僕が、俺になり、ぼくになる物語 №3
「おにぃちゃん!おーてぇ!おにぃちゃん!!おーてぇ!!おにぃちゃん!!!おーてぇ!!!」
「どうしたんだよユリアーナ。こんな朝早くから一人で起こしに来るなんて。」
「ユリアおにぃちゃんとおさんぽしたいのぉ。だから、ひとりでおきておにぃちゃんのことおこしにきたのぉ。だからおーてぇ。」
「そっかそっか。お散歩がしたいのか。ユリアーナは朝から元気なのが一番だよ。」
「あいがとぉー。おにぃちゃんもあさからげんきじゃないとやぁー。」
「分かってるよユリアーナ。僕はユリアーナのためならいつでも元気だよ。それより、一緒にお散歩行く前にしなくちゃいけない事があるよね。」
「うぅん。ユリアわかんないよぉ。」
「じゃあ。いつも朝にしていることを思い出してみて。」
「うぅんとぉ。おかあーさんといっしょにおにぃちゃんおこしにいくのぉ。」
「そうそう。いつも起こしに来てくれるね。じゃあそのあとどこに行くか覚えてる?」
「うぅん。おにぃちゃんとおててつないでおかおあらいにいくのぉ。」
「正解正解。ユリアーナは賢いね!お散歩に行く前に、まずは、お顔洗いに行こうね。」
「うん!おかおあらいにいくのぉ。おててつないで!」
「あんまりはしゃいだらコケちゃうよ。ユリアーナ」
「うん!ユリアコケないもん。」
「そっかそっか。ユリアーナ「うぇぇぇん!!」ほら言ったじゃないか。いい子なんだらかそんなに泣かないの。」
「うぅん。ユリアいいこいいこしてくえたらなかないー。だからいいこしてぇ。」
「もう仕方が無いなぁ。ほら、いいこいいこ。これでもう泣かないんだね?」
「うん。ユリアいい子だからがまんするぅ。いいこいいこゆりあはいいこ。」
「ちょっと待って、ユリアーナ。先に行くなんて僕がさみしいじゃないか。」
「またないよー。だからはやくきてぇ。」
「ちょっと待ってよ、ユリアーナ!まってってユリアーナ!!ユリアーナ!!!…………
頬を伝う冷たさと、床の冷たさに目を覚ます。
「はは。何だか懐かしい夢を見ておたみたいだけど………もう忘れてるとはね。
ユリアーナ、おはよう。俺は、明日には出発するからね。直ぐに帰ってくるから、お留守番頑張ってね。」
ユリアーナからの返事はない。だが、俺は気にせずに出発のための準備をする。
とりあえずご飯を食べることにして、研究室から台所に移動する。
新鮮な野菜はなかったが、長期保存ができる物が沢山あったので適当に見繕い食事にした。
ついでに、持っていく食品も三日程度の量を準備しておき台所から移動する。
移動する間は見繕った中の干し肉を齧り、出来るだけ時間を有効に使う。
台所から移動した俺は、体が汚れていたことに気が付きお湯を沸かして体を拭うことにした。
いつもはお風呂に入っているのだが、ゆっくりする時間が惜しい。数分である程度綺麗にしてから俺は俺の部屋に移動した。
勉強のために読んでいた父の書いた本と、その本のための本棚、勉強用の机と椅子に、長年使用して愛着のあるベッド、そこまで多くはない衣装棚、程度しか置いていない簡素な部屋だ。
衣装棚から三日分程度の1式と今から着る服を適当に選ぶ。
元々一週間分程度しか入っていなかった衣装棚は、四日分も抜き出すと哀しいくらいにがらんとする。
着替え終わり、1度荷物を研究室に持っていき、最終的な荷造りは研究室ですることにして、必要なものを持ち運ぶ。
まだ読んだことがなく、俺に適性のある属性魔法の本、簡易なテント道具、荷物が入る大きめの鞄、父親愛用のそこそこの装備1式、親が貯めていた全通貨。
他にも色々持って行きたかったのだが、これ以上は荷物が多すぎると判断し、研究室で荷造りを始めた。
装備1式は、片手剣以外を身につけることにした。装備しながらの行動に少しでもなれるようにするためだ。
テント道具は邪魔になったので置いていくことにする。別にテントがなくてもどこでだって寝ることは出来るのだし。
外套は、二種類持っていく。魔法のかかった外套と、寒さを凌ぐための保温効果が高めの外套。どちらも父親のものだったが、体格はそこまで変わらないので違和感なく着ることが出来る。
