第12話 出撃
「レオポルドさま!」
「勝利を祈っております!」
「御武運を!」
民衆が口々に叫ぶ。レオポルドはそれに送り出される。
レオポルドは遠くにフェリスとエミリアが立っているのを見た。彼らの間に言葉はなかった。彼らは目を合わせただけだったが、彼らにはそれで十分だった。
「いざゴリモティタへ! 進軍!」
レオポルドの号令で、軍は規則正しく動く。厳しい訓練の賜物だ。軍はゴリモティタへと向かって歩を進めた。
ゴリモティタへの進軍中、レオポルドはそばに控えているダリオ、エステバンと話をしていた。エステバンとレオポルドは久しぶりに会った。エステバンは、相談役に過ぎないので、レオポルドに表立って協力する必要がないので、普通ならば参戦しなくてもいいのだが、参加を申し出てくれた。
「昨日はお互い、娘と話ができたか?」
「私はよく話せましたぞ」
エステバンが答える。
「フェリスはやはり優しい子です。あのぐらいの歳になると、父親離れをするのかと思うておりましたが、昨日に限らず、毎日気さくに話しかけてくれます。私には過ぎたる娘です」
「それはいいことだ。フェリスは幼い頃に母君をなくしているから、父を大事にしようと思っているのかもしれないな」
エステバンは充実した日々を過ごしているようだ。
「ダリオはどうだった?」
「その逆でございますよ。戦争頑張ってくれ、別に帰ってこなくてもいいと、ひどい言われようです……」
悲しそうな表情でダリオは言う。
「気にしなくていいさ、エミリアの帰ってくるはな、絶対に帰ってきてなんだよ」
レオポルドはエミリアをよく理解している。
「なぜそう思われるのです?」
「なんとなくだ。説明は難しんだよ」
これから戦争に行くとは思えないような他愛ない会話がなされている。太陽は燦々と照り輝いている。
「うまくいきそうだ」
レオポルドは一人そう思って進軍していた。
ゴリモティタは森に囲まれている都市だ。入場する道は一本しかない。こちらから、ゴリモティタの動きは察知することは難しいが、従って、向こうからもこちら側を見ることは困難だ。レオポルドたちはそれを最大限に生かそうと考えていた。
「作戦を発表する」
レオポルドが軍の作戦会議を主導する。
「我々の作戦は、奇襲だ」
「!?」
ダリオ以外の参加者はざわめく。奇襲とは、少ない軍勢で相手を確実に混乱させるために使う作だ。相手の状況がわからない状況で奇襲をするのは自殺行為に等しい。
「レオポルドさま、それは自殺行為では……?」
エステバンが恐る恐る抗議する。
「ああ、普通ならな」
「何か策がございますのか?」
一人の参加者が尋ねる。
「奇襲と言っても、伏兵を伏せるだけだ。ゴリモティタへの道は一本しかない。その道の両側の森に兵を伏せる。見た所、まだ兵はゴリモティタの門から出ていない。つまり外にいるのは俺たちだけだ。そこで、今のうちに兵を伏せておく。俺が偵察したことから、あの領主なら、残りの兵で俺たちが突っ込んだら、必ず勝てると踏んで打って出て来るだろう。そこである程度戦況が拮抗したところで、伏兵の出番だ。伏兵は左右からゴリモティタ軍を突く。それに乗じて、ゴリモティタ内部に侵入する。そこからは制圧するだけだ。これが作戦だ」
レオポルドの論理的な説明に誰もが息を飲む。
「それならいけると思います!」
「さすがレオポルドさまだ!」
口々に参加者が言う。
「まだ勝ったわけではないのだ。浮かれてはいけない」
慎重なレオポルド。続けて作戦の実行を告げる。
「そこで伏兵には、経験豊富なダリオとエステバンに任せたい。頼めるか?」
「仰せのままに」
二人は承諾した。
「作戦開始は、本日の深夜だ。今のうちに寝ておけ」
レオポルドの命令が下ると、レオポルドと一部の監視兵を残して、全員が眠りについた。