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臨海教室が終わり、すぐに夏休みに突入。そしてバイトに明け暮れた夏休みがさらりと終わり、新学期。
少しだけ近づいた洸とみゆの関係は未だ友達以上・恋人未満という言葉がぴったりだった。
夏休みはほぼバイトの予定でぎっしりだった洸の休みにはみゆの都合が悪く、会えなかったが毎日メールでやりとりはしていた。主に、洸から。
『早く夏休み終わらないかなぁ』
『どうして?学校休みの方が楽しかったりしない?』
『バイトしすぎとみゆ不足でぶっ倒れそう』
『……コウって、ホント女心をくすぐるポイントをよく知ってるよね!!』
ん?なんかまずかった??
そんなみゆとのラブラブメールのことを考えている洸の肩が、ポン、と叩かれた。
「おう、コウ!久し振りだけど元気だったか?」
洸が振り向くと、そこには男らしく日焼けした笑顔満点の鷹士が立っていた。思わず頬がひきつる。
「お、おう。お前は見るからに元気そうだなタカ」
そんな若干引き気味な洸の様子に構うことなく大きく頷く鷹士。そんな鷹士の後ろからひょこっと顔を出した佐伯がこれまた笑顔で「おはよう、コウくん」と言ってきた。
……あれ?あれれ?
ふと洸が鷹士の顔を注意して確認すると、明らかに日焼けとは違う赤らみを確認した。
「って、えぇぇ!ま、まさかっ!」
「バカ、声がでかすぎだよ!」
ショックだ……。
洸は泣きまねをしながら
「オレはお前をそういう風に育てた覚えはないぞ」
「俺はお前に育てられた覚えはない」
速攻鷹士はツッコンだ。しかも、真顔。
ぶふっ。
「そっかぁ、いつからなんだ?」
ニヤニヤと笑いながら聞く洸に、顔を赤らめる二人。佐伯はいいとして、鷹士、お前はもっと堂々としてほしいと父親のように心配する。
「いや、臨海教室のこととか話してていいなって思ってたんだけど、キャンプファイヤーの時に、な」
うん、むず痒くなるから見つめあって赤くなるな。
心の中で、精一杯願うしかない。
「良かったな!仲良くやれよな」
笑顔の洸。
「お前も頑張れよ」
一言余計な鷹士。
ガツン、とチョップをプレゼントした洸だった。
「……おはよぅ」
聞こえてきた控えめな声に、瞬間的に振り返る洸。
「みゆ!久し振り!」
王子様の全開スマイルに、みゆだけでなく佐伯、そして鷹士、ギャラリーまでもが頬をほんのり赤くした。
「うん、久し振りだね。元気そうだね……って、ちょっと、コウ?!」
焦るみゆ。
洸の腕の中にすっぽり包まれてじたばたしている。可愛い。萌え。萌えぇぇ。表情が王子様からすっかり崩れていることには周囲も気にならないくらいの衝撃で。
「可愛いなぁ、みゆは」
髪に、ちゅっと口付けると周りから「きゃぁぁ!」だの「おぉ、すげぇリアルイケメン王子」と騒がしくなったが、洸本人は全く気にしていない。
「コウ!!は、恥ずかしいから離して、ねっ」
「オレは全然恥ずかしくないから大丈夫だよみゆ」
「貴様は少し常識を勉強しろ!!」
貴様ってセリフが異常に似合うな、鷹士。
そう言ったらお返しのチョップを食らったもはやノンストップの変態王子だった。
そんな漫才?を繰り広げる教室内で、また明るい声が加わる。
「ちょっとコウくん、新学期早々みゆを困らせないでよね」
「おぉ、カナブンは夏をこせるのか」
「……まだカナブンなんだ」
若干落ち込む加奈。
「安心しろ、カナブンは永久に不滅だ」
「最初の頃の爽やかな王子様キャラはどこにいったの……」
嘘泣きする加奈。
なんて失礼なカナブンなんだ。
クラスにいるみんなの気持ちは、加奈が代弁してくれたということに洸だけが気付かなかった。
時間になって隣のクラスへ慌てて帰るみゆ。
同じクラスだったらよかたのに、と変態王子は思っていた。
新学期が始まってからの次の大きなイベントは体育祭&学園祭を連続3日間で行う行事。
洸とみゆの通う華美高校の一大イベントである。
初日に体育祭。2日目と3日目は学園祭。特に、最終日の夕方から始まるダンスパーティーはカップルが誕生するイベントとして生徒たちにとって待ち遠しいもので、もちろん洸もめちゃめちゃ楽しみに、そして二人の関係を進展させるための期待をしているものだ。
みゆと踊りたい。キャンプファイヤーと違って、きちんとペアを申し込んで最初から最後まで一緒にいるイベントだから。他の女の子と踊るなんて考えられないし、みゆが他の男と踊るなんて考えただけで相手を抹殺してしまいそうだ。
そんなちょっと危ないことを考えている洸だったが、不穏な気配が近づいていることにはこの時はまだ全く気付いていなかった……。