苦労してもらいました
「ウォルフォード商会、すごかった……ね!」
「おっと! シンが益々リッチになっていくね」
「殿下! そうですね。自分達と同い年なのに凄いです」
「フン! ヨシッ! 何やら開発中の製品もあるらしいからな。まだまだ資産は増えていくだろう」
所々会話が変なのはマジカルバレーをやりながら会話しているからだ。
話題は、先日オープンしたウォルフォード商会の事。
何でそんな話題になったかというと、アリスがお父さんの社割でジェットブーツを購入したからだ。
ちなみに、トニーに渡しているジェットブーツとバイブレーションソードも、皆の戦闘服も、代金を貰っている。
割引価格だけどね。
お金を払わないと気持ち悪いって言うから、仕方なくだ。
本当はあげても良いんだけど。
で、アリスが折角ジェットブーツを購入したから試したいと言ったのが切っ掛けで、自習になってる魔法実習はマジカルバレーをする事になった。
無詠唱で魔法を使いまくるから、魔法実習になるとして、アルフレッド先生の許可はおりてる。
そのアルフレッド先生は、コート脇で、口をアングリ開けながら試合を見てるけどね。
これ、良い練習になると思うんだけど、魔法実習に組み込まないかな?
「ああ! もう! ジェットブーツ使う前に決められちゃったよ!」
「フ……有用な道具を使わせないのも、戦略というものだ」
何か、オーグが格好よく変な事言ってる。
バレーボールだよ?
どんだけハマってんだよ、皆。
「むー! 次は使いますからね! オリビア、次はもっと高くトス上げて!」
「も、もっとですか?」
「おっしゃあ! 掛かってこーい!」
アリスの掛け声でゲームが再開される。
オーグチームのトニーが打った、ジェットブーツと身体強化を使った、超高角度・高速ジャンプサーブがアリスチームのコートに迫る。
「あ! 先に使うなんてズルい!」
「貰ったで御座る!」
軌道を読んでいたのかユリウスがナイスレシーブを見せる。
「ナイス、ユリウス! オリビア、来ーい!」
「いきますよ! アリスさん!」
前世で見たバレーボールでは、ありえないくらい高いトスを上げるオリビア。
「待ってましたあ!」
そしてアリスが、遂にジェットブーツを起動し、高々と飛び上がる。
「おおりゃああ!」
オーグチームは誰一人動けずに、アリスのアタックはコートに突き刺さった。
かくいう俺も動けなかった。
「やったあ! どうですか、殿下! 今のは取れないでしょう?」
「ああ……まさか、こんな手で来るとはな……」
「正直、予想外でしたね……」
「いやあ、眼福だったねえ」
「眼福?」
アリスだけ不思議そうな顔をしている。
今は、本来なら魔法実習の時間な訳で……魔法実習は制服でやる訳で……。
さっきからチラチラと際どかったけど、今のは……。
「アリス、アンタ……猫なのね」
「ねこ? って……あ、あ」
ようやく気付いたらしい。
アリスが、制服のスカートを抑えて赤くなっていく。
女子の制服はスカートなんだから、あんなに高く飛び上がっちゃねえ……。
「アリスさん……丸見えでしたよ……」
「ま、まぁ……可愛いパンツだったからぁ、いいんじゃない?」
「ユーリ、下手なフォローは逆に傷付く」
「ぎ、ぎにゃあああああ!」
アリスはネコパンツ……か。
「シン君?」
「な、何? シシリー」
「……アリスさんの下着が見れて良かったですね?」
「い、いや! 見たっていうか、見えたっていうか……」
「フフフ……」
「わ、わざとじゃない! わざとじゃないんだ!」
恥ずかしがって練習場の隅で丸くなってしまったアリスや、笑顔が怖いシシリーを宥めるのに残りの時間を使ってしまった。
「はあ……夏休みの間に、お前らはどこまで高みに上ってしまったんだ……これじゃあ魔法学院に通っている意味など無いじゃないか」
「そうですか? 勉強は大事だと思いますよ?」
ホント、何学院に何学びに来てんだって感じだけどね。
「もうすぐ騎士学院との合同訓練が再開されるんだが……お前達はどうする? 意味ないだろう?」
「あ、なら、その間にやりたい事があるんですけど」
「やりたい事? なんだ、ウォルフォード」
「俺達も魔物の間引きには参加します。ただ……騎士学院との合同ではなく、俺達だけで参加させて欲しいんですけど……」
「それはいいが……理由を聞いてもいいか?」
「この前、三国会談から帰ってくる途中で魔物の群れに襲われたんです。その時に、素材の価値を落とさず狩るようにしたんですけど、皆、結構苦戦してて……ちゃんと狩れれば精密な魔法の練習になると思うんです」
あれは皆のいい練習になったからな。是非、取り入れようと思っていたのだ。
いいアイデアだと思ったんだけど、アルフレッド先生が眉間を抑えながら苦悩していた。
なんで?
