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平民王子の覇道  作者: 宮本護風
第1章
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第7話 救出作戦

数日後の夜中、レオポルドは領主邸の近くで潜入を試みていた。情報収拾が完了したので、ようやく救出が可能となった。

「邸宅の周りの警備は二人か……」

レオポルドがそう思った瞬間、レオポルドの手により、二人は首を強打され、気絶してしまった。「真面目に訓練しろよな」

吐き捨てるように言って、レオポルドは開放されている窓から内部へ侵入した。侵入して、内部の形状を探っていると、警備兵の声が聞こえてきた。即座に身を隠すレオポルド。二人の兵士の声に耳をすます。

「おい、前入ってきた女、ありゃ相当美人だな」

「ああ、2階の東の個室に閉じ込められている女か」

なるほど、そこにいるのか。レオポルドはその方向へと急ぐ。

たどり着くと、一人の兵士が扉の前に立っている。他の扉には誰もいないのを見るとあそこで間違い無いだろう。そう思ったレオポルドはすぐさま行動に移す。

「しばらく寝てろ」

警備兵はまた、即座に気絶させられた。

「剣を抜くまでもなかったな」

そう言いながら扉をゆっくりと開ける。中にはあの女がいた。女は怯えている。

「誰!?」

女は身構えた。

「怪しいものじゃ無い。君を助けに来たんだ。安心してくれ」

「本当!? よかった……」

女は一瞬落ち着いた表情を見せたが、すぐ顔はこわばった。

「アルは!? アルは無事なの!?」

女はレオポルドに顔を近づけて尋ねる。

「あの男の子なら無事だ。アルというのか」

「よかった……」

女の顔に再び安堵が戻る。

「自己紹介がまだだったな、俺はレオポルド。レオって呼んでくれ」

「私はリンダ、助けに来てくれてありがとう、レオ」

レオポルドの顔は少し赤らんだ。しかし、そのしばしの安心の時間も壊される。

「侵入者だ! 仲間が倒れているぞ!」

二人はことの重大さに気づく。

「逃げるぞ。ちょっと失礼」

レオポルドはリンダを抱きかかえる。

「ええええ!? ちょっとレオ、なにやってるの!?」

レオポルドは部屋を出て、窓から飛び降りる。

「いたぞ! 追えっ!」

先ほどとは一転、追われる身となった。


どのくらい逃げたのだろうか、二人にも分からないぐらい長くのあいだ、逃げている。

「リンダ、ここから先は一人で行けるか?」

レオポルドはリンダに声をかける。

「俺がここであいつらを食い止める」

「そんなのダメ! レオも生きてないと嫌! 父さんもいなくなったのに、またせっかく出会った人を失いたくないよ……」

リンダの表情が曇る。

「大丈夫だ。じゃあ、すぐ片付けるから、俺の後ろで待っててくれ」

リンダを下ろし、レオポルドは剣を抜く。

「久しぶりだ」

剣の感触を確かめるように言う。

「いたぞ! あそこだ!」

レオポルドは兵士と対峙する。

「一応聞くが、逃がすつもりはないのか?」

「ははっ! 寝言は寝て言え! 全員かかれぇ!」

兵士がレオポルドに飛びかかる。

「愚かな……」

そう吐き捨てて、レオポルドは目にも留まらぬ速さで剣を振る。

「ぐああああっ!」

兵士が次々と倒れていく。一方のレオポルドは無傷だ。

「うおおおっ!」

後ろから兵士が叫びながら飛びかかる。行ける。兵士はそう思った。しかし、体が動かない。腹を見ると、剣が兵士の体を貫いていた。レオポルドはこちらを向いていないのに。

「そんな……」

兵士は状況を飲み込めないまま死んでいった。

「これはかなわん! 逃げろ!」

兵士が先ほどの威勢の良さから打って変わって、ネズミのように逃げて行く。

「なんとかなったようだな」

「レオ、すごい強いんだね」

「当たり前だ、だからリンダを助けに来たんだよ」

軽い会話を交わす二人。しかし悪夢が訪れる。兵士の生き残りがいたのだ。最後の力を振り絞り、レオポルドに後ろから襲いかかる兵士。

「レオ危ない!」

レオポルドが振り向いた時にはすでに遅かった。

「終わったな……」

そう思ったレオポルドの前に、見覚えのある後ろ姿が現れ、レオポルドをかばった。その影に助けられたレオポルドはすぐさま剣を抜き、兵士を切った。


「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」

かばった男を気遣うレオポルド。顔を見ると、レオポルドの顔が凍りつく。

「う、嘘。嘘だろ? ギル? ギルバート!?」

なんという悲劇か。かばったのはレオポルドを追ってきたギルバートだった。

「今すぐ手当を! リンダ、近くに医者は?」

「わからないよ……、この辺詳しくない……」

「くっそぉ!」

レオポルドが吠える!

