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平民王子の覇道  作者: 宮本護風
第5章
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第60話 すれ違い

レオポルドとエレオノーラはハインリヒの救出により、無事に危機を切り抜けられた。だがハインリヒの最後の敵将の倒し方にはレオポルドは驚いていた。

「まさか短剣を投げて敵将の後頭部に当てて殺すとはな。驚いたよ。俺に当たっていたらどうするつもりだったんだよ」

「当たるわけないさ。俺の短剣投擲は百発百中だ。絶対に外さないと思っていた」

ハインリヒは笑いながら答える。


ハインリヒはさらに続けた。

「それに、レオポルドなら当たると思ったら交わしていただろう?」

ハインリヒはレオポルドを完全に信じ切っているようだ。レオポルドはハインリヒの言葉からそのことに気づいた。レオポルドは信頼が一方的なものでないと知って、心から喜んだ。

「どうした? なんでそんなに嬉しそうなんだ?」

ハインリヒは喜びで微笑んでいるレオポルドを怪訝に思った。

「なんでもないさ」

レオポルドは照れ隠しのように笑っていた。


「あの、お二方、助けていただいてありがとうございました」

二人のやりとりの蚊帳の外とにいたエレオノーラが機を見計らって礼を言う。レオポルドはエレオノーラと二人で話をしたい気がしていた。これまでの自分の非を詫びたかったのだ。

「礼を言われるようなことはしていないさ。礼ならあんたを助けるためにこの反乱軍本拠地を陥れたレオポルドに言えよ」

ハインリヒのその言葉にエレオノーラは感化され、レオポルドの方を見つめる。

「占領できたのか!?」

レオポルドはハインリヒの言葉の端に今まで知らされていなかった反乱軍本拠地制圧を聞かされ驚いた。

「成功していなかったらここには来ていないさ。俺はお邪魔みたいだから、戦後処理をしてくるとするよ。落ち着いたら俺の手伝いをしてくれよな」

そう言い残してハインリヒは施設から出て行った。


ハインリヒはいつも、本当に助けが必要な時に助けてくれる。出陣の時も、レオポルド不在の際の軍隊の指揮も、レオポルドがエレオノーラと絶体絶命になった時も、エレオノーラと二人で話したい時も、いつも重要な局面で大仕事を果たしてくれる。レオポルドはそんなハインリヒに感謝していた。


ハインリヒがいなくなって、レオポルドとエレオノーラは二人っきりになった。

「レオポルドさん……」

エレオノーラは感謝の眼差しでレオポルドを見つめる。レオポルドは自分はそんな目で見られる資格がないと思った。エレオノーラは自分のせいで辛い思いをしたのだ。レオポルドは気まずさを感じていた。

「どうして私のことを見てくれないんですか?」

エレオノーラと目を合わせようとしないレオポルド。

「後ろめたいんだ」

レオポルドは重い口を開いた。

「どういうことです?」

エレオノーラはレオポルドの言葉の真意を汲み取ろうとする。

「あの時、俺はお前を守ることができなかった。そんな俺がエレオノーラに感謝されることなんて許されないんだ。まして俺はなんとかお前を今は助けることができたが、ハインリヒの助けがあってのことだ。俺一人で助けて、過去を挽回できたわけじゃない。だから俺をそんな目で見ないでくれ」

レオポルドは自らの思いをエレオノーラに伝えた。エレオノーラと目を合わせられない理由、レオポルドはそれが正当だと思っていた。しかし、エレオノーラは納得しなかった。エレオノーラはずっとレオポルドを見つめていた。


「だから俺を見ないでくれ!」

レオポルドはエレオノーラに見つめられることに耐えられなくなり、エレオノーラに大声をあげた。エレオノーラは驚いた様子を見せたが、その驚きも消え、彼女の表情からは何かの決意が感じ取られた。エレオノーラは黙ってレオポルドの元に歩みを進める。


エレオノーラはレオポルドの近くまで来た。レオポルドは今すぐ逃げ出したい気持ちだった。こんな状況には耐えられなかった。

「だから目を背けるんですか?」

エレオノーラはレオポルドに言葉をかけた。その言葉からは普段の彼女から感じられる温厚さは消えていた。レオポルドは黙っていた。

「そうやってレオポルドさんは過去から目を背けるために、今の私からも目を背けるんですね」

エレオノーラの言葉は無慈悲なものであった。

「違う! そんなことは言っていない!」

レオポルドはエレオノーラの言葉に反論する。

「言っていなくても、これまでのレオポルドさんの態度から、私にはそう感じ取れます」

エレオノーラの至極当然な言葉にレオポルドは黙り込む。


それからしばらくエレオノーラは何も言わなかった。その間レオポルドは思考を深めた。今、自分がエレオノーラを見ていないのは、過去から目を背けたいからなのかもしれない。過去の過ちを認めたくないのかもしれない。

「そんなことのために、俺は今のエレオノーラすらも、せっかく助け出せたエレオノーラの心すらも失ってしまうのか?」

レオポルドは今までの行為のバカバカさに気付かされた。そう思うとレオポルドの目線は自然と上を向いた。目線の先にはエレオノーラが近くにいた。


「ようやくわかってくれましたね!」

エレオノーラが嬉しそうに目を輝かせて喜ぶ。

「ああ、俺は大切なことに気づいていなかったようだ。すまなかった、それと気づかせてくれてありがとう」

レオポルドはエレオノーラに頭を下げる。エレオノーラは頭を下げられたことに動揺する。

「お礼言われることなんてしていませんよ! ただレオポルドさんが落ち込んでいたみたいだったので、励ましていただいただけです!」

レオポルド感謝を述べ、エレオノーラがそれを畏れ多く思う。この図式は本来ならば逆のはずなのに、全く奇妙なものである。


「でもよかったです」

エレオノーラが口を開く。

「レオポルドさん、とても辛そうだった。きっとそれは私を守ることができなかったから」

レオポルドは黙ってエレオノーラの言葉を受け止めていた。

「でもレオポルドさん、大切なのは過去ではありません。今です」

エレオノーラの言葉には重みがあった。レオポルドは何も言わなかった。

「過去はどんなに悪いものかもしれなくても、今の有り様で、如何様にも変わります。悪いものが良くなったり、良いものが悪くなったり。レオポルドさんはそんな過去にとらわれるような弱い人ではありません。というか、レオポルドさんはそうなるべきではありません。あなたのような天下を統べようとしている人は悪い過去すらも生かすべきです。本当にレオポルドさんが辛い時、支えてくれる人がいるじゃないですか。私もその一人ですよ」

エレオノーラはレオポルドのことを本当に親身に思っているようだ。レオポルドは素直に嬉しかった。

「エレオノーラ、本当にありがとう。これで俺はまた前に進める」

レオポルドはエレオノーラの手をぎゅっと握って心からの礼を言った。そんなレオポルドの言葉に、エレオノーラは顔を赤らめる。

「そんなに見られると恥ずかしいです……」

レオポルドはそんなエレオノーラを見て、心が和んだ。

「じゃあハインリヒのところへ行こうか」

そう言ってレオポルドとエレオノーラはハインリヒの元へと向かった。

 

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