メッチャ怒られました
ここから過去5話を修正しました。
大筋は変わっていません。
描写が足りていないと思われたところの加筆。
矛盾があると思われた箇所の修正をいたしました。
現状、これが限界です。
まだ足りない、まだおかしいと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、ここで停滞していると先に進めないと判断しました。
了承ください。
「え……? まさか……」
突如現れた老人に、皆の視線が集まる。
その視線には、まさかという思いと、そうであって欲しいという願いが込められていた。
「ほっほ。突然すまんのお」
「邪魔するよ」
まるで近所の店にでも顔を出したかのような気軽さ。
魔人が間近に迫っているなど到底思えない雰囲気。
こんな時にこんな態度を取れる老人など、他にいるはずもない。
「あ……あなたは……」
「ワシか? ワシはマーリン。マーリン=ウォルフォードじゃ」
「メリダ=ボーウェンだよ」
近くにいた兵士の問い掛けに、その老人達は、皆の期待通りの名を名乗った。
「け……賢者様……」
「賢者様だ……」
「導師様まで……」
絶望に打ちひしがれていた予備兵団に、その名が浸透していく。
そして。
『ウオオオオオオオ!! 賢者様! 導師様ああ!!』
歓声が爆発した。
「け、賢者様! なぜ……どうしてこの場所に!?」
予備兵団を率いる指揮官がマーリンのもとに駆け寄り、なぜここにマーリンがいるのかを訊ねた。
「なに。偶々王城におったら、シンが取り逃がした魔人がここに現れると聞いてのお」
「孫の不始末はアタシらの不始末だ。責任は取らせてもらうよ」
「お……おお……神よ」
指揮官は、偶然王城に二人がいたことを神に感謝した。
「それよりも、ホレ。もう魔人がそこまで来とる。離れとってくれんか?」
「巻き込まれるよ。さっさと退避しな!」
「は、はい! 総員退避! 賢者様と導師様の邪魔をするな!」
『ハッ!!』
生ける伝説を目にし、彼らは何の躊躇もなく二人に道を譲った。
そしてマーリンとメリダは大勢の兵士を背に従え、最前線に立った。
「あれが魔人かね?」
「シンの言う通りじゃのお。ヤツとは比べ物にもならんわ」
目視できる距離まで近付いてきた魔人に対し、一切の気負いはない。
「まったく、何をやってるのかねえ、あの子達は。通信手段を持っていながら、こんなに後手を踏むなんて」
「まあ、それは終わってからでエエじゃろ。それより」
魔人を見据えたマーリンは……。
「一発お見舞いしようかの」
いつもの好々爺の穏やかな笑顔ではなく、獲物を前にした野獣のごとき獰猛な笑みを浮かべてそう言った。
隣でメリダが溜め息を吐いていた。
一方、近付いて来ている魔人の方は。
「おい! 軍が待ち構えてやがんぞ!」
「チッ! やはり俺達の行動は読まれていたか!」
「どうする!? また避けるか!?」
「いや! これだけ展開されていたら無理だ! どうせここには奴らはいないだろう。正面突破するぞ!」
「おう!」
移動中の軍隊と違い、待ち構え幅広く陣を展開する予備兵団を避けるのは無理と判断した。
シン達は、恐らく自分たちが逃げ出した街の攻略に当たっているからここにはいないだろうとの判断もあった。
しかし、彼らは知らなかった。
そこに、もう一組自分たちを討伐しうる存在がいることを。
それを知らないまま、陣を正面突破しようとした魔人が……。
「「「グガアッ!!」」」
突然巨大な火柱に包まれた。
「な! 何だ!? この巨大な魔法は!?」
「ま、まさか奴らか!?」
一発の魔法で大きなダメージを受けた魔人達は、あの陣の中にシン達がいるのではないかと目を向けた。
しかし、そこにいたのは……。
「なんじゃ。一発でそこまでダメージを受けよるのかい」
「こんな奴らに怯えるとは、今の子達は情けないねえ」
老人二人であった。
「な! ジジイとババアだと!?」
