4
担任が来るまでの間の生徒たちの騒がしい時間。
「よ、コウ。おはよ」
「タカ、はよっ」
よし、笑顔出せた、と一人頷く洸に気づくことなく鷹士が話を続ける。
「そういや、お前夏季の臨海教室のグループ決めの時にいなかったけど、俺と同じでよかった?」
「もちろん!タカさんと一緒で嬉しいわぁ」
「……コウ、気持ち悪いからやめてくれよ。そうそう、女子は河野と佐伯だからな」
「あ、男女混合だったっけ?」
わかっていたけれど、確認のために聞いた洸の目を見つめ、ニヤリと笑う鷹士。
「河野ってさ、澤田と仲いいんだろ?もしかしたら、臨海教室中に遊びに来るかもなぁ?」
洸の目が大きく見開かれる。
「あぁ、もう!オレ、タカのこと大好きだなぁ!」
そう言ってわざとそのがっしりした体に抱き着くと真剣にドン引きされた。
が、そんなことも気にならないくらい上機嫌になった。
友情運に恵まれてるな、と。
午前中の授業をそつなく終え、午後に授業をつぶして臨海教室のグループごとの話し合いの時間がもたれた。
そして。
「あ、コウくんよろしくね」
……河野って、カナブンのことだったのか。フルネームに興味なかった。
なんて失礼なことを思っていることは一切感じさせない爽やかな笑顔で「よろしく」とさらりと返す。
自然な流れで鷹士に振り返る。
「んで、何を決めるんだっけ?」
「お前、ホント先生の話すら聞いてないんだな。なんか、バーベキューするから何作るか決めろって。あと、夜にキャンプファイヤーだってさ」
おぉ、キャンプファイヤー!嫌でも盛り上がるイベントか!
「多分、盛り上がるだろうな」
「……タカさん、またエスパー能力使ったね?」
「お前の思考回路が単純明快なだけだよ」
洸の胸にさくっと短剣が刺さった。気がする。
「あ、バーベキューって他のクラスのグループと合同でもいいっていう話だったんだけど、みゆ達と一緒になってもいいかな?」
ちらり、と意味深な視線を洸に送りながらカナブン……カナ様が言った瞬間、洸の表情が一気に明るくなる。
「も、もちろんいいよ!」
「ぶふっ」
「ふふっ」
「……タカ、佐伯さん……仲良く笑わないでくれる?」
どんどん王子様キャラからずれていく洸だったが、一気にメンバーとの仲が良くなったので軽くスルーされつつ。
あぁ、臨海教室でみゆの水着姿とか見れちゃうのかなぁ。なんて素敵なイベント。早くこいこい、臨海教室!
洸は楽しく妄想していた。
実際に、この臨海教室でみゆと洸の距離がぐっと縮まるということは、まだ誰も思ってもいなかった。
「ってなわけで、みゆにはさくっと振られたんだけどお友達からはじめることになった!そして、そのあとラブラブになる予定だ」
告白をしたけれど変わらず放課後の鷹士とのお茶会で務めて明るく報告する洸を、若干痛ましげな表情で見る鷹士に、ふ、と目を優しげに細めて微笑む。
「大丈夫。ちょっと落ち込んだけどだからって諦められないし。これからガンガン攻めるし。絶対オレのものにするから」
久し振りの爽やか王子様スマイルに、ズキュンと胸を撃ち抜かれた鷹士は思わず頬を赤くする。
この至近距離での美形スマイルは心臓に悪すぎる!
そんなゴツイ男の可愛い反応を見て洸の笑みが深くなる。
「……ねぇ、あそこの男二人組ってリアルBL??」
周りの女子にそんな誤解を振り撒きつつ、今日も平穏な一日は終わりを告げたのだった。