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剣士ロムの独白

作者: あーる

 『問 異世界転生は本当にメリットですか?』


 そんな今更なことを考えるのは、やはり現実逃避の賜物である。


 目の前でぎゃあぎゃあと騒ぐ縛られた男達に疲れて、益体もないことに思考を巡らせても現実は何も変わらないのだが。


 現実とは何か、それはハイエルフという豊富な魔力と長寿を持つこの俺が、盗賊相手に剣を以て打ち倒し警吏を待つという暇な作業のことである。


 なぜハイエルフが剣で戦ったかって? そんなのは決まっている。俺には魔法というものが一切使えないからだ。


 そもそも考えてほしい。魔力などという空想の世界の代物だと信じて疑わない世界で生きた経験のある人間が、本当に魔法などというものを使えるものだろうか?

 それは『今日から羽が生えましたので飛んでみろ、できるはずだ』と言われるのと何も変わらない。無茶極まりない。少なくとも俺には無理だね。


 特に魔法というものの本質が『現実がそうなると信じること』にあるというのがこの上なくマイナスに働いた。


 手からいきなり炎が出る? その熱量はどこから来てどういう現象でそうなるというのか。一瞬でもそんな疑問を抱けばこの世界の魔法は成り立たない。

 要は思い込みの問題で、これに対して前世で培った科学知識というのが常に反論する。


 頭は分かってはいるのだ。この世界と前世とは物理法則が異なるのだと。しかし心はどうしても経験というものに左右されてしまう。結果、魔法という不可思議な現象を心の底からは信じられない俺は、一切の魔法現象を行使できなかった。


 科学知識と魔法の融合とか謳っていた小説があったがあれは嘘だね。仮にできるとしたら、擦れた大人ではなく魔法や気みたいなもので不可思議な現象が起こせると信じる小学生以下の子供を異世界転生させなきゃ無理だ。


 純真無垢な子供に『こういうものなんだ』と真理を説くことで初めて魔法なんてものは実現するのだろう。汚れちまった俺の心には常に『え、なんで?』がよぎるので魔法なんてものとは縁がなかった。


 対して剣はいい。振れば勝手に結果がついてくる。そこに信じるだの信じないだの余地は一切ない。

 残念ながら剣の才能はなかったが、努力すれば多少は報われる分魔法よりはましである。


 魔法だってやってみようと努力はしたさ。その結果得たのは『俺には無理』という悲しい現実だったがね。

 一応俺も腐ってもハイエルフ。魔力というものは生まれもって備わっているらしい。まあ動かし方も分からないので豚に真珠だし、もう諦めるしかない。


 実際はこんなことを考えている時点で未練がましくも諦めきれていないんだろうが、魔法が使えない現実は嫌でも変わらない。おかげで俺はハイエルフの中じゃ落ちこぼれさ。



 だから――


「くそ、なんでこんなところに『剣聖』が居やがるんだ! こないだまで王都にいたんじゃなかったのかよ!?」


「俺をその名前で呼ぶんじゃねえ!」


 叫んだ盗賊くずれを剣の腹で叩きのめして物理的に黙らせる。


 俺は天才だの才能だというものが大嫌いなのだ。

 言ったろ、俺に剣の才能はなかったって。どんな凡人だろうと五百年間剣を振るっていりゃ誰でも数十年しか生きてない小僧には勝てるようになるわ。

 それなのに無暗に祭り上げて俺に後進を育てようとさせやがる。


 実戦の中がむしゃらに我流でのし上がってきた技を、何で小僧っ子どもに教えなきゃならんのだ。しかもやつら、俺が数年はかかったことを遅くても数か月、早けりゃ十日程度でものにしやがる。


 くそったれめ、努力に努力を重ねた年月を馬鹿にされたように感じて自称弟子どもを蹴飛ばして行方をくらませた俺は悪くない。


 才能のあるやつは嫌いだ。だから『剣聖』だの『至剣』だの呼ばれるのもごめんだ。俺が許容できる二つ名は『剣鬼』ぐらいか。それも他に何もできなかった自分を揶揄されているみたいで嫌なのだが。


 俺はロム。ただの剣士ロムでいい。名を偽る気はない。生まれ直してこのかた長いんだ。今更他の名前に変えるのは自分が負けたみたいで嫌だ。


 ああ、俺は意固地なじじいさ。剣にしがみついたろくでなしだ。それがどうした。、文句は俺をこの世界に産み落とした親か、いるかもしらん神様に言え。



 俺に正面から文句を言ったら……剣の錆にしてくれる。




 えーっと、作者です。


 まずはこのようなお話を見ていただいてありがとうございます。

 一応言っておくと、作者は異世界転生物は結構読むのが好きなジャンルであったりします。色々楽しんで読んでいる作品多いです。


 なのになぜこんな代物を作ってしまったのか? それは最初の問がある意味全てです。

 たまには異世界転生をかけらも幸運だと思っていないダメ主人公を書いてみたかったという問題作。


 ロム爺さんは今までも色々と問題を起こし、これからも起こしていきますがたぶん語られることはないです。

 ひねくれ爺さんの愚痴しかないお話を読んでいただいてありがとうございました。

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