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平民王子の覇道  作者: 宮本護風
第1章
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第8話 悲哀からの脱却

メガロシュの領主邸の扉が開く音に邸宅内の全員が反応した。扉の前にはレオポルドが立っていた。

「レオポルド様! 心配しましたぞ! 無事か否かで我ら一同、夜も安心して眠れませんでした! 勝手な行動は慎んでいただきたい!」

爺が説教混じりでレオポルドの行動を諌めた。しかしもう一人がいない。それには誰もが気づく。「して……、ギルバートはいづこにおられるのでしょうか?」

何気なく尋ねるダリオ。レオポルドの顔が硬直する。

「まああいつのことじゃ、レオポルド様と入れ違いになっただけじゃろう」

「……んだ」

レオポルドが初めて口を開く。だがその声は誰にも届かなかった。

「レオポルド様、今なんと?」

「ギルは死んだ、俺をかばってな……」

レオポルドの声は今度はみんなへ届いた。聴衆はざわめく。

「なんと!?」

ダリオと爺は状況を飲み込めていない。

「あいつの墓はゴリモティタに立てた。今度みんなで会いに行こう。疲れたから部屋に戻る」

レオポルドが一人で部屋に向かった。ギルバートが死んだことを受け入れられず、追うものは誰もいなかった。


どれくらいの時間が経っただろうか。決心はしたものの、やはりまだレオポルドはギルバートの死から立ち直れていない。メガロシュに着くまでに、いろいろ一人で考えることもあったのだろう。レオポルドは部屋にこもったままだ。もう二食は食べていない。静寂の中で思索にふけっていたレオポルドは不意にドアのノック音に気づく。

「レオ……? 私、エミリアよ」

声の主はエミリアだった。レオポルドは話し続ける彼女に耳を傾ける。

「お父様から聞いたわ。ギルバートが死んだって。みんな悲しんでたけど、入れてくれるかしら?」みんなもようやく事態を受け入れ出したようだ。レオポルドはドアを開ける。そこにはエミリアの姿があった。レオポルドは彼女を中に招き入れた。

「レオがお昼ご飯も、夜ご飯も食べてないって聞いて心配になってきたの。こんな事初めてじゃない?」

「そうだな」

エミリアの問いにレオポルドは力なく答える。

「私ね、思ったの。一番辛いのはレオだって。ギルバートはレオをかばって死んだんだよね? だからレオは辛いの。レオは責任感が強いから。自分のせいだって思ってるよね?」

「そうだ」

いつもツンツンしているエミリアの優しさに触れて、レオポルドの声は悲しいという感情を初めて表現できた。エミリアは声からレオポルドが泣いている事を読み取った。

「でも思ったんだ。その責任感があるから、ギルバートのためにも、レオポルドは前に進んでくれるって。これから嬉しいことも辛いこともきっと山ほどあるわ。嬉しい時は一緒に喜んで、辛い時は一緒に悲しむ。私約束する」

「ありがとう、エミリア」

まだいたじゃないか、こんなにも俺のことを思ってくれる人が。そうだ、ギルバートのためにも、そして何より、今こうして俺を支えてくれる人のためにも俺は前に進まなければ。そう再び決心したレオポルドは、今度こそ立ち直れた気がして、生まれ変わるかのように大泣きした。

「辛い時は泣けばいいの、一人で抱え込まないで。私は何があってもレオの味方だからね」

エミリアの目にも涙が浮かんでいた。



レオポルドは翌日からゴリモティタ攻略に向け、策を練りだした。理想を叶えるため、ギルバートのため、メガロシュの領民のため、そして何より、エミリアやフェリス、ダリオや爺のためにも、絶対に成功させようと意気込んでいた。

「調査の結果はどうだったのですか?」

作戦会議には、遠征軍将軍へと昇格したダリオが参加していた。

「ゴリモティタは領主によって、かなりの圧政が敷かれている。逆らうものは殺し、民は自分のためにのみ存在していると考えている。そんな中で、俺たちが正義のため、挙兵したとなれば、それは大義となるだろう」

「なるほど、まずは大義を掲げる、ということですな」

大義のため立ち上がる、というのは意外と重要なのだ。正当性のない侵略は、成功したとしても、後にしわ寄せが押し寄せてくるからだ。

「それから、ゴリモティタの兵士は、あまり訓練されている様子が見られなかった。実際に戦ってみた結果だ。それから、兵士の民衆からの略奪なども起きていて、統制もあまり厳しくなされていないようだった」

「なるほど、軍としてのまとまりもなかったのですな」

理解の早いダリオは、レオポルドの言葉を要約して、理解できているようだ。

「して、レオポルド様はどのような作戦をお考えで?」

「それはだな」

作戦を練ろうとしたその時、ドアが勢いよく開いた。フェリスが駆け込んでくる。

「レオー! 心配したんだよー!」

フェリスはレオポルドに飛びつく。

「いてぇ! なんだよ、離せよ、くっつくな!」

「レオひどいよ! 私がどれだけ心配したと思ってるのよ! レオが一人でゴリモティタに行ったって聞いて、心配で夜も眠れなかったんだから!」

「昼は寝たのか?」

「うん! ぐっすり! ってそうじゃない!」

レオポルドにも冗談を言える元気が戻っている。それを見たダリオは安心した。

「そんなことより、今作戦会議中だ。後で相手してやるから、今は出ていけ」

「えー? でもしばらくゴリモティタに行ってたから、領土視察もしてないでしょう? 一緒に行こうと思ってきたんだけど」

「それもそうだな……」

レオポルドは悩む。

「行って来られてはどうですか? 会議も煮詰まってきたことですし、気分転換も大切です」

ダリオが円熟のある提案をする。

「そうか、ありがとう。行かせてもらうとするよ」

「わーい! 久々のレオとのお出かけだぁ!」

二人が行こうとしたその時、もう一人の声が聞こえてきた。

「レオ! 暇だから来てあげたわよ!」

冗談だろ、レオポルドは心の中でそう思った。エミリアだ。エミリアはくっついている二人を見て慌てふためく。

「ちょちょちょ! あんたたちくっつきすぎよ!」

二人を離そうとするが、フェリスが離れない。

「何よエミリア!」

「あんたこそ!」

二人が火花を散らす。そこにダリオが割り入ってくる。

「よすのだエミリア、これからレオポルド様とフェリス嬢は領土視察に参られるのだ。邪魔をするでない」

ダリオが娘を諌める。

「そうよエミリア、私たちには大事な用事があるのよ?」

フェリスが勝ち誇ったように言う。

「ぬぬぬ……」

言葉に詰まるエミリア。

「いいわ! 私も行ってあげる! 行きたいんじゃないわ! 暇なのよ! 感謝しなさいよ!」

「ああ、来ていいからそれ以上騒がしくしないでくれ……」

呆れるレオポルド。

「フェリスがくっついてるだけってのは不公平だわ! 私もくっついてあげる!」

「ちょっとフェリス! 離れなさいよ!」

「嫌ー!」

再び始まる言い争い。

「勘弁してくれ……」

レオポルドはうんざりしつつも、ありふれた日常の幸せを感じていた。


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