面白そうな街にやってきました
自分の祖母がモテていたという、身内にはキツイ話題が展開された数日後。
俺達は連れ立って、トールの実家の領地にやってきていた。
俺、シシリー、マリアはほぼ同時に、マークはそれより早いが誕生日がやってくる。
魔人が現れて以降、自粛されていた祝宴を実施するとあって、皆プレゼントを購入したいと言い出した。
しかし、ここで問題が一つ。
皆の王都での知名度が爆上がりしたため、王都で買い物をすることが困難になってしまったのだ。
買い物に行きたいが街に出られない。
そんな事態に陥った時、気付いた。
ゲートで他の街に行けばいいじゃん、と。
皆、王都在住なので王都では顔まで知れ渡っているが、これが他の街となると、話は伝わっているが顔まではバレてない。
写真もテレビも無いから当たり前だ。
なので他の街なら歩いて買い物ができる。
この話に女性陣が飛び付き、すぐに訪問する街を選び始めた。
シシリーの領地とユリウスの領地は観光地で、観光客向けのお土産が多いとのことで除外。
マリアのところは、港町で風情もあるけど、これといった名産品がないらしい。
貿易品とかはあるけど、なんか違うんだと。
トールの領地は、生産が盛んな街だと聞いていた。
フレーゲル領の工芸品はそれ自体がブランドだと。
木工、金物、装飾品に衣服、雑貨など。
ほとんどの物にブランド品があり、プレゼント選び以外にも是非訪れたい街なんだそうだ。
最初から選択肢はなかった感じだけど、そうした理由で俺達はフレーゲルの街にきているのだが……。
「女の子達は、街全部を回るつもりなんだろうか……」
「トール。なんて迷惑な街を作ったんだ」
「殿下、さすがに非道すぎませんか?」
「冗談だ。しかし、この街に滞在している間は女性陣と別行動を取りたいところだが……」
「無理ッスよね……」
王都でも有名なブランド品の本店が立ち並ぶフレーゲルの街を前にした女性陣の鼻息が荒い。
その姿を、俺達男性陣は戦々恐々とした面もちで見つめていた。
そんな女性陣に、今回新たに加わった女性が三人いる。
「トールちゃん。一緒に回りましょうね。案内してくれる?」
「カ、カレン姉さん、皆の前ですからちゃん付けはちょっと……」
トールの婚約者で、クレイン男爵家の令嬢、カレン=フォン=クレインさん。
彼女は俺達より二つ年上で、薄茶色でウェーブ掛かった髪が腰まで伸びている、色っぽいおねえさんだ。
そんなおねえさんは、幼少の頃トールのちんまりさに心を奪われ、かなり積極的にトールとの仲をすすめていったらしい。
トールも幼少の頃から可愛がってくれるおねえさんを慕っているし、大変に仲が良さそうだ。
トールは小さい頃の癖でいまだに姉さんと言っているし、カレンさんは成長してもあまり大きくならずちんまりしたままのトールが可愛くて仕方がないらしい。
さっきからカレンさんがトールの後ろから抱き着き、ずっとイチャイチャしている。
皆の前でイチャイチャすることが恥ずかしいらしく、トールはずっと顔を赤くしていた。
赤くしていたのは、イチャイチャしているからだけではない。
実はカレンさんの方が大分背が高く、背の低いトールの後ろから抱き着くと、あるモノがトールの後頭部に当たるのだ。
イチャイチャするのは恥ずかしい。
けど後頭部の嬉し恥ずかしいその感触に、トールは大きな声で文句も言えず、モジモジしていた。
「トールも男だったんだな……」
「シ、シン殿、どういう意味ですか?」
「フフ、意外だったねえ。しっかり者のトール君が、こんな甘えん坊さんだったなんて」
「ト、トニー殿! からかわないで頂きたい!」
「うふふ。皆仲がいいのねえ。トールちゃんと仲良くしてくれてお姉さん嬉しいわあ」
トールが赤くなっていることをからかっていると、カレンさんから嬉しそうな声が掛かった。
「トールちゃんって、殿下の側付きでしょう? 殿下の側を離れる訳にもいかないから同等の友人なんてできないと思ってたの」
「非道いな、オーグ」
「ちょっと待て。なぜ私が責められる」
「い、いえ! 殿下に文句がある訳では御座いません!」
慌てたカレンさんは、トールを後ろから抱きしめたままで、オーグに弁解する。
変な光景だ。
「トールちゃんのお役目も十分に理解しております。ですから、得られないと思っていた対等な友人がこんなにもできたことが嬉しくて」
「カレン姉さん。そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。殿下は心が広いですから」
「……シン。トールはこんなことを言う奴ではなかったんだぞ? どうしてくれる」
「なんで最後の着地点はいっつも俺なんだよ……」
「そうすると収まりがいいのだ」
「そんな理由!?」
「プッ……フフフ」
いつもいつも俺をオチに使う理由が判明したところで、カレンさんが噴き出した。
何かおかしなことしたか?
