第4話 メガロシュへの帰路の中で
レオポルドたちは、領国へと戻る帰路についている。アインフォーラ王国は小国と言っても、レオポルドのメガロシュへは、王都アインフォールからでは、馬車で三日程度かかる。バスケス家も、レオポルドの相談役なのでともにメガロシュへと帰還する。メガロシュへと近づくにつれ、自然は美しくなる。メガロシュでは四季がはっきりしているが、夏は暑すぎず、冬は寒すぎず、過ごしやすいところだ。そうあるがゆえに、農業で領国として成り立っている。
「ねぇ、レオ、見て見て! あれ、麦畑よね!? 遠くから見るととっても綺麗! あっちは綺麗なお花畑!」
フェリスもメガロシュへと近づくにつれ、はしゃぐようになる。レオポルドはフェリスと馬車に二人きりで乗っている。パーティーでレオポルドとフェリスが仲睦まじく過ごしているのを遠目で見ていたエステバンの計らいで二人で馬車に乗ることになったのだ。レオポルドは望みもしていないのにだ。正直、レオポルドははしゃぐフェリスにうんざりしている。
「レオ、聞いてる?」
「ああ、聞いてるよ」
「じゃあ私がさっきなんて言ったか教えて」
「あれだろ、ええと……」
レオポルドは言葉に詰まる。もちろん全く聞いていなかったからだ。
「やっぱり! 聞いていないんじゃないの!」
フェリスはレオポルドに呆れてそういう。フェリスが明るいのには理由がある。レオポルドのゴリモティタ遠征は次の定例報告会までに行う、ということが後から通達され、今すぐにというわけではないと正式に決まったからだ。
「でも本当、心配しちゃって損したわ。まだ行かなくていいんだなんて」
「仕方ないだろう、正式に決定したのはパーティーの後で、俺も知らなかったんだから」
レオポルドは、恥ずかしがりながらフェリスに言う。
「えへへ、そうよね。レオったら顔を赤くしちゃって」
フェリスは笑いながらレオポルドをからかう。
「でも嬉しかったよ。まだあと少しはレオと過ごせるってことだもの。遠征までは毎日お話しできるわよね?」
「時間があったらな。俺だって暇じゃないんだ」
「むうぅ、やっぱり早く遠征に行っちゃえばいいんだ」
意地悪をするレオポルドにフェリスは可愛らしいふくれっ面をしながら返事をした。
突如、馬車が大きく揺れた。レオポルドはとっさに身構える。
「何事だ!」
レオポルドは衝撃で倒れてきたフェリスを守るように抱えながら、馬車を操縦するギルバートに尋ねた。
「襲撃です!」
レオポルドは馬車を降りた。
「俺相手に勝負を挑むとはいい度胸だな」
レオポルドは剣を抜かずに4人の山賊たちにそう言った。
「レオポルドさんよぉ、あんたに恨みはねぇ。悪いが死んでもらうぜっ!」
リーダー格の男の合図で襲撃者たちが一斉にレオポルドを襲う。
「面倒なことだ」
だが、彼らはレオポルドの相手ではない。レオポルドは襲ってくる男たちを相手に短剣を刺そうとした男の腕を掴み、投げとばした。すかさず二番目の男が剣を振り下ろしたのをかわし、懐に飛び込み、みぞおちを強烈に突く。二人の男は後ろへ下がる。
「お、覚えてやがれっ!」
「待て!」
捨て台詞を吐いて逃げようとする山賊を引き止める。
「仲間も連れて行くんだ。君たちが仲間を見捨てるなら、俺は君らを許せなくなる。仲間は大切にするんだ」
「くっ……」
二人の山賊は仲間に肩を貸して、逃げていった。
「レオ、強いんだねぇ! びっくりしちゃった!」
フェリスがレオに近寄って、声をかける。
「申し訳ありません、レオポルド様。私ではどうにもできませんでした』
「いいんだ、ギル。こうしてみんな無事ならそれに越したことはないじゃないか」
謝罪するギルバートをレオポルドは咎めない。
「山賊がメガロシュ付近に現れるなんて、最近は物騒になったもんだな」
「ええ、こんなことは初めてですね」
「何か悪いことが起こらなければいいんだが」
レオポルドたちは安否確認を行って再び出発した。