「フッザけんな!! こんなくたばり損ないにやられる訳ねえだろうがあ!」
「お、おい待て!」
自分達を攻撃したのが老人であったことに、魔人のうちの二人が激高。
二人で飛び出し、マーリンとメリダに向けて攻撃魔法を放った。
老人にこの攻撃が防げる訳がない。
そう思ってニヤッとした魔人たちだが、その目が驚愕に見開かれた。
メリダの展開した防御魔道具が、その攻撃の全てを防いでしまったのだ。
「こんな攻撃じゃあ、アタシの防御にヒビ一つ入れられないよ」
実にアッサリ、なんのこともないように言い放つメリダ。
「ホレ! ボーっとするでないわ!」
そして、自分たちの魔法が簡単に防がれ、呆然としているところに、再びマーリンから放たれる炎の弾丸。
その炎は、孫のシンが使うのと同様に青白く、超高温の炎となっていた。
「な!? この炎……グワアアア!!」
「や、奴らとおな……ガアアアア!!」
「お、お前ら!」
マーリンの放った超高温の炎の弾丸を防ぎきれず、まともに被弾する二人の魔人。
大ダメージを食らい、瀕死となった二人に、さらに追い打ちがかかる。
「これでとどめじゃ!」
巻き起こったのは炎の竜巻、火炎旋風。
それは青白い炎ではなかったが、周囲の空気を巻き込みながら超高温に、かつ次第に大きくなっていく火炎旋風に、瀕死の魔人はなすすべなく巻き込まれた。
そしてマーリンが魔法を解除し、火炎旋風が消え去った後に残っていたのは、黒焦げになった魔人の遺体。
「あ……あ……ああああ……」
瞬殺。
残った魔人の頭に、自分達を瞬殺していったシン達の姿がよぎる。
間違いない。コイツがアイツらの師匠だ。
一番戦闘を避けなければいけなかった相手の、親玉に遭遇してしまった。
「う……うわあああ!!」
恐怖に駆られた魔人は、その場から逃げ出そうとした。
しかし……。
「逃がすと思うとるのか?」
魔人の行く手に炎の壁が立ち塞がった。
「ぐお! 熱っ!」
そのあまりの熱に、魔人はその壁を突破することを躊躇した。
そして、それが命取りとなった。
「これで終いじゃ!!」
先程と同じ青白い炎が、今度は弾丸のような小ささではなく、槍となって魔人に襲い掛かる。
「くそお! くそおおおっ!!」
複数の炎の槍に貫かれた魔人は、その場に倒れ、そのまま燃え尽き沈黙した。
これで、各国に襲撃を企てた魔人は全滅した。
終始圧倒し、全く危なげなく魔人を討伐したマーリンにメリダが、軽い感じで声を掛けた。
「相変わらず、炎の魔法ばっかりかい。芸がないねえ」
「メリダお前……それが魔人を討伐した者に対する態度か?」
「はん! この程度の奴を倒したところで自慢になんかなるもんかね」
「それもそうじゃな。ホレ、終わったぞい!」
人間にとっての脅威を討伐した後とは思えない雰囲気で話をしていた二人だが、そのマーリンと魔人の戦闘を呆気に取られて見ていた兵士達に向けて、終了宣言をする。
初めてマーリンの、生ける伝説の戦闘を見た兵士達は徐々に復活し、やがて……。
『ウオオオオオオ!! 賢者様!! 導師様!!』
大歓声が巻き起こった。
そんな大歓声が響くなか、とある声がマーリンを呼び止めた。
「じーちゃん!!」
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予備兵団のもとに現れた爺さんによって、魔人の残党は討伐された。
爺さんが使ったのは得意の炎の魔法。
しかも、俺が使うのと同じ、青白い炎を使っていた。
さすが爺さんだ。常に自分を向上させることを忘れてない。
魔人との戦闘も、終始圧倒してたしな。
爺さんの戦闘を初めて見たであろう他の面々は、その光景を呆然と見ていた。
「さ……さすがにシンのお爺さんね……」
「ウム。過去に紅蓮の魔術師と呼ばれただけのことはある。凄まじい炎の魔法だった」
「紅蓮の魔術師?」
感心してるマリアとオーグだったが、オーグが何か気になることを言ったぞ?
