再燃してしまいました
スイード王に今回の件の報告をする為、王城に通して貰った。
先程の絶望的な話のダメージが抜けきれないまま、俺はスイード王国の王城を歩いていた。
「シン、そんな疲れた顔をするな」
「誰のせいだ! 誰の!」
「だからメリダ殿みたいな事を言うな。まあ、お前の物語を読みたいというのは国民の願いでもあるんだ、諦めて娯楽提供者になれ。印税も入って来るぞ?」
「もうこれ以上金は要らねえよ!」
「そうは言ってもな。これからも防御魔道具の料金に通信機の料金に使用料、それに今回の褒賞金に印税も入ってくるんだぞ?」
「何それ! シン君超羨ましい!」
「なら代わってやろうか? アリス」
「え? いやあ……王国中の晒し者になるのはちょっと……」
「やっぱり晒し者か!」
「そんな事より、魔人を討伐した英雄がそんな疲れた顔をしていたら皆が不安がる。無理にでも平気な顔をしていろよ?」
「……俺が疲れた原因の九割九分はオーグのせいだけどね……」
「はっはっは、おっと、王の執務室に着いたようだぞ」
笑って誤魔化しやがった!
オーグを追及したいけど、本当に王の執務室に着いたのでこれ以上は突っ込めない。
案内してくれた兵士さん、超戸惑ってたな……。
その兵士さんが執務室のドアをノックすると、中から壮年の男性の声が聞こえ、入室の許可を出した。
部屋の中には、白髪の混じった茶髪に口髭を生やした恰幅のいい男性が椅子に座っており、その脇に鎧を着た金髪の男性と、文官と思われる老齢の男性がいた。
「お久しぶりです、スイード王」
「おお! アウグスト殿下!」
恰幅のいい男性が王様だったみたいだ。スイード王は席を立つと、オーグの手を握り感謝の言葉を述べた。
「此度の事、アールスハイド王国には格段の支援をして頂いた。あの通信機で迅速に救援を出せなければ……あの防御魔道具で魔人の攻撃を防げなければ……そして、殿下達が駆け付けてくれなければ……今頃スイード王国は灰塵に帰していた事だろう。本当にありがとう!」
「いえ、魔人は世界の脅威です。この世界に住む者として当然の事をしたまでです」
「それでもだよ。現実にスイード王国という国を守ってくれた事に変わりはない。改めてありがとう。ディセウム陛下には直接御礼を言いに伺うと伝えてくれ」
「分かりました」
スイード王とオーグのやり取りを見ていると、傍らに控えていた金髪の兵士? 騎士? さんが訊ねてきた。
「それと、あの防御魔道具を造ってくれたシン=ウォルフォード君というのは?」
「あ、俺……私です」
「おお、君か! 君の魔道具のお陰でこの国を守る事が出来た。部下の被害も最小限に食い止められたと聞いている。礼を言う、ありがとう」
そうお礼を言ってくれた。けど……。
「いえ……もっと早く来れたら良かったんですけど……」
「君達は十分早く駆け付けてくれたよ。正直、想像を絶する程の早さだった。これ以上望むのは贅沢だし酷というものだ」
「……ありがとうございます」
そう言ってくれるけど……やっぱり亡くなった人が少なくない数いるのは……傲慢かもしれないけど、どうしても俺の心に棘が刺さったままだ。
「シシリー=フォン=クロードさんというのはどの子かな?」
「あ、はい! 私です」
もう一人控えていた文官の男性も声を掛けてきた。
「君のお陰で多くの住民の命が救われたと聞いたよ。本当にありがとう」
「いえ……救えなかった人もいましたから……」
「全て救うなんて到底無理な事だ、君は君の出来る範囲で出来るだけの事をしたんだ。それでも他の者より多くの住民を救ってくれた。本当にありがとう。住民を代表してお礼をさせてほしい」
そう言って深々と頭を下げた。
「そ、そんな! 頭を上げて下さい!」
「クロードさん、私からもお礼を言うよ、ありがとう」
「そんな陛下! 畏れ多いです!」
「巷ではクロードさんを聖女と言う者もいるようですね」
「ほお、そうなのか?」
「こ、困ります……」
聖女様と言われる事にシシリーが困惑してる。
「ほほ、そういえばクロードさんはウォルフォード君と婚約したんでしたな。夫となる者がいては聖女は出来ませんな」
「なんで知ってるんですか?」
文官の男性がそう言うが、外国のそれも片方が貴族でない者の婚約なのに、何で知ってるんだ?
