹の底の毒を、すべて出し切ってしまいたかった。

 たとえそのせいで、敬愛してやまないお師匠様とのあいだに、修復不可能なほどの断裂が走ろうとも構わない――。

 腹の底で煮えたぎる溶岩を、洗いざらいぶちまけずにはいられない――。

 ユキは、すっかり自制が利かなくなっていた。

 静かなため息が落ちる。「まるで貴女からは、自身を極限まで貶めることで、全員を敵に回したがっているかのような、危険な印象を受けます。己が能力的に劣っていることを嘆いているようで、実は無自覚のうちに、それを強く望んでいる口振りです。誰でも心が弱っているときに陥る、典型的な破滅願望の一種ですね。必要以上に自身を貶めることでしか、心の均整を保てない、まことに難儀な状態です。しかし、典型的とは言え、その心のバランスのとり方は、非常に危険極まりない。……欠陥品、ですか?」

 そう言ってから、大巫女は、すうと息を吸い込むと、

「間違っても、そんな悲しい言葉を使うものではありません」

 凛として言い放った。

「ま……」これまで聞いた中で、もっとも強い口調に、ユキは怯む。「……間違ってなどいません。本心であり、真実です」

「なにが本心なものですか。興奮状態から導かれる言葉は、その者が理性を模ったつもりでも、大体の場合失敗しています。どうしても、言葉にする過程で余分な感情や情報が積み重なり、結果、真意を過剰に理解してしまうのです。貴女が自己嫌悪に陥っているのは分かりますが、しかし、だからといって余計に考えすぎるのはおやめなさい。自責も、度が過ぎれば自傷となり得ますよ? ――無益なことです」

 どこかで聞いた言葉だ。だが、どこだったか? 誰が言っていたか?

「それでも、私は……人として当然のことが出来ません。誰もが、当たり前のこととして行っていることを真似しようとしても、てこずります。本当に、なんというのか……駄目なのです。未熟以前の問題なのです」精一杯の当てこすりを加える。「――ご高潔なお師匠様には、お分かり頂けないことでしょうが」

「何故でしょう?」

「え?」素で訊き返してしまう。「何故?」

「何故――だと思いますか?」大巫女が真っ直ぐに見詰めてくる。その表情は再び、真意の読めない仮面に包まれている。

 ユキは、思わず視線を逸らした。……負けた。

「何故――とは、私が当たり前のことにてこずる、理由のことでございますか?」

「ええ、勿論」

「それは……何度も申し上げているように……」欠陥品、だからだ。「……いえ、あえて繰り返すのはよしましょう。ですが、なんなのですか、そのお問いかけは?」

「やはり、気付いていないようですね」

「ですから、それは……」

「いいえ、貴女は気付いていません」有無を言わせぬ口調。「気付いていたのであれば、自身をそこまであしざまに罵ったりはしません。――こんなにも追い詰められるまで、独りで抱え込んだりはしません。この意味が、分かりますか?」

「意味……」ユキは考え込む。本当に、大巫女の言葉が何を示唆しているのか、分からないのだった。 

「思い当たりましたか?」短い沈黙の後、問題の出題者は尋ねた。

「いえ……」それに応じて、解答者は首を横に振る。嘘は吐いていなかった。

 再び、沈黙が落ちる。

 なんともバツが悪い。

 真意を測りかねて、顔を向けると、大きな瞳に視線を吸い寄せられた。

 大巫女の瞳は、いつのまにか穏やかで、慈愛に満ちた色彩を取り戻しているようだった。

 不覚にも、しばらく見惚れてしまう。見慣れているはずなのに、まるで未知との遭遇を経験したように、新鮮で爽やかな驚きを、禁じ得ない。

 そうこうしているうちに、やがて――出題者による解答が示された。

「その姿勢が……答えです。それこそが、この現状を生み出している、元凶なのです」

「姿勢、ですか?」

 鸚鵡返しをしてから、そういえば今日は――訊き返してばかりだ、と思う。

 過去に、これほどまで相手の伝えようとしている言葉を、理解しようと努めたことがあっただろうか?

 いや、ないかもしれない。

 相手の意思を正確に汲み取るためには、頭が痛くなるほど意識を集中させて、伝達に協力しなければならない。相手側がいくら意思を、思想を、情報を正しく伝えようとしても、受け手側がそれを受信する心構えでいなければ、一方通行か、すれ違いで終わってしまう。そんなことを、唐突に考えた。あるいは――大巫女によって、考えさせられた?

