7話 『逃亡』
空はオレンジ色に輝き、木々の隙間から見える光も一段と明るくなっていた。
だが、その綺麗な時間は少なかった。
木に記した傷を見つける作業をしつつ森の奥から出ようと思ったが、その作業は予想以上に大変だった。
刻一刻と時間が過ぎる中で、俺たちは必死に探したが、ついに間に合わなくなった。
最後の光かのように太陽は眩しく光り、その後姿を消した。
木々に差し込む光は消え、辺りには闇が広がってきた。
ただでさえ木々が密集して暗かった森が完全に見えなくなってしまった。
ほんの5m先も見えない闇だ。
「メイ!大丈夫か!近くに居るか!?」
俺の視界に映らないメイを探すために声を出し、辺りを見渡す。
メイを探すために少し走ろうか迷ったところで、俺の服の袖を引っ張る感覚があった。
「……誰だ!」
「えっ……あっ……」
突然引っ張られたことに恐怖した俺は怒声を上げ振りほどく。
その怒声に反応するかのように恐怖をあげた小さい悲鳴が聞こえた。
「わ、わたしだけど! そんなに怒らなくてもいいじゃない!!」
「あ、ご、ごめん。てっきりモンスターかと思ってよ」
小さい悲鳴をあげたのはメイだった。
ようやく俺の視界に見えたメイは少しだけ泣きそうな顔をしていたが、多分それは俺のせいだ。
「ま、まぁいいわ。とにかく早く出るわよ!夜はモンスターが活発に生息するんだから! 」
「ってそんなこと言われてもなぁ、もう暗すぎて帰り道も分かんねえよ」
「そ、そうだったわ……どうしよう。こんなところ人も通らないだろうし……」
今自分たちが森のどの辺に居るのかも分からないまま、俺たちは夜を迎えて暗闇の中迷子になっていた。
戻れないという不安を抱えたまま、俺たちの近くの茂みがガサガサと動き出す。
「やべぇ。やっぱりさっきの声でモンスターが来ちまったか」
「だ、だよね。こんな時に来るのなんてモンスターくらいだよね。で、でももう私たちに武器ないよ!?」
まだ残ってるのなんて魔石一つと木の棒、ナイフだけ。
モンスターが一体なら大丈夫かもしれないが、不運にも茂みが動く音はあらゆる方向から聞こえてきた。
そして、俺たちの前の暗闇を光る無数の赤い目。
ついにモンスターが茂みを抜けて俺たちの近くへと来たのだ。
「囲まれたっぽいな……」
「ど、どうしよ……」
メイは軽いパニックを起こしていた。
確かに、暗闇の中モンスターに囲まれればパニックを起こすだろう。現に今の俺も正直怖い。
だが、周りを見渡しても無数の赤い目以外は光るものはなく、それが徐々に俺たちに近づいてきていることすらも分かってしまった。
「メイ!とりあえず逃げるぞ!魔石を貸してくれ!」
「えっ!?う、うん! 分かった!」
魔石をどうやって使うのかよく分からないが、多分さっきメイが使ってたみたいに『フレイム』と唱えて投げればいいのだろう。
「メイ! 全速力で走るからな!転ぶなよ!!」
「多分大丈夫!!」
俺はメイの手を引っ張り、モンスター目掛けて走った。
今更どの方向に行くとかは決めることなんてせず、ただ走った。
モンスターも急に動くとは思わなかったのか、少し驚いたようで動きが止まっている。
今がチャンスだ。
「道を開けろ!!『フレイム!』」
自分の前方に魔石を投げ、魔法を発動させる。
魔石は爆発し、一瞬だけ辺りに光を与えたと同時に、モンスターを怯ませた。
もちろん倒せてはいないが、一瞬の光のお陰で逃げ道を確保出来た。
蜘蛛のようなモンスターに追われないことを祈りながら俺たちは走った。
モンスターから逃げるように少し先も見えない暗闇の中を走った。
だいぶモンスターから離れたと思ったが、未だ後ろから追いかける音が聞こえる。
そんな時、俺に不運が起きた。
暗闇の中無理に走りすぎたのだ。
足がもつれその場に転んでしまった。
そして、俺と手を繋いでいたメイも同時に転ぶ。絶体絶命の状況に陥ってしまったのだ。
「くっそ……逃げきれねえじゃねえか……ごめんな……メイ」
「ううん。大丈夫だよ。これも運命なんだよ……きっと……」
俺とメイは手を繋いだまま目を瞑った。
俺たちの前にモンスターが無数に居るのが気配で分かる。
もはや俺たちに助かる術はなかった。