最終局面を迎え……るはずでした
修正しました。
「魔人を発見したって、本当なのか?」
魔人領で順調に魔物を討伐していたある日の定期報告で、オーグから衝撃的な報告がもたらされた。
俺達は、魔人達が拠点にしているであろう旧帝都を、魔物を討伐しながら目指していたのだが、クルト方面連合軍の偵察部隊によって魔人達が集まっている街を発見したと言うのだ。
「罠の可能性は?」
『私も確認しに行ったのだがな、人気のない街で、魔人達が憂さ晴らしをするように建物を壊してまわっていた。待ち伏せで、あれはないだろう』
確認しに行ったって。何を危ないことしてやがる。
「見つかってないだろうな?」
『魔力制御の訓練のお蔭だな。制御量が増えただけでなく、小さく抑えることもできるようになった。加えて魔力遮断の魔法も使ったからな、全く気取られていないさ』
「それならいいけど……で? シュトロームはいたのか?」
『さすがに街全部を見回れる訳もないからな……街全体で五十前後の魔力があるのは確認したのだが……』
「動き回ってちゃ、正確な数は確認できないか……」
『すまんな』
「しょうがないさ。待ち伏せの可能性がないって分かっただけでも儲けもんだけど……」
それにしても、なぜ帝都ではなく途中にある街に集まってるんだ?
それに、憂さ晴らしをするように建物を壊して回ってるって……二度に渡る襲撃の失敗に苛立ってるのか。
あんな稚拙な襲撃で?
そのことに苛立つだけで、次の襲撃を仕掛けてこないのもおかしい。
「なんだか様子がおかしいな……」
『ああ、私もそう思う。ひとまず、クルト方面連合軍には、街から離れたところで陣を張らせて待機させている。街からは見えない位置にな』
「そうだな。今回は、俺達が合流するまで待った方がいい」
『既に厳命してある。魔人どもは、お前達の手に負えるものではないから手を出すなとな』
一体二体ならともかく、さすがに、数十体もの魔人を相手にするのは、俺達が全員集まってからでないと無理だ。
『もうすぐ、そちらの陣営にも報告が入るだろう。急ぎ、こちらに集まってくれ』
『「了解!」』
いよいよ大詰めだな。
もう二回も取り逃がしてるんだ。もう失敗は許されない。完全に取り囲んで逃げられないようにして、必ず殲滅させる!
そしてオーグが言ったように、各方面連合軍と情報を交換した兵士が戻り、その旨をダームの指揮官ラルフ=ポートマンさんを始めとするエルス、イースの指揮官も含めた首脳陣に報告した。
その場には、俺達三人もいる。
「なんだと!? 魔人の拠点を発見しただと!?」
「はい。クルト方面連合軍の偵察部隊がこれを確認。複数人で確認したため、間違いないとのことです」
「ク、クルト方面連合軍には、アウグスト殿下がいらっしゃるだろう? 討伐はされなかったのか?」
「それなのですが、数が多いので、討ち漏らす可能性があり、各方面連合軍に分散しているアルティメット・マジシャンズの皆様の合流を待って、行動にあたるということです」
「そうか……まだ討伐されていないのか……」
討伐されていないことに、ホッとしたようなため息をこぼすポートマン指揮官。
何で、討伐してないことにホッとするんだ?
