10話 『昔のエルフ族』
レイナの家である木に辿りついた俺達。
「さ、どうぞ入ってちょうだい」
レイナに促され、俺たちは家へと入っていく。
玄関のドアを開けようとした瞬間、家全体が淡く光だし、幻想的な空間が広がった。
「わぁ……綺麗……」
「すげえなこれ。どうなってんだ?」
俺とメイは家の中に入らずに景色を見てしまった。
それほどまでに綺麗なのだ。
「あぁ。これは精霊達の力ね。誰かが家に近づくと光るのよ。まぁ気にしないで入ってちょうだい」
レイナが俺たちより先に入り、俺たちは慌てて中へと入った。
まるで現実の玄関の感知センサーのように、家の中に入ったら光は消えていた。
その代わり、俺達がいる玄関から次々と光だした。
「さてと、話を……そうね。する前にお風呂に入りましょうか。貴方達は汚れすぎてるわ」
光に晒されて分かったが、森の中での逃亡中に泥やら土やらが体へとへばりついて服や顔が汚れてしまっていた。
「それじゃお風呂借りますね」
「お風呂だー! 守人と初めてのお風呂ー!」
メイが先に走っていき、俺はそのあとを追う。というか、メイはお風呂場の位置が分かるのだろうか。
「ちょっと待った。やっぱりダメだわ。私がメイと入るからあなたは待っててちょうだい。危なすぎるわ」
「へっ? いやいやいや、メイのことそんな目で見てませんって!」
「良いから! 待ってなさい!」
どうやらなにかを疑われたようで、俺は泥だらけのままリビングで待つこととなった。
そのまま待つこと数十分。ようやく二人が出てきて、俺はお風呂へと入ることが出来た。
はこの世界に来初めてのお風呂は、まるで現実のお風呂と同じようだった。
シャワーもあり、湯船もある。しいていえば、この家が木ということもあり、露天風呂だったという事だ。
「ふぅ。露天風呂はやっぱ最高だな……」
用意されていたタオルで頭を拭き、先程着ていた服を着る。
どうやって綺麗にしたのか分からないが、まるで新品のように服が綺麗になっていた。
「やっと来たわね。それじゃ、貴方達も聞きたいことがあるだろうし、お話しましょうか」
「あったかいお茶おいしー!」
メイはレイナから貰ったであろうお茶を飲みながらはしゃいでいた。
「なぁメイ。この家を探検してきてもいいんじゃないか? ほら、俺はレイナと話するし、お前は暇だろ?」
「そうね。探検してきても良いわよ。楽しい部屋もあるし行ってらっしゃい」
「えー!わたしも話くらい出来るけど。それに、この世界とか守人に教えたのわたしだよ? それなのに今更話に加わるなってそれは嫌だよ!」
「そ、そうだな。すまん」
メイは少し怒ったみたいで、頬を膨らませていた。
ほんとこういう所を見ると子供に見えるが、実際はどうなんだろうか。
「さて、それじゃ俺からの質問させてもらうよ。まず、レイナが昔のエルフ族の女王ってことは確定でいいんだよな?」
「えぇ。この辺りで生きてるのは私だけのようね。メイはよく分からないけど、私たちの村の生き残りは私だけよ」
「分かった。それじゃ次だ。お前は魔法を飛ばせてたよな? どうやら今の世界じゃ魔法は飛ばないみたいなんだが、どうなってんだ?」
「それはわたしも気になる! 」
「まぁ貴方達には教えてあげるわ。きっと今のエルフは出来ないだろうけど、昔のエルフ族は精霊と契約を交わしていたのよ。それで、契約した精霊の力を使って魔法を使っているの。ただし、精霊は一人一体しか契約できない。そういう決まりがあったのよ」
ふむ。となると、レイナの契約している精霊は氷の精霊か?