「魔物の素材の価値を落とさずに狩るとか……ベテランハンターが考える事じゃないか。もうそんな域に達しているのか?」
「まあ……ここにいる全員、既に災害級は狩れますからね。ただ力でゴリ押しなんで、もうちょっと精密な魔力操作を覚えてほしいんですよ」
精密な魔力操作ができれば、魔力を隠して魔人達に近寄り、包囲して今度こそ逃がさないように出来るかもしれないからな。
攻撃の幅も広がるし、良い事づくめだと思います。
「……まあ、この訓練の第一の目標は騎士と魔法使いのスムーズな連携を取る事にあるからな。単独で戦力として成り立ってるお前達には必要ないか……」
「俺らの目標は魔人ですからね」
こうして、魔法学院と騎士学院の合同訓練が行われている最中、俺達は魔物相手に精密な魔力操作の訓練をする事になった。
「お! シン、この前ありがとな!」
「洗浄機能付きトイレのある生活……夢のようです」
「一緒に買った冷蔵庫も便利だしな」
「ただ、魔法使いほど魔力操作がうまく出来ない私達一般人には、あの量の水を氷にするのは骨がおれます。何とかなりませんか?」
合同訓練は授業の一環なので、たとえ俺達だけ別行動でも集合場所には集まるのだが……周りはこちらをチラチラ見るだけで誰も近寄って来ない。騎士団や魔法師団の人達でさえそうだ。
そんな中、ジークにーちゃんとクリスねーちゃんだけは普通に話し掛けてきた。内容はこの前購入した魔道具についてだったが。
「あれくらいどうって事ないよ。冷蔵庫に関しては、魔石があれば常時冷やし続けられるんだけどね……」
実際、ウチの冷蔵庫は、もうそのタイプに変更してある。メイドさんからは便利だと絶賛されてる。
「魔石かあ……まだ調査中なんだよなあ……」
「進捗はどうなってんの?」
「騎士団からも何人か駆り出されてますね。シンから報告のあった場所を発掘してるらしいですが……」
そこでジークにーちゃんが声を潜めた。
「……チラホラ出てるらしいぞ」
「そっか、やっぱりね」
「それにしても……シンが世に出た途端に、次から次へとまあ……」
「森にいた時から大概規格外だったけどな。世に出るとこんな事になんのか……」
「御二人も、シン君の小さい頃を知ってるんですよね? どんな子だったんですか?」
俺が森にいた頃の話をし始めると、小さい頃の話を聞いた事のある筈のシシリーが、二人に訊ねた。
この二人の視点の話も聞いてみたかったのかな?
「俺達が前任から陛下の護衛を引き継いだのは、ここ四~五年だからそれより前は知らないけど……」
「初めて会った時は驚きましたね。なんせ……」
「超デカイ熊、背負って来やがったからな、コイツ」
そうだったな。結構デカイ、魔物化してない熊を仕留められたから、爺さんやばあちゃんに自慢しようと思って、背負って帰ったんだった。
「木陰から大きい熊が急に姿を現したもんだから俺らも身構えてよ」
「当時……十歳でしたか。シンはまだ小さかったですから、熊に隠れて見えなかったんですよね」
懐かしそうに話すジークにーちゃんとクリスねーちゃん。それを聞いた皆は……。
「……なんだろうねえ、普通なら驚くところなんだろうけど……」
「シン君ってだけで納得しちゃうよね!」
もうちょっと驚いても良いんだよ? 君達。
「はは! 良い具合に受け入れられてんじゃねえか」
「こんな規格外の子に友達が出来るか不安でしたが……杞憂だったみたいですね」
「ちょっと、やめてよ……」
皆に受け入れられてる俺を見て、嬉しそうに俺の頭を撫でる二人。
この歳でそういう事されるの恥ずかしいんですけど……かといって、嬉しそうな二人の手を払いのける事も出来ず……されるがままになっていた。
皆の生温かい視線が……。
「フフ、御二人共、シン君の事可愛がってらっしゃるんですね」
「あー、これはあれだな」
「ええ、手を焼いた子ほど可愛いってやつですね」
「そんなに手を焼かせたっけ?」
「何言ってんだお前!? ちょっと目を離すと、すぐにいなくなりやがるし」
「そうかと思ったら、血まみれになって帰ってくるし」
「ち、血まみれ!?」
シシリーが血まみれ発言に反応して、心配そうな視線を向けてくる。
「俺らも何事かと思ったけど」
「獲物を仕留めるのに失敗して、返り血を浴びたらしくて……」