「なんだ、知らないのか? マーリン殿は賢者と呼ばれる前、紅蓮の魔術師と呼ばれるほど炎の魔法が得意な魔法使いだったのだぞ?」
「そ、そうなの? っていうか、なんでそんなこと知ってんの?」
「マーリン殿の『英雄物語』に書いてある」
オーグの言葉に全員が頷く。
そ、そうなんだ……身内の英雄譚なんて恥ずかしくて読めないから知らなかった。
と、それより、爺さん達のところに行かないと。
予備兵団の頭上を飛び、爺さんとばあちゃんに呼びかけた。
「じーちゃん!!」
「ん? おお、シン」
「今頃きて何やってんだい! アンタは!!」
「わ! ゴメンばあちゃん!」
声を掛けたらばあちゃんに怒られた。
そりゃそうだ。皆を危険に晒してしまったんだから。
「お待ちくださいメリダ殿。シンはよくやりました。奴らを取り逃がしたのは、先走った者がいたからで……」
「殿下。そういう現場の事情はね、民衆は理解してくれないもんさ。魔人を取り逃がした。そのことが民衆にとっては重要なのさ」
「……」
確かに。現場にいた人間はそれをしょうがないと見てくれるだろう
だけど、現場の事情を知らない人から見れば……魔人を取り逃がし自分達を危険に晒した方を重要視するんだろうな……。
「取り逃がしてからの対応にも問題があるね。誰か、アールスハイドに連絡を取った者はいるのかい?」
「あ……」
魔人を追跡することで頭がいっぱいで、連絡するのを忘れてた……。
アールスハイドに連絡が入ったのはジークにーちゃん達からであって俺達からじゃない。
「途中でアールスハイド軍にも遭遇しなかっただろう。おかしいと思わなかったのかい?」
「魔人を追うことに必死で……全く違和感を感じていませんでした」
「殿下。このチームの中で、殿下は司令塔的な役割を担っているんだ。そんな人間が冷静さを欠いちゃあいけないねえ」
「……はい。申し訳ありません」
途中でアールスハイド軍に遭遇していない違和感に気付いていれば、アールスハイド軍を探しだし話を聞くことができたはずだ。
そうすれば、魔人達が逃げた正確な方向を知ることができ、ここに辿り着く前に補足・討伐できていたはずだ。
「何人かアールスハイドにゲートで先行することもできたはずだよ。そうすれば王都経由でアールスハイド軍にも情報が入り警戒できていたはずさ」
「あ……そうか……」
無線通信機を渡してないから連絡がとれないと……そう思い込んでしまった。
そうだよ。アールスハイドからの通信はできるんだから、そっちから連絡してもらえばよかったんじゃないか。
……まったく思いつかなかった。
「シン。アンタ、あの無線通信機はどうしたんだい?」
「あれは……まだ試作品だから、チャンネル数が足りなくて……」
「確か、全員と話ができるんじゃなかったのかい? なんで渡さなかった?」
「それは……聞かれるとマズイ話とかあるかもって思って……」
「はあ……仲間内の内緒話かい?」
そう溜め息を吐いたばあちゃんに……。
「このお馬鹿!! その内緒話を優先したせいで、どれだけ混乱が起きたか分かってるのかい!?」
思い切り怒られた。
「今回のことはいい教訓になっただろう。連絡を怠ると、冷静さを失うとどういうことが起きるのか。皆肝に銘じておきな!」
『は、はい!!』
はあ……折角魔人を討伐したのに、最後にミスを重ねたことで帳消しになった気分だよ……。
でも、ばあちゃんの言ってることに何一つ間違いはない。
イレギュラーな事態に焦った俺達が、咄嗟の判断を誤りまくったのが原因だ。
そもそも、魔人を途中で見つけたことがイレギュラーだった。
その時に最初から街を取り囲んでいればよかったのかもしれない。
アリス達を俺が迎えに行き、ゲートで戻れば日数も短縮できたし、先走った輩を出すこともなかったかもしれない。
振り返れば反省点ばっかりだよ……。
