ばあちゃん最強説が浮上しました
所用が終わりましたので、更新ペースを元に戻します。
週一位で投稿できるように頑張りますので、よろしくお願いします。
後、活動報告に近況を載せました。
話が大きくなっている……
オーグの提案により、ウチで俺、シシリー、マリアの合同誕生日をすることになった。
そのことをウチの使用人さんに伝えて準備をしてもらうために、皆で俺の家にゲートで移動した。
「お帰りシン。意外と早かったのう」
「なんだい、大勢引き連れて」
「ただいま、じいちゃんばあちゃん」
家に着くと、リビングにいた爺さんとばあちゃんが俺達を出迎えてくれた。
「はい、お帰り。それはそうと殿下。ウチの前なんとかならないかい? これじゃあウチの使用人たちも外に出られやしないよ」
そう言って窓の外を見ると、さっき俺が見た光景がある。
ウチの前に沢山の人だかりができており、門から外に出ることができない。
使用人さん達は、基本裏口から出ていくけど、どうもそこにも人が大勢集まってるらしい。
「分かりました。至急対処します」
「後でいいから、頼んだよ。それで、こんなに大勢でどうしたんだい?」
王太子であるはずのオーグにばあちゃんが申し伝えをするという、知らない人が見たら異様な光景の後、なんで俺たちがゾロゾロと連れ立って家にきたのか聞いてきた。
「来月さ、俺の誕生日あるじゃない」
「ああ、あるねえ」
「シシリーがさ、俺と誕生日一緒なんだって。マリアも近いっていうし、なら一緒にやろうかって話になって」
「へえ、そうだったのかい」
ばあちゃんはシシリーが俺と同じ誕生日であったことに驚いている。
「で、多分ディスおじさんとかミッシェルさんとかトムおじさんとかくるでしょ? ならウチでやった方が良いと思ってさ。準備に時間が掛かるだろうからお願いしとこうって話になったんだ」
「ウチは別に構いやしないけどねえ。アンタ達は家でやらなくて大丈夫なのかい?」
ばあちゃんは、ウチで誕生日パーティをやるのはいいとして、シシリーとマリアの家は大丈夫なのかと聞いた。
貴族だし、自分達で誕生日を祝わないと周りから侮られたりするんだろうか?
「大丈夫です。というか、シン君と同じ誕生日でそれをウォルフォード家で祝って頂けるなんて、こちらを選ばなかったら、逆に奇異の目で見られてしまいます」
「そうですね。多分、羨ましがられると思います」
「それに、シン君の誕生日ですから陛下は間違いなくこられますよね。ウチの使用人達には少々酷かと……」
「ウチもそうです。陛下をお迎えするプレッシャーに負けます」
シシリーとマリアの家にディスおじさんを迎えることは、相当大きなプレッシャーになるらしい。
その点、ウチは本当にしょっちゅうディスおじさんがいる。
使用人さん達も随分慣れてしまい、たまにぞんざいな扱いを受けていることもある。
でもディスおじさんは怒ったりせず、全く気にするそぶりすら見せない。
ここには、完全に気を抜きにきてるよな。
風呂上がりに冷たいエールを呑んで、酔っ払ってリビングのソファーで寝てる姿もよく見る。
だから、どうしても親戚の叔父さん以外の何者にも見えないんだけど、他の人にとってはそうでないらしい。
アールスハイドという大国のトップ。国を富ませ、それを自分達の私欲のために使うのではなく、民衆に還元し、さらに発展させる名君として認識されている。
というのを王都にきて初めて知った。
「というわけで、ウチならディスおじさんがきても大丈夫でしょ?」
「まったくあの子は。ウチを慰安所かなにかと勘違いしてるんじゃないかい?」
「も、申し訳ございません……父にはきつく言っておきますので」
一国の……それも大国の国王をあの子扱いか……。
魔法師団長のオルグランさんもばあちゃんに頭が上がらない様子だったし、さっきの様子を見るにオーグもそうだ。
ひょっとして、この国でばあちゃんに逆らえる人間なんていないんじゃないか?