「よし! そうなれば、我々の目的地も変更だ。その街の位置は?」
「この場所です」
旧帝国の地図を広げ、街の位置を指す兵士さん。
既に数日、魔人領に踏み行っている。
同じ目的地を目指して行軍しているため、お互いの位置はそう離れていない。
二~三日で合流できるだろう。
「問題は、一番遠いアールスハイド軍ですね。アルティメット・マジシャンズの皆さんの同行がないので、状況によっては到着前に戦闘になる可能性があります」
確かに、アールスハイド軍は位置的に遠い。
しかし、魔人の討伐は、元々俺達が担当することになっている。
災害級を討伐できるようになったアールスハイド軍といえど、参加はしてほしくない。
「魔人戦は、連合軍だけでなく、アールスハイド軍にも手出ししてほしくありません。俺達だけでやります。なので多分、到着前に戦闘を開始すると思います」
「……それは、ご自身でないと魔人は討伐できないと、そうおっしゃっているのですか?」
何だか言い方にトゲがあるけど、まあそういうことだ。
それに各国共、ここ数日の魔物討伐でこの作戦における魔物討伐数の実績は十分だと思う。
それに、これで攻略作戦自体が終わる訳ではない。
魔人達がいなくなれば、この土地は各国に分配される。
そうなれば、ここに沢山の人が住むようになるのだから、魔物を大幅に間引いておくことも必要だ。
魔人を討伐した後は、魔物の掃討作戦に移ってもらうことになる。
今回の魔人討伐に参加しなくても、誰も文句も言わないだろう。
「これは、自惚れで言っているのではないのですが、スイードでの対応を見るに、各国軍では対処できるとは思えません。おれ……私達には、過去に魔人を討伐した実績があります。それを踏まえて、今回の作戦が立案、可決されたと伺いましたが?」
そう言うと、ポートマン指揮官は、憎々しげな表情を作り「フンッ! 傲慢なことだ」と言い捨てて、天幕を出ていってしまった。
「えーっと? 俺……何かマズイこと言いましたか?」
「いや、何も間違うてへんぞ。 なんや、あの態度。気に入らんな」
「本当に、あれが一国の指揮官の取る態度ですか? ポートマン長官と言えば、公明正大な性格の好人物ではなかったのですか? 同じ創神教徒として恥ずかしい限りです」
エルスとイースの指揮官さんが、不快感を顕にしている。
それはそうだろう。
連合軍の指揮官が、突然俺に対し暴言を放ったのだから。
言われた俺の方は、あまりにも突然のことだし、そんなこと言われるとは夢にも思っていなかったので、全く反応できなかった。
「も、申し訳ございません! 長官の非礼、お詫びします!」
ダーム軍の副官と思われる人が慌てて頭を下げる。
「お前さんら、何であんな人を長官なんかにしとんのや?」
「ふ、普段はあのようなことはおっしゃる方ではないのです!」
「私もそう聞いていましたがね。では、さっきのあれはなんです?」
イースの指揮官さんの質問を受け、返答に詰まるダームの副官。
そして、ようやく口を開いたかと思えば……。
「お、おそらく……魔人の討伐は、一体でも大きな功績です。それをアルティメット・マジシャンズの方に独占されるのが悔しいのではないかと……」
……なんだそりゃ。
魔人が討伐されてなくてホッとしたのも、それが理由かよ。
でも、俺達に対して暴言を吐くのに、それ以外の理由は考えにくい。
部下の人も、言うべきか言わざるべきか悩んでたのか?
「この世界の危機に……何を考えとんのや?」
「本当に……嘆かわしいですね」
エルスとイースは俺の味方みたいだな。
そんな、指揮官の野望が見え隠れするなか、ダーム方面連合軍は、旧帝都へのルートを途中で変更し、クルト方面連合軍が陣を張る、魔人の集まっている街の近くまでやってきた。
辿り着いたそこは丘陵地になっており、確かに街からは近いけど見えない位置になっている。
「久し振りだな、シン」
「毎日、声だけは聞いてるから、久し振りって感じがしないけどな」
そこで数日振りに、オーグ達と合流した。
トニー達は既に到着していた。後は、スイードのアリス達だけだな。
「フレイド達が昨日、シン達が今日だ。おそらく明日にはコーナー達も合流するだろう。移動の疲れを考慮して一日休息を取ったとして、攻撃はその後だな」
「そういえば、降伏勧告とかするのか?」
「……私の中では、魔人は、意志があろうと魔物の扱いだから、それは考えていなかったな。必要か?」
どうなんだろう?