「凄いわねえ、ウォルフォード君。殿下とそんな風に話せるなんて」
「そうですか?」
「貴方に出会えたお蔭ね。トールちゃんに気安い友人ができたのも、トールちゃんが国の英雄とまで言われるようになったのも」
「友人はそうかもしれませんけど、実力はトールが自分で努力して手に入れたものですよ」
「フフ。そういうことにしておくわ。でも、私は貴方に感謝している。そのことは忘れないでね」
「はあ……」
友人の婚約者からお礼を言われてしまった。
どうにもむず痒いな。
「カレン様の言う通りです。わたくしも、ウォルフォード殿には感謝しております」
「サラさんまで」
そして、今声を掛けて来たのが新たに加わった二人目の女性。
なんと、ユリウスの婚約者である、キャンベル伯爵家令嬢、サラ=フォン=キャンベルさんである。
金髪を頭の上で結わい、切れ長の青い目をしたモデルみたいな体型のお嬢さんである。
キャンベル家は代々優秀な騎士を輩出する家系らしく、サラさんは武門の家の女子としての教育を受けている。
だからだろうか、夫となる男性を立て、自分はユリウスの少し後から付いていくという姿勢を見せている。
その姿勢だけを見れば、昔の武士とその奥方のようにも見える。
二人とも金髪碧眼な上に、ユリウスはゴリマッチョ、サラさんはモデルみたいだから違和感がハンパないけど……。
「我が夫君となられるユリウス殿が、ここまでの勇名を轟かせることができたのは間違いなくウォルフォード殿のお蔭。感謝してもしたりませぬ」
「いやあ。俺としては、ユリウスを導く方向を間違えた気がして仕方ないんだけどね……」
本当なら、クリスねーちゃんとかミッシェルさんの指導を受けて、騎士にしてあげられれば良かったんだけど、魔法学院ではねえ。
結果、マッチョな魔法使いという、違和感の塊が出来上がってしまった。
「それは、その……願わくば騎士として大成してほしかったところではありますが……」
「あ、やっぱり?」
「しかし、それは我儘というもの。本来の目標と違っているとはいえ、英雄と称えられるまでになったのです。ならばその手段など、些末なことで御座います」
「本当にこれで良かったの?」
「はい」
よかった。感謝してくれているらしい。
どうにも堅いのは気になるけど、もうちょっと砕けて話してって言ったら困惑してしまったし、これが彼女の素なのだろう。
「これ、サラ。あまりシン殿を困らせるでない」
「申し訳ありませんユリウス様」
「うむ。シン殿、すまぬな」
「いや、別に気にしてないけど……」
やっぱり武将の夫婦っぽい。
そのやり取りが余計に違和感を増幅させる。
皆は、お堅いなあ。という感想しか持たないらしい。
だが、俺にはどうしても時代劇を金髪の外国人が演じているという風に見えてしまってしょうがない。
これはこういうもの。これはこういうものと自分に言い聞かせ、ユリウスとサラさんのやり取りを見ることにした。
そんな違和感バリバリの会話を聞いていると、最後の三人目の女性が声をあげた。
「あ、あの! な、何で私ここにいるんでしょうか!?」
「だって、リリアだけ除け者って可哀想じゃないか」
「トニー君!? 今日はお買い物に行くって聞いてたんだけど!?」
「お買い物だよ?」
「そ、それはそうかもしれないけど! こ、こんな人達と一緒なんて聞いてないんだけど!?」
「こんな人で悪かったな」
「ヒッ! ち、違います! 違います殿下! こんな『凄い』人達という意味ですう!」
トニーが連れてきた彼女、リリア=ジャクソンさんがオーグに土下座して「御勘弁を!」と涙目になっている。
「冗談だ」
「殿下、あまり彼女をからかわないであげて下さいねえ。彼女、正真正銘の一般人なんですから」