「君は自分の価値が分かって無いようだね?」
「そうなんです。コイツは自分がどれだけ凄い人間なのか分かって無いんですよ」
「おい、オーグ」
オーグまでそんな事を言い出した。
すると、スイード王が俺に話し掛けてきた。
「君の事はアールスハイドだけでなく、各国の注目事項なんだよ。どんな行動を取るのか、誰と付き合い、誰と婚約するのか。本当なら私の娘も嫁がせたい所だったんだよ」
うえ! 王族とか勘弁して下さい!
「まあ、アールスハイド王の宣言でそれは出来なくなってしまったがね」
「でもあれってアールスハイド王国内向けの宣言だったんじゃ?」
「同じ事だよ。国内向けの宣言だとしても、それに乗じて外国から婚礼を申し込めば、アールスハイドだけでなく他の国からも疎外されてしまう」
そうなのか。色々大変なんだな。
「だから、君が婚約したという事も、アールスハイド王国にいる大使から連絡を受けていたんだよ。通信機を借りてね」
「ああ、なるほど。昨日婚約披露パーティをしたばかりなのに何で知ってるのかと思いました」
「あれは良いものだね。今アールスハイド王国にもう幾つか都合付けて貰えないか交渉をしてるんだよ。勿論、料金も通信料も支払うつもりだよ」
また金が入って来るのか……使い途が無いよ……。
「まあ、そんな訳でね君達の事は知ってるんだよ。君が婚約するという事は、婚礼の押し付けではなく君達が恋仲になって婚約した事もね」
「そ、そうですか」
「おめでとう、私からも祝福するよ」
「ありがとうございます」
スイード王から祝福して貰ってしまった。
そんな祝福ムードの中だが……ここに来たのは祝福して貰う為じゃない。
「スイード王、お話の途中で申し訳ありませんが今回の事で報告しなければいけない事があります」
「報告なら現場の兵達から上がっているが?」
「私が報告したいのは魔人の首魁、オリバー=シュトロームを知っているからこその報告です」
オーグのその言葉に、スイード王国側の三人が緊張した。
「今回の魔人襲撃ですが……魔物が帯同していませんでした」
「それは聞いているよ」
「そして……シュトロームもこの襲撃に参加していませんでした」
「何だと? 首魁がいなかった?」
一国を攻めるのにその首魁がいなかった。一般人に対して大きな戦力になる魔物もだ。
それでも、一般人や魔人と対抗出来ない者にとっては脅威となる。
「我々は魔人に対抗出来るだけの力を手に入れておりますが……失礼ながら貴国ではそうはないでしょう。それを考えればおかしな事ではないのですが……」
確かにそれだけならおかしな事ではない。
しかし、とオーグは俺の顔を見て話を続けた。
「ここにいるシンは、魔人共の首魁であるシュトロームを後一歩の所まで追い詰めています。帝国を陥落させる為に、王国や帝国を相手にあそこまで策を練り、手玉に取ったシュトロームが最大の脅威であるシンの存在を無視するとは思えません」
「確かに……」
「それで、私とシンはこれが陽動ではないかと考え、急ぎアールスハイドに戻ったのですが……」
「アールスハイドに戻った?」
あ、ゲート……。
「ええ、シンは転移魔法が使えます。特定の場所しか行けませんが……」
「なんと! 転移魔法とな!?」
「特定の場所? ああ、アールスハイドにその地点を設置しているのか」
微妙に事実を曲げたな……流石に一度行った事のある場所なら行けるとか言えないか。
……今、王の執務室にいるし……。
「はい。それでアールスハイドを襲撃する為の陽動だと思ったのですが……」
「殿下がここにいるという事は……襲撃は無かったと……」
そう、そこが今回の一番分からない事だ。
確かに俺達が出張って来なければ、あの魔人達だけでもスイード王国は陥落していただろう。
しかし俺達がその襲撃に対して準備をしていないと、俺達が出張って来ないと、そんな事をシュトロームが考えるだろうか?