「ねぇねぇ! それさ、わたしたちは契約出来るの?」
メイは魔法を覚えたいのか、レイナへと身を乗り出して聞いていた。
「えぇ。私がいれば契約出来るはずよ。昔からエルフ族の女王はあらゆる精霊と契約出来たのよ。だから、私が精霊に頼めば出来るはずよ」
「待て。そうなると、お前は何体の精霊と契約してるんだ?」
「分からないわ。例えば、この森に入れば、この森全ての精霊と契約を交わしていることになるの。それと、精霊っていうのは森の奥とかに多く生息していて、力を発揮しやすいの。昔からエルフ族が森で暮らしていたのは、契約している精霊の力を最大限発揮するためよ」
ということは、例えば森から離れたところに行くと、仮にメイが精霊と契約してもあんまり力を発揮出来ないという事か。
「具体的にどれくらい力は無くなるんだ?」
「私には分からないわ。女王は常に力が発揮出来るように精霊が体に住んでるのよ。だから、私の近くに居ればどんな精霊でも最大の力を発揮できるの。例え森から離れていてもね」
「それなら森に暮らさなくてもいいんじゃねえのか?」
女王がそんな力を持っているなら、森にいる必要はないはずだ。
「守人。エルフ族が森に暮らさなかったらさ、次に生まれてきたエルフは精霊と契約出来ないでしょ? だから、森にずっと暮らしてるんだよ!」
「よく分かったわね。その通りよ。ま、でも人間達によって私が暮らしていた村は焼かれてしまったわ。その森ごとよ。だから生き残った私は姿隠しの魔法を使って違う森を転々として生きてきたの」
レイナも俺達には想像も出来ないようなことを体験しながら生きてきたのだろう。
レイナの表情を見るだけで分かってしまった。
「あ、そうだ。その姿隠しの魔法ってどうやるんだ?」
「───それを聞いてどうするつもり?」
突然だった。
レイナの表情が豹変し、俺を睨むように聞いてきた。
「いや、俺とメイは旅をしているだろ? 食べ物とか確保するのに街に入らなきゃいけねえんだよ。でも、エルフと人間だからな俺たち。お互い街に入るのは難しい。だから姿隠しの魔法で片方を隠して調達したいんだよ。悪事に使うつもりはねえな」
「そう。本音で話してくれて助かるわ。ちょっと疑ってしまってごめんなさい」
レイナの表情が安堵の表情になったことで俺も安心した。
でも、どうして姿隠しの魔法でそんなに反応したのだろうか。
「ねぇ、レイナさん。昔なにかあったの?」
俺が聞くよりも早くメイが聞いていた。
一瞬止めようと思ったが、レイナは俺の方を向き大丈夫と言って話し始めた。
「さっき言った通り、森を焼かれたのよ。村ごとね。昔は人間とも仲は良好で、特に仲の良い人にはエルフ族の秘伝の魔法である姿隠しの魔法を教えたのよ。それを覚えた人間が私たちを焼いたの。女王である私はその人間が隠れてようが見えたのだけど、時すでに遅かったわ。それ以来私は姿隠しの魔法を誰にも教えないと決めたのよ」
女王は姿隠しの魔法を見破れるのか?
それだとおかしい気がする。メイはレイナが姿を隠していたのに見つけていた。
どういう事なんだ?
「なぁメイ。お前、なんでレイナが隠れてたのに見えたんだ?」
「うーん。分かんない。なんか見えたんだよね」
「多分女王としての素質があるのよ。ただそれだけ。さて! そろそろお腹空いたわね。何か食べましょ!」
「待ってくれ。姿隠しの魔法を教えて欲しいんだ!」
「うん。私たちの旅に必要だから……お願い……」
「はぁ。分かってるわよ。明日教えてあげるから。もちろん、精霊との契約も手伝ってあげる。ただし、森を傷つけたり、精霊を怒らせないようにね。ほらほら、話は終わりよ!ご飯の準備!」
レイナは立ち上がり、台所へと向かった。
やはりこの辺は現実の家とそう変わりはない。
「ま、大体話せたからいいか」
「そうだね! 明日教えてくれるみたいだし!」
奇跡的に出会ったレイナが優しい人で助かった。
人間を嫌う昔のエルフなのに俺という人間にも優しくしてくれている。
「ほら!メイと人間! 手伝いなさい!」
「分かったから!それと、俺のことは守人って呼んでくれ。人間はなんか嫌だ」
「気が向いたら呼んであげるから」
「ご飯楽しみー!!!」
メイは笑顔でレイナの元へと行き、料理を手伝っている。
俺は二人が仲良く料理しているのを見て少しだけ微笑んでしまった。
こうして、俺たちの話は無事に終わり、魔法を教えてもらう約束もした。
まるで奇跡のように全てが上手くいっている。
でも何故だろう。これから悪いことが起きる気がしている。
「守人!レイナさんの料理おいしそう!!」
メイに呼ばれ、俺も台所へと向かう。
俺は悪い予感のことは忘れ、今はレイナの料理を楽しむことにしたのだった。