「メリダよ、もうそれくらいでよかろう。この子らはまだ十五~六なんじゃ。失敗もあろうて」
爺さんが助け舟を出してくれたことで、ようやくばあちゃんの説教が終わった。
「じゃがのお、メリダの言うことはもっともじゃ。皆、これから連絡や報告は密にせんといかんぞ?」
『はい……』
「うむ。若者は失敗して成長するのじゃ。今までが上手く行き過ぎておったのじゃな。幸いなことに、魔人を取り逃がしたことに被害は出ておらん。これを教訓にし、いい勉強ができたとそう思いなさい」
『はい!』
報連相って……前はよく言われてたのになあ……。
この世界に生まれてから、報告や連絡が必要なことは全部周りがやってくれてたから、完全に頭から抜けてた。
いくら魔法の力が強くなっても、それを活かすことができないんじゃ全く意味がない。
今回のことは、ちょっと自惚れかけてた俺に、大きな教訓を与えてくれた。
「それで? これで終わりなのかい?」
「え? ああ、いや……どうなんだろ?」
ばあちゃんの問いかけに、これからどうなるのか分からなかった俺は、オーグを見た。
「魔人はこれで全てではありませんが、襲撃を企てた魔人どもはこれで全滅です」
「ということは、まだ魔人は残っているのかい?」
「はい。彼らを魔人化させたと思われる首魁、オリバー=シュトロームはまだ健在です」
「じゃあ、まだ終わっておらんのかの?」
「それが……」
「どうかしたのかの?」
オーグは、街で魔人に聞いた内容を爺さんとばあちゃんに伝えた。
「フム……シュトロームは帝国を滅ぼすことが目的だったと、そしてそれを達成してしまったら満足したと」
「魔人は確かにそう言っておりました」
「なるほどのお……」
爺さんとばあちゃんは、何か考えごとをし始めた。
どうしたんだろ? 何か思い当たることでもあるのか?
「……シュトロームは帝国に何か恨みでもあったのかねえ……」
「それはなんとも……ただ、帝国を滅ぼしたいと願ったということは、おそらくそういうことなのでしょう」
「うーん……」
ばあちゃんは腕を組み、眉をしかめて考え出す。
そして、自分の出した答えを話し始めた。
「もしかしたら……帝国を滅ぼしたいほど恨んだことが、魔人化につながったのかもしれないねえ……」
「魔人化?」
「ああ。今まではっきりとは言えなかったけど、シュトロームが魔人化した理由がそれなら、ある仮説が成り立つのさ」
そう言ったばあちゃんは、俺達を見渡し。
「魔人化するには、魔力の暴走だけじゃない。何か、強い恨みや憎しみを心に込めて魔力を暴走させると魔人化するのかもしれないねえ」
魔人化についての仮説を口にした。
「……そうか、シュトロームが帝国の平民ばかり魔人化させていったのは……」
「帝国の平民といえば、虐げられている最たるものだからねえ、帝国に対し強い恨み・憎しみを持っていても不思議じゃあない」
街を襲う度に魔人が増えていったのはそういうことか。
帝国の平民は搾取の対象だ。その街を収めている貴族や帝国そのものに強い恨みを持っているだろう。
そこをついて仲間を増やしたのか。
「だけど、元が帝国への強い恨みで魔人化したのなら、それを達成してしまった今、シュトロームの胸中はどうなってる?」
「……やることがない?」
「おそらくね」
だからシュトロームは出てこなかったのか。
でも、今まで虐げられていた平民達は、虐げてきた連中を圧倒する力を持ったことで野心が芽生えたと。
なぜ魔人が仲間割れしてしまったのか、その理由の一端が分かった。
だんだん、今回の騒動が見えてきたぞ。
「なら、後はシュトロームを刺激しないようにすれば万事解決ですか?」
「……そう上手くいけばいいけどねえ……」
希望的推測を話すオーグに、まだ少し不安そうな声をあげるばあちゃん。
まあ、相手は魔人だしな。
魔人になってから価値観が人間のものとは変わったみたいなことを言っていたから不安もある。