その事も含めて襲撃の作戦を練るのではないのか?
だからこそ、この襲撃が陽動でありアールスハイドが本命だと思ったのだが……。
「結果、この単調な襲撃が魔人達の行動の全てでした。これが一体何を意味するのか……全く分かっていないのです」
「つまり……魔人達の意図が分からない……この襲撃を退けただけでは安心出来ない……そう言いたい訳ですか」
「その通りです。これで襲撃が終わるかもしれないし、またあるかもしれない。シュトロームが何を考えているか分からない以上、警戒を緩めるべきではありません」
全く意図が分からない魔人達の行動に、王の執務室に沈黙が下りた。
「今後の事もあります。出来れば各国と連合を組み協同戦線を張りたいと考えています。どうか御賛同願えませんか?」
「そうですな……これは一国で抱えるには重すぎる案件だ。一応協議はするがスイード王国はその連合に参加すると考えてもらっていい」
「ありがとうございます」
スイード王は協力を約束してくれた。
これから他の国とも連合の話を進めていく必要があるだろう。
皆で団結すれば、シュトロームの思惑も打ち砕く事が出きると思う。
俺も頑張らないと……。
「近い内に各国首脳との首脳会議を考えています。決まり次第連絡します。宜しくお願いします」
「分かった。連絡を待っているよ」
「報告は以上です。それでは我々は失礼します」
「この度は救援に加えて貴重な情報をありがとう。こちらも定期的に通信機で報告をしよう。うん、やはり便利だな。ディセウム陛下にその事も宜しく言っておいてほしい」
「分かりました」
そうして俺達は王の執務室を後にした。
「何か……大変な事になってませんか?」
先程のやり取りに不安を感じたんだろう、マリアがそう呟いた。
そう思うのも無理はない。シュトロームの意図が分からない以上、あらゆる可能性を視野に入れて行動しないといけない。
その為に、さっきオーグの言った連合を組むのが一番いい。
世界連合とか……大分大袈裟な話になってきたな。
「それも含めてアールスハイドに戻ってから協議する。シン、頼む」
「……ああ」
ゲート……だよな?