「むう。最近、この面子だと自分が王族だと忘れがちになるな」
「ですから、それはそれで問題ですからね?」
自分が王族だと忘れ、一般人のリリアさんをからかってしまったことを反省しているオーグ。
そりゃあ、王族にそんなことを言われた日には手打ちも覚悟してしまうだろう。
本当に感覚が麻痺してやがる。
「安心してくださいなリリアさん。アウグスト様の悪ふざけですから」
「ほ、本当ですかあ?」
「ええ。後でよく言い聞かせておきますから、ホラ、お立ちになって」
「あ、ありがとうございます、エリザベート様あ」
ガクブルして本気泣きしているリリアさんに、エリーが手を差し伸べた。
グスグスと鼻を鳴らしながら立ち上がったリリアさんに、さすがに女の子を本気で泣かせたのは悪いと思ったのか、オーグが彼女に謝罪した。
「すまなかったなジャクソン。この面子ではいつものやり取りだったのでな。つい、いつも通りの対応をしてしまった。許せ」
「め! めめめめ滅相も御座いません! おおおお気になさらないで下さい」
こういう反応は新鮮だなあ。
普段、オーグが王族として敬われている所を見ないからな。
「でもリリアさん。リリアさんも慣れておいた方が良いですよ?」
「こ、今度は聖女様!? え? 慣れたほうがいい?」
この面子に恐縮しきりなリリアさんに、シシリーが慣れておけという。
「だって、学院を卒業した後もアルティメット・マジシャンズは続くんですよ?」
「は、はあ……」
「リリアさんがトニーさんと結婚したら、私達とも、つ、妻同士の交流が生まれるじゃないですか」
「け! けけけ!?」
「け?」
「結婚!?」
「ええ」
妻って所で、ちょっと恥ずかしくなって言い淀んだシシリー可愛い。
じゃなくて。
そうか、その内この面子と関わり合いになるのだから、今の内に慣れておいた方がいいのか。
「そ、そんな、結婚なんて! 私、まだ学生です! 早すぎます!」
「そうですか? トニーさんならもう結婚して良いのでは? アールスハイドの英雄ですし、例の武器の収入が凄いって聞いてますけど」
「え? そうなんですか?」
「シン君、毎月幾らくらい入ってるんですか?」
「さあ? 最近、口座見てないわ」
「シン君……」
あ、シシリーに呆れられてしまった。
「もう。もうちょっと自分の資産に興味を持って下さい。溜め込んでいるだけではいけないんですよ?」
「そうなの?」
「そうです」
作る方が楽しくて、収入については一切興味がなかったからなあ。
使う予定も暇もなかったし。
これから通信事業も立ち上げるんだし、その辺かんがえないと。
「それでトニーさん。どれくらいですか?」
「一般的な年収位だねえ」
「ほ、ほら! やっぱりまだ早いじゃないですか!」
ん? 一般的な年収があれば十分結婚生活は送れると思うんだけど。
最初にシシリーが凄い収入って言ったから変な思い違いをしてるっぽいなあ。
「それは年で?」
「月で」
「え?」
あ、月収が一般的な年収位あるって聞いてリリアさんが固まった。
っていうか、そんなに入ってたのか。
「耐久性を落とした量産品だからねえ。結構な納品が毎月あるらしいよ」
「そうなのか?」
「シン君……」
また呆れられてしまった。
「ですから、結婚することに支障はないはずですよ」
「で、でも……結婚なんてまだ先の話だと思ってましたし……急にそんな……」
まあ、普通そうだよなあ。
「シシリーさん。私達と一緒にしてはいけませんわ。彼らには彼らのペースがあるんですから」
「あ、そうですねエリーさん。最近エリーさんとそんな話ばかりしてましたからつい……」