「あー、あったねえ、そんな事」
「あったねえ……じゃねえよ!」
「本当ですよ! どれだけ心配したと思ってるんですか!?」
「ゴ、ゴメン……」
そんな事もあったねと思い出していたら、二人からメッチャ怒られた。
「他にも、散々やらかしてくれたからな」
「賢者様の家にいる時は、陛下の護衛よりシンの心配ばかりしてましたね」
そ、そうだったのか……自分が子供だって意識が薄かったから、周りの心配とか考えてなかったなあ……。
「正直、心配してたんだぜ。こんな規格外な子供と仲良くしてくれる奴なんているのかって」
「それが、こんなに沢山の友人が出来るなんて……皆さん、ありがとうございます」
「ありがとな」
ジークにーちゃんとクリスねーちゃんが、まるで本当の兄姉のように、皆に礼を言う。
嬉しいんだけど……恥ずかしいって。
「で? その不肖の弟は、また何かやらかそうとしてるって?」
「単独で魔物討伐に出ると聞きましたが……どういう事ですか?」
「別に変な事じゃないよ」
今回の目的について二人に話す。すると、二人揃って呆れた顔をしていた。
「魔物素材を傷を付けずに綺麗に採取する為の練習って……」
「この歳だと、普通は魔物すら狩らないんですけどね……もうベテランと同じ考えに行き付きますか」
「それは副産物だよ。本命は精密な魔法技術の向上なんだから」
「魔物狩りすら訓練の一環か」
「この子達を合同訓練に参加させなくて正解でしたね。騎士学院生が確実に自信喪失します」
「魔法学院生も同じだろ」
「それより、二人は引率でしょ? 担当の班の所に行かなくていいの?」
さっきからずっと俺達の所にいるけど、担当する班の人に挨拶とかした方がいいんじゃないか?
「俺達の担当はお前達……ていうかお前だよ」
「俺?」
「シンがまた無茶をしないように……学院からも、陛下からも依頼されましたよ」
「ええー? お目付け役って事? そんなの必要ないのに」
「そんな訳に行くか!」
「自分の今までの所業を思い返してみる事ですね。辞令が無かったら自ら志願してましたよ」
「俺も。どうしても、無茶をしないお前が想像できん!」
引率じゃなくて、監視だったか。
そういう意味での信用ないな、俺……。
「シン、二人の目的も分かった事だし、そろそろ出るか? どうせ深部まで行くんだろう?」
「そうだな。じゃあ、ジークにーちゃん、クリスねーちゃん、付いてきて」
さて、魔物相手の精密魔法実習を開始しますか。
「お、いるいる。今日も魔物が沢山だな」
「本当に異常事態だな。早く問題を解決しないと、世界中魔物だらけになっちまうぞ」
「それで? ここからどうするのですか?」
「魔物ってさ、魔力に誘われて集まって来る習性があるんだよね?」
「ああ、魔物は魔力を持ってる生物を襲うと言われてるな」
「だから、大人数での移動の際は沢山の魔物が出るんですよ」
「だったらさ、こうやって魔力を集めると……」
魔力を大量に集めて、それを魔法に変換せずに放置する。
すると……。
「おい……おいおいおい!」
「どうしたんですか? ジーク」
「どうしたもこうしたも! スゲエ数の魔物が集まってきてるぞ!」
ジークにーちゃんの言葉にざわめく一同。
普通、魔力はすぐ魔法に変換してしまうから、集めた魔力のまま置いておくなんて事はしない。
だが、魔物が魔力に誘われるなら、こうして魔力を集めたままにしてると、餌にできるんじゃないかと踏んだのだが、正解だったみたいだ。
「皆、魔物は把握してるね」
「ああ」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、二人一組になって、一人が魔物素材に傷を付けずに攻撃。もう一人は撃ち漏らした魔物を、パートナーに近付けないように討伐。その場合は採取は考えなくていいよ」
「万が一のフォローですか」
「へえ、意外とちゃんと考えてんだな」
「二人とも、俺を何だと思ってるのかな?」
皆を危険に晒すような訓練なんてしないって。今までだって、大丈夫だと思ったから災害級だって討伐させたんだし。
「シシリーは俺と一緒ね」
「シン君と一緒なら心強いです」
魔物討伐前だというのに、嬉しそうなシシリー。その信頼は嬉しいんだけど……そう上手い話じゃないよ?
