情報操作は恐ろしいと思いました
投稿再開します。
ただ、これから少しの間、投稿間隔が開きます。
なるべく早く元の投稿間隔に戻します。
気長にお待ちください。
今回の作戦に従軍していた学生達と共に、俺達は戦場を離れることになった。
徒歩で帰還する各学院生に先んじて、俺達はアールスハイド王城にゲートで戻ることにした。
学生達にはアールスハイド軍の一部がついてくれるとのことで、先に帰ってディスおじさんに報告しろと言われたのだ。
いつもの警備兵詰所にゲートで移動した俺達を、兵士さん達が出迎えてくれた。
その兵士さん達から、俺達が魔人を討伐したことを賞賛されたのだが、それと同時に民衆が爺さんとばあちゃんの話で盛り上がっていると聞かされた。
魔人がアールスハイドに迫り、それを爺さんとばあちゃんが討伐したことが世に知られていたのだ。
「……これ、マズくね?」
「そうだな……民衆は、私達が魔人を取り逃がしてしまったことを知ってしまったようだ……」
「導師様の話じゃあ、民衆は魔人を取り逃がしたことを問題視するかもしれないって言ってたじゃん! どうするの!? あたし達責められちゃうの!?」
アリスの懸念はもっともだ。
折角魔人を討伐したのに、責められるのは……。
失敗したのは俺達だけどさ。
とりあえず、王城にいるディスおじさんに報告しに行こう。
そこで、多分怒られるんだろうけどな……。
全員が憂鬱な気分のまま、先導してくれる兵士さんについていった。
アールスハイドに戻る前に連絡を入れていたので、真っ直ぐ謁見の間に通された。
着替えもせず、戦闘服のままだったけど……いいのか?
そんな疑問が頭をよぎるが、既に謁見の間に到着してしまった。
そして、大きな扉が開いた時……。
大きな拍手によって迎えられた。
「よくぞ戻った。世界を救った英雄たちよ!」
玉座にはすでにディスおじさんがおり、立ち上がって俺達を出迎え、近くに来るように申し付けた。
その声に従い、玉座に近付いていく。
その間、ずっと拍手は鳴りやまなかった。
(ど、どうなってんの?)
(分からん。もしかして、我らが魔人を取り逃がしたことは問題視されていないのか?)
怒られると思って謁見の間に行ったら、予想外に歓迎された。
若干混乱しながら小声でオーグと話すが、今回のことが特に問題視されてないとしか考えられない。
くそ、ばあちゃんめ。脅すようなことを言いやがって。
口に出しては言えないので、心で叫ぶ。
そして玉座に近付き、膝をついたところでディスおじさんからの言葉を受けた。
「アウグスト、シン=ウォルフォード、他の者もよくやった。襲撃を企てた魔人どもを殲滅したこと、比類なき功績である。誉めてつかわす」
「は。ありがとうございます。しかし、我らは最後の詰めを誤りました。その結果、皆を危険に晒してしまうところでございました。とても褒められるものでは御座いません」
ディスおじさんが褒めてくれるけど、オーグは最後に判断ミスを繰り返したことで、自分達は賞賛に値しないと思っている。俺だってそうだ。
反省点ばっかりの戦場デビューで、相当凹んでる。
「気にするでないわ。お前達が取り逃がした魔人どもを賢者殿と導師殿が討伐した。過去の英雄は今も英雄だったと、民衆を喜ばせる結果になっておる。誰もおぬしらを責めたりする者などおりはせんよ」
え? 皆怒ってないの?
そう思って周りを見ると皆笑顔で、責めるような視線を投げかける者はいなかった。
最後に魔人にとどめを刺したのが爺さんだったから、皆そっちに意識が行って、俺達の失敗が大きく映らなかったのだろうか?
