12話 『契約』
精霊と契約する為に森の中を歩いていると、メイとレイナが何かを話しているように見えた。
お腹を抑えながら話しているのを見るにお腹が空いたのだろう。
「なんだ? お腹でも空いたのか?」
俺の言葉に二人が若干赤面しながら振り向く。
やばい。俺はそれを見て気付いてしまった。自分のデリカシーの無さに。
普通なら女の人にお腹が空いたとか聞いてはいけないだろう。多分だが。
「べ、別にお腹なんて空いてないわ。ただお腹をさすってただけよ!」
「そ、そうだよ! お腹なんて空いてないし!」
「そうか。てっきり朝ごはん食べてないからお腹空いてんのかと思ったわ」
俺自身はいつもの朝食の時間とは違うため、お腹は空いていない。
まぁでも、二人もお腹は空いてないと言う限りはこれ以上追及しない方がいいだろう。
結局、それから俺はメイとレイナの会話には参加出来ずにいた。
会話に参加出来ないなら参加出来ないなりに、森を見て楽しんでいたら、いつしかメイとレイナは立ち止まっていた。
どうやら目的地に着いたようだ。
「さて、とりあえず昨日教えて貰ったリンゴンの木が沢山あるって場所についたわね」
「いや、よく俺の曖昧な説明で分かったな……」
「まぁこの森の事なら大体分かるからね」
「レイナさんは木とかの声が聞こえるらしいよ?」
「マジかよ……まぁさすがは女王って感じだな」
久しぶりに会話できたことに密かに喜びを感じつつ、俺はレイナがここまで辿り着けたことに納得した。
そりゃ木の声が聞こえれば自ずと辿り着けるはずだ。
「さて、リンゴンを朝ごはんに食べる前に契約しちゃいましょ!」
「そんなに簡単に出来んのか?」
個人的に精霊の契約は途方もない努力の末に出来たりとか思っていたが、レイナの喋り的にほんの数十分とかで出来るという事だろう。
「ま、それは素質によるわね。ただ、人間だと難しいかもしれないわ。なんてたって前例がないもの。だから貴方は後よ。先にメイから終わらせるわ」
「うん! 私からやってみる!!」
「それじゃ、私から少し離れてちょうだい。そうね、半径2mくらいは誰もいないくらいが丁度いいわ」
メイは少し頭に?を浮かべて、首を傾げつつレイナから少し離れる。
どうやら精霊と契約するにはレイナが精霊を呼ばなきゃいけないらしいが、まぁ距離を取ったのにはきっと理由があるのだろう。
「それじゃ、契約の説明をするわね。まず私が精霊を呼ぶわ。その後、メイの近くに精霊を行かせる。そうね、あとは精霊と対話して認められれば終わりよ。大丈夫。貴方は精霊に好かれやすいわ」
「わ、分かった!」
メイはなんとなくで頷いているが、正直俺にはさっぱりわからない。
まず精霊と対話の仕方も分からないし、どういう風に認められるかもわからない。
やってみれば分かるものなのだろうか。
「さ、始めるわよ!」
そう言うと、レイナは目を閉じて集中しはじめた。
どんどんレイナの周りへと精霊が集まってくる。
そして、その状態のまま数分過ぎた頃、メイの元へと一体の黄色に光る精霊が近付いた。
「これが私と対話する精霊……」
メイの周りをぐるぐると回る精霊。
それを見ながらメイは呟いていた。
何周か精霊がメイの周りを回った後、メイの眼前へと止まった。
そして、いつしか目を閉じていたメイの体へと精霊は入ってしまった。
「ちょ、大丈夫なのかあれ!」
「心配ないわ。精霊との対話は心での対話よ。嘘はつけないの。精霊とは本当に心を通わせないと契約出来ないのよ」
「そう、なのか……」
俺はメイを見つめた。
今も目を閉じてその場に立ち止まっている。
「……俺に契約出来るのか?」
心の対話は嘘をつくことすら出来ない。
人間は誰しも心の中に隠したいことはある。もちろん俺にも隠している事の一つがある。
誰にも知られたくない秘密だ。
契約する時にその部分も見られてしまうのなら、果たして俺は契約出来るのだろうか……