作戦が動きました
今回は少し短めです。
活動報告にお知らせがあります。
魔人領攻略作戦に動きがあった。
現在、魔人領に魔物は多く現れるが、その範囲が大分狭まったため、人員を削減するというのだ。
効率を考えるなら、大人数で一気に攻略した方がいいのだが、出兵してから数ヵ月、兵の精神的な負担がかなり大きくなっているというのも、その理由の一旦だという。
そういえば、人員の交代はされてなかった。
なので、事態の最終的な終息は先送りされたことになったが、民衆は悲嘆しなかった。
むしろ人員を削減できるほどに作戦の遂行には余裕がある、そして作戦は最終段階に入っているのだと、民衆達は察知したらしい。
王都中、いや世界中が、勝利は目前に迫っていると感じていた。
そんな勝利ムードが王都中に漂う中、学院に登校してきたオーグの顔はあまり優れなかった。
「どうした、オーグ? そんな冴えない顔して」
「……そんな顔をしていたか?」
「ああ。あ、ひょっとして、人員の半分を帰還させるから終息が伸びたのを気にしてるのか?」
「いや……」
あれ? これが原因じゃないのか?
そう思ってオーグの顔を見ていると、おもむろに口を開いた。
「なあ、シン」
「なに?」
「つい先日まで災害級の魔物があちこちで目撃されたな」
「ああ。そういえば、最近聞かないな」
「それが、魔人を討伐した後から見られなくなった。このことについてどう思う?」
「なんだと?」
災害級が現れなくなった?
つい先日まで、皆の訓練の対象になるほど、あちこちで発生していたのに?
「我々が魔人を討伐してかららしい」
「そうなのか」
とすると……。
「魔人が増えたら魔物も災害級も増えたよな。魔人が減ったから、災害級に至る魔物が減った……とか?」
「やはり、そういう結論になるか」
オーグは、ホッとした顔をしてそう言った。
「なに?」
「いや、先日の会議でその話題が出てな、私もシンと同じ提案をしたのだ」
「へえ」
「すると、その見解こそが正解だとその後の会議が進んでな。今回の人員の削減と、終結に向けての話が一気に進んだのだ」
「そうだったのか」
「ああ。だが、それ以外の意見が出てこないことに危惧を感じてな。他に何か見落としがないかどうか、確認したかったのだ」
なるほどな。自分の意見がそのまま通っちゃったから不安になったのか。
正直、ただの推測だから、なにか裏付けがある話じゃない。
けど、状況からいってそれしか可能性がないようにも感じるけど……。
「見落としねえ……」
魔物は、シュトロームが現れ、大量の魔人が現れた頃から急激に増加した。
それと同時に、災害級の魔物の数も増加した。
シュトロームや、それより小さかったけれどもカートや討伐した魔人達からも感じた禍々しい魔力。
それにあてられた野性動物が、魔物化したのだと、俺達は予想している。
それを考えると、間違ってないように思える……あ……。
「そういえば、あれは?」
「なんだ? なにか見落としがあったか!?」
おっと。オーグの食い付きが激しいな。
それほど、今回の作戦の方針変更に危惧を持っているのだろうか?
「見落としっていうか、俺達が遭遇した狼の魔物とか、トニーの遭遇した鹿の魔物とか、ジークにーちゃん達が遭遇したサイの魔物とかは?」
狼の魔物は、災害級に至ったにしては狡猾さが足りなかった。
鹿の魔物は、大型には至っても災害級に至るなんて聞いたことがない。
サイについては、魔物化した記録さえないという。
これは、不自然な状況じゃないだろうか?
