僕が、俺になり、ぼくになる物語 №2
「ふぅ。とりあえず今日のところはこれで終わっておこうかな。
ユリアーナのことも心配だし、また遊んであげないとすねちゃいそうだからね。」
そう独り言をこぼし、僕は先程まで夢中で読んでいた書物に一応栞を挟み、閉じる。
そして、少し急ぎながらユリアーナを探しに行くために、僕の部屋から出ていく。
僕の部屋から出てすぐさま気がついてしまった。
「いやいや、なにかの間違いだ…
そんなことあるはずない…あるはずがないんだ…」
必死に現実から目を背けると共にそこから逃げ去るかのように、
僕は必死に、重たい体を必死に動かしユリアーナの居場所を、姿を探すために走り出す。
「ユリアーナ!!ユリアーナ!!何処にいるんだ!ユリアーナ!!
僕の声が聞こえたなら、この声が聞こえるなら僕の元に、
いや、返事だけでいい。返事だけでいいから、僕に、お兄ちゃんに……声を聞かせてくれ……」
僕は家中を駆け回り、それでも見つからないユリアーナを探すために、先程見た光景を考えない様に、
僕は家を出て外を探しに行く。
家からすぐ傍に、ユリアーナの愛用していた、僕が誕生日にプレゼントしたユリアと書かれた靴を見つけた。そして、僕はユリアーナ以外には何も考えずに、
「ユリアーナぁぁぁぁぁぁ!!!どこにいるんだ、ユリアーナぁぁぁぁぁぁ!!!」
と叫んでいた。すると、少し先の草が少し動いているのに気がついた。
そして僕は、その茂みの元まで走り出し、覗いてしまった。
そこには、小動物の動く屍たちにぼこぼこに殴り蹴られているユリアーナの姿があった。
そんなユリアーナを見て僕は、身動きひとつできなかった。
風で動かされた髪の毛と、揺れる草の音、ユリアーナが殴られ蹴られ生まれる血液と肉の音、それ以外の音は消え去ったように聞こえなくなっていた。
そのままとてつもなく長く感じられる一瞬がすぎた時、ユリアーナと僕の目があった。
ニコリと目だけで笑いかけるユリアーナを見て僕の中の何かが弾けるような感じがした。
そして、気がつくとそこには腐った血肉をべっとりと手足に付けた俺の姿と、光を失った眼をしたユリアーナと、バラバラに原型のなくなった小動物の動く屍が飛び散っていた。
「ゴメンなユリアーナ。俺が不甲斐ないばかりにこんなことになってしまって…
けど必ず君を助けてみせるから。どれだけの時間がかかろうとも、どれだけの悪事を働いたとしても、
君の笑顔を見られるまで、必ず俺は生き続ける。
必ず見つけて見せる…君を救う方法を…」
そう俺は誓い、父親の研究室である地下室にユリアーナと共に移動する。
家の中には、動く屍となった両親がいた。
先程までの俺ならばまた、現実逃避するのだが、今の俺には守るべきものがある。
ユリアーナのためならば両親だったものなどに、心を動かされるなどあるはずがない。
「邪魔だ。俺とユリアーナの通る道にお前らがいていいはずがないだろうが。
そのまま動かないなら見逃すが、動くつもりならば…ユリアーナのためにもう一度死んでもらう。」
せっかくの忠告も虚しく、ゆっくり動き始める2体の屍を見て俺は溜息を吐く。
「ユリアーナ。少しだけ離れるけど必ずすぐ戻ってくるから安心して待っていてくれよ。」
返事はなかったが、後ろにユリアーナがいると言うだけで俺には千人力だった。
ユリアーナに話しかけ終えると同時に俺は駆け出す。まずは、損傷の激しく動きの遅い母親だったものから攻撃する。
それでも父親だったものが、ユリアーナを狙わない様に拾っておいた大きめの小石を全力で目玉にぶつけ、俺に注意を集める。
小石を投げてすぐに、俺は、ローキックの要領で母親の両足を砕く。
俺には、固有属性の【妹増強】を生まれた時から持っていた。
その効果は、妹が直径10メートル以内に存在する場合、魔素を用いて身体能力を超化するというものであり、今この瞬間のための能力のようにも感じられるが、
それを使用しているために、耐久性の高い動く屍の両足を砕くということが出来るのだ。
両足を砕いた母親だったものは、先程までよりも遅い速度まで落ちたので後回しにし、すぐそばまで接近している父親だったものの対処をする。
すぐそばと言っても1m強はあったため、上段の回し蹴りを放つ。
