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「もうさ、告白するしかないよコウ。いつまでもこんなストーカーみたいなこと続けたいわけじゃないんだろ?」
「ああ、もちろんだ。みゆをいつ他の野郎が狙うかもわからないしな。そろそろちゃんと捕まえときたい」
いつものようにみゆウォッチング中に鷹士が言ったことで、洸もようやく行動に移すことを決意した。
むしろ、いつ告白しようか最近では毎日のように考えていただけに背中を押してもらえたような感じであった。
……みゆの特別になりたい。
王子様なんかじゃない、本当の自分を知ってもらって、また自分もみゆの全てを知りたい。ちょっと口が悪いところもきっと許してくれるはずだ。
もしかしたらすぐにはダメかもしれないけど……そうだとしても絶対に諦めないから。諦められないから。
覚悟してて、みゆ。
決意を固めた洸は、それはそれは長い間何もせずただ眺めていて喜んでいるのが嘘だったかのように翌日には行動を起こした。
***
「えっと……ごめんなさい、葉月くん。ちょっと緊張しちゃうからカナについてきてもらっちゃって」
放課後、桜の木の下へ話があるから来てほしいと呼び出した洸は、時間になってやってきたみゆを見て笑顔になり……一緒にいる友人を見て一瞬眉を顰める。
が、頬をほんのり染めて謝るみゆの姿に先制攻撃を受け、つい笑顔で
「あぁ、全然いいよ、気にしないからさ」
……めっちゃ気になるけどねっ!!
と言ってしまっていた。
っていうか、明らかに告られる雰囲気満点なのについてくるこいつ(カナ?)もすごい神経だな、という本心は口には出さずニコニコ笑顔でみゆを見つめる。
「えっとさ、気づいてるかもしれ ないんだけどオレ、澤田さんのことが好きなんだ。よかったら、オレと付き合ってほしい」
「ご、ごめんなさい……私、ずっと好きな人がいて……」
王子様は、ドーンと砕け散った。
笑顔が凍りつき、咄嗟に言葉も出てこない。
そんな状況で、また追い打ちをかけるように一緒に来ていた友人の加奈が口を開いた。
「みゆ、中学のころからずっと好きな人がいるから無理だよ。っていうか、コウくん彼女がいるんじゃないの?」
「はぁ?!彼女なんていたら告白なんてしないし。つか、オレみゆ以外の彼女なんて作る気さらっさらないんだけど?」
「!!!」
思わずみゆ、と呼び捨てにしてしまったことにも気づかない洸は、真っ赤になったみゆを見て内心悶え た。
……みゆ、超真っ赤!可愛すぎ!
「……コウくん、すっごい殺し文句」
……いや、なぜそこでお前まで顔を赤くする必要が??クラスメイトで話したこともないけどなぜにみゆが「葉月くん」でお前が「コウくん」なんだ??
突っ込みたいけど突っ込めず。
だが、そこで凹みはしても引かないのが洸。
「わかった。じゃあ、友達になってよ。そこから始める」
……ゆくゆくは彼女になってもらうけどね。
というセリフは声には出さず、有無を言わさない爽やかな笑顔と言葉にその言葉の真意には気付かないまままだ顔を赤くして俯いたままのみゆの顔を下から覗き込む。
「ね?それならいい?」
自分でも鳥肌が立ちそうなくらいに甘ったるい声で 、望む答えに導く。
「……うん、ごめんね、ありがとう」
少し潤んだ瞳で小さくそう答えるみゆ。
……あぁぁ、もう、もう、もうっ!!!
その甘く柔らかそうな唇に、優しく、激しく口づけたい。
その小さな身体を抱きしめたい。
狂おしいほどに、愛おしい。
そんな激情を抱え込みながら、必死に言葉を紡ぐ。
「じゃあ、これから友達だからオレのことはコウって呼んで。な、みゆ?」
「うん……わかった。コウくん、これからよろしくね」
笑顔の洸に、眩しい笑顔を返すみゆ。
あぁ、泣きたいくらいに好きだなぁ。
そんなことを思いながら、ようやく一歩進んだことに今日一番の笑顔を見せた。
「あ、私のこともカナって呼ん でくれていいよ」
……お前、カナブンで充分だよ。
みゆの笑顔の前では、そんな毒舌は吐けない洸だった。
じゃあ、またね、と笑顔で手を振って帰っていくみゆに眩しいくらいの笑顔で手を振って応える洸。
余裕の態度も、みゆの姿が見えなくなるまでだった。
みゆと加奈の二人が完全に見えなくなったところでトン、と桜の木にもたれかかる。
……やっぱ、すぐにはダメだったかぁ。王子様なんてもてはやされてるからって関係ないところがみゆらしくていいんだけどやっぱ凹むなぁ。
友達なんかじゃ我慢できないけど、仕方ない。まずはオレを知ってもらってあの先輩よりも興味をもってもらわないと。いや、先輩のことなんて考える暇もないくらいオレのことだけでいっぱいにさせないと。
他の、オレに告白してくる女じゃダメなんだ。
澤田みゆだけが、欲しいから。
落ち込む気持ちを気合いで持ち直して、まっすぐに前を向いて家へ帰る洸は、やはり凛々しい王子様のようだった。