他の国の人にも聞いてみようか。
「必要ありません! 奴らは人類の敵です! 脅威です! 野放しにしておくなど考えられません!」
イースは、降伏勧告不要と。
「別に要らんのとちゃう? そもそも、アイツらって、スイード王国に奇襲で攻め入って、無差別殺人をしでかした連中やろ? 魔人やとかそうでないとか、それ以前の問題やで」
エルスも降伏勧告は不要と。
周辺国の人も同じ意見だった。
奴らは人類の敵で、既に無差別殺人を犯した犯罪者集団。降伏勧告の必要はなし。
まあ、俺もそう思っていたけど、言質を取ってないと、降伏勧告をしなかったことを問題にする奴も出てくるかもしれないからな。
魔人とはいえ、元人間なのだから、降伏勧告はするべきだった、とかね。
さて、スイード方面連合軍が到着する前に、大まかな作戦は決まった。
俺達十二人で街を取り囲むように包囲。
無線通信機により同期して、一斉に街に向かって魔法を掃射。
掃射後は、魔人達を街の中心に追いやりながら包囲網を狭めていき、その中心部で魔人を殲滅する。
……随分大雑把な作戦だけど、十二人しかいないし、まあこれでいいだろう。
連合軍については、街の外をぐるりと取り囲み、万が一魔人を討ち漏らした際に、逃げられないように魔人を足止めすることになった。
また命を懸けさせる事になるけど、連合軍の兵士さん達の目は決意に燃えていた。
アールスハイド軍については……。
「本来なら、全ての国が揃っていることが望ましかったのだがな。我が国の軍を待っていては、さすがに魔人どもに気取られるかもしれん」
国の面子より、実益重視か。
オーグならそう言うと思ってたけどね。
「それに、魔人領内の魔物の数を間引いておくことも重要な作戦の一つだ。アイツらはそちらに回すさ」
魔人討伐作戦に間に合いそうにないアールスハイド軍は、引き続き魔人領内の魔物討伐をメインにしてもらうことになった。
作戦ができあがってしまえば、後はスイードの合流まで休息の時間だ。
戦闘続きの皆にも、ゆっくりするようにと命令が出た。
各国方面連合軍が合流し、交流を深める中、俺達のもとに現れた人がいた。
「おう。久し振りだな、シン」
「あ、ガランさん。お久し振りです」
「やっぱり、お前さんはスゲエ奴だったんだなあ。名をはせるどころか、世界の英雄だったとは」
「い、いや。周りが騒いでるだけで、そんな大層なもんじゃないですよ」
「謙遜も過ぎると嫌味に聞こえるぞ? 気を付けろよ」
「はあ……すいません」
「全く、魔剣士といいお前さんといい、今時の若えのはスゲエんだなあ」
魔剣士?
「誰です? 魔剣士って」
「あん? お前さんのところのトニーだよ。魔法も使える剣士。カーナン方面連合軍じゃあ、随分と浸透してるぜ?」
「ほうほう」
トニーめ、隠していたな? これは後程いじってやらないと。
「それにしても、緊張とかしないんだな。随分と自然体だ」
「ああ。魔人自体は大したことないですからね。今度こそ討ち漏らさないことだけが心配です」
「魔人が大したことないって……」
実際、その通りだからな。
二回も逃げられてると、討ち漏らさないことだけが懸念事項だ。
「頼もしいこった。それじゃあ、よろしく頼むぜ? 英雄さん」
「はい。任せて下さい」
そう言うとガランさんは、カーナンの陣に戻って行った。
合流してからは、俺達は纏まって行動している。泊まるところも、テントから大きな天幕に変わった。
そこに、異空間収納に入れておいたベッドを取りだし、設置した。
「野営にベッドとか……似合わないことこの上ないな」
「皆の分もあるんだけど、オーグはいらないと」
「疲れを取るには、やはりベッドだな」
変わり身早えな。
まあ、十分な休息は、魔人との最終決戦前にはどうしても必要だ。
オーグにだけベッドを出さないとか、そんな意地悪はしないけどね。
「それにしても、ベッドを持ってきていたとは……防音の魔道具も開発していたし、野営中にナニをしていたのやら」
「ナニもしてねえからな!」
「そうなのかい?」
「本当ッスか?」
「マークとオリビアのところはどうなんだよ!? そっちだってカップルだろうが!」