最近よく一緒にいるエリーは、自分と一緒に式を挙げる仲間だからな。
他の女子も同じような目で見ていたのだろう。
それに、リリアさんが戸惑うのも分かる。
高等学院に行かずに自立した者は早い段階で結婚するケースもあるみたいだけど、それもレアケース。
どんな職業に就いても、最初は見習いで給料が少ないからだ。
通常、結婚を意識し出すのは二十歳前後が多いと聞く。
まだ十五か十六のリリアさんにとって、結婚はまだまだ先の話なのが一般的なのだ。
それに、リリアさんは高等経法学院生だという。
将来、キャリアウーマンとして生きていく未来もあるのだ。
見た目も、赤い髪をポニーテールにし、眼鏡をかけて真面目っぽい。
チャラそうなトニーと並ぶと似合わないことこの上ないな。
これは、委員長が不良とくっついちゃう的なあれか?
「リリアさんは、見た目からしてキャリアを積むことを望んでいるようですし」
「見た目?」
「メリダ様の模倣でしょう? その格好」
「ばあちゃんの?」
どういうこっちゃ。
「は、はい! その通りです!」
リリアさんも、嬉しそうに肯定してるし。
「経法学院の女子生徒に多いですわね。ポニーテールに眼鏡のスタイル。特に赤髪の子はほとんどそうだと伺いますわ」
「はい! 赤髪でラッキーです!」
「あ、それってばあちゃんの真似なの?」
「え? ウォルフォードさん、知らなかったんですか?」
知らんよ。
皆は知りすぎだと思う。
「シンはねえ、賢者様と導師様が英雄だったことすら知らされてなかったんだよ。普通の祖父と祖母として育てられたのさ」
「へえ、そうだったんだ」
そうなんです。
「導師様は、女性でありながら民衆の生活を豊かにするための魔道具を沢山お作りになり、アールスハイドだけでなく、世界中から尊敬を集めています。将来社会進出を考えている女子の憧れの的なんです」
「そこでも憧れられてるのか」
「はい。その導師様が特にご活躍されていた頃の絵姿というのが、赤い髪をポニーテールにして眼鏡をかけた大変に凛としたお姿で描かれています」
「へえ」
「へえって……それすら見たことないんですか?」
「あー……一回見たような……」
「クルトの書店で見ましたよ。その後騒ぎになったので覚えてないかもしれませんけど」
ああ、そうだった。シシリーの補足で思い出した。
書店の軒先に、誰だコレ? っていう絵が飾られてた。
「せめて見た目だけでもあやかろうとして、導師様と同じスタイルにする女子は多いんです」
「目が悪くないのに、伊達眼鏡をかける人もいるらしいですわ」
「リリアさんも?」
「私のには度が入ってます!」
なんか、メッチャ怒られた。
度が入ってるかいないかは重要なことらしい。
「私は赤髪で眼鏡にも度が入ってます。これはもう、私が導師様の後継者と言っても過言ではありません!」
「いや……目の悪い赤髪の子って、どんだけいると思ってんだよ……」
ばあちゃんをリスペクトし過ぎだろ……。
「後継者? そういえば、ユーリって『導師様の後継者』って言われてるよね?」
そんなばあちゃん信者のリリアさんに向けて、アリスが爆弾を放り投げた。
「ど、導師様の後継者……?」
ギギギ……と、油の切れたロボットみたいな動きで、リリアさんがユーリを見た。
「あ……あはは……えーっと、そう言われちゃってるかなぁ?」
若干ヤバめの視線を受けて、ユーリも引いてる。
そしてリリアさんは、その答えを聞き、がっくりと膝を付いた。
「そ……そんな……私こそ……私こそ導師様の後継者と言われるはずだったのに……」
呆然自失といった感じだ。
そんなにユーリにばあちゃんの後継者の称号を持っていかれたのがショックなのだろうか?
