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遊び人は村の人気者

 女騎士がぷりぷり怒って、直秀達を領主の館に連れて行くための準備をしに外に出ると、代わりに村人達がたくさん雪崩れ込んできた。

「し、師匠!」

 首元をさする直秀のもとに飛び込んできたのはラッパー役の少年だった。

「あ、イムス君どうしました?」

 直秀は血相を変えたイムスに驚いていた。

「どうしたじゃないよ! い、行っちゃうのか?!」

「「「先生!」」」

 イムスに遅れて踊り子の少年少女たちも直秀の周りに集まった。

「イムス君、みんな・・・。すみません、領主様に呼ばれたので行きます」

 その言葉に彼らは悲しみに声を上げる。

「も、戻ってくるよな?」

 イムスが泣くのをこらえて無理矢理笑いながら聞く。

 直秀は困り顔を浮かべ、イムスの肩に手を置いた。

「わかりません。もし・・・」

 美人の奥さんができたら戻れない、と言いそうになって直秀は言葉を飲み込んだ。

 遠い目で、ここではないどこかを見た。

 直秀の胸には哀愁にも似た寂しさが去来する。

 人生には何があるかはわからない。つまらないものだと思い込んでいた自分に楽しさを教えてくれたのは、異世界の目新しさではない。彼らが自分のことを慕ってくれた嬉しさと一緒に過ごした時間が楽しさになった。

 たとえようもなく45日間の日々は自分にとって奇跡のようなものだった。

 だからこそ彼は約束できなかった。

 奇跡も不運もあるかもしれない。感情にまかせて戻ると約束して違えた場合、彼らはショックをうけるだろう。もしかしたら自分を憎むかもしれない。

 それならいっそのこと約束しない方がいい。それが素直な直秀の思いだった。

 さよならだけが人生さ、と直秀は心の中で呟き苦笑する。

「もしってなんだよ・・・! 俺のハートに熱いリリックを刻んでくれるって約束しただろ!」

 声を張り上げて唇をきゅっと噛むイムスの瞳に光る粒が零れた。

「イムス君・・・・・・。もう君にリリックを刻む必要はありません。これからは君がみんなの心に熱いリリックを刻んでください」

 直秀の言葉にハッとなったイムスが大粒の涙をこぼし、彼の腰に抱きつきく。

「し、師匠っっ!」

 涙を見せまいと直秀のズボンに顔を押し当てて、くぐもった声で泣いた。

「「「せ、先生!」」」

 他の子供達も一斉に涙を流して直秀の腰にしがみついた。

 直秀は彼ら一人ずつの肩に手を当てて別れを惜しむ。

「ナオ坊よ、行ってしまうのか」

 そこに声をかけたのは六十代の髭を生やした村長だった。彼は直秀の飲み友達で、村が活気に満ちあふれるのを喜んでいた一人だ。彼もまた別れを惜しむように顔をしかめている。その後ろには村の人たちが固唾をのんで、村長と直秀を見ていた。

「イラース村長・・・」

「いつか、坊が行ってしまうとは思っていた。だからこれはこの村の皆の感謝の印だ。受け取ってくれ」

 そう言って手に持っていた小さな革袋を差し出す。じゃらじゃらと少なくない量の硬貨が音を立てた。

 直秀はそれを見て首を横に振った。

「受け取れません」

「なぜだ? これは村の気持ちだ。受け取ってもらわんと皆の気持ちに収まりがつかん」

 直秀は微笑む。

「受け取れば戻ってこれなくなります。私は遊び人。お金を受け取ってしまえば遊び人じゃなくなりますよ。私は遊び人としてこの村に戻ってきたい」

「そうか・・・坊は遊び人だったな。すっかり忘れておったよ」

「ええ、穀潰しのろくでなし。それが私にぴったりです」

 そういってにこりと直秀は笑った。

「ハハハハ! 自分のことを遊び人だと胸を張る坊は大物だな!」

 村長と直秀が笑い合い、別れの重い雰囲気でいた村人達も朗らかに笑った。

 ひとしきり笑い合って、直秀がふっと息を吐く。

「じゃあ、皆さん。遊びに行ってきます」

「日暮れまでには戻るんだよ!」

 女将さんが気を利かせて、大きな声で冗談を飛ばす。

 別れを惜しむ声ではなく、再会を楽しむ声に見送られて直秀は宿屋から出た。



「なんか・・・私空気ですよね」

 直秀の肩に止まっていたピンクが悲しそうに聞いた。

「ピンクさんにもなにか踊り教えましょうか?」

「いえ、結構です」

 ピンクは付き合いきれないと思った!

いい話風ですが、主人公思っていることがちょっとおかしいかもしれません。

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