責められなくてちょっとホッとしたけど……これで許されたとは思ってない。
俺達が失敗したことは事実だし、これは完全な結果オーライだ。
このことを責められなかったとしても、忘れてしまうことなどできない。
まだまだ勉強しないといけないことが沢山あるなあ……。
「それで、褒美なのだが、もうこれ以上の勲章はないのでな。もう少し待って欲しいのだが……」
「陛下。我々は今回、軍事行動の一環として従軍いたしました。もし褒美を出されるなら皆平等に。我らだけ特別扱いをされないよう願います」
ディスおじさんの申し出をオーグが拒否した。
正直、俺らが出張ったのって、最後の魔人戦だけだからな。
それで勲章とか褒美とか言われても困ってしまう。
一番の功績は、今も魔人領で魔物を討伐している軍の皆さんの方なのだから。
「そうか。あい分かった。軍が戻り次第、従軍した全ての兵に報奨金を出そう。それと交代での休暇だな。皆、胸を張れ! お前達は、世界を救った英雄なのだからな!」
その言葉をもって、ディスおじさんへの報告は終わった。
謁見の間を後にし、オーグの部屋に集まった俺達は、ディスおじさんの言った、誰も俺達の事を責めていないという言葉が本当なのかどうか話し合っていた。
「父上があの場で嘘を言う理由などないだろう。参列していた文官・武官・貴族にまで賞賛されたのだ。民衆も同じようなものだと考えていいのではないか?」
「でも、ディスおじさんが俺達を安心させるためにそう言っただけかもしれないじゃないか」
「それはないだろう」
オーグがキッパリ言い切った。
「むしろ、詳細を知っているのは、先程の謁見の間にいた参列者達の方だ。それでも賞賛されたのだから大丈夫だろ」
そうか。国の上層部にいる人の方が詳しい話は知っているか。
その上で民衆が知っているとなると、ひょっとしたら事実と若干違うことが流布されているのかもしれないな。
それでも、自分の目で見てみないことには信用しきれなかった俺は、一人で街に行き街の様子を探ってくることにした。
マントなしで光学迷彩が使えるのが俺だけだし、皆で行くと間違いなくはぐれるからな。
お互いの姿も見えなくなるんだし。
街に行くと、街の人は爺さんとばあちゃんが魔人と戦った話と、俺達が魔人の集団を殲滅したという話で盛り上がっていた。
店舗には『アルティメット・マジシャンズ魔人討伐記念セール』と書かれた横断幕があちこちに掲げられていたし、ウォルフォード商会は、俺がオーナーの店として大繁盛していた。
特にエクスチェンジソードとジェットブーツは飛ぶように売れていた。
通信機があるので、連日の作戦の様子がアールスハイドに報道されていたのだろう。
エクスチェンジソードはともかく、ジェットブーツが広まるのはいいことだ。
この騒動が完全に終息したあとに、皆に娯楽を提供できるかもしれないからな。
そして、俺ん家にも様子を見に行ったのだが……。
家には近付けなかった。
家の前の通りは全て人で埋まっており、完全に通行止めになっている。
なんて近所迷惑な。
警備隊の人達が出張ってきていて、交通整理がされている。
門の前で立ち止まらないように、そしてこれ以上通りに人が入らないように制限されている。
遠目で見ると、門の前でアレックスさん達警備担当者の皆さんが、必死に対応していた。
申し訳ないけど、頑張って!
その後も街をブラブラし、マークとオリビアの実家の店などを覗いてみたりしたが、俺達を責める言葉は一つも聞こえてこない。
それどころか、俺達が魔人を討伐したことに対する賞賛の声だけしか聞こえてこなかった。
その民衆の間に流れている話を簡単に説明すると。
俺達が魔人を取り逃がしたのではなく、どうやってか襲撃を事前に察知して逃げ出した魔人を、爺さん達が察知し討伐したという話になっていた。
爺さん達が魔人の襲来を察知したのは、賢者様だから。という理由で皆納得していた。
詳しい理由は分からないけれど、賢者様なら迫る魔人を察知する力があってもおかしくない。
そんな感じだった。
英雄信仰が行き過ぎて、爺さん達ならなんでもアリだと思ってるな、コレ。
現実にあった、先走った者がいたこと。
俺達がそれに気付かず、魔人を取り逃がしたこと。
その後の追跡でミスを犯しまくったことなどは、一切伝わっていない。
民衆に不安を植え付けるのではなく、その不安を取り払うためにわざとそういう風に説明したんだろうな。
こうやって民衆は、嘘ではないけど真実ではない話を聞かされていくのか。
最終的な結果は同じだが途中経過が違うことでまったく印象が違ってしまう。
これが情報操作か……。
街での情報収集を終えた俺は、人気のない路地裏でゲートを開き、オーグの部屋に戻った。
「あ! シンお兄ちゃん、おかえりなさいです!」
そこにはメイちゃんが来ており、全力の熱烈歓迎を受けた。
「ゲフッ! ひ、久しぶり……メイちゃん」
「はいです!」
満面の笑みで挨拶するメイちゃん。
お兄さんの俺は、ここで膝をつく訳にはいかない。
たとえ、メイちゃんの魔法技術が上がり、身体強化されたタックルを受けたとしても!