けど、今攻撃性を示していないものを刺激する必要もないだろう。
皆をいたずらに危険に晒す必要はない。
「シュトロームのことは後程考えるとして、ひとまず魔人を全て討伐したことを連合軍に伝えてきます」
「ああ。アタシらもアールスハイドに戻ってるよ」
「ほっほ。ではまたの」
そう言って爺さんがゲートを開こうとした。
俺は、一つ気になったことをばあちゃんに訊ねた。
「ばあちゃん。さっきの魔人化の仮説だけどさ……なんでその仮説に行きついたの? 昔対峙した魔人のこと、ひょっとして何か詳しい事情を知ってるの?」
俺のその質問に、爺さんとばあちゃんの二人が一瞬暗い顔をした。
「シン」
「なに? じいちゃん」
「それは、また後での……」
そう言って、爺さんとばあちゃんはゲートを潜って行ってしまった。
あれは、何か知ってる。
けど……二人の過去の暗い部分に当たるのかもしれない。
でないと、あんな顔は……。
後でと言っていたけど……あんまり聞いちゃいけない話だったのかも……。
「シン君」
「え?」
身内とはいえ不躾だったかも……そう思っていると、シシリーに話しかけられた。
「大丈夫ですよ。話したくないことは話さないでしょうし、お話ししてくれるというなら大丈夫な内容なんですよ」
「……そうか」
「そうですよ」
……そうだな。
後でって言ってたし、大丈夫なんだろう。
「ありがとシシリー」
「フフ、どういたしまして」
怒られたり、不躾なことをしてしまったり、沈みがちだった心が上向いてきた。
「よし! 連合軍に合流して報告しにいこうぜ!」
こうして俺達は、魔人達が集結していた街にゲートを開いた。
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平原から王城に戻ったメリダは、思い付いたが口にしなかった懸念を、マーリンにだけ聞こえるように呟いた。
「何も目標が無くなった者が……この世の全てに価値を見出せなくなったとしたら……」
メリダは、起こってほしくない未来を想像した。
「当たってほしくないねえ……」
そう呟くメリダを、マーリンは複雑な顔で見ていた。
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ゲートで魔人の集まっていた街まで戻ると、そこにはもう連合軍はいなかった。
帝都に向けて移動を開始したんだろう。
俺達はそこから帝都方面に向けて浮遊魔法で連合軍を追いかける
間もなく追い付いたのだが、そこで見たのは、合流したのであろうアールスハイド軍と連合軍で魔物の群れを挟み撃ちにし、討伐している光景だった。
「これは? なんでこんな状況に?」
「お! シン!」
魔物の群れを挟撃しているという不思議な光景に首を傾げていると、アールスハイド軍の中からジークにーちゃんに声を掛けられた。
浮遊魔法を解除し、地上に下りジークにーちゃんのもとへ行く。
「魔人はどうした!?」
「ジークにーちゃん達、魔人に遭遇してたんだね」
「そうだよ。魔人を取り逃がしたことに気付いてなかったのか?」
「いや、すぐに気付いて追いかけたんだけど、見当違いの方向に追いかけてたみたいで……」
「それで魔人の後から現れなかったのか。それより、すぐに気付いたんなら、アールスハイド経由で連絡してくれればよかったのに。急に魔人が現れたからビックリしちまったぜ」
俺達が連絡を怠ったことでジークにーちゃん達、アールスハイド軍にも迷惑をかけた。
本当に……魔法使いなのに冷静さを失うなんて……魔法学院の制服の青は、冷静の青なんじゃなかったのかよ。
「ごめんなさい……」
「いいかシン。作戦行動において、連絡の重要性はだなぁ」
「あの……ばあちゃんにもう散々怒られたから」
「そ……そうか。メリダ様に怒られたか……ならこれ以上説教すんのは酷だな」