そんなふざけてる場合じゃないから大丈夫だろう。
俺はいつものアールスハイドの警備兵詰所にゲートを繋ぎ、皆で潜った。
すると……
「おお! 殿下達が戻られたぞ!」
「お帰りなさい! アルティメット・マジシャンズ!」
「お帰りなさい!」
多くの警備兵が待ち構えており、一斉に拍手が起きた。
「わ! ビックリした!」
アリスが驚いてるが俺も同意だ。何でこんなに集まってるんだ。
「お帰りなさいませ殿下。陛下がお待ちです」
「ああ、分かった。それより、何の騒ぎだ? これは」
「先程、殿下からスイード王国に現れた魔人を撃退したとの報告を受けて、皆さんを出迎えたいと手の空いている者が詰め掛けたのです」
「……そうか」
「国民にも布告致しましたので、王都中が大変な騒ぎになっております。殿下の王太子就任の祝賀も相まって、数日は収まらんでしょうな」
そうか、スイード王国魔人討伐の報は既に広まったか。
「皆、アルティメット・マジシャンズの活躍に沸いております!」
そのチーム名と共に……。
「しばらくはお祭り騒ぎか、仕方あるまい。チーム名も浸透した事だし、なによりだな」
「はい。この先行きの見えない状況での皆様の御活躍……恐らく叙勲があるのではないでしょうか?」
「え? 叙勲? あたし達が!?」
「これはまた、凄い事になって来たねえ……」
それはそうだろうな。魔人を一体討伐しただけで勲章を貰ったんだ、今回は何体倒したのか。それに加えて一国の危機を救うという行為に勲章が出ない訳がない。
もう既に一度叙勲を受けている身としては、皆より気が楽だな。
「その事はまた後だ。今は先に協議しなければいけない事がある。皆、行くぞ」
『はい!』
オーグの号令で警備兵の詰所を出て王城へと入っていく。
王城の中ですれ違う人達からも祝福の言葉と拍手を貰っていく。
「凄いぞ! アルティメット・マジシャンズ!」
「素晴らしいです殿下! アルティメット・マジシャンズ!」
「アルティメット・マジシャンズ!」
チーム名の連呼と共に……。
「……もうやめて……」
「シ、シン君!しっかり!」
「もう放っておけクロード。その内慣れる」
慣れる……のか?
そんな日は永遠に来ないような気がする……。
ディスおじさんの下へ辿り着く前に疲れ果ててしまった……。
そのディスおじさんは謁見の間ではなく、会議室にいるらしい。
俺達から報告を聞くに当たり、チーム全員の話を聞きたいのだそうだ。
先にディスおじさんに報告に行っていた兵士さんから聞いた。
「あたし達も報告しないといけないのかあ……」
「魔人の集団と対峙したのは我々だけだからな。私が報告するから皆は補足程度でいい」
「あ、そうなんですね」
会議室に到着し、扉の前にいた兵士さんに扉を開けて貰う。
「アウグスト様!」
「お兄様!」
会議室にはディスおじさんを始めとして、国の上層部の人間が何人かいた。
その中に、何故かエリーとメイちゃんもいた。
会議室に入ってすぐ、そのエリーとメイちゃんがオーグの下に駆け付けてきたのだ。
メイちゃんは魔法の才能が開花してから身体能力強化が出来るようになっており、エリーよりも先にオーグの下に辿り着いた。
しかし、それはタッチの差で……。
「お兄様!」
「アウグスト様!」
「ムギュ!」
「お前達、何故こんな場所にいる? ここはお前達の来るべき所ではないだろう」
「まあ! 愛しい婚約者の身を案じる事がいけない事ですの?」
「そうは言っていない。だがここは会議室だ。一般人がいるべき所ではない」
「……心配だったのです……アウグスト様がスイード王国の魔人を撃退したと聞いてから、いてもたってもいられなくて……」
「私が許可したんだよ。相当心配していたからな。それより……」
「なんですか? 父上?」
「メイ、グッタリしとらんか?」
「え? ああ!メイ!」
「……気付いて無かったのか?」
タッチの差で先に辿り着いたメイちゃんがオーグに抱き付き、その後にエリーがオーグに抱き付いたのだ。
すると当然、先に抱き付いていたメイちゃんをエリーとオーグでサンドイッチする結果になった。
「メイ! しっかりなさい!」
「エ……」
「エ?」
「エリー姉様の胸は……凶器……」
そう言い残してガックリした。
「ちょっと! 変な事呟いて気を失ってんじゃないわよ! メイ!? メイ!」
エリーがメイちゃんを揺さぶって起こそうとしてる。
凶器って……ドレスの上からじゃ分かり難いけど、そんなに凄いのか……?
