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チュートリア…ル?

 直秀が気がつくとそこは野原だった。

 一面の野原で、すこし丘のようになっていて心地よい春風が彼の頬を撫でた。

―――気持ちいい。こんな素敵な場所ならいくらでも寝られそうだ。

 直秀はのんびりフカフカの草に埋もれて息を大きく吸い込む。

「あー! 来た来た! 本当に来た!」

 直秀が寝ようとすると突然空から大きな声と羽音がして、目を開ける。

 少し太陽が眩しくて、何かの影が顔に差した。

「勇者様! 女神様よりご連絡がきて参りました! ピクシーのピンクです!」

 可愛らしい声の人物は、驚くほど小さかった。

 妖精である。

 透き通ったピンク色の羽を一生懸命羽ばたかせて、手に平サイズの可愛らしい女の子が葉っぱだけで局所を隠している。

 直秀は観察を始めた。

 精巧な人間の形。まるでショートカットの可愛い中学生を手の平サイズにしたようだった。

「き、聞いてますか? 通じてない?」

 手を大きく広げてピンクは直秀の顔を覗いている。

「あ、ごめん。見てた」

「え? はい」

「ここどこかな?」

「ここは、アメーラストの村近くです! 私は女神様から勇者様にこの世界のことを教えてあげてと頼まれまして」

「なるほど。それはご親切にどうも」

 直秀は正座をして頭を下げた。

「そ、そんな! 滅相もないですよ! あわわわ」

 ピンクは慌てだした。

 直秀はせっかく教えてもらうのにのんびり寝ているのも悪いと思って立ち上がり―――。

―――え?

 と驚愕の顔に見開かれた。

 まず視界がかなり高い。百六十㎝短足デブの自分が見ていた視界と全く違う。

 それに出っ張ったお腹がない。すこんと真っ平らで、何だか筋肉質に見える。着ていた服もズボンがずり落ちた。もちろんパンツもゆるゆるだったので全てだ。

「キャッ!?」

 ピンクが驚きの声を上げて手で目を隠す。

「これは失敬」

 直秀はずり落ちたズボンをまくし上げてベルトで固定する。びろびろにジーンズが余った。

「あ、いえ…これは結構なお点前で…」

 ピンクは焦って変なことを言っていた。

「いえいえ、粗品ですが」

 直秀は調子に乗っていた。

 それにしても体が羽毛のように軽いことに直秀は喜んでいた。ピョンピョンとその場でスクワットをする。つでに、腕立て伏せ、腹筋、ヒンズースクワット。

 様々な筋トレを試してみたが、あきらかに前の体よりも高性能だった。

「な、なにかの儀式ですか?」

 ピンクはおっかなびっくりと直秀の奇行を見ながら尋ねる。

「あ、お気になさらず」

 激しい動きにも汗ひとつかかなかった。

「じゃ…あの…説明を初めてもいいですか?」

「どうぞ」

「えっと―――」

 何かを言いかけてさぁとピンクが青くなる。

 そして、おずおずと聞いた。

「勇者様は異世界の人なのでどこまでご存じかわからないのですけども…何か聞きたいことってありますか?」

「はぁ。聞きたいこと…そうですねぇ~」

 ゲームで言えば、チュートリアル。

 戦闘の方法やこの世界の仕組み、そのほか聞くことは山のようにある。

 が、直秀は本能に従った。

「お腹が減りました。ご飯ってどうやって食べればいいんでしょうか?」

「ご飯の食べ方? えっと口に入れればいいかと…異世界だと違うのかな?」

「あ、いえ。私の国はお金を払って食べるのですが…この世界もお金が必要だったら持っていなくて」

「なるほど。女神様より勇者様の準備金を受け取っておりますので、『ストレージ』どうぞ」

 そうピンクが言うとポンと何か革袋のようなものが地面に落ちた。

 じゃらじゃらじゃらと、紅、金、銀、金剛石、よくわからない色とりどりの宝石が散らばった。

「おおお、すごですね。魔法ですか?」

 直秀はその空中から突如出た革袋に驚いていた。

「はい。女神様から授かった魔法です。私と勇者様だけが使えますよ」

「なるほど。どうやるんですか?」

「『ストレージ』と言えば、入っているアイテムが思い浮かぶのでそれを選ぶだけです」

「『ストレージ』」

 直秀がそう唱えるが、頭には何も浮かばない。

「あれ?」

「何も入っていないからですよ。その革袋を握って『ストレージ』で直せます」

 直秀は散らばった宝石を回収して革袋を握りしめた。

「『ストレージ』」

 ぽんと革袋が消える。

「すごいですね」

「ですよね。とりあえず、その宝石を課金してご飯を食べればいいかと思います。アメーラストの村へ案内しますね」

 そう言ってピンクがひょろひょろと飛びながら野原をゆっくりと下っていく。直秀は魔法が使えたことにホクホクした顔で付いていった。

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