「よし、パートナー組んだな。それじゃあ先発組……」
皆が二人組になり、準備ができたところで魔物達が射程圏内に入った。
「撃てえ!」
先発組が、一斉に魔法を放つ。 何体か素材をダメにしているが、討伐自体は順調だ。
「わっと! あーん、また両断しちゃったよお」
「アリスはまだまだ甘い……む」
アリスが撃ち漏らした魔物が、魔法の網を掻い潜り近付いてくる。
パートナーを組んでいるリンがそれに気付き、その魔物に向かって魔法を放った。
「熱っつ! リン! こんな至近距離で、炎の魔法なんて使わないでよ!」
「大丈夫、アリスは強い子」
「意味が分からないよ!?」
あそこは何やってるんだ? しかし、あれでも順調に魔物討伐は進んでいる。
魔物素材が採取できていれば、なお良かったんだけどな。フォロー側は、素材の取得は考えないでいいと伝えてしまったのでしょうがない。
シシリーも、俺がフォローしているからか、討伐に集中している。
時々こちらに向かってくる魔物もいるけど、皆も問題なくフォローできている。
しばらくすると、魔物の群れの第一波が収まった。
「ふいー! 疲れたあ!」
「予想以上に素材をダメにしちゃったねえ」
「フム、これは難しいな」
「ああ……勿体無い事したッス」
「これは……中々遣り甲斐のある課題ですね」
「フフ、シン君のお陰で集中できました」
先発組が口々に感想を言っているが、そんな猶予はあまりなかったりする。
「ホラ、第二波が来るよ。先発組は後発組と交代な」
「ええ! もう!?」
「魔物は俺達を待ってくれないぞ」
「シン……アンタ、さっき魔力集めてなかった?」
「気のせいだろ? それより、来るぞ!」
実は、マリアの指摘は正しかったりする。
さっきコッソリ魔力を集めて、魔物を呼び寄せていたのだ。
「ホラ来たぞ! 撃てえ!」
俺の号令と共に、先発組と同じ要領で魔物を討伐していく後発組。
「ああ、もう! 心の準備が出来てなかったから!」
「あぁ、またダメにしちゃったぁ……」
「うう……勿体無いです」
「ぬ! この! トール、スマン! 抜けたで御座る!」
「む、失敗した」
先発組より準備期間が短かったせいか、割と狙いを外してしまっている。
「シン君は凄いですね……百発百中ですか……」
「まあ、これくらいはね。昔は鳥の群れとか撃ち落としてたし」
「……それって、やっぱり……」
「鳥肉ゲットだね」
「それに比べたら、こんな魔物なんて大きな的ですね……」
「そういう事」
結局、最後までリカバリー出来ずに、魔物素材の大部分をダメにしてしまった後発組が、落ち込んでる。
「もうちょっと、ちゃんと準備出来てたら……」
「ウォルフォード君、非道いよぉ」
泣き言を言うマリアとユーリを諌めようとしたら、クリスねーちゃんが先に口を開いた。
「アナタ達は、敵が『今から攻めますよ』と宣言しないとちゃんと戦えないのですか?」
「魔法の威力はスゲエけど、その辺はまだまだお子様だな。奇襲なんて戦場では日常茶飯事だぜ?」
さすがにジークにーちゃんとクリスねーちゃんは、俺の意図に気付いたようだ。
「敢えて準備期間を取らせないようにしたんだ。俺達がこれから相手をするのは魔物じゃない。魔人……それも意識のある魔人だぜ?」
俺達の言葉で、皆の顔が下を向く。オーグですら苦い顔をしている。
「今までは正面突破で来てくれたから助かってるけど、これだけ長い期間襲撃がないって事は、対策を練ってるんじゃないか? なら、今までみたいに楽勝とはいかないかもしれない」
ハッと、気付いたように皆が顔を上げる。
「そうなってからじゃ遅いんだ。そうなってしまったら……俺は……」
この世界で初めて出来た対等の友人達。誰一人として欠けさせたくない。その為なら俺は……。
「ってな訳で、第三波な。もうそこまで来てるぞ」
『うえええええ!?』
ホレホレ、さっさとしないと魔物の群れが到着しちゃうぞ?
「シンって意外と厳しいところもあるのね……」
「ああ! もう来たあ!」
「それで……目標は?」
「もちろん、素材の採取ね」
『鬼いいいい!』
はっはっは、素材は採取出来なくても、死ぬ事はないだろうから、一杯苦労しようか。
「うう……大変です……」
「あ、シシリーはこの後、交代せずに引き続き討伐ね」
「ええ!?」
「だって、俺が入ると練習になんないじゃん? 大丈夫、ちゃんとフォローしてあげるから」
「ふええええ!」
これで、シシリーの実力も上がるだろう。
いやあ、婚約者思いだな。俺って。
「シンがSだ……」
「意外でしたね」
そこの引率! 変な事言わないでよね!
「ふええええ!」
シシリーは半べそをかきながら頑張ってる。
泣き顔もかわい……。
「シンが変態だ」
「意外でしたね」
そこの引率ぅぅ! 変な事言うなあ!!