回し蹴りと同時に転けてしまったが、回し蹴りにはしっかりと感触があったので、父親だったものを見ると二メートルくらい先に倒れていたのを確認したため、余裕を持って立ち上がった。
父親だったものが、なかなか動かなかったので、母親だったものの処分を先に行うことにした。
損傷した右手を使わず左手と太もも当たりを器用に使いながら俺に近づいてきたので、左手を前に伸ばした時ちょうど前傾姿勢になっていたので、蹴りあげる。
俺の背を超えるか超えないかくらいまで飛んでいたので、踵落としを背中の中心くらいに打ち込むと母親だったものの骨が砕ける感触が得られた。
倒れている状態の母親だったものの頭を踏みつぶす。一撃で綺麗に踏みつぶせた。
そのまま全身を組まなく踏み潰している時に、突然項に激痛が生じた。
まさかと思うと、吹き飛ばした父親だったものが俺の項に噛み付いていたのだ。
まさか動けるとは思ってもみなかったので、油断していたのもあったが、
それでも腹立たしく思ったので、多少項が怪我するのには目をつぶり、父親だったものの首を掴んで引きはがす。
そのまま、地面に叩きつけ母親だったものと同じように全身くまなく踏み潰し、原型のないミンチ肉になったのを確認してから、ユリアーナの元に戻る。
「ユリアーナ。少し時間がかかってしまったけど、ちゃんと俺たちの邪魔をするやつは潰しておいたからね。
じゃあ、父さんの研究室に行こうか。」
またしても、ユリアーナから返事はなかったが、俺は黙々と研究室に足を進める。
少し時間がかかったが、両親だったもの以外にはなんの問題もなく目的の部屋に到着した。
「ユリアーナ。ようやく、父さんの研究室に着いたよ。ユリアーナはずっと行ってみたいって言っていたよね。とうとう来れたじゃないか。良かったな。
僕は何回か入ったことがあるけど、ユリアーナを助けるにはここが一番だと思うし、ユリアーナは来たかったとこに来れたし、これがwin-winの関係なのかな。
じゃあ入ろうか。
パスワードは、
【我この世の混沌を知るもの。】
だったかな。」
無音のまま、扉が開く。
扉の先は真っ暗だったが、そのまま俺とユリアーナは、進んでいく。
1分程度で光が目の前に広がった。
そこには、よくわからない装置が沢山あったが目当ての装置はすぐに見つけることが出来た。
なぜなら、俺は父さんに1度だけ話されたのだ。
『ハワード・ラインベルモート。僕の息子よ。
この装置が世に出たら世界は救われるのだろう。だけど、僕はこれを秘匿している。何故かわかるかい。
それは、この装置を発動するには代償が必要だからなのだよ。
いいかい?この装置があれば、死した生物が動く屍になることを阻止することが出来る。ソレでも、ずっとこの装置の中に入れさせておく必要があるし、完全に阻止するにはユリアーナの好きな本に出てくる屍の王を倒した勇者の一部が必要なんだよ。
どこにあるかも分からない、それでも彼らほどの英雄格の素材があれば確実に阻止することが出来ると思う。
それでも1度に一体までが限界なんだ。
阻止の延長として装置内の溶媒が効果的なのがわかったけどこれも、善良な生物の血液を500体分を凝縮させる必要があるのだよ。
僕は、これのために1000人殺したんだ。悪しき心も持たない善良な赤子を出産されてすぐにね。
同じ道を歩いて欲しくないから、君には伝えておくけれども、どんなことになってもこの装置は動かしてはならないからね。』
と言うふうに。
「父さん。俺はユリアーナのためならば、この装置を動かします。どんな業を背負うことになったとしても、
すみません。これまで育てていただきありがとうございました。」
と、俺は目をつぶりながら、なき父さんに謝罪の言葉を述べる。
そして、悲しみに暮れる表情がウソのように、俺はいつも通りにユリアーナと話す時と同じ表情で、ユリアーナに話しかける。
「ユリアーナ。君のためにもこの装置に入ってくれよな。
この中で僕が帰ってくるのを待っていてくれ。必ず僕は戻ってくる。
だから、寂しいだろうけど君はとてもいい子だからね。
一人でお留守番を頼んだよ。」
ユリアーナからの返事はなかったが、俺は装置の蓋を外し、ユリアーナを溶媒に浸かってもらう。そして、蓋をしてから装置を作動させた。
それと同時に俺から魔力が最大量を超えて吸い出される感覚を得ながら、意識を失っていた。