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賢者の孫  作者: 吉岡剛
48/311

救援に駆け付けました

この話から元に戻ります。

前話と凄いギャップがあります。


……前の二話が暗すぎたんです……



 王都でアウグストの立太子の儀式が行われていた頃、旧帝国領に隣接しているスイード王国では、兵士達が外せない日課である哨戒業務に当たっていた。


 元々周辺国を取り込む野望を持っていた帝国に対し、監視の目は常に光らせていたが、その帝国の帝都をあっという間に陥落させてしまった魔人達に脅威を覚え、今までより監視体制は強化されていた。


 魔人に攻め込まれるとひとたまりもない為、いざという時の避難経路の確保や、アールスハイド王国より貸与された通信機を設置するなどの対策を取っていた。


「とは言ってもなあ、実際攻め込まれたらどれぐらい耐えられると思う?」

「そうだなあ……帝国軍は半日もたなかったらしいぜ?」

「……とにかく住民達を避難させないとな……」

「そうだな……」


「「はあ……」」


 スイード王国軍の哨戒部隊が絶望的な状況に溜め息を吐きせめて住民だけでもと話をしていたその時。


「おい……あれ……」

「え? ま、まさか……」


 城壁の上から望遠鏡で周囲を見渡していた哨戒兵が視線を向けた先には……信号弾が上がっていた。


 これもアールスハイド王国より貸与された物で、通信機は固定型の為移動による哨戒には使えない。


 もし魔人や魔物を発見しても、馬で走っても連絡は遅くなる。


 そこで、どういう仕組みなのかは全く分からないが魔道具を起動させると弾が打ち上げられ、遠くからでも分かるように発光する信号弾も貸与されていた。


 その色は……。


「……赤い信号弾だ……」


 魔人の目を表すかのような赤だった。


 一瞬、何が起こったのか理解出来なかった哨戒兵達だがすぐに我に返り、一斉に動き出した。


「赤い信号弾を確認! 魔人が襲来してきたと思われる! 直ちに王城へ報せを出せ! それと、全住民に避難勧告だ!!」

『了解!!』


 万が一の為に備えてシミュレーションを繰り返していた為、迅速に指示が伝わっていく。


「また信号弾が打ち上がりました! 間違いないと思われます!」

「くそっ! まさか現実にこんな事が起こるとは!」

「見えました! 魔人の集団です!!」


 魔人の集団。


 長い人類の歴史上、去年までは一体のみしか観測されていない魔人が集団で来た。


 まるで悪い冗談のような魔人の集団の出現に、半ば現実感がないスイード王国軍の兵士達。


「規模は!? 規模は分かるか!?」

「魔人の数は……およそ……およそ百!」


 一体でも絶望的な魔人が百体。


 スイード王国兵達は死を覚悟した。


「魔物は!? 魔物は何体いる!?」

「そ、それが……」

「なんだ? 数え切れないのか?」


 自虐的な言葉も出てくるようになってしまった。だが……


「それが、魔物の姿が見えません! 魔人のみの集団です!!」

「魔人のみ!?」


 情報と違う。魔人は魔物を引き連れているはずだ。それがいない?


「まあ……