第10話 民衆の理解
「よし、これでいこう」
レオポルドは視察からの数日間、ずっとダリオと作戦を考えていた。それがようやくできたのだ。
「して、決行日はいつになさいますか?」
ダリオがレオポルドに尋ねる。
「明後日だ」
「は!?」
ダリオは耳を疑った。そんなに早く実行に移すものではない。明後日など絶対に不可能だと思った。
「それは少し厳しいのでは……」
ダリオはレオポルドを諌める。
「大丈夫だ、こうなることを予期して、かなり前から、防衛軍とは別に軍隊を養成している。兵糧の準備もできている。あとは彼らに命令を出すだけだ。決行が遅くなって、情報が漏れてはいけないのでな」
「なんと!」
ダリオはレオポルドの用意周到さに驚愕した。やはりレオポルドは只者ではない。
「わかりました。それではそれでいきましょう」
「兵士たちには、今日明日は家に帰ってもらってくれ。これが最後かもしれんからな」
レオポルドの提案にダリオは苦言を示す。
「レオポルドさま、お気持ちはわかりますが、そうしてしまうと兵士が逃げ出す可能性が……」
ダリオの意見はもっともだ。しかしレオポルドはこれに答える。
「そんなことで逃げ出す兵士には逃げてもらえ。戦場では役に立たないからな。俺は彼らを信じている」
ダリオは感嘆した。やはりレオポルドは只者ではない。再びそう思った。
「ダリオもエミリアと過ごしてやってくれ。あいつ、寂しそうだったぞ」
「いえ、しかし私は……」
「これは命令だ」
レオポルドは笑いながらそういう。優しい人だ。
「それでは、そうさせていただきましょう」
ダリオはレオポルドに感謝して、会議室を出た。
レオポルドは邸宅の前に各村の長を集めた。
「今日は重大な発表がある」
それは何なのか。気にする長たちが、口々に予想する。
「このレオポルド=リオス=アインフォーラは、ゴリモティタ攻略の命を受けた。によって、決行は明後日ということに決まった。この戦で、皆には苦労をかけるかもしれない。未熟な私を許してほしい」
レオポルドは頭を下げる。批判が来るに違い無い。しかし、領民たちの反応はレオポルドの予想に反していた。
「なんだ、そんなことですか」
「え?」
レオポルドは驚く。そんななか、ボンが口を開く。
「私たちはレオポルドさまに多くのご恩を受けて参りました。私たちは恩を受けるばかりで、何も返せてはいませんでした。それが悔しくて。しかし、今こそ恩返しできるときではありませぬか。私たちにとってこんなにも嬉しいことはありません」
これがレオポルドの徳治のなせる技だ。レオポルドは領民たちの理解に感謝した。
「私たちにできることならば何なりと、お申し付けください」
「ああ、ありがとう、みんな!」
レオポルドの目はかすかに潤んでいた。
帰宅した兵士たちは家族との幸せなひと時を過ごした。
「とうちゃん戦争に行くの?」
「戦争?」
「ああ、そうだ」
「んー、よくわかんないや』
「はっはっは。そうだと思ったよ。いいかい? とうちゃんはな、レオポルドさまのために戦うんだ」
「レオポルドさま?」
「ああ、ここの領主さまだ。あの人のおかげでみーんな、幸せに暮らしてるんだ」
「へえ、そうなんだ! じゃあとうちゃん頑張らないとね!」
「ああ、頑張るぞ!」
こんな会話がいたるところで行われている。子供と話す父。恋人と話す男。母と話す若者。過ごし方は様々だ。
「でもな、とうちゃんはいなくなっちゃうかもしれない。その時は、きっとまた会えるから、それまでかあちゃんの言うことをしっかり聞いて、いい子でいるんだぞ!?」
「うん、わかったよ。とうちゃん!」
その隣では母と思しき女が泣いていた。戦争とは、そんなものだ。必ず勝者と敗者が存在する。それに伴い、必ず、負けた方には死ぬものだけでなく、残されるものも生まれる。勝った方には殺してしまったという、後悔の念が必ず残る。そんな、悲しいものなのだ。みんなが悲しくなる。人間とはかつて協力して生きてきた。それなのに、どこで間違ってしまったのだろうか?レオポルドはきっとこんな感情なのだろう。