2話 『異なる世界』
あれから何分経ったのかは分からないが、俺の意識は目覚めた。
死ぬ最後に意識が失われ、目覚める最初に意識が目覚める。
きっと、こういう仕組みなのだろう。いや、まず第一に普通の人間は一度の死で終わりだ。
だから、この体験をしているのも世界中で極小数だろう。
いつ体の目覚めは始まるのだろう。
本当に俺に力がついたのだろうか。
それも確かめたかった。
―――――目覚めてからすぐ考え出したせいなのか、ものすごく頭が痛くなってきた。
とりあえず眠るように意識を落としてみよう。頭痛が消える頃には体も目覚めるかもしれない。
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意識を落としたつもりが、また昔のことを考えていた。
俺が護れなかった少女のこと。いや、少女ではなく、幼馴染か。
虐待ばかりで育った俺に唯一優しくしてくれた幼馴染。
お金持ちの家で育った彼女は俺に『これからは私が守るから』と言った。
けど、俺はそれを良しとしなかった。だから、俺はその時、『俺がお前を守ってみせるから』そう言った。
この約束は所詮幼少期の話だ。
でも、俺はその約束を覚え続けた。
そして、高校生の時、俺は約束を果たせず、幼馴染を守れずにいた。
幼馴染は高校で虐められ、一人孤独に自殺してしまった。
俺は守れなかったことがショックだった。
だから、僕は死ぬ直前に願った。
『護れる力が欲しい』って。
幼馴染の名前もショックのせいか上手く思い出せない。
名前を思い出そうとしていると、どこからか声が聞こえてきた。
『……ろー! こんな所で寝るな! 』
昔にも聞いたような声だ。
まるで誰かに似ている声。
そうか。やっと思い出した。幼馴染の名前を。
「―――メイ!!」
「うぉっ。びっくりした。全く、急に起きるでないわ。ふぅ……まぁ、それはそうと、こんな所で寝たら風邪引くぞ? それに、何故我の名前を知ってるのだ? 初対面なのに」
俺は驚きと共に目覚めてしまい、勢いで上半身だけ起き上がった。
目も開き、身体が少し硬い以外は特に異変もない。
「お主。聞いておるのか? 早くここから離れないと魔物が来てしまうぞ?」
俺の前で屈んで話しかけてくる幼女。
声は幼馴染のメイそっくりだった。
それに、どうやら名前も一緒のようだ。
「……あ……い……よし。おけ。喋れる。それで、幼女。お前は名前はメイで合ってるのか? それと、魔物ってなんだ? ここはなんて世界なんだ?」
少し喋りづらいが、今回は滑舌よく言えたと思う。
「……うむ。どうして名を知っているかは分からぬが、我の名はメイという。そなたの名はなんというのだ?」
「あぁ。名乗ってなかったな。俺の名前は守人だ。菅谷 守人」
「ふむ。守人か。中々聞かぬ名じゃな。それに、魔物を知らないとなると、違う世界の者か?」
この幼女は何者なのだろうか。
というか、この世界だと日本語の名前も通じるのか。
違う違う。そういや、あのヴィーナスが言ってたな。言語能力と読み書きも出来るようにしたと。
という事は、俺は日本語で喋ってるつもりだけど、相手にはこの世界の言葉で聞こえてるわけか。
「驚いておるのか? まぁ良い。確かに、魔物などいない世界から来た者なら分からないだろう。ふむ。先にこの世界の名を教えといてやろう。この世界は『イスタルジア』という世界じゃ」
聞いたこともない世界だった。
やっぱり、ここは地球ではない世界のようだ。
ヴィーナスの言葉通り、俺は選ばれて異世界に来てしまったのだ。
「イスタルジア……ね。分かった。それで、この世界について教えてくれねえか? 俺は今目覚めたばっかでさ」
「だろうな。見る限り、禁忌の魔法を使って転移してきた。いや、強制転移させられたみたいだし。この世界については我の知ってる限りを教えよう」
