1話 『奇跡』
新作です〜!
―――全てが予想外だった。
そう。何もかも全てが予想外。
彼女に振られた。
死ぬ思いで勉強したのに大学受験に落ちた。
そして、信号無視したトラックに轢かれた。
どうして俺の人生はこうも無残なのだろう。
家には母と呼べるのかどうかも分からない女と、俺を虐待する実の父がいる。
そうか。そうだったな。
むしろ俺の人生がここで終わって良かったのかもしれない。
「……はははっ……」
血の匂いを感じ、自分の服が濡れ、意識が朦朧としてくる。
手にこびりついた血は固まり始め、やがて俺の体は全くと言っていいほど動けなくなった。
そんな中でも俺を助けるものは居なく、俺を見て写真を撮る者しかいない。
俺はこんな腐った世界に別れを告げることが出来るのが嬉しくなり、どうしてか口元が笑い始めた。
きっと少しだけ口角が上がっている血塗れの男はキモいだろう。
ほら、どんどん写真を撮るがいい。
どうせ俺は居なくなるんだ。
もうこの世に興味はない。
……でも、もしも、次生まれ変わるなら……
―――――――為の力が欲しいなぁ…………
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『はいはーい。起きて!起きて! もう君は生き返ってるから! 死んでないからー!』
騒がしい声が聞こえる。
あぁ。俺は死ねなかったのか。ということはここは病院か?
『やーっと、目を開けたね。という事は私の声が聞こえてるってことでオッケーだね!』
俺は口を開いて喋ろうとしたが、声は出ず、口元も動かなかった。
どうやらまだ体も動かせないようだ。
『あーダメダメ。無理に動かそうとしても無理だから。君一回死後硬直してるからねー。ま、時間が経てば治るし、というか、次の世界で治ってるから安心してねー!』
死後硬直。それなら納得がいく。
いや、待てよ? なら何故俺は生きているんだ? それに、どうして声だけ聞こえるんだ?
『あー、うん。そういう疑問は考えなくていいよ。君はなんらかの理由で生き返った。そして、君と私は今日ここでしか会うことはない。だから、今からは何も考えずに私の話を聞いてくれれば良いから』
俺は言われた通りに考えるのをやめた。
どうしてか分からないが、これ以上考えるのが馬鹿らしくなってきたからだ。
『うんうん。それでいいよ。それじゃ、本題に入るね。まず、君は地球という世界の中から唯一選ばれた人間です。いやー、幸運だね。何十億っている中から選ばれるなんてそうそうないよ?』
こいつは何を言っているんだ?
いや、まだこいつの話は終わってないみたいだし、まだ疑問に思うのはやめておこう。
『って、まぁそれはさておき。とにかく君は選ばれた人間だから、なんとなんと、異世界に行けちゃいます! もちろん、言語やら物書きは出来るようにしておくから安心してね! 他はそうだね。ま、適当に何か贈り物を用意しておくよ。流石に最強とかは無理だけどね。あぁ、それと、異世界では特に自由でいいよ? もちろん殺人とかはダメだけど……って、まぁそれもあっち行けば分かるか。それじゃ、そろそろ時間だから転送するね!』
意味が分からない。異世界? 転送? 選ばれし人?
『あーもう! そんなこと良いから! とにかく、君はその姿のまま違う世界で人生を変えれるってこと! グダグダ考えてないで、目を閉じてろ!』
何故か怒られてしまった。
でも、この姿のまま第二の人生が歩めるのなら願ってもない嬉しいことだ。
それに、日本という世界じゃないなら、あんな両親もいないし、なんて嬉しい事だろう。
『うんうん。日本よりはだいぶ違うからね。あー、それと、君が最後に願ってたことも叶えてあげるから!』
俺が最後に願った事? なんだったかな……
あぁ。思い出した……
「もし生まれ変われるなら―――――――為の力が欲しいだったな……」
『おお!まさか喋るとは思わなかったよ!君は凄いなぁ。ま、その力を君にはあげるから、あ、もちろん強さとかじゃないからね? 才能……かなぁ? うーん、私にもよく分からないけど、この力があれば、本当に助けたい人を助けたり、護れるから』
「あぁ。次の世界では俺、頑張るわ……」
俺はこの場にも居ない人になにを宣言しているのだろうか。
『うん。やっぱり君は優しいよ。それじゃ、頑張ってね。もしも、次会えた時があれば、その時は私の名前を呼んでね。私の名前は……』
俺の体は光に包まれ、意識が失い始める。
声だけの主の言葉が未だに耳に残っている。
俺を転生させてくれた人。
何故か俺を褒めてくれた人。
その人の名前は『ヴィーナス』。
もしも次会えたなら、今度はちゃんと感謝しよう。
俺は名前を忘れまいと思いながら、意識を失った。
隔日更新を予定してますよー!