「お久しぶりですわ、シンさん」
「あ、ああ。久しぶりエリー」
オーグの婚約者であるエリーも来ており、メイちゃんを抱え、膝をカクカクさせながら挨拶を返す。
「どうだった? 大丈夫だろう?」
「ああ、大丈夫だけど大丈夫じゃないような……」
「どういうことだ?」
オーグの問いかけに、俺は今街で見てきたことを話した。
すると皆は、段々ゲッソリとした顔になっていった。
「そ……そんな騒ぎになってんの?」
「もう、本当に街歩けないじゃん!」
マリアとアリスの言葉が全てだろう。
前から出歩き難くなってはいたけど、今回の件でダメ押しな感じだ。
懸念していたこととは違うけど、もう気軽に出歩けないかも。
「情報操作って恐ろしいな……罵倒されることを覚悟してたら英雄に祭り上げられてたよ」
「み、店は? うちの店はどうでした?」
「石窯亭? 大行列だったよ。そんで皆、オリビアがいなくてガッカリして店出てくるんだよ。戻ってきたばっかりですぐに店に出てる訳ないのにな。店から出てきた客は悔しいんだろうな、並んでる客にはそのこと伝えないで、どんどんガッカリな客が増えるという……」
「それって……私が店に出ないといけないってことですか?」
「そうだな……オリビアがあそこの店の娘でウエイトレスやってるって、皆知ってるからな……」
公に所在が明らかになっているのはオリビア位だ。
だから皆集まってきていたんだな。
近くにあったビーン工房は、いつもより賑わってたけど、それほどでもなかったもの。
「オリビア……がんば!」
「うふふ、頑張れぇ。オリビア」
「アリスさんもユーリさんも、他人事だと思ってえ!」
これは、少しの間だけでもオリビアには店に出てもらわないと客が騒ぎ出すかも。
でも混乱が大きくなるようなら、もう店には出ませんって告知してもらわないといけないな。
「ゲートを覚えておいて良かったな。まさかここまでの騒ぎになるとは思いもしなかった」
「そうなると……私だけ浮いてしまいますわね……」
「どういうことだ? エリー」
エリーが何か心配事があるような感じで溜め息を吐く。
エリーだけ浮く?
「結婚式ですわ。魔人騒動も終結したことですし、執り行うでしょう?」
確かにそういう話になってるけど、エカテリーナ教皇とも直々に挨拶したし、なんの問題もないと思うけど……。
「だって、新郎新婦のうち、私だけアルティメット・マジシャンズではないじゃありませんか」
「なんだ、そんなことか」
「そんなことではありませんわ! 皆さまは国の……いいえ、世界の英雄です。それなのに私ときたら……」
ええ? そんなこと気にしていたのか?
いや……王太子妃になる人に、そんな英雄的要素は皆期待していないと思うけど……。
「エリーさん。気にし過ぎですよ。エリーさんは誰もが羨む、王子様のお嫁さんになるんですよ? それだけで十分特別じゃないですか」
「そ、そうかしら?」
シシリーの説得でエリーの懸念が払拭されつつある。
俺の時もそうだけど、シシリーに諭されるとつい納得してしまうんだよな。
「そうですよ。だから堂々と、一緒にお式を挙げましょう」
「シシリーさん……ええ、分かりましたわ。ありがとう」
あ、説得された。
それにしても、よくよく考えたら王太子妃だもんな。
将来は王妃だ。
今でさえ公爵令嬢なのに、そんな人間が特別でないなんてある訳ないよ。
ご時世によっては、そちらの御成婚フィーバーが起こってもおかしくない。
何を心配していたのやら。
そのまま二人は、ドレスがどうとか、教皇猊下に執り行って頂けるなんて~とか、式に向けての期待をお互いに話しあっている。
「やれやれ、まさかそんな懸念を持っていたとはな」
「俺もビックリした。普通ならそんなこと考えるような立場じゃないもんな」
「色々特殊すぎだな……私達は」
「何となく分かる」
この国にきた当初は、こんなことになるなんて夢にも思ってなかった。
山奥で育った俺は、世間一般の常識を知るためと友達作りの為に王都にきたはずだったんだけどな。
沢山の友達と彼女まではできたけど……。
「まさか、英雄に祭り上げるとは夢にも思ってなかった」
「そうか? 英雄の孫なんだから、何か功績を挙げればすぐに英雄視されると思っていたぞ」
「俺はじいちゃん達がそんなに英雄視されてるとか知らなかったから」
「そういうものか」
「まあでも、王都にきた目的はほぼ達成したけどな。友達もできたし彼女もできた。それに大分常識も身に着いたしな」
「え?」
「え?」
ん? あれ?
「シン殿まさか……あれで常識が身に着いたとか思ってるんじゃないでしょうね?」
「え? え?」
トールが呆れたように言う。
え?