「それにしても、ディスおじさんってウチで気を抜きすぎだよね」
「あの子とは、もう二十年以上の付き合いになるからねえ。遠慮なんてあるはずもないよ」
「ばあちゃんも、遠慮ないよね? いくら昔一緒に旅をしてたって言っても、普通王族の人にはもっと気を遣うもんじゃないの?」
俺がそう言うと、皆ギョッとした目で俺を見た。
え? 何?
「シ、シン君! お熱! お熱はありませんか!?」
「これは重症だな。クロード、シンを寝室に寝かしつけてこい」
「はい! 分かりました!」
「まったく、具合が悪いならそう言え。無理をするな」
「ちょっと待てえ! 何? シシリーまで何言ってんの!?」
具合が悪いってなんだ!?
「だって……シン君が王族に気を遣うって……そんなところ見たことないです!」
「まったくだな。シンと一緒にいると自分が王族だということを忘れそうになるというのに」
「アウグスト様。それはそれで問題ですからね?」
そういうことか。
普段王族に気を遣ってない俺が、王族には気を遣うものだって言ったから熱があるんじゃないかと思われたと。
……それは非道い……。
俺がディスおじさん達に対する態度って理由があるのに。
「いや、俺と二人じゃ出発点が違うじゃん。だから言ってんの」
「出発点?」
「そう。俺はさ、去年の誕生日までディスおじさんが王様だって知らなかったからね? たまに遊びにくる親戚の叔父さんだと本気で思ってたんだ。ディスおじさんもそういう接し方してきてたし」
俺はずっとディスおじさんを親戚の叔父さんだと思ってた。
だからオーグやメイちゃんのことも従兄弟にしか思えない。
でも……。
「でも二人は違うじゃん? 会った時には王太子だったんだろ? ディスおじさん」
「そういうことか。驚かすな」
「勝手に驚いたのそっちだからな!?」
「私も心配しました。シン君が病気になっちゃったって……」
うん。心配してくれるのは嬉しいけど、その判断基準はどうなの?
そう思われちゃう行動してる自分が悪いんだけどさ。
そんなことを考えていると、ばあちゃんがディスおじさんのことを話し出した。
「最初はねえ、アタシの住んでる国の王太子だし、それなりの対応をしてたんだけどね。一緒に旅をする内に、アタシのことを師匠って呼ぶようになってから、今みたいな関係になっちまったのさ」
「ああ。だから、ディスおじさんはばあちゃんのことを『メリダ師』って呼ぶんだ」
「そういうことさね」
ん? でもそうなると……。
「何でじいちゃんのことは『マーリン師』じゃなくて、『マーリン殿』なの?」
「ワシは昔、人にものを教えるのが苦手でのお。一緒に旅をしておった子らの指導は全部メリダがしておったのじゃよ」
「へえ、意外。俺にはちゃんと教えてくれたのに」
そう言うと、ばあちゃんがため息を吐いた。
「この爺さんはねえ、昔教えを請われた時に『魔力を大量に集めて、適当にイメージしてブッ放せ!』って言いやがったからねえ」
「じいちゃん……」
「ほっほ……若気の至りじゃ……」
爺さんが気まずそうに視線を逸らす。
「で、でも、シン君を教えたのはお爺様ですよね? やっぱり凄いです!」
シシリーが爺さんをフォローしてる。
フォローしてもらえた爺さんが感動してるな。
「気を遣ってくれてありがとう、シシリーさん。まあ、シンは赤子から育てたからの。一から順番に教えることで、ワシも教え方を学んだのじゃよ」
「そうだったんだ」
ある程度育ってる人を教えられるようになったのは最近なのか。
それよりも、その前に何か気になることを言ったな。
「『子ら』って? 一緒に旅をしてたのってディスおじさんだけじゃないの?」
「最初付いてきたのはディセウムだけだったよ。でも途中で二人ほど拾ってねえ。一緒に旅をしながら鍛えてあげてたのさ」
「へえ」
「さて、昔話はこれくらいにして誕生日会のことを決めようかね」
「そうですね。さっきもシンが言いましたが、場所はこの家のホールを使わせてもらうということで」
「ああ、それは構いやしないよ」
「三家合同の誕生会ですから、それなりの規模になると思います。ですので招待客の選別もしないといけませんね」
「招待客なんざ呼ばないよ」
「え?」
オーグが招待客の選別をと言ったことに対して、ばあちゃんは真向から反対した。
っていうか、招待客ってなに?