 まさか……今の自分の思考回路は、意識的にそうなるよう誘導された結果なのだろうか? 可能性は低いと思うが、しかし……彼女ならばやりかねないかもしれない。そう思う。

 なにせ、話をしているのは、ただの巫女ではない。

 サン・フラハ寺院を司る――あの大巫女なのだ。

(ああ……)

 勝負をしていたつもりはないが、あえてこれまでの応酬を舌戦と例えるのなら、初めから勝敗は決していたのだろう。

 ユキは、天を仰いだ。

 空が果てしなく青く、遠い。


 ……そういうことだったのか。

 

 すう――と、肩の力が抜けるのを感じる。危うく、片膝をついた体勢から、尻もちをついてしまうところだった。

「気付いたようですね」大巫女が、指を立てる。三本目――。「これで、私からの話は最後です。そう、お気づきのとおり、貴女は『他者から学ぶ』ということを怠っていたのです。他者から学ぶ、教えを乞う、情報収集をする……言い方は様々ですが、つまり、ユキは他の巫女を頼るということを一切行ってこなかった。――例えば今朝、貴女は寺院にて姉巫女と会話をしましたね? その際、何故試験に合格できなかったのか、どうすれば合格できるのかを、尋ねましたか?」

「――いえ」心中かき乱されていて、それどころではなかった。余裕がなかった。――というのは、言い訳だ。

 今朝だけではない。教えを乞うチャンスは、過去にそれこそ星の数ほどあった。しかし、「あんな姉巫女達には頼らない」という変な意地と歪な自尊心が働いて――要は無駄に高いプライドが邪魔をして――頭を下げることを拒んできた。つまり、自ら、成長の切欠を手放していた。その挙句が、三度の不合格だった。

 見下されている気になっていたが、実のところ、見下していたのは、自分の方だった。

 所詮、恵まれている彼女らに悩みを相談したところで意味なんてないと、侮っていた。

 日夜、ぎゅうぎゅうと首を絞め、ユキを苦しめていた指の正体は――ユキ自身だった。

 すべての違和感が、理路整然と組み立て直されていく。まるで、パズルのピースが、次々に形良く空白を埋めていくように。

 異形に、異物に、異端に、正当な因果関係が付与されていく。

 独りで抱えこみすぎなのです――と、大巫女の声。

「たった一言、『お教えください』と、口に出せば良かったのです」視線を、ふいとユキの後方に向ける。「つい今しがた、貴女がフラハ母神へ祈っていたように。素直な心を、打ち明ければ良かったのです」

「………」

「そうすれば、打ち明けられた巫女は、ありとあらゆる言葉と行動でもってサポートしてくれます。繰り返しますが、巫女の本分とは、求める者に救済の手を差し伸べる――なのですから。巫女見習いといえども、例外ではありません。ただ一つ――今回のことで新たな課題も見つかりました。求める者にのみ救いを与えるのではなく、求めない者にも救いを与える――提案をするという、ある種のがめつさも必要なのかもしれない、と考えさせられました。その者が……鬱憤を抱え込み、爆発してしまう前に」

 がめつさ、という部分を、大巫女はちょっとお道化たふうに発音した。

 口元が笑っている。

 冗談を言ったのだ。

 神聖なる大巫女が。

 まるで、自身も人の子であると、先の発言を実証するかのように。

 だが――。

 慣れていないのか、冗談を口にした彼女の笑顔は、どこかぎこちなくて、照れているようでもあり。

 最高に可愛らしい。――そう思った。

 ユキは、そんな彼女の視線を追って、石像を見上げた。

 どこまでも深く青く澄み渡る空のもと、真白なフラハ母神は、やはり不動のまま、こちらを見下ろしている。その表情は、祈る者の心根によって変化するのか、慈悲深くもあり、憐れんでいるようでもあり、絶望しているようでもある。しかし、その一方で、微笑んでいるようでもあり、考え込んでいるようでもあり、見守っているようでもあり、――そのどれにも当てはまらないようにも見える。不思議で、不可解な造形だ。

 この瞬間、ユキは――。

 直感的に、石像の内心を理解した。

「良い顔つきになりましたね。まるで別人です」大巫女が言う。すでに、口元はいつものごとく真一文字に結ばれている。そして、ユキに注がれる視線は、柔らかく、穏やかで、温かい。

