フィアの一日 お題:締め切り
朝、太陽が昇るころ。日の始まり。みんなが目覚める。今日を楽しむ気力がみなぎる。
昼、太陽が真上へくるころ。おひるご飯。みんなと遊ぶのは楽しい。
夜、太陽が沈むころ。暗闇に炎の色がよく映える。明日を楽しみにまた眠る。
「フィア、これは何ですか?」
文から目を上げると、お師様が妙な顔をして私の顔を覗き込んでいた。これとは失礼な。私は内心ムッとしてしまうのを抑えられない。
「いやいや、そんなお顔をしないでください。美人が台無しですよ」
「くふふ――って騙されないぞ!さぁお師様、これこれ」
手のひらをどけて再び抗議をする。ここのところ、お師様は忙しそうだったから、ちょっと頭を撫でられただけでつい笑顔になってしまった。
「……詩、ですか?」
「正解だ、流石は私のお師様!」
私のしたためた文が何であるか、ようやく理解をしてもらえた。ニッと自然に笑顔でお師様を見つめてしまう。
「正しく発音ができていませんでした。改めて読みましょう」
お師様がペンを置き、魔力を込めて詩を読み上げてくれる。
『始まりに火をくべ、みなを暖め』
ポゥ、と部屋に灯がともった。
『火は高く、みなを笑顔に』
灯はゆったりと高く上る。
『終わりに、みなを優しく包む』
上った火が広がると、文字へと変わっていく。
「フィア、これは――」
師匠がメガネの縁を持ち上げ、私の詩を見つめている。
『お師様、お誕生日おめでとう』
「お師様、魔導書の締め切りが迫っているのわかりますけど」
誕生日は一緒に祝いましょうね、と私は続けた。
「ありがとう。では、ケーキを焼きましょう」
師匠はよっこいしょ、と腰を上げてお菓子作りの本を手に取った。
「チョコレートケーキがいいな」
「はいはい。一番弟子は、きちんと労わないとね」
手間を増やしてしまったけど、久々にお師様が笑ってくれたのでした。