「シン。アンタは心配しなくていいよ。招待客を呼ばないといけないのはお貴族様の話だ。アタシらみたいな平民はそんなことする必要はありゃしないよ」
「そうなんだ。よかった」
「もし、招待客を呼ばないといけないなら、この話はなしだよ。それでもいいのかい?」
あ、そうか。シシリーとマリアは貴族だ。招待客を呼ばないとマズイか?
「構いません。あまり知らない人が大勢くるのは、正直苦手でしたし」
「それでも愛想を振りまいてないといけないから面倒なのよねえ」
シシリーとマリアは問題ないみたいだけど、家としてはどうなんだろ。
「セシルさん達が困ったことにならない? 大丈夫?」
「お婆様が招待客を呼ぶことに反対しているとなれば、皆さん納得しますよ」
「そうね。誰も文句言わないとおもうわ」
……ばあちゃんの影響力ってどんだけすごいんだろ……。
「それじゃあ、本当に身近な人間だけ呼ぶことにして、それ以外の招待客はなしでいいね?」
「は、はあ……ではそのように」
オーグが簡単に押し切られた。
「と言っても、ウチは知り合いが少ないからねえ。ディセウムとジークにクリス、後はミッシェルとトムくらいかねえ」
結局、去年の誕生日と同じメンツだな。
「それで十分凄いですけどね……」
「シシリー、ウォルフォード家に普通を求めちゃだめよ」
マリアが失礼なこと言ってる。言っとくけど、元は爺さんとばあちゃんの知り合いだからね。
「私のところは親族だけにします。そのメンツで失礼があってはいけないので」
「ウチもそうするわ」
シシリーとマリアに気を遣わせちゃったけど、俺の知り合いって、ここにいるメンツを除くとそれくらいだからなあ。
ウォルフォード商会を切り盛りしているロイスさんはシシリーのお兄さんだし。
あ、そうなるとアリスのお父さんのグレンさんも呼ばないと。
「それでも結構な規模になるねえ。大丈夫なのかい? そんなに派手に祝い事をやって」
「大丈夫でしょう。最大の脅威である魔人は討伐しました。残る魔人に交戦の意思は無いみたいですし、残っているのは増えた魔物の間引き位です。そろそろ祝い事の自粛も解禁し始めるでしょう。そもそも自主的に行っていることですし」
「ならいいんだけどねえ」
なんだろう? ばあちゃんのそれならいいというセリフには、派手な祝い事をしてもいいというだけではない感じかした。
「ばあちゃん。なにか心配事でもあるの?」
「ああ……いや、考えすぎならそれでいいんだけどねえ……」
ちょっと言い辛そうにした後、ばあちゃんが口を開いた。
「魔人は……シュトロームは本当に攻めてこないのかい?」
ばあちゃんは、根本的な問題を口にした。
「討伐した魔人は確かにそう言いました。シュトロームは帝国を滅ぼした後、やる気をなくしたと」
「シュトロームの目的は帝国を滅ぼすこと、それを達成した後は目標がなくなった……か」
ばあちゃんの言葉の歯切れが悪い。
「それで本当におとなしくなるのかねえ……」
それは……俺たちの願望も含めての見解だ。
魔人が存在していることは不安だが、敵意がないのならこれ以上騒動が起こらないでほしいという。
「確かに、もうこれ以上魔人が攻めてこないという確証があるわけではありません。しかし、今回の一連の騒動にはシュトロームは関わっていなかった。それも事実です」
「確かにそうなんだろうけどね……」
どうにも信用しきれていない感じだな。
ひょっとして、あのことと関係があるのだろうか。
「ばあちゃん。ひょっとしてさ、過去の魔人のことで何か気になることがあるの?」
俺がそう言うと、ばあちゃんだけでなく爺さんも暗い顔をした。
「そうさのう……もう話してもいいのかもしれんの」
「そうだね……知っておいた方がいいのかもしれないね」
爺さんとばあちゃんはそう前置きした。
それって……。
「もしかして……」
「ああ」
「過去の魔人のことじゃ」
魔人について話し始めた。