アリスは今日も偽りの夢を見続ける。
夢の中にいるような錯覚に陥る文章構成(目標)。
もはや意味の分からないダンジョンのような文章構成(実際)。
あっごめんなさい帰らないで!とりま見てくれると嬉しいです…感想も……!
「アリス、起きてってば、アリス。」
「ぅ、あ…」
ふかふかの高級そうなベッド。
可愛らしい小鳥の囀り。
一切害を与えないような優しい声。
いつも通り、嫌な朝。
「………おはようございます、ミカエル様。」
「もー、そうじゃなくて“昔”みたいに『ミカエル』って呼んでって、いつも
言ってるでしょ?」
「…ごめんなさい。」
いいよ、と笑うとベッドから下りて「早く食堂に来てね」と部屋から飛び出した。
本当にいつも通りのミカエル様だ。どうしようもないくらい“私”に甘い。
床に足をつけて、ペタペタとドレッサーの前に行く。
まだ年齢的にも早い気がしているけど、今では大事な道具だった。
目の前には、知らない、人形のような可愛らしい女の子。
自然とカールしている金色の髪に、少しだけ垂れ目の碧眼。
本当に天使みたいな子だ、と毎回見とれてしまう。
そう言うとなんだかナルシストみたいだけど、むしろそっちの方が幸せだっただろう。
“アリス”は、“私”じゃない。
私が“生まれた”のは、とある実験室だ。
いつのまにかこんな容姿を与えられた私に目の前の白衣を羽織った年輩の言葉。
『どうか“アリス”として____ミカエル様と歩んでいってくれないか。』
無茶だと思った。
私はこの世界の事もミカエル様の事も、何も知らない。
白衣の男性は続けた。
『心配ない。どっちみち君とミカエル様の世界は、この屋敷の中だけだから。』
ミカエル様は生まれた時から、外に出た事が無いという。
本当に、一度も、だ。
仕方なく承知すると同時にミカエル様が飛び込んできた。
アリスアリスと偽物の私を抱きしめて泣き喚いたのだ。
_____アリスは、もう目の前にいる少女では無いのに。
彼はミカエル様に、“アリス”は復活はしたが記憶がないという事を説明した。
驚くほどあっさり信じたミカエル様は、「それでも、アリスがいるなら」と笑った。
………そんな事があって今に至る。
相変わらず“アリス”を演じ続けている私は、もうすっかり此処にも馴染んだようだ。
いっその事このまま“アリス”になってしまえばいいのに、と目を閉じると、
また向こうからミカエル様の声が手首を引っ張った。
「今行きます。」
_____アリス、貴方は今どこにいるの?
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「……あの、ミカエル様。」
「ん?どうしたの?かくれんぼはもう飽きちゃった?」
「いえ、そうではなくて…」
子供には少しばかり広すぎる廊下の隅で、私は頑丈に錠が掛けられた扉を指す。
「あの扉は、何なのでしょう?」
おかしいとは前々から思っていた。
この屋敷の部屋は全てミカエル様も私も入れるように開け放たれているのに、この扉だけは
見せつけるように錠がぶら下がっている。
「ああ~…僕もよく分かんない。どうやら入っちゃいけない、恐ろしい扉なんだって。
錠を開けてあの中に足を踏み込んだ者は、たちまち壊れてしまうという…」
私を怖がらせたいのか、声を低くして滲み寄る。
「え、えぇ~っと…」
「でもまあ!遊べるお部屋はいっぱいあるんだし、一つ扉が入れなくたって大丈夫だよ。
ね!アリス。」
「はっはい!そうですね!」
敬語が気に入らなかったのか、「もう」と頬を膨らました。
「アリス、ねえ僕のアリス。どうして君はいつも僕が悲しむような事をするの?」
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ハッと起きあがると、ふかふかのお布団の中だった。
どうやら夢を見ていたようで、チュンチュンの小鳥の声がする。
何をやっているの、アリス。
開かずの扉なんてこのお屋敷には存在しないのよ。
「アリスーアリスー!」
ミカエル様が元気よく飛び込んできた。
「あのねアリス!博士が研究室においでだって!」
「博士が?」
「うん、もしかしたらアリスの記憶が戻る方法が分かったのかも!」
ちくん、と心が痛んだ。
最初から無いものは蘇らない。私は…アリスじゃない。
「調子はどうだい?」
目の前の博士は椅子をくるりと回転させてこちらを見る。
よくよく思い出してみたら、こうして話すのは二度目だった。
「調子…といいますと?」
「“アリス”として上手くやっていけているか、という事だ。」
どう答えればいいか分からなくて黙り込むと、「ま、それは良いだろう」と
向こうから切り上げてくれた。
「それより、何か欲しい物は無いかい?聞きたい事でも構わない。」
それは答えやすい。一番疑問に思っていた事をすぐに口に出す。
「どうしてミカエル様はお屋敷の外に出ちゃいけないのですか?」
んん、と博士は少し困った顔をしてから、「出たがらないんだ」と言った。
「ミカエル様の母君も父君も、外は恐いところだと、だから出てはならないと、よくよく
言い聞かせていた。そして、出かけたまま帰ってこなくなったんだ。」
『僕、お父様とお母様が帰ってくるまで、外には出ない。』
「二人が最後にくれた、『アリス』という少女。ミカエル様がアリスを大事にする理由に、
きっとそれも含まれて居るんだね。」
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「………ス、アリス!ボーッとしてどうしたの?」
「っ!」
顔を上げると、丁度積み木崩しをしているところだった。
あれ、私さっきまで研究室にいたような気がするけど、多分ミカエル様が連れだしたのだろう。
「……アリス?」
「い、いえ。ただ少し考え事をしていたので。」
「考え事?何考えてたの?」
うぐっと思わず唸る。
こんな事聞いていいのだろうか。この綺麗な碧の瞳を汚さないだろうか。
思わず唇が動いた。
「ミカエル様は、お外に出たいとは思わないのですか?」
少しだけの、沈黙。
んー、と彼は少しだけ首を傾げた後、「アリスは?」と逆に聞かれた。
「私、は……少しだけ。」
「でもお外は恐いところだって僕言われたよ?」
「そッそれでも、何か得るものはあると思うんです!」
あれ、私
何でムキになってるんだろう?