その他にも、何だかんだ荷造りを終えたのは太陽が真上を超えた当たりだった。
昼食には、家にあった大きめの肉の塊を切り焼いて食べることにした。かなりの量があったが、二十分程度の時間をかけて食べ終わる。
出発のための準備はもう既に終わらしているため午後の時間はユリアーナとお話でもして時間を潰すか、今から出発することにするか。
かなり迷ったのだが、今から出発することにする。その為、研究室に移動してカバンを背負う。
「ユリアーナ、俺は今から出発することにしたから、
ユリアーナを救うためのものを手に入れたら直ぐにもどってくるから、
だから、それまでの間家のことは頼んだからね。
俺寂しいけどユリアーナの為に頑張って来るから、じゃあ行ってきます。」
いつも通り返事もない。が、俺は気にせずに研究室から出ていく。そして、研究室の扉を隠すように通路を崩落させ、家を燃やして燃え尽きるのを見守ってから、
おれは、僕として16年間生活してきた家から出ていった。
目印として、両親ここに眠ると彫った大きめの岩を地下室まで通路だった場所に置いておく事にした。
家にあったここから近くの街までの地図を広げ、進んでいく。
あまり正確に書かれている訳では無いが、今の俺にとってはこの地図がなければとても辛いことになるだろう。
地図を見つけ出した過去の俺を賞賛しつつ、歩みを進める。家はフリュージ森林と呼ばれる森の中心部にあり、ここから近くの街までは歩きならば二日くらいかかってしまうようだった。一応食料も着替えもあるため、焦らずに進んでいく。
途中何度か動物を見つけたが、あまり攻撃的ではなかったようで俺に気づいて逃げた動物ばかりだったので、余計な時間と体力の消費にはならなかった。
何時間も歩き続け、太陽が沈む頃になってしまったので、俺の適性魔法の一つである火属性魔法の第一階位魔法“リヒト”を発動させながら暗い森をひたすら歩き続ける。
何度も何度も小動物の動く屍を見つけ、怒りと憎しみが湧いたが、あの時とは状況が違うため俺は気付かれないように森を進んだ。
朝になるまでに、12回魔法が切れたが消費の少ない魔法のため魔力が枯渇することは無かった。10何時間ものあいだ歩き続けるのは流石に辛かったが、もうすぐ森を抜けることができそうだった。
あと30分程度で森を抜けれそうだが、さすがに疲れたので近くにあった大きめの木に登る。
したから見えずらい位置まで登って来たら、ロープで体を固定し、仮眠することにする。
結局2時間も寝れなかったのだが、全く寝ないよりはマシだろうと思い木から降りようとする。
すると、俺の登っている木に生えたキノコをぼりぼりと夢中になって食べているイノシシに遭遇する。
ちょうど腹も減っていたので、気付かれないように確実に上から的中する場所に陣取り飛び降りる。
しっかりと首をへし折ることに成功したので、乾燥した枝や木の葉をあつめて火を起こす。と言っても火属性魔法の第一階位魔法“イグニッション”で火をつけるのでそこまでの手間ではないのだが。
短剣を使って毛皮を剥ぎ取り、骨から肉を切り取る。
不格好に切り分けられた肉を硬い木を削って作った串で突き刺し焼いていく。
串がひとつしかないのでなかなか切り分けた肉は減らないが、ゆっくりと時間を掛けて完食した。
味付けできなかったので臭みが強かったが、そこは仕方ないとして諦め腹が満腹になったことに満足する。そして、火をけし、イノシシの残骸はそのまま放置して早いところ森を抜けるために歩き出す。
そのまま数十分間歩き続けることでようやく、森を抜けることが出来た。森を抜け、少し進めば馬車で踏み固められた道のようなものに沿って三、四時間歩き続ける。ようやく、街の防壁が見えてきたので、少しだけ足取りが軽くなる感じがした。
そこで、もし門番のようなものに荷物を調べられた場合書物はいいが、家にあった通貨を全部持ってきているので、それを盗まれデモしたらと思いたってしまう。
1度道から離れ、茂った草陰を見つけたのでそこのそばに穴を掘り、その穴に額の大きい通過を隠しておくことにする。