「お師匠様の、修行のおかげでございます」にっこりと、微笑み返す。「久しぶりに、人と会話を交わした心地です」

「それは何よりです」

 期待したが、そう都合よく、二度目の笑顔は拝めなかった。


   〇


 そんな出来事があってから、光が駆け抜けるように、あっという間に数日が経った。

 あの日のことは、いま思い返しても実感が湧かない。それは幼い頃に布団の中でみた、輪郭が曖昧で、起承転結がバラバラで、理屈を超越していて、しかし、脳の隅に確実に焦げついた、悪夢にも似た夢のごとく、強烈な印象として少女の心に残り続けていた。

 だが、残念なことに、人はそう易々と価値観を根底から覆せるものではない。深層心理に固く根付いた思想と思考は、やがて人格と呼ばれる独立機関となり、その人物を完全に支配してしまう。その支配から脱することは、並大抵の努力では叶わない。それが人の強さでもあり、また、弱さでもある。実に、難儀なことである。

 しかし……劇的な変化は難しくても、人は『学習』することができる。

 そして学習は、成長を促す。

 成長を望むあいだ、その人物の未来への可能性は、無限大だ。


   ○


「――ユキ」

 突然名前を呼ばれた少女が、機敏に反応する。振り返ると、白い壁が延々と連なる廊下の先に、姉巫女の姿があった。微笑んでいる。

「はい」呼びかけに応える。天井の高い一本路に、声が幻惑のごとく反響する。「姉巫女様」

「先日、ユキがお尋ねになったこと、適切な回答がしたく一度持ち帰り、検討させていただきました。それについてお話がしたいので、場所を変えて、お時間頂戴してよろしいですか?」

「髪を切られましたね」

「え?」大きな目がさらに丸くなる。「髪?」

「申し訳ございません。冗談を言ってみたくなったのです」ユキは、悪戯っぽく笑った。短くなった自分の髪を触る。「私も切ったばかりですので、敏感になっていまして」

「ああ……そういうことでしたか。ええ、確かに、切りましたよ。軽く前髪を整えた程度ですが」つられたように、姉巫女も笑いのしわを深くする。「指摘してくれたのは貴女が初めてです。自分でやったので、出来は少し悪いかと思いますが……、変、でしょうか?」

「いいえ、まったく! 大変お似合いになっているので、申し上げずにはいられなかったのです! ……私の方こそ、母に切っていただいたのですが、ここだけの話、私の家は先祖代々不器用一家なので、こんな、へんてこな感じになってしまって……」大袈裟に、悲しい表情をつくる。「……姉巫女様が羨ましいのです」

「あら、とんでもない! お言葉を返すわけではありませんが、大変似合っていますとも!」

「そうですか……? 短くしてとはお願いしましたけれど、これでは短すぎて、なんだか、男の子みたいで……」パッと、表情を切り替える。「ですから、今度は、姉巫女様からご指導賜りたいのです! よろしくお願い致します!」

「ええ、私なんかで良ければ」姉巫女が柔和に笑う。「――それにしても」

「はい」

「変わりましたね」

 ユキは胸を張る。「成長過程の身ですから。毎日が、修行です」

「応援していますよ」

「ありがとうございます。――私、やっと」

「やっと?」

「サン・フラハ寺院の、一員になれたような気がするのです」

「何を言っているのですか」笑い声。「貴女は最初から、私達の仲間ですよ」

「――あはは」

 不意に、目頭が熱くなった。

「ありがとうございます……」

「とんでもない」

「あり……とう……ございま……」

「ユキ?」

「うう……」

「ユキ!? 何故、泣いているのですか!?」

「嬉し涙です……」

「号泣ではないですか!」

 情緒不安定だ――と、自分を客観視して、ユキは思う。

 まずは、己の内面と向き合い、己を知ることから、道は開けるのだろう。それは、決して生易しい道ではない。そもそも、道としての形を成していないかもしれない。己を知り、初めて整備されて、その無秩序は、一本の足場となる。

 辛く険しくても、ただ懊悩に苛まれて生きるのが厭ならば、自力で進路を開拓するしかないのだ。

 一人前の巫女となるには――。

 まだまだ、修行が足りない。

 






                               了


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