ジークにーちゃんも連絡の重要性について何か言おうとしてたけど、ばあちゃんに怒られたって話をしたら、同情の視線を向けられた。
ジークにーちゃんもばあちゃんが怖いのね。
「で? 魔人はどうした」
「じいちゃんが討伐したよ。それよりジークにーちゃん。何この状況?」
「マーリン様が討伐した!? そっちこそなんだその状況!? 俺も見たかった!」
「そんなことより、状況は?」
「お、おお。実はお前らとすれ違った後、連合軍と合流しようと進軍したんだけどな。途中で魔物の群れに遭遇しちまってよ。戦闘になってたら、連合軍が合流したんだよ」
そういうことか。
偶然、挟撃になってしまったと。
「お前らの手を煩わせることもないから、見物してろよ」
「そうなんだ。災害級いないんだね?」
「いや、いるぞ? ホレ、あのでっけえ熊」
「え? 災害級いるのに、大丈夫って……」
「いいから、見てみろよ」
ジークにーちゃんにそう言われて、災害級の熊を見る。
災害級だけあって大型の熊とは大きさの桁が違うな。
その災害級の熊に、魔法師団の魔法が炸裂する。
ダメージは大したことないけど、熊の意識が魔法師団に向いた。
「ホラ! 上!」
その言葉で熊の頭上を見ると……。
「でええやあああああ!!」
見覚えのある女性騎士が降ってきた。
「は? はあああ!?」
なんで空から騎士が降ってくんだよ!
っていうかあれって……。
「お前が考案したんだろ? あの『ジャンプ突き』」
考案って……遊びでやっただけだよ……なんでミランダが知ってんの? っていうか、なんで実戦で使ってんの?
「やだミランダ……あれ遊びの技だって言ったのに」
ミランダに伝えた犯人はマリアか!
上空から降ってきたミランダは、剣の鍔に足を掛けるとそのまま熊の首筋にぶっ刺した。
なんでそれで、そんなに正確に攻撃できんのさ!?
しかも、続けて柄を取り外し、剣の尻に足を掛けたと思ったら、ジェットブーツを起動して刺さった剣を奥深くまでめり込ませていた。
エグイ使い方するなあ! おい!
その一撃がもとで災害級の熊はゆっくりと倒れ、二度と動かなくなった。
そして、よく見るとミランダだけではなく、あちこちで兵士が飛び跳ねていた。
その光景を、俺達は唖然とした表情で見入ってしまった。
「ナニコレ? 魔法師団が無詠唱なのはいいとして、空飛ぶ騎士団って……」
「まあ、使ってるのがシンの開発した道具だからな。発想もシン寄りになるんだろう」
「俺、関係なくない!?」
マリアの率直な感想に、失礼な感想を重ねるオーグ。
俺の道具を使うと、思考が俺よりになるってどういうことよ!?
「ああ! それ分かる! シン君に関わると、皆思考がシン君みたいになるよね!」
「そうだろ!? 皆そうなるよなあ!? 俺だけじゃないよなあ!?」
なぜかアリスが激しく同意しているが、さらに必死なのがジークにーちゃんだ。
なんで、そんなに必死なんだ。
「途中でジークの取った行動がシンのやりそうなことだったので、そう言ったんですよ。そしたらショックを受けたようで」
「あ、クリスねーちゃん。っていうか、ショックって……」
俺の方がショックだわ!
「まあ、なんとなく分かりますけどね」
「クリスねーちゃんまで!?」
なんて非道い兄と姉だ!
「変な意味ではなくてですね。シンの考え方は合理的というか……効率的というか、真似すると楽なんですよ」
俺の行動が変態的行動の見本なのかと思ったぜ……。
「ジークが取った行動も、騎士が上空から剣を突き刺すのも、効率的でしょう? それが、あまり皆の考えないことが多いから、シンみたいだと言われるんです」
「そ、そういうことか……」
ジークにーちゃんの取った行動は知らないけど、確かに上空から勢いをつけて突き刺すのはダメージを与えるうえで効率的だ。
複雑な心境だけどな!