それから、俺はメイという幼女にこの世界について教えて貰った。
あらゆる種族の生命体がいること。
例えば、エルフやドワーフのような生物だ。
まるで小説の中や漫画の中のような生物が生息しているのだ。
ドラゴンも普通にいるし、安全な街以外の外は全て魔物が生息している。
「そして、肝心なことを教えてやろう。我はエルフの種族じゃ。訳あって一人じゃがな。我は魔法が使えるので旅に出ているのじゃ。そこで偶然お主が倒れてるのを見つけ、仕方なく起こしてあげたわけじゃな」
「なぁ。色々教えてくれて感謝はあるんだがよ、その喋り方どうにかなんねえかな? 見た目に合ってなさすぎだわ」
「なっ!! ふ、ふむ。そうなのか。これが普通の喋り方と思っていた……違うのか……?」
「ちょっと変かな?」
「ふむぅ……なら直すしかないか。……ごほん。では、私はエルフ。魔法が使えて旅をしている人!」
俺は変な自己紹介を聞き、堪らず吹き出してしまった。
メイの顔はどんどん赤くなっていく。
どうやら恥ずかしいようだ。
「守人! なんで笑うの!! 」
「いやいや、笑うわ普通。でもまぁ、さっきよりは全然良いよ。こっちのが俺は好き」
「ふん! 守人に好かれようがどうでもいいけど、今はこの口調でいてあげる!」
それから、俺たちは沢山話した。
主にメイが色々話してくれて、いつの間にか親しい友人程度にはなっていただろう。
名前呼びにもなったし、お互い話が盛り上がって笑いあったりもした。
そんな中で、俺が聞いた地球にはない情報は幾つもあった。
魔王が居て、そいつが魔物を生んでいる可能性がある。
魔王を殺しても、また次の魔王がすぐ生まれる。
定期的に魔物を倒せば侵攻は抑えれる。
武技という技のようなものもあり、魔法ももちろんある。
まるでファンタジー小説の中だった。
その他にも、メイの情報も知った。
どうやら、メイはエルフとして落ちこぼれらしく、集落を追い出されて旅をしているらしい。
そこで俺に出会い、何故か助けないといけない気持ちになって助けたと。
「やっぱり、お前って良い奴だな。始めにあったのがお前で良かったよ」
「うん。私も結構な間人と会ってなかったから、こんなに話せて少し嬉しい」
「どらくらい一人だったんだ?」
メイはごにょごにょと小さい声で『一年以上』と呟いた。
「そっか。おっけ、分かった。今度から一緒に旅しようぜ? 俺はまだまだ知らないことばっかだし、この世界に順応しなきゃいけない。まぁ、お前にデメリットばっかだけどさ、話し相手にはなるぞ?」
「……良いのか? 私も知らないこと多いけど、一緒に旅して良いのか? 大変だぞ? 辛いぞ?」
「大丈夫だよ。もう辛いことには慣れてるから」
俺の身長はそんなに高くない。それでも、メイの身長は俺なんかよりものすごく小さかった。
120cmくらいだろう。本当に幼女だ。
「それじゃ、一緒に旅してもらってもいい?」
「あぁ!任せとけ!」
俺はこの世界を知り、少しだけ順応した。
そんな中でメイという幼馴染と同じ声のエルフの少女に出会った。
俺がこんな世界で頼りになるかと言われたら、確実にそれはないが、今はこの一人の少女の話し相手にでもなれれば良い。
こうして、俺は硬い体を持ち上げ、その場に立った。
数分のあいだストレッチをし、体をほぐす。
「さっ、行こうぜ。まだまだこの世界のこと知りてえわ」
「う、うん!」
口調が変わり、少女らしくなったメイとこの世界に来て初日の俺は何故か一緒に旅をする事となった。
これが運命というやつなのだろうか。
まだまだこの世界は知らない事ばかりだ。でも、確実に俺がいた日本よりは暮らしやすい。
姿や考え方、全てが死んだ時のままで俺はこのイスタルジアという世界で第二の人生を歩み始めた。