第16話 リンダ
女性の声にレオポルドは振り向く。レオポルドの顔を見たリンダはすぐに気づく。ああ、私を助けてくれた恩人にまた会えた。本当に嬉しいです。そんな顔をしている。
「やあ、久しぶりだね、リンダ」
「レオ……!」
リンダの顔が明るくなる。涙を流しているが、それはうれし涙だろう。
「会いたかった! お礼も言えてないし、せっかく出会えたのに、すぐ別れることになって悲しかったの。でもこうしてまた会えた。これも死んだ父さんのおかげかもしれないわ。もちろん、私たちを引き取ってくれたアルベルトさんのおかげでもあるんだけどね」
アルベルトに、死んだ父のことを話に出したのは失礼だったかと思ってリンダは正しておく。
「何、リンダ、気を使わなくてもいい。死んだ親父さんがレオポルドさまに会わせてくれたに違いないさ」
「レオポルドさま? やっぱり!」
「アルベルト、その呼び方はダメだ!」
レオポルドがアルベルトに注意をするが、既に遅かった。リンダはレオポルドがやはり高貴なものであったと確信した。
「レオってやっぱり偉い人だったんだ! あっ、こんな言葉遣いいけないわね」
「いいんだ、前みたいに接してくれ」
リンダは敬語を使おうとするが、それはレオポルドにとっては全く嬉しくないことなのだ。
「わかったわ、これからもレオって呼ぶね」
「そうしてくれ」
レオポルドに希望にリンダは応じる。リンダもアルベルト同様に最大の疑問を尋ねる。
「ところでレオ、どうしてここに来る理由があったの? ここは本当にいいところになったよ。なんせ新しい領主様が私たちのために政治をしてくださるんだから。レオも今来てよかったね!」
素朴な疑問と現状の報告だ。だがリンダはこの質問に驚かされることになる。なぜならレオポルドが新しい領主様なのだから。
「昨日戦争があったのは知っているだろ? その結果俺がここゴリモティタの新領主を務めさせてもらうことになったんだ」
「嘘!? レオが私たちの主さま!?」
リンダは驚きを隠せない。
「ああ。俺の本当の名前はレオポルド=リオス=アインフォーラ、アインフォーラ王国の第四王子だ。改めてよろしく頼む」
「私こそ、よろしくね」
戸惑いながらではあるが、リンダはレオポルドの素性を知った後もこれまで通り接していこうと思った。
「ところでギルバートさんのお墓にはもう行った?」
リンダの率直な質問にレオポルドの胸が射抜かれる。リンダはレオポルドを悲しませようとしたつもりなど微塵もなかったのだ。レオポルドはしばらくの激務の中でギルバートのことを考える余裕がなかった。リンダの質問はレオポルドを現実へと引き戻す。
「まだだ、よかったら一緒に行かないか?」
「うん、私もお礼言いたいしね」
レオポルドとリンダはアルベルトとアルに見送られて、ギルバートの墓へと向かった。
「着いたね……」
「そうだな」
リンダもここに来ると何とレオポルドに言えばいいのかわからない。リンダの気遣いが、さらに事態を気まずくした。
「初めてだよね、あれからここに来るのは」
リンダがさらに会話を続けようとする。
「ああ、初めてだ。俺はここを数日前に攻略して、それからはいつでもここに来ることができたのに、来れなかった。いや、違う。来るのを忘れてたんだ。ギルバートのことを、日々の中で完全に忘れていたんだ。ギルバートは命をかけて俺を守ってくれたのに、忙しいなんて理由で、あいつのことを忘れてたんだ。こんな王族にはならないと誓ったのに。情けない限りだよ……」
本音を告げるレオポルド。リンダはそれを黙って聞いている。
「俺にとってはその方が幸せだったのかもしれない。だって、ギルバートのことを考えて、苦しまずに済んだのだからな。でも、それじゃダメなんだ。俺は、たくさんの犠牲の上にこうして生きているんだ。それを忘れてはいけない」
さらにレオポルドは続けた。リンダは黙って聞いていたが、レオポルドを慰めようとする。
「確かに忘れるのはいけないと思う。でも、そんなに深刻に考える必要もないんじゃないかな?」
リンダの予想外の返答にレオポルドは驚く。深刻に考えなくてもいいわけがない。理由を問う。
「なぜそう思う?」
「こんなこと言ったら、レオ怒るかもしれないけど、ギルバートさんの死に顔、とっても嬉しそうだったよ。やっと満足いく仕事ができたって言ってるみたいだった。レオの犠牲になった人たちは、きっと願ってそうしたんだ。だから彼らのことを必要以上に考えるのは失礼だと思う。レオは彼らに託されたことを一生懸命やることで、彼らに恩返しできるんじゃないかな。彼らはレオが頑張ってるのをたまにこうして見るだけでいいんだよ、きっと」
リンダの的を射た返答にレオポルドは、新たな視点を持った。
「あいつらは、そう思っていたのか。ギルバートも望んでそうなったのかな」
「望んでいたかはわからないけど、満足だったと思うよ。レオは今を生きているんだよ。だからレオが頑張ることが大切! ねっ!?」
リンダの明るさにさっきまで悩んでいた自分がバカらしくなった。
「そうだな。俺はこのゴリモティタをもっと良くするよ、ギルバート。だから見ててくれ」
レオポルドはギルバートの墓前でそう呟いた。
「それにしても、レオはどうして私を助けてくれたの?」
レオポルドはリンダに質問攻めを受け続けている。それでもレオポルドは真面目に答える。
「俺を見ているみたいだったんだ」
「どういうこと?」
「俺も幼いころ、父を山賊に殺された。それ以来、俺は俺みたいな悲しい思いをする人をなくすために努力してきた。だから、リンダを助けたいと思った。それだけだ」
リンダはレオポルドの答えに疑問を抱く。
「レオのお父さんは王様でしょう? どうして山賊に殺されるのよ?」
「俺は平民の出身だ。そこにたまたま今の王が居合わせてな。俺の親父が死んだのは現王のせいでもあるんだ。責任を感じた王は俺を引き取り、俺は王族になった。それ以来、俺は民のために尽くすことに努めてきたんだ」
「そうなんだ……、なんだか嬉しいな」
「どうしてだよ?」
レオポルドはリンダの答えに怪訝そうな表情をする。
「だってレオの事たくさん知れたし、私となんか似てるなって思ってさ」
「確かにそう言われればそうだな」
レオポルドはリンダの答えに納得する。
「今日は良かった。レオにこうしてまた会えたし、レオの事たくさん知れたし! そろそろ帰ろう!」
「ああ、そうしようか」
二人はアルベルトの元への帰路に着いた。