「そんな非常識なこと、しないッスよ」
「俺もそうだよ!」
久し振りだな、こういうやり取り。
シシリーと一緒っていうのも、もちろん素晴らしいけど、気兼ねしない男友達というのはやはりいいものだ。
女性陣の天幕にも、同じくベッドを出してあげる。
やはり疲れが取れなかったんだろう、大層喜ばれた。
「シン君、この寝具って……」
「ああ、家で使ってるやつだよ」
「わあ! 嬉しいです!」
シシリーがメッチャ嬉しそうに笑ってくれた。
ばあちゃんのベッドで体験したって言ってたものな。
「それって例のアレ? 羊毛を使ってないっていう」
「そう、それ」
「ふーん」
マリアはイマイチ信用しきれてないみたいだな。
一度寝て、その虜になるがいい。
食事と風呂が終わった後は、よほど疲れていたのだろう、皆、無駄話をせずにすぐに眠りについた。
翌朝起きたとき、オーグから、この寝具を譲ってくれと懇願された。
「ベッドに入った後の記憶がない。まるで包み込まれるような感触があった後、気が付けば朝だった。疲れも十分に取れている。これは素晴らしい」
おおう。大絶賛だ。
ちなみに、オーグだけでなく、全員から同じ申し出があった。
どうしよう。こんなに好評なら、商会の商品に追加してみるか?
ああ、でも既存の店の権利を侵害するか。
ならいっそ、アイデアを、そういう寝具を取り扱っている工房に売るか?
……まあ、それもこれも、この件が片付いてからだな。
そんなことを考えていると、昼過ぎに、スイード方面連合軍の一部が合流した。
「あー……疲れたあ……」
「フラフラする」
「お風呂入りたぁい」
随分とフラフラの様子だ。
聞けば、少しでも早く来るために、かなりの強行軍で朝から走りっぱなしだったとのこと。魔物を討伐する人員とも別れてきたとのこと。
疲労困憊のアリス達に食事を取らせ、風呂に入れ、例のベッドに寝かせた。
夜起きてきた彼女らは、やっぱりこの寝具を譲ってくれと言ってきた。
とにもかくにも、ようやくアルティメット・マジシャンズが揃った。
偵察部隊の報告では、魔人に動きはないみたいだし、明日一日アリス達のための休息を取ったら、いよいよ最終決戦だ。
世界の命運が、俺達に掛かっている。
ここから先は、おちゃらけはなしだ。
「昼間寝ちゃって寝れないよお。皆おしゃべりしようよお」
おちゃらけはなしだ!
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明日、一日の休息を取った後、いよいよ魔人との最終決戦を迎える。
連合軍は、自分たちが魔人と相対する訳ではないが、万が一シン達が討ち漏らした場合、命懸けで魔人達を食い止めなければならない。
否が応でも、決戦ムードが高まっていた。
そんな中、ダームの天幕では、ある人間達が集まっていた。
「ポートマン長官、もう時間がありません。明後日には、あのアルティメット・マジシャンズの奴らが魔人討伐に動き出します」
「称号に関しては全く認められませんが、奴らの実力は本物です。このままでは、魔人討伐の功績を全て奴らに持っていかれ、称号を取り下げる要求など、歯牙にもかけてもらえなくなりますぞ!」
「分かっている! 焦るな!」
ダーム王国指揮官、ラルフ=ポートマンの天幕に集まった、神の御使い、聖女反対派。
元々、軍議等をするため、かなり大勢の人間を収容できるようになっているが、その許容量に近い、五十人ほどの人間が集まっていた。
彼らは、シン達の実力を間近に見て、称号を取り下げさせることを半ば諦めかけていたが、好機が突然降って湧いてきた。
今、目の前に魔人達がいる。
しかも、こちらには気付いていない。
シン達より先に魔人を討伐すれば、彼らに頼らなくとも世界は救えることを、神の御使いなどという称号は不要であることを実証する、これ以上ない好機である。
そんな好機に焦る兵士達を、ラルフは宥めた。
「いいか。今はあの街に近付こうとしても、必ず誰かに見つかってしまう。しかし明日の夜なら……翌日の大作戦のために皆早めに休んで英気を養おうとするだろう。つまり、人の目が少なくなる。それまで待て」