「ユーリは魔道具制作に才能がある。導師様もお認めになってる。今、魔人領の魔物討伐に貸し出されてる攻撃用魔道具もユーリが作った。後継者で間違いない」
リンがリリアさんにトドメを刺した。
そんなに懇切丁寧にトドメを刺さなくても……。
「ウォルフォードさん! なんでウォルフォードさんが攻撃用魔道具を作らなかったんですか!? お孫さんで、すでに一杯称号持ってるウォルフォードさんなら、導師様の後継者の称号は与えられなかったのに!」
「なんで俺に責任転嫁してんだよ!」
必死すぎて引くわ!
「ウォルフォード君が攻撃用魔道具を作ったら……想像したくない」
「そんなもの、一般兵に貸し出せる訳がないじゃないですか」
「今度は、その魔道具を手にした者が世界征服を企むようになるぞ。そんなモノ、作らせる訳にも、ましてや貸与など考えられん」
「そ、そんなにですか?」
リンは考えることを拒否し、トールは何を馬鹿なことをと言い放ち、オーグは新たな危機が起こることを警鐘した。
その意見に、リリアさんが目を白黒させている。
っていうか、皆の認識が非道い。
「リリア。シンが攻撃用魔道具を作るということはね……世界を滅ぼすほどの大量破壊兵器を作るのと同意義なんだよ」
「た、大量破壊兵器……」
「そんなもん、作らねえよ!」
トニーが、自分の彼女に諭すように説明する。
その説明を聞き、唾を呑むリリアさん。
ああもう、信じちゃったじゃないか!
「『作れない』ではなく『作らない』なのですね……」
「おいシン。本当にやめろよ? これはフリじゃないからな。フリじゃないからな!」
トールが俺の言葉を読み解いてしまった。
そして、ここ最近よく見る必死なオーグをまた見てしまった。
大量破壊兵器。
作れるか作れないかっていえば。
『作れる』
俺のなんちゃって科学知識でここまで絶大な威力が出せる魔法。
禁断の武器も作ろうと思えば作れる。
しかも、指向性という物理法則を無視した現象も起こせる。
だけど、これを作ってしまうと、本気で『破壊の魔王』の称号を得てしまうかもしれない。
冗談ではなく、本当に世界を破壊しかねない。
だから『作れる』けど『作らない』。
これは、心に決めていることだ。
「安心しろよオーグ。俺がその魔道具を作ることは絶対にない。絶対に」
「信じてるからな」
「ああ」
オーグに誓ったことで、この話題は終了だ。
あまり外でしていい話題でもないしな。
そんな危ない話題の終了を感じたのか、リリアさんが悔しそうな顔で呟いた。
「くそう……そりゃ魔道具制作者の方が有利よね……魔法の才能がない自分が憎い……」
「あ、あはは……」
ユーリも苦笑いしか出てこない。
一般人っぽかったのになあ……。
「そ、それで皆さんどうしますか? やはり男性陣、女性陣で分かれますか?」
「私はトールちゃんと一緒よ」
「わ、分かりましたよカレン姉さん。それで、皆さんは?」
変な空気になってしまったのを軌道修正しようと、街を周るメンバーを決めようというトール。
トールはカレンさんと一緒に回るらしい。
ここはトールの実家の領地だし、できれば案内して欲しかったんだけど、仲のいい婚約者と一緒のところを邪魔するのも悪い。
ここは大人しく行かせてあげよう。
「私は……シン君にはプレゼントの中身は内緒にしたいので、別行動を取りたいです」
シシリーは俺と別行動希望と。
そうなると。
「なら私がシシリーと一緒に回るわ。毎年、お互いのプレゼントを一緒に買いに行ってるしね」
マリアはシシリーと一緒がいいらしい。
「なら私はアウグスト様と回りますわ。メイもいらっしゃい」
「ハイです!」
「そ、そうか。メイも一緒か」
「何かご不満でも?」
「いや。大丈夫だ」
オーグの奴、女子二人に振り回される未来を予想したな。
先日は、ジュリアおばさんとメイちゃんのタクシーに使われたらしいし、最近エリーの尻に敷かれている気配もする。
やっぱり、この国の女性は強い人が多いのだろうか?