しかし魔人の集団という、今まで経験したことのない存在がいた。
そのため、濃い魔人の魔力の影響を受け、狼の魔物が急激に災害級に至り、狡猾さを身に付ける前に俺達の前に現れた。
大型の魔物になった鹿が、更に災害級にまで至った。
魔物化しないと思われたサイが魔物化した。
そう考えれば、無理のある推理ではない。
だけど、なにか小さなトゲが刺さっているような……そんな感じがしないでもない。
「今までの記録と違う、記録にない魔物の存在か……」
「まあ、気になったって程度だけどね」
なんにしたって、推測だけじゃなにも答えなんて出すことはできない。
各国合同作戦なのだから、各国とのすり合わせも終わっているだろうし、すでに民衆への公布まで終わってるということは、現場には帰還命令が伝わっているはずだ。
それを、曖昧な、結論さえ出ていないことで中止にすることなどできない。
してしまったら、民衆に更なる不安と不審を植え付けることになるかもしれない。
つまり、もう後戻りできない状況なのだ。
「まあ、それが問題なのかすら分からないんだし、このまま進めることも間違いじゃないと思うよ」
「そうか……そうだな」
「このまま、なにも問題がなければ、旧帝都にシュトローム達を封じて監視網を構築できる。今はその詰めを間違えないようにすることに全力をあげた方がいいんじゃないか?」
「そうだな、答えの出ないことに悩んでいるより、目の前のことに全力を注ぐべきか」
オーグはまだ心配そうだが、今回の作戦の重要性も理解しているため、そちらに全力を注ぐことに決めたようだ。
この魔人領攻略作戦の落とし処は、周辺国家への侵略の意思がないシュトロームを旧帝都に封じ、それを各国合同の監視網を敷いて妙な動きをしないか監視する。というものだ。
シュトロームという魔人の首魁が残ってしまうが、倒した魔人達の言葉を信じるならば、今シュトロームは自身の目標を達成したため、抜け殻になっているらしい。
シュトロームさえ刺激しなければ、脅威はもうないはずだ。
万が一があるかもしれないが、そのための監視網だ。
魔人は殲滅させるべきとの声もあるが、これ以上人々を危険に晒すわけにはいかない。
どうか、何事もなく、この作戦が終結することを祈るばかりだ。
ただ……魔人達の話では、シュトロームの周りには離脱しなかった魔人達がいるはずだ。
その魔人達が妙な動きをしなければいいんだけど……。
俺とオーグが、学院の教室で神妙な顔をして話をしていたので、皆も気になっていたらしい
「殿下とシン君、相変わらず難しい話してるねえ」
「うん。付いていけない」
「あたしらは、出てきた敵を倒す! それだけじゃ駄目なの?」
「魔法の力で無理矢理解決する」
「……キューティレッドとキューティブルーは、もう少し考えようか?」
「「その名前で呼ぶな!」」
アリスとリンのおかげで、さっきまでの重苦しい雰囲気が一変し、教室が笑いに包まれた。
皆、仲間と笑っていられるこの時間がずっと続くことを願っていた。
もう俺達が出張ることがないように。
それが、その時俺達が持っていた共通認識だった。
そして、その願いが通じたのか、魔人領攻略作戦は順調に進んでいった。
まず各国とも人員を半分帰還。予備戦力を出兵させ、残っている人員と交代。
後は三交代で作戦を遂行することになる。
人員は少なくなったが、すでに包囲網は大分狭まっているので、少ない人員でも今まで通りに魔物を討伐することはできている。
魔人領攻略作戦は順調に進んでいた。
魔人騒動が終息に向かっている状況で、アールスハイド魔法学術院から例の発表があった。
今まで魔石は、鉱山などでの採掘中に偶然発見されることが多かったのだが、火山の近く、又は大きな断層のある付近から多くの魔石が発掘されると公式に発表があったのだ。
これは、過去の採掘実績から俺が仮説を立て、アールスハイド魔法師団が調査した結果、間違いないと断定された。
魔石の詳しい精製条件は発表されなかったけどね。
おかげで、ウォルフォード商会は連日凄い賑わいだった。
魔石の採掘条件を発見した俺がオーナーの店なら、魔石を使った商品がすでにあるかもしれないと先走った人達が大勢いたからだ。
いくらなんでも、そんなすぐに商品化しないって。
当面は、先に販売した冷蔵庫に、後付けで魔石を嵌め込み、魔力を注がないでも氷が自動で精製できるようにするくらいかな?
魔石が流通するようになれば、魔道具職人達の発明も増えていくだろう。
そうすれば、人類はますます発展していく。
その期待が民衆の間にも広がっていった。
そして、その情報を秘匿せず、公開したことでアールスハイドの評価はますます高くなった。
現在の世界連合での発言力が大分大きくなったようである。
もっとも、ここで周辺諸国やエルス、イースなどに大きな顔をしてしまうと、新たな争いの火種となってしまうので、かなり自重しているらしいが。
順調な作戦、魔石の発掘量増加。
多くの人達の目には、明るい未来が見えていた。
この魔人騒動さえ終息すれば。
そして、俺達が二年に進級する頃には、監視網をあと一歩で構築できるところまで進んでいた。
人類の、ひとまずの安寧まで、後一歩まできていた。
だけど、俺達は根本的な勘違いをしていた。
そして、シュトロームについて忘れてしまっていたことがあった。
シュトロームが、かつて王都でなにをしていたのか、ということを。
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