「なんとも締まらんな」
「しょうがないね。ウチのチームだし」
感動的な場面になりそうだったんだけど……ウチのチームらしいというか何というか……。
「もういいかな?」
「すいません、お待たせしました父上。誰か、二人を外に」
『はっ!』
「え? ちょっと! これで再会の場面は終わりですの!?」
「後で行くから、部屋で待っててくれ」
「ちょっとおお……」
バタンと扉が閉められ、会議室の反応はヤレヤレというチームのメンバーと……。
「……今のコーラル公爵家のエリザベート様だよな?」
「ずっと一緒に待っていただろう」
「いや……あんなエリザベート様見た事無かったから……」
「まあ確かに……」
さっきの一連のやり取りに戸惑ってる上層部の方々に分かれた。
「フフ、アウグストといい、メイといい、エリザベートといい、シン君と関わると皆生き生きとしているな。良い事だ」
「そんな事より父上、今回の件の報告です」
「……もうちょっと親子の会話をしても良いんじゃ……」
「それはまた後程。では、今回のスイード王国魔人襲撃とその撃退についての報告です」
落ち込むディスおじさんを無視して報告を始めるオーグ。
……後でフォローしてやれよ……。
そして、スイード王にしたのと同じ報告をし、これからの事について協議する。
「そうか、スイード王国は連合に協力してくれるか」
「はい。それ以外にも帝国に国境を接する国は協力してくれるでしょう。問題は……」
「エルス自由商業連合とイース神聖国か……」
エルスは前に話題に出てきた商人が治める国で、イース神聖国はこの世界唯一の宗教である創神教の総本山だ。
創神教はこの世界を創ったとされる創造神を崇める宗教で、善行を積めば死後創造神の下に行けるという宗教だ。
ちなみに神に名前は無い。
どの国や街にも教会があり、冠婚葬祭を一手に引き受けている。
イースというのは過去に存在した聖職者の名前だそうで、数百年前に平民を苦しめていた帝国みたいな国があり、圧政から人民を救う為にその国で奮闘し、最終的に処刑されてしまったそうだ。
そのイースの処刑に、遺された住民達が総決起しその国を打倒。後に創立した国はイースを建国の父と崇め、創神教がその主導権を取り、創神教の教皇が国家元首となって現在に至っている。
その二か国にアールスハイドと帝国を合わせて四大大国と呼ばれた。
帝国が無くなってしまったので今は三大大国だけどね。
そして大国と呼ばれる位だから……。
「お互い主導権を取りに来るか……」
「恐らくそうなるでしょう」
「まったく……人類が手を取り合って協力しなければいけない時に……」
「その対応は私が行おう」
「殿下?」
エルスとイースを相手にする交渉を、オーグがすると名乗りをあげた。
「私はアルティメット・マジシャンズのメンバーでもあるからな。交渉の主導権を握りやすいだろう」
「……そうだな。アウグスト、頼めるか?」
「お任せを。人類存続の為に交渉を成功に導いてまいります」
「よし。では、エルスとイースに使者を出せ、近い内に連合についての話し合いの場を設けるとな」
「はっ!」
「では我々はこれで失礼致します」
「ああ、分かった。他の皆も魔人討伐から戻ったばかりだというのに悪かったね。ゆっくり休んでくれ」
『はい!ありがとうございます!』
そう言って会議室を後にした。
「はああ……緊張したあ……」
「あそこにいたの、国の重鎮ばっかりだったもんね、緊張して噛まないかスッゴク心配だったよ」
「とは言っても喋ってたの殆ど殿下だけだったけどねえ」
「それでも、あの場にいた事自体が緊張したッス……」
「私……街の食堂の娘なのに、なんであの場にいたのかしら……?」
「今更ながらに現実感に欠ける状況だったわねぇ……」
皆相当緊張していたんだろう、会議室を出た後、口々に喋り出した。
「これで今日は終わりだが……街では相当に騒がれているらしいからな、父上の事だパレードでも画策しているかもしれんな」
「パレード!?」
「ちょっ! そんな、やめて下さい!」
「そうは言ってもな、我々アルティメット・マジシャンズはそれだけの事をしたんだ。国民からの要望があれば、父上ならやるだろうな」
チームとして活躍……それって……。
「またチーム名を連呼されるって事か……」
「それだけ連呼されれば麻痺して来るだろ。良い機会じゃないか」
「慣れる前に羞恥で死にそうだ……」
「で、でも皆さん嬉しそうですし、変な名前では無いですよ!」
「……ありがとう、やっぱりシシリーは優しいなあ……」
「えぅ……エヘヘ」
荒んだ心を癒してくれるシシリーの頭をナデナデする。
はあ……ちょっと落ち着いた。
「クソッ……このバカップルが! 所構わずイチャイチャしやがって……」
……マリアから飛んでくる怨念の籠った視線が痛い!