「僕ね、アリスが本当に大好きなんだ!」
ミカエル様はそう言って、天使のような笑顔を向けた。
「だからね、お外に出れなくても大丈夫。寂しくなんて無いもの。」
「でもッ………」
そう言いかけてから、“アリス”の脳内に意地悪な考えが浮かぶ。
「じゃあ、二人でお外に出ましょう!」
“ミカエル”の目が、初めて開かれた。
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そうは言ったものの、庭園の周りは高い高い城壁で囲まれている。
探す前に荷物まとめしておこうと自分の部屋へ向かった。
ちなみにミカエル様は真っ先に庭へ出て行って、出られる場所を探し始めている。
「はぁ…もしかしたら怒られちゃうかなぁ。」
いや、メイド達はともかく博士なら意外と許してくれそうな気がする。
……なんて、甘えすぎだろうか。
ガチャッ、
「え?」
横を向くと、壊れた錠が落ちていた。
『どうやら入っちゃいけない、恐ろしい扉なんだって。』
『錠を開けてあの中に足を踏み込んだ者は、たちまち壊れてしまうという…』
「_____もしかして、 」
『開かずの扉なんてこのお屋敷には存在しないのよ。』
ドアノブに手を掛ける。
ギィ、という音と共に木の壁を押すと、ぬるい風がアリスの髪をかき乱した。
部屋は暗い。
手探りでスイッチを探すと、パッと壁が淡く光る。
「…………え?」
天使のような少年と、“アリス”にとてもよく似たフランス人形。
目の前の一番大きな絵画。
間違うわけない、“ミカエルとアリス”がそこにいた。
「アリス~っ!見つけたよ!」
ハッとして振り返ると、段々ミカエル様の声が大きくなって近付いてくる。
早く出ないと。
捨てられる前に。
「はっはい!すぐ行きます!」
______絵画の中の二人が、依然変わらない微笑みのまま閉じこめられた。
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「ほらっ此処!この穴から出られそうなんだ!」
それはお屋敷と大きな壁が隣接しているところ。
茂みに隠れるようにして、私達子供でもやっとくぐれるような穴がポッカリ空いていた。
「い、いよいよだね!なんだか緊張してきたよ…あれ?アリス?」
「っ!」
私だってワクワクしてないわけでは無かった。
でも、さっきの出来事が頭をグルグルグルグル回って……
私の決心が、鈍りそうに、なる。
「じゃあ、僕が先に行くから、アリスは付いてきて?」
「そんなっ!私が先に行きます!私の我が儘なんだから!」
「や~だ。オトコはオンナを守らなきゃ駄目だぞってお父様が仰ってたもん。」
そう言うや否や穴の中に入り始める。
こういう頑固なところは変わらないなーと小さく溜息をついて、後を追った。
お外に出たら、ミカエル様に言うんだ。
私はアリスじゃないって事。
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なのに。
「ぇ、」
穴から出て。
目の前の景色を見て愕然とする。
「ああ、ほらね。やっぱりそうだった。」
ミカエル様は何も驚かない様子で見渡していた。
辺り一面の、黒い森。
「で…でも!ここを抜ければきっと『お外』ですよ!ね、ミカエルさ…」
「ううん、違うよ。」
体温の感じない声で彼は言った。
「この森は終わらない。いくら歩いても、いくら曲がっても、ね。」
「ずっと前に中に入ったでしょ?アリス。」
ずっと………前?
「___________違う。」
「え?」
「そんなの覚えてるわけないじゃないですか……だって、私は、アリスじゃな 」
ドクンッ
そこまで言おうとした瞬間、心臓がいきなり音をたてた。
そこから先は言うなと。
「『私はアリスじゃない』、か………そのセリフ、もう何回も聞いたよ。」
ゆっくり振り返ったミカエルの瞳は、まるでガラス玉のように無機質だった。
「知ってるよ?君がアリスじゃないことくらい。
だってアリスなんて女の子、そもそもこの世にいないんだからさ。」
『 ?』
「ふふっ、意味が分からないって顔してるね。じゃあさ、自分を見て御覧よ。」
パキパキと体が固まってくる。
球体間接の手を伸ばしても全く彼には届かない。
ミか、エル、さ………
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まるでユートピアのような庭園。
幼い子供は、金の髪の人形を抱いて屋敷の中に叫んだ。
「博士、アリスまた壊れちゃったよ。早く直してよ。」
「嗚呼……またですか。ミカエル様は本当によくオモチャを壊しなさる。
さあ貸してみなさい。この私がすぐに元に戻して見せましょう。」
「うん、よろしくね」
ミカエルはニッコリ笑って、創造主である博士に言い聞かせた。
「僕ね、アリスが本当に大好きなんだ!」
この話の本当の意味……分かりましたか?(不適な笑み)
すっごく略すと、アリスは本当は人形でしたイエー!って事です。
略しすぎましたすみません。