今はまだ日にちに余裕があるため、夜になっても人の目があるかもしれない。
そのため、明日の夜まで待つように、ラルフは皆に言い含めた。
その彼らの目は、少し様子がおかしかった。
我らの望みを叶えたかのような状況が目の前にある。
神は、我らのためにこのような好機を作り出してくれた。
神の御使いと言われている奴より、我らの方に神は味方した。
やはり、神の御使いなどと呼ばれるべきではない。
それを、我らが実証する。
神は、我らに魔人を討伐しろとおっしゃっている。
この状況を、彼らはそのように理解した。
そして、その解釈のために、自分たちこそが神に認められた人間であると、そう思い込んでいた。
狂信。
彼らの目に浮かんでいるのは、まさにそれであった。
しかし、狂信的な思考に塗り潰された思考では、考えていないことがあった。
魔人の倒し方、である。
「ポートマン長官、それで……具体的な討伐の方法はどうするのですか?」
この場にいる人間全てが、狂信的な思考になっている訳ではなかった。
数名、冷静な判断をしている兵もいたのである。
「なに、これまでの奴らの行動を見るに、烏合の衆である可能性が高い。夜の闇に紛れて討伐していけば、造作もなく討伐できる!」
「しかし……災害級よりも強いという話は……」
「フン! そんなもの、奴らが勝手に言っているだけではないか! 大方、自分たちの功績を増やすために、我らに手を出させないようにそんなことを言っているのであろうよ」
本当にそうだろうか? 進言した兵士は首を傾げる。確かに、ダームとカーナンは魔人を直接見ていない。
どれ程の強さなのか、実際にその目で見た訳ではない。
「それが証拠に、見ろ。クルト王国では、人的被害など出ていないではないか」
「ですが、スイード王国では……」
「大方、奇襲に対応できなかったのだろう。その際も、奴らが簡単に追い払ってしまったではないか。本当は大したことないのだよ。魔人など」
三国会談前、シン達が懸念していた『魔人は大したことはない』という風潮が、こんなところで影響を与えていた。
「しかし……」
「ええい、煩いぞ! 先ほどから、否定的なことばかり言いおって! 貴様、創神教の教えに背くつもりか!?」
創神教の教え。
いつの間にそんな話になったのか? 第一この集まりは、シン達が神の御使いや聖女と呼ばれることを快く思っていない人間の集まりで、称号を取り下げさせる手段を考える集まりではなかったのか?
シン達よりも大きな功績を上げたい。そのためのお膳立てを、神が自分たちのためにあつらえたと思い込んだ辺りから、彼らの思考が危険な方向に行きかけていた。
これはまずい。
この作戦の、シン達が魔人を討伐しそれ以外の軍隊で魔物を討伐するという内容は、世界連合の閣僚会議で決まった内容だ。
ここで狂信的な思考の彼らが行動を起こせば、事はシン達から手柄を奪うとかの話ではない。ダームにとって非常にまずい事態になる。
狂信に目が濁っている彼らに正攻法での説得は難しいと、魔人を討伐する方法がないことを理由に、ラルフに諦めさせようとしたが失敗してしまった。
なんとしても止めなければ。
その場にいた数名は、彼らを魔人達が集まる街に行かせてはいけないと、決意していた。
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アリス達、スイード方面連合軍が合流した次の日は、完全オフになった。
翌日に控えた最終決戦のため、少しでも疲労が残る行動は避けるべきと、訓練すら行われていない。
今働いているのは、各国合同の偵察部隊と、食事や宿舎となるテントの管理などをする非戦闘員の人たちだけだった。
翌日の作戦決行は、夜明け前の闇に紛れての奇襲作戦になる。
その前の夜中に起きないといけないので、夜警の人間以外は早めに就寝するように言われ、夜も昨日用意したベッドで早々に眠りについた。
それが、怒号によって叩き起こされたのは、起きる少し前。まだ深夜という時間だった。
「魔人が! 魔人達が動き始めました!」