「レオポルドさま……」

ギルバートが力を振り絞り空気のような声を出す。

「私はレオポルド様を追って、数日前、ゴリモティタに入りました。しかしどこにいるのかも分からず、探し回っていたのです。すると今日、もう夜も更けてきたので、宿に戻ろうとすると、あなたを見つけたのです。すぐに追ってきました」

ギルバートが今までの経緯を説明する。

「どうして俺だとわかったんだ!? こんな全身真っ黒なのに!」

疑問に思うレオポルド。

「お戯れを……。私はあなたの従者ですぞ。走り方、振る舞い、それだけでわかります。そうでないと従者失格です」

「ギル……」

レオポルドはギルバートの忠誠を再確認した。

ギルバートが咳き込む。血を吐き出した。

「レオ、ポルド、さま……」

もう声がとぎれとぎれになっている。

「ギル、死ぬな! お前には俺に仕える義務がある! 死んだら許さんぞ!」

レオポルドはギルバートを失いたくない一心で願う。

「それは、無理のよ、うですな……。このギルバート、レオ、ポルドさまにお、仕えすること、ができ、誠、幸せでし、た……。何卒、レオポルドさ、まの理想を、実現して……」

ギルバートの言葉はそこで終わった。

「ギルバート……。お前に誓おう。俺は必ず、どんな手を使おうとも、俺の理想を叶えてみせる。見ててくれ……」

レオポルドは大切な家臣を失った。もっとも身近だった従者を。レオポルドは大声を上げて泣いた。それは静かなゴリモティタの夜に響き渡った。



リンダを客の家に送り届けた。

「リンダ姉ちゃん!」

「アル!」

兄弟の感動の再会だ。客は涙を流している。だがレオポルドはすぐにその場を去ろうとした。

「レオ、どこへ行くの?」

リンダが不安げに尋ねる。

「ギルバートを埋葬して、ここをその後、発つ」

「そんな! まだお礼もできてないのに!」

「そんなもんはいらん」

リンダは言葉に詰まる。レオポルドの言葉には力がなかった。

「レオポルドさんよ。俺、この二人を養おうと思う。あんたはどう思う?」

客がレオポルドに尋ねる。

「お前がそう思うのなら」

「そうか……、じゃあ引き取るよ。よろしくな、リンダにアル」

俺がギルバートを失った代わりにリンダとアルは新しい家族を手に入れたのか。そう思うとレオポルドは複雑な心境になった。そうならないためにもここをすぐ経とうとした。

「じゃあな」

「待って!」

リンダがレオポルドを止める。

「レオが大切な人を失ったのはわかる。私も父さんを失ったもの……。レオ、絶対に死なないでね。今のあなたを見てると、嫌な感じがするの」

「お気遣いありがとう。俺はそんなに弱い奴じゃないから大丈夫だよ」

レオポルドは感謝の言葉をかける。

「あとね、レオって実は、とっても偉い人なんでしょう? ギルバートさんとの会話を聞いて思ったわ。失礼なことしたよね、私。ごめんなさいね」

「構わないさ」

レオポルドはそのまま出発しようとする。

「またきっと会えるよね?」

「どうだろうな、じゃあな」

リンダの言葉をないがしろにしてレオポルドはギルバートの元へ向かった。

ギルバートの顔は綺麗だった。レオポルドは色々と思い出していた。出会い、楽しかったこと、時にはあった対立。そんなことが全てもうないと思うとレオポルドは心が折れそうになった。

「いっそ俺も死にたいよ」

そう思っているとリンダの言葉が頭によみがえった。

「レオ、絶対に死なないでね」

そんなことは思ってはいけない。前を向かないと。レオポルドはそう思った。さっきはリンダに悪いことをした。必ずもう一度会って謝ろう。

「必ず、必ず俺は理想を実現させる!」

埋葬する前にギルバートの顔をもう一度見て、再び誓った。




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