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平民王子の覇道  作者: 宮本護風
第1章
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第2話 定例報告会

レオポルドとギルバートは定例報告会のため、登城した。いつ見ても壮大な建造物だ。


「では、ここでお待ちしています」

ギルバートとは城の前で別れた。従者は城には入れないのだ。昔は入れたのだが、従者によるクーデタが起こって以来、入れるのは王族、貴族、重臣のみに限られた。

レオポルドが城に入ると、形式上、畏敬の念を表された。全員が膝をつき、胸に手を当て、頭を垂れている。

「この中にも俺を馬鹿にしている奴はいるんだろうな」

そう思いながら、定例報告会の開かれる部屋へと向かった。

「お早いお出ましだな」

城の移動中に、唐突に後ろから、皮肉たっぷりの声をかけられた。レオポルドが振り向くと、長兄、エルンスト=セラ=アインフォーラが立っていた。自他ともに認める、レオポルドに匹敵するほどの才を持つ、皇太子だ。次期国王との目論見が高い。レオポルドは格上のものへの挨拶をした。

「これは兄上、ご機嫌いかがでしょうか」

「お前にそんなことを気にかけている暇があるのか?」

またか、とレオポルドは思った。やはりエルンストは変わらない。いつもレオポルドをその出自から見下し、定例報告会でも批判をする筆頭だ。

「楽しみだな、今回の定例報告会が。そろそろ私は行かせてもらうよ。なんだか庶民臭いのでね、ここは」

そう言ってエルンストはその場を後にした。

「必ず見返してやるぞ……、エルンストめ!」

レオポルドは心に誓った。




レオポルドが部屋に入ると、すでに兄弟たちが揃っていた。

「やあレオポルド、久しいね」

次男のマルクス=カール=アインフォーラだ。自然を愛し、それを詩に読むこと、そして女を愛している。彼は兄弟の中で、数少ないレオポルドの出自を気にしない人間だ。まあもっとも詩のことと女のことで頭がいっぱいで、どうでもいいだけなのかもしれないが。

「遅いぞ」

厳しい言葉をかけたのは三男の、トラヴィス=アダム=アインフォーラ。姉がおり、トラヴィスを気にかけていてくれたのだが、レオポルドが王族となって以来、兄はレオポルドの母代わりとなってしまい、彼はかまってもらえなくなった。そのことを根に持ってレオポルドを嫌い、何かと否定したがる、器の小さいやつだ。

「遅くなり申し訳ありません」

エルンストは黙って座っている。何かを考えているようにも見える。レオポルドは席に着いた。


後ろの扉が開き、クラウスが入ってきた。

「おはようございます、父上」

兄弟四人は全員立ってクラウスに挨拶をする。

「うむ、今日はよく集まってくれた。では始めるとしよう」

王も揃ったところで定例報告会は王の言葉から始まる。

「わが国は、以前は栄華を誇った大国であった。しかしそれはかつての話。先先代の王の治世で、多くの戦に負けた。その結果、民は疲弊し、領土も小さくなり、国の存亡が危ぶまれた。我が父の働きにより、なんとか持ち直し、今こうして続いておるわけだが、まだまだ安心はできん。今、この大陸は、強勢を誇るスコターディア帝国、スコターディア帝国に対抗する小国連合のイエロシュ同盟、中立国のアルゴデラ公国、行き過ぎなまでの専制君主制を敷く明華大皇国が割拠しておる。そんな中、お前たちはどのように統治し、この国を良くしようとしているのかを聞くのがこの報告会じゃ。皆、これを踏まえて、統治し、報告をしてほしい。では……エルンストから参れ」

「はい」

エルンストが立つ。

「我が領土、アハネスでは、漸進的な領土拡大と、民の生活の安定を両立して統治をしております。その結果、広がった土地では民が移住しそこで農業を行い、農業生産は微増します。小さな戦いで少しの土地を得て、少しずつ生産量を増やしていく。これを繰り返すことで、着実な安定をもたらすことが可能です。これを今後も続けようと考えております」

エルンストらしい、堅実なやり方だ。

「うむ、よくできているようだな。では次、カール」

マルクスが立つ。

「オーモルフォスでは芸術の振興を主眼に置いております。芸術が栄えるのは国が豊かな証拠です。日々、絵画の技法の研究を行っております。この絵がその結果生み出された絵でございます。また私は戦が下手でございますので戦はエルンスト兄上とトラヴィスに任せたいと思っております」

「確かに素晴らしい絵じゃ。今後もその方針で励め、ではトラヴィス」

トラヴィスが口を開く。

「私のシリオディアでは失われた領土の奪還を目指して、日夜、戦争を行っております。戦争に勝つための兵の育成、新たな武器の作成などに力を入れっております。また一つ奪還するなど成果は上々です」

「奪還ご苦労じゃった。では最後だな。レオポルドよ」

「はっ」

全員からの視線を受け言葉を発する。

「メガロシュでは、まず民衆の生活の安定を第一に考えています。そのために二毛作の実施、作物の品種改良に力を入れております。またこの時世では学問も必要です。子供達に無償での読み書きを教える教育機関を設置し、民衆の識字率の向上を目指しています。さらには民衆たちとの意見交換会を積極的に開き、相互理解に努めております。メガロシュは他国からの侵略にさらされますが、うまく撃退しております。以上です」

レオポルドが報告を終えると、クラウスよりも先にエルンストが口を開いた。

「ありえん!」

場の空気が一変する。

「お前は何故失われた土地を取り戻そうとせんのだ!? アインフォーラの栄華には不可欠であろう! なのにお前はいつも民衆民衆と民のことを第一に考える! 何故お前にはわからんのだ!」

思った通り批判が始まった。聞き流すしかないとレオポルドは思った。

「父上、レオポルドに豊穣の地、スコターディア帝国領ゴリモティタ攻略をお命じになられてはいかがでしょうか?」

「な!?」

レオポルドが驚きを露わにする。レオポルドは戦争など嫌いだ。父を失った彼にとって大切な誰かが死ぬのはもう沢山だった。

「エルンスト兄上! それはできませぬ!」

「何故だ?」

「それは……」

レオポルドは言葉に詰まる。身勝手な理由で拒否できるはずがない。

「理由を言ってみろ!」

「やめんか!」

クラウスが制する。

「エルンストよ、命じるのはわしじゃ。黙っておれ」

「出過ぎた真似をお許しください」

エルンストが控える。

「レオポルドよ、そなたの統治、わしは素晴らしいと考える。しかし領土拡大に手をつけていないのはそなただけであるのもまた事実。よってゴリモティタ攻略を命じる。そなたには軽い任務だと思うが」

エルンストの狙いはこれだった。否が応でも領土拡大をさせる。失敗を誘いたいのだ。

「謹んでお受けします」

戦の強制と失敗を誘うエルンストを嫌悪しながらレオポルドはそう答えた。

「楽しみだな、今回の定例報告会が」

さっきのエルンストの言葉の意味を今、レオポルドは理解した。


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