「通信機みたいな非常識な魔道具を作り出し、少し停滞していた感のあった魔法使いや騎士達の実力を大幅に上げ、魔石の謎まで解明し、世界全体の実力向上に功績を挙げたシン殿が常識を知った? 冗談もほどほどにしてください」
「まったくだな。今までで一番驚いたわ。あまり驚かすなシン」
「非道い!」
なんてこった。まだ常識知らずと思われていた。最近は自重してたんだけどなあ……。
「それよりシン。お前、もう何も作ろうとしていないだろうな?」
「ん? ん~……」
「あるのか……」
折角店舗と、それに併せてビーン工房が専属で付いてくれてるんだ。
色々と考えてはいるけど、この騒ぎでじっくり作ることができなかった。
「結婚式ができるようになるまで、大分かかりそうじゃん? それまでは魔道具の開発期間にしようかなと思ってる」
「……頼むから自重してくれ。国の経済を壊さないでくれ」
「失礼な、それを考えてるから、今はすぐに作成してないんじゃないか」
「その問題がクリアできたら開発はするわけか……」
「おう」
「おう、ではないわ! やはり常識など身についておらんではないか!」
やっぱりそうなのか?
でも、皆の生活が便利になるかもしれない魔道具の作成は、是非やりたいじゃないか。
ばあちゃんを見てると尚更そう思う。
皆から感謝され、尊敬されてるばあちゃんは格好いいからな。
それよりも、結婚式が先になるというのは、今回の結婚式を執り行うのが、エカテリーナ教皇という国家元首だからだ。
今も作戦は続行中で、まだ完了していない。
今やっているのは魔物の掃討戦で、最終的に帝都周辺に陣を張れば、一旦終了宣言が出ることになってる。
作戦行動中に国家元首が結婚式を執り行う訳にもいかないので、終了宣言が出るまでは結婚式はできないのだ。
いつ頃になるかな? 俺達が進級するころには終了宣言が出るかな?
そんなこれからのことを予想していると、何かを思い出したようにオーグから声を掛けられた。
「そういえば、もうすぐ年末だな」
「そうだな」
「そろそろではないか?」
「なにが?」
「シンの誕生日だ」
「え? ああ」
そういえば、夏季休暇が明けてから、魔人領攻略作戦のことで頭がいっぱいで忘れてた。
もうすぐ秋も終わるし、そんな時期だったか。
「そういえば、皆の誕生日は?」
すっかり忘れていたけど、オーグの誕生日兼立太子の義以外、他の人の誕生日とか知らないぞ。
「私も年末ね」
「私もです。マリアとは誕生日も近いんですよ」
マリアとシシリーはもうすぐと。
「あたしは終わったよ! 春先に!」
「私も。春生まれ」
アリスとリンはまさかの年上だった。
「え? マジで?」
「フフン! あたしの方がお姉さんなんだからね!」
「お姉ちゃんの言うことは聞くべき」
数か月の差で威張られてもなあ……。
「自分も終わりました。夏季休暇中です」
「拙者も終わったで御座る。拙者は夏季休暇前で御座った」
トールとユリウスも終わってたか。
「僕は年明けだねえ」
「私もぉ」
「あ、私もです」
「自分はもうすぐです」
トニーとユーリとオリビアは年明けで、マークはもうすぐか。
「わたしは春だったです!」
「私は夏季休暇が終わってすぐでしたわ」
メイちゃんは春でエリーは夏季休暇明けすぐか。
「そういえば、誕生日とか全然祝ってないな」
教えて貰ってなかったし。
「今年は特別だ。魔人が現れたり、戦争が起きたり、魔人の集団が攻めてきたり……皆派手な祝い事や催しは自粛し身内だけで祝う家庭が殆どだった。貴族ですらそうだったな」
そうか。ご時世ってやつか。
ん? 俺の婚約披露パーティーは派手にやったぞ?
「そういえば、シン君のお誕生日はいつなんですか?」
「え? ああ。年末の二十日が誕生日……ってことになってる」
「え!? 二十日ですか!?」
「ホントに!? シン?」
シシリーとマリアがメッチャ驚いてる。
「それ……シシリーの誕生日と一緒よ」
「え? マジで!?」
「はい。本当です」
マジか!? ビックリした! あ……でも……。
「本当の誕生日は知らないんだ。じいちゃんに拾われたのが年末の二十日だったってだけで……」
「あ……そうだったわね……」
「で、でも! そんな日にお爺様に命を救われるだなんで、やっぱりすごいです! 運命です!」
シシリーは、何としても運命を感じたいらしい。
でも、そうだよな。俺が爺さんに命を救われたのがシシリーの誕生日だってことは、何か運命的なものを感じる。
実際に一歳くらいだったからその日を誕生日にしたんだろうし。
「これは、決まりだな」
「何が?」
「今年のシンの誕生日は、シンとクロードとメッシーナの三人合同で派手にやろうではないか」
「殿下! それいいです!」
「是非やりましょう! 楽しみです!」
マリアとシシリーは賛成みたいだな。
でも、なんで急に誕生日を祝おうなんて言いだしたんだ?