そこで、魔法適性の一つである土属性魔法を使うことにする。使うのは第2階位魔法の“アースレイン”。これで三メートルほどの穴を開け、袋に入れた通貨を隠す。魔法のおかげで手を汚さずにすみ、更に違和感のないように穴を埋めることが出来た。
一応周りにあった小石を変に思わない程度に密集させておいておいたので場所がわからなくなることはないだろう。
一応手元には5万レル持っておく。1食が平均7百レルでなので七十食分位にはなる。
持ち歩くには些か多いが必要になるものも多いし、これくらい無いと行けないから仕方が無いだろう。
道に戻り、街まで歩いていく。
ようやく目の前まできたと思ったら、門には数十人ほど並んでいた。
時間的には昼前なので違和感を覚えはするものの、俺もその列に並ぶ。
並んでる待ち時間を潰す目的で目の前のおばさんに声をかけてみた。
「すみませんが、少しお話よろしいでしょうか。」
「えぇ。もちろんよ。待ってるあいだは暇だし、何なら街に入るまでお話しましょう。」
「ははは。ありがとうございます。いきなり質問になるのですが、いつもこのように人が並んでいるものなのでしょうか。」
「あら、あなたはここに来たことがない人なのね。それなら不思議に思うのも無理ないわ。
この町の名前も知らなそうだけど…
特に詮索する気は無いわ。
それで、質問の答えだけれど、この時間は通行税が無料になるのよ。お昼11-12時の間だけ、ここベストーレ特別の文化というか条約というかまぁ、とりあえず、お金がかからずに街に入ることができるというわけよ。
まぁ、荷物チェックは厳重に行われるのだけれどね。」
「なるほど、ありがとうございます。この町の名前もわからなかったので本当にありがたいです。
まさか、通行税が掛からないなんて予想外でしたし、この時間にたどり着いて本当に良かったです。」
「そうね。あなたは本当に運がいいわね。ここには情報量としてお金を払えと言ってくる輩もいるのよ。
特に田舎から来た人を見つけるのが奴らは得意なの。だから、よく引っかかっている田舎の人を見るといつもいたたまれない気持ちになるのだけれど。あなたを救えてよかったわ。」
「えぇ、本当に運が良かったのですね。ご親切にありがとうございました。町でお会いできましたらなにかご馳走させてくださいな。」
「ふふ、楽しみにしてるわね。じゃあ、そろそろ私の番だから、また後で会えたらね。」
「ええ、また後ほどに。」
さて、お金を置いてきて正解だったな。もし見られていたら門番によってはめんどくさいことになりそうだったのだろうしな。
ようやく、俺の番が来た。
「次!前に進め。
この街に来た目的はなんだ。」
少しばかり上からの言い方にイラつきはしたが我慢し、受け答える。
「出稼ぎのためにこの街に来ました。」
なるべく短く淡々と答えていき、10問くらいの質問を受け答えし終えたところで、荷物検査が行われた。
特に変なものは入れていないのですぐに荷物は返され、街に入ることが出来た。
街に入ってすぐ、俺はカバンの中に入れてあった小さな袋の中身の確認をする。
袋の中にはしっかりと5万レルが入っていたため、態度が悪い門番の評価を少しだけ上昇させておいた。
当分のあいだは金には困らないはずだが、稼げる仕事に就くために、街を歩いている数人に話を聞くことにした。
全員に同じ質問をする。
「出稼ぎのために出てきたのですが、お金の稼ぎやすい仕事はどこで斡旋してもらえたりするのでしょうか。」
歳をとったお爺さんには
「あんさんはまだ若いんじゃからの。街を見て職人のしたについて1から教わることが一番の近道じゃろうな。」
飲食店を営む夫婦には
「なら、うちで働かないか。今ちょうど人が足りないから働き者を探してたんだ。今日中に“腹一亭”に来てくれりゃ、面談しだいでは即座に働いてもらうことも出来るからな。考えていてくれ。」
巡回中の衛兵には
「腕に自信があるなら討伐ギルドにでも入って仕事をすればかなり稼げるらしいからな。
まぁ、その分危険性もあるがハイリスクハイリターンだな。」
と言われた。
俺の最終的な目標である“妹を救うこと”のために必要なものを揃えるならば、討伐ギルドに参加するのが近道になるのだろうと思い、討伐ギルドの場所を聞き出し、街を進んでいく。