筆頭がばあちゃんだし……。
「自分らも二人で回るッス」
「マークのプレゼントも一緒に買うので」
オリビアはプレゼントを当人と一緒に買いに行くらしい。
なんか、お付き合い上級者って感じだな。
「今日は悪いけど二人がいいなあ」
「トニー君……」
トニーはリリアさんと一緒と。
「拙者も、久方ぶりにサラと街を巡るで御座る」
「ユリウス様……嬉しゅうございます」
ユリウスもサラさんと一緒と。
「あたし達は三人で回るよ」
「それでいい」
「フフ。作戦の時と同じねぇ」
アリス、リン、ユーリが一緒になる。
となると……。
「あれ? 俺、あぶれた?」
俺が一人あぶれてしまった。
「ウチのグループに入れてあげよっか?」
「いや、女子ばっかのグループは気疲れしそうだし、変な誤解を生んでも困るから……」
アリスに誘われたけど、女子三人のグループに男が一人混じってるとあらぬ誤解を生みそうなのでお断りした。
「な、ならシン、私と共に行かぬか?」
「いやあ、俺が割り込んじゃうとエリーに悪いよ。メイちゃんもたまにはオーグに甘えたいだろうし」
「フフ、シン様、お気遣いありがたく受け取りますわ」
「今日はお兄様におごってもらうです!」
何とか俺を引き込もうとしたオーグの提案を、エリーとメイちゃんを理由にして断る。
っていうか、言い訳じゃなく、俺が割り込むとエリーの機嫌がどうなるかわかったもんじゃない。
「シン……お前……」
「悪いなオーグ。俺にそこに割り込む勇気はない」
「くっ……」
オーグが悔しそうな顔をする。
女子二人に振り回されるがいい。
でもそうなると、後はカップルばっかりなので、俺の身の置き場がない。
「しょうがない。一人で回るか」
たまには身軽でいいかもしれないな。
工芸の街だと言うし、何か魔道具のヒントになるものがあるかもしれないしな。
「シ、シンを一人でこの街に放つのか……」
「心配ですわ。また良からぬ魔道具のアイデアを思いつきそうで」
「シン殿、自重して下さいね! 街の職人から仕事を奪わないで下さいね!」
オーグとエリーはともかく、トールが必死に自重を求めてくる。
「安心しろって。そんなことにはならないように気を付けるから」
「やっぱり何か企んでるじゃないですか!」
そんなに心配しなくても、最近はその辺も考えてるって。
街を周る割り振りを決めた後は、合流についても確認した。
その間も、トールがしつこく念を押してきていた。
よし、早速街に出てみることにしよう。
「じゃあねシシリー、また後で。プレゼント楽しみにしてて」
「あ、はい!」
「シン殿! 絶対、絶対自重して下さいよ!」
カレンさんに抱き留められて追いすがれないトールの叫びを聞きながらその場を後にした。
さて、プレゼントと魔道具のアイデアを探しに行きますか。
「シン殿おおおお!」