「さっきも言っただろう。今まで派手な宴会は自粛していたんだ。戦時中だからな」
「それなんだけどさ、俺の婚約披露パーティは結構派手にやったと思うけど……」
「お前は魔人を討伐した英雄になっていたではないか。お前の吉事を盛大に祝うことで、民衆の不安を払拭しようとしていたんだよ。現に婚約や結婚式は行われているが、お前以外の御披露目やパーティは行われていない」
「うっそ。マジで?」
初めて知ったわ。
「という訳で、シンの婚約披露パーティ以来久々のパーティだ。シン達の誕生日は派手にやるぞ」
『おお!』
「ちょっと待って。マークは? もうすぐだって言ってたけど」
「やめて下さいッス、ウォルフォード君。自分はアルティメット・マジシャンズにいるだけでも満足ッス。家族でこぢんまりとやるッスから勘弁して下さい!」
マークから涙目で断固拒否されてしまった。
そんなに嫌なのか……。
「オリビアさんとイチャイチャできませんもんね?」
「何よマーク、そうなのお?」
「え!? あ、いや……」
そっちかよ!
「意外とエロいな、マーク」
「いや! そうじゃなくて! アルティメット・マジシャンズ主催だと、とんでもない人が来そうで……」
とんでもない人? ……ああ、ディスおじさんとかか。
そりゃ遠慮したいわな。
「会場はどうする? シンの家でいいか?」
「いいんじゃないか? 多分、ディスおじさんとかくるだろ? ウチの使用人さん達なら慣れてるから、それが一番いいと思う」
「よし。それではシンの家に行くか。準備を進めて貰わないとな」
オーグが俺達の誕生日の開催に凄くやる気になり、率先して行動しようとしている。
普段、あまり見せないはしゃいだ様子は、まるで何かを振り払うかのように見えた。
作戦の最後に冷静さを失って、判断ミスを繰り返したことを相当気にしてるな。
オーグに限ってそれを忘れたり、反省しないってことはないだろう。
それを飲み込んだ上で、落ち込まないように無理にはしゃいで明るく振舞ってるんだろうな。
そんなオーグの心情が分かってしまい、俺はつい生温かい目で見てしまった。
「ああ! シンさんがアウグスト様を愛おしそうに見つめている!? そんな、ちょっと目を離した隙に!」
「エリーは、いい加減その妄想やめろよ!」
いつまで引っ張ってんだよ!?
「冗談ですわ。それくらい、もう分かってましてよ」
「じゃあ、もうやめてくれ……そのネタを出される度に精神が擦り減る……」
「あら、残念。もう少しからかおうかと思いましたのに」
「オーグの真似はしなくていいよ! なんだ!? その夫のやることを尊重しますみたいな態度!」
「妻になる身としては当然のたしなみですわ」
「え? 私には無理です……規格外になるなんて」
「シシリーは何の心配をしてるんだよ!」
シシリーまで乗ってきてるんじゃないよ!
「フッ、クッ、ククク。アハハハハ!」
エリーとシシリーの相手をしていると、それを聞いていたオーグが笑い出した。
いや、笑ってないでエリーのこと窘めろよ。
「よかった……ようやく普通に笑ってくれましたわ……」
「え?」
エリーが、俺とシシリーにしか聞こえないくらいの小さい声で、そうポツリと呟いた。
「作戦から戻ってきたアウグスト様は、先程まで平静を装っておられました。無理をされているのが分かって、見ていて辛くて……」
そうか。俺が気付く位だ、幼馴染で婚約者であるエリーが気付かない訳ないか。
「でも、ようやく普通に笑ってくれました。これで安心ですわ」
そう言うエリーの顔は、本当にオーグのこと心配していたのだろう、立ち直ったことで嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「はあ……何か久々に笑った気がするな。エリー、私が許す。これからもシンをからかってくれ」
「そんな許可出してんじゃねえ! っていうかそんな許可、初めて聞いたわ!」
なんだよ? 俺をからかう許可って!
「はい! 分かりましたわ!」
「エリーも了承してんじゃねえよ!」
もうやだ! このカップル!