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平民王子の覇道  作者: 宮本護風
第1章
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第14話 戦後処理

レオポルドは領主邸へと続く街道を馬で歩いていた。真夜中に突然起きた戦争に民衆たちは驚くとともに、怯えてもいた。

「早く不安をとかねばな」

そう思ってレオポルドは民衆に声の届く領主邸の高台へと急いだ。

「わが軍の被害はいかほどだ?」

レオポルドはダリオに被害状況を尋ねる。

「伏兵は500、本隊は700といったところでしょうか」

「そうか、ありがとう」

レオポルドはその多さに悲しみを覚えた。


話しているうちに領主邸へとたどり着いた。中へ入ると、突然の襲撃に怯える使用人達の姿があった。

「ひっ、何卒命だけは!」

命乞いをされたレオポルドは心外だ、と思う。

「そんなつもりはない。俺はここをよりよくするために来たんだ」

そう言って使用人達の警戒を解く。

「高台はどこかな?」

「はい、こちらです……」

使用人はまだ警戒を解けないまま、レオポルドを高台へと案内した。



高台へとたどり着いたレオポルド。レオポルドお得意の演説の始まりだ。レオポルドは大きい声を出すためにすうっと息を吸った。

「みんな! 聞いてくれ!」

レオポルドの大きな声に目に見える5分の1ほどの民衆は反応して家から姿を現わす。

「ここはスコターディア帝国領であった頃、全領主により、圧政を敷かれていた! そこでは本来、諸君を守るための兵士の規律違反が横行し、民衆を苦しめた! さらには領主は独善的で、領民は自分のための『モノ』だと考えて、有無を言わさず、諸君から搾取した! 数多くの凄惨な事件も領主のせいで起こった! 辛かっただろう、悲しかっただろう、憎かっただろう! だがそんな生活も今日で終わりだ! 今日からは、この私、レオポルド=リオス=アインフォーラがこの国を統治し、さらによくすると誓おう! 諸君らの、諸君らのためのゴリモティタを私とともに作ってはくれないだろうか?」

演説が終わる頃には全ての家から民衆が姿を現していた。演説が終わると大歓声が沸き起こった。「新たな君主、レオポルドさま! 万歳!」

「救世主だ!」

口々に叫ぶ民衆達。レオポルドはこれを聞いて、今回の遠征は成功であることを確信した。だがレオポルドはこれが悲劇のきっかけになることをまだ知らなかった。その予兆は民衆の大歓声によって、消されてしまった。レオポルドはその歓声に笑顔で答えるだけだった。



「今日はこの邸宅で休憩しよう。ダリオとエステバンは中で、兵士たちは外で休ませよう」

「はい」

レオポルドの言葉に二人が承諾する。

「ゴリモティタ再建は明日からだ。今日はしっかり休めよ。ああ、あとダリオは明日の朝にメガロシュに向けて出発しろ。メガロシュが手薄になっていて心配だからな。エステバンは俺と一緒にここでの激務が始まるから覚悟しておけ」

「了解いたしました。しかし全軍を引き上げるわけにはいきませんので2000を引き連れて帰還しようと思います」

「そうだな、そうしよう」

レオポルドとダリオはそう話して納得した。

「明日からの激務、困難を極めそうですが、今から楽しみですな!」

エステバンは変わった奴だ。

「よし、じゃあ今日はこれで終わりだ。お疲れ様」

寝屋に行こうとするレオポルドにダリオは声をかける。

「兵士たちは勝利の宴を開いております。そこに顔をお出しにならないままお休みになられますか? 兵士の士気にも関わりますゆえ、少しだけでも……」

「そうだな……。よし、少しだけ顔を出そうか」

「では私も」

「私は寝させてもらうとします。私よりもレオポルドさまが行かれる方が兵士たちも喜びましょうから」

レオポルドはダリオとともに宴へと向かった。



「総大将のお出ましだぞ!」

「レオポルドさま! ダリオさま!」

二人の登場に酔っている兵士たちはさらに大騒ぎする。

「今日は少しだけ楽しむとするか」

そう呟いてレオポルドは兵士たちと酒を飲んだ。

しばらくすると酔いも回ってきて、いい気持ちになる。

「そろそろ戻るか」

そう思った時、肩を掴まれ、声をかけられた。

「レオポルドさま、もっと飲んでくださいよぉ!」

完全に出来上がったダリオが他の兵士たちとともにレオポルドに酒を進める。

「俺はもうやめておくよ、お前らもほどほどにするようにな」

そう言い残して寝屋に戻ろうとすると、宴に参加していない兵士たちに気づいた。

「宴には参加しないのか?」

気を遣ってレオポルドは彼らに声をかける。

「宴なんていいですよ。そんな気分じゃないですから」

「どうしたんだ」

しばらく沈黙が続く。その沈黙を破った兵士の言葉は悲しいものだった。

「仲間が死んだんですよ。大切な仲間がね……。一緒に生きて帰ろうと約束したのに、あいつはメガロシュに可愛い息子と嫁さんを残して逝っちまった」

心を撃ち抜くかのような言葉によりレオポルドの酔いは一気に冷めた。

「そうだったのか……。すまない、余計なことを聞いたな」

「いいんですよ。でもレオポルドさま、このゴリモティタを必ず、メガロシュのようないいところにしてください。あいつはいつも言っていました。『俺はレオポルドさまのために戦うんだ。メガロシュをいい国にしてくれたレオポルドさまに恩返しがしたい』ってね。そんなあいつをせめて天国だけでは喜ばせてやりたいですよ」

「わかった。尽力しよう」

兵士の心からの願いに、レオポルドは固く約束した。



「ふぅ……」

ようやくひと段落つき、寝屋に戻って気を抜くことができたレオポルドは、兵士の言葉によって、先ほどのダリオの被害報告を思い出していた。

「合わせて1200人か……」

そう呟くレオポルド。そんな多くの命がレオポルドのために果てて行ったのだ。レオポルドは王族の責任を感じずにはいられなかった。自分の居住地の平和を願って、家族を残していったもの、恋人を残していったもの、親友を残していったもの。そんな死んでいった兵士たちにレオポルドは思いをはせる。エルンストや第三王子、トラヴィスはどう思っているのだろうか。それが気になってレオポルドは仕方がなかった。しかし、今自分にできることは、このゴリモティタを民衆が笑って暮らせるところにすることで、それが彼らへの報いになるということに気づいたレオポルドは、明日からの政治のためにもう今日は休むことにした。

「俺はメガロシュのために本当に頑張れたのだろうか?」

そう思いながら、レオポルドの意識は遠のいていった。


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