「ホ、ホラ! 今回の事でマリアも有名になるかもだし、何か出会いがあるって!」
「……有名になってから出会う奴なんてロクなのいないんじゃないの?」
「そ、そうかなあ?」
「はあ……あたしも彼氏欲しいなあ」
「私はいい。魔法が恋人」
「リンはそうよねぇ……はあ、シシリーやオリビアが羨ましいなぁ」
皆可愛いのにな。出会いが無かったのかな?
そんな女子達の愚痴を聞きながらオーグの部屋に辿り着いた。
そういえばオーグの部屋に来るのって初めてだな。
「ここが私の部屋だ、まあ寛いでくれ。おい! 入るぞ!」
『ハーイ!』
中からメイちゃんの声が聞こえた。部屋を出された後、オーグの部屋で待っていたようだ。
そして部屋の中に入ると、エリーとメイちゃんが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、アウグスト様」
「お帰りなさいませ! お兄様!」
おっと、今度は飛び込んで来ないな、さっきので学習したかな?
「まさか追い出されるとは思ってませんでしたわ」
「私はいつの間にかお兄様のベッドで寝てたです!」
「う……それは何度も謝ってるじゃない……」
「エリー姉様、お兄様が御無事だったから嬉しかったんですよね? だから気にして無いですよ」
「あ、ありがと……」
「でもエリー姉様のお胸は凶器です! 危ないです!」
「だから! 変な事口走ってんじゃないわよ!」
「確かに……エリーの胸は凶器……」
「危ない。もぐ?」
「もがないで下さいまし!」
エリーもウチの女性陣と仲良くなったなあ。一緒に温泉に入ってたからかな?
「あっちは置いておいてこっちは大事な話をするぞ」
「ちょっとアウグスト様! 放置なんてヒドイですわ!」
「ああ、皆が帰ってからな。エリーも皆の前では恥ずかしいだろう?」
「……そ、それもそうですわね!」
皆がいると恥ずかしい事って、何をする気なんだ……。
「言っておくがお前が想像しているような事はしないからな。人前でイチャイチャ出来るのはお前らだけだ」
「あぅ……」
「そんなにイチャイチャしてるか?」
恋人なら普通だろ?
「……あれをイチャイチャと言わない……だと!?」
「恐ろしいですわね……」
「やっぱりモザイクがいるね!」
なんで?
「ここにもリア充が……でもロイヤルリア充か……くぅ! 何も言えない……!」
マリアの闇は深そうだ。
「それより、大事な話って?」
「ああ、シンに頼みがあるんだ」
「そうか、俺も頼みがあったんだわ」
「ほう? それは……」
「「各国を回らせて欲しい」」
「……だろ?」
「よく分かってるじゃん」
「私の頼みもそれだったからな。その際、私も一緒に連れて行って欲しい」
「各国への根回しか……」
「そういう事だ」
とりあえず、次の目的は決まったな。
合宿は一時中断して、ゲートを繋ぐ為に各国を廻る。
通信機はほぼ行き渡っているらしいから、魔人出現の報を受けたらすぐに駆け付ける事が出来るようにしたい。
今回のような後悔は……もうしない!
「……お互い何も言わずとも分かり合ってる……やっぱり怪しいですわ……」
だから! なんでそうなるんだよ!?