程なくして、魔物の群れの殲滅が終わり、俺達は魔人追撃の結果について報告した。
『逃げた魔人は、アールスハイド国境付近で待機されていた賢者マーリン殿と導師メリダ殿によって討伐された! これにより、各国に襲撃を企てた魔人どもは、全て殲滅した!!』
オーグのその宣言に、連合軍全てから地鳴りのような大歓声が起きた。
アールスハイド軍も合流したから十万を超える大軍勢だ。
その軍勢から歓声があがると凄まじいな。
『なお、まだ魔人は残っているが、これらは侵攻の意思がないと思われる。この後は魔人領内の魔物の掃討を行いつつ、各国で協議の上事態の終結を目指すことになる。皆! もう一息だ!』
またしても巻き起こる大歓声。
そして、これをもって俺達アルティメット・マジシャンズとアールスハイドの学生達はお役御免となった。
魔人がいなくなったし、災害級はまだ残っているだろうけど、アールスハイドからジャンプ突きが伝授された。
それと、スイード方面連合軍から、ユーリが作った魔道具の貸し出しの申し出があった。
あれがあれば、魔物討伐がより効率的になると熱弁され、それを聞いていた各国のためにデモンストレーションをすると、各国からも貸し出しの申し出が相次いだ。
ジャンプ突きに加え、ユーリの魔道具を貸し出すことで、俺達がいなくても大丈夫だという判断が下されたのだ。
これ以上、学生である俺達に頼りっぱなしになる訳にはいかないとも言っていた。
やはり、自分達の平和は自分達で守りたいらしい。
学生達の戦場体験はもう十分だろうということだ。
引き上げる時に、ミランダが残りそうになっていたのはご愛敬だ。
ちなみに、俺も攻撃用の魔道具を作って提供しようかと思ったが皆に止められた。
俺の攻撃用魔道具を使うと、人間の住める土地でなくなってしまうからというのが理由だ。
まだ作ってもいないし、そもそもどんな魔道具かも言ってないんだげどな。
……泣いていいかな?
そして、無線通信機を渡していなかったことが元で混乱してしまった教訓から、各国にオープンチャンネルのみの無線通信機を渡すことになった。
今は手持ちがないので作成次第、各国の情報部に渡し、リアルタイムで情報のやり取りをし、効率的に魔人領内の魔物討伐を進めるとのことだ。
エルスの指揮官が今にも商談を迫りそうな勢いで突っ込んできたが、エルスの他の兵士さん達で押し留めていた。
アールスハイドに戻ったら、無線通信機の改良を進めないといけないな。
そして、連合軍の最終目標は、旧帝都以外の全ての地域で、魔物をある程度討伐すること。
魔人領は前の世界でいうところの、ドイツより少し大きいくらいの国土面積はある。
その国中の魔物を殲滅させるなんて土台無理な話だ。
そして、シュトロームを刺激しない程度の距離を空けて、陣を設置することでこの作戦の終結とした。
その後は、各国で再び協議し、シュトロームに対する扱いや付き合い方をどうするのか決めることになる。
そこに、俺達学生の入る余地はない。
こうして俺達の役目は終わり、後の魔物討伐作戦は連合軍の兵士達に任せ、アールスハイドに帰還した。
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「終わってしまいましたねえ」
離反した魔人達がすべて討伐されてしまったと報告を受けたシュトロームは、残念そうに呟いた。
その声色は、元とはいえ同輩が全滅したことを悔しく思っている様子ではなく、娯楽が終わってしまったことを残念がる様子だった。
「せっかく少しお手伝いをしてあげたんですけどねえ」
それを聞いていた側近は(あれ、実験だったんじゃ……)と思ったが口には出さなかった。
「シュトローム様、これから如何いたしますか?」
側に控えていたゼストが、今後の予定をシュトロームに問いかけた。
この場にいつもいたミリアはなぜかいない。
「さて……どうしましょうかねえ」
シュトロームは、つまらなそうに、そう呟いた。