13
保健室で一日を過ごした翌日以降は、洸の姿は教室にあった。
ただ、洸を気遣ってかみゆが洸のクラスへ来ることはなかった。
そして、いよいよダンスパーティー前日。
もういいよ、というほどたくさんの人からダンパへの誘いを受けた洸だったが、結局一度も頷くことはなかった。
まっすぐに家に帰る気にもなれず、用意してきた私服に着替えてフラフラと何をするわけでもなく街をさまよい歩いて。
追い打ちをかけるかのように降ってきた冷たい雨にあたりながら、自嘲的な笑みを浮かべた。
その、視線の先にある光景に。
みゆと、加奈と、あの先輩がいた。
あぁ、なんか最終練習してから帰るとか言ってたな。なんて思いながら、見たくもなかった光景に心を抉られるのを感じながら視線を足元に落とした。
元々重たかったあしどりが、余計に重たくなるのを感じながら。
家まであと少し。
本降りになった雨に激しく打たれた身体はとっくに冷え切っていた。
見上げた自分の部屋の窓を見て、当たり前だが電気のついていないのを確認してさらに気持ちまで重くなる。
・・・世間は、すっかりクリスマスムードなのにな。
洸らしくない冷めた表情で自虐的に笑う。
いいんだ、やっぱりオレにはこんなのが似合ってる。
いつもの前向きな考え方も今は全く出てこずに、マイナス思考だけが浮かんでくる。
寒さで震える手で玄関の鍵を回し、やっとのことで家の中に入る。
・・・寒い。
重たい身体を引きずって、なんとか風呂のスイッチを押してお湯が入るのを見つめながら湯舟が溜まる様子をぼーっと見ていた。
だんだん温まる浴室内にいるのに、寒くてたまらなかった。
身体の震えが止まらない。
・・・熱、出そう。
食事を摂る気にもなれず、風呂から出てすぐに布団を被って寝てしまった。
そんな、翌朝。
予想通り、洸は頭痛のせいでその整った顔を歪めて布団の上にいた。
熱を測って、その数字を見て思わず笑ってしまった。
予想以上に高かったその数字を見ているときに、携帯が鳴った。
「もしもし・・・」
のどもやられていたらしく、酷い声だった。
「もし・・・って、コウ、お前酷い声じゃないか!風邪ひいたのか?!」
「あぁ、タカ。オレはバカじゃなかったみたいだ」
「バカっ!」
バカじゃなかったって言ってるのに。
見当違いのことを考えながら、フラフラする頭で会話を続ける。
「ダンパどころの話じゃないな。熱もあるのか?」
「40ちょい手前。年齢じゃねぇぞ」
「んなことわかってるわっ!!」
なんだかいつもよりツッコミが速いし鋭い鷹士。
受話器の向こうから、はぁ、と盛大なため息が聞こえてきた洸は、思わず文句を言う。
「んだよ、ため息つくなんて失礼だろ」
「こんな日に高熱出してぶっ倒れてる奴に言われたくないね」
呆れたような鷹士の言葉に、見えないが頷いてしまった洸だった。
「あのさ、もうちょっとしたらお前んち行くから、あんまよくないけど玄関の鍵だけ開けといてくれよ。
保健のヨシセンセから薬もらっていくよ」
「あぁ、時間があったら頼むわ」
さすがに体調が悪すぎて、素直に甘えてみた。
そしたら、直後に「じゃ」と言って電話を切られた。
しばらくベッドの上でボーっとしていたがなんとか身体を引きずって玄関の鍵を開ける。
そのままずりずりと身体を引きずりながらベッドに戻り、ポスン、と身体を横たえる。
ダメだ。寝よう。
すぐに意識は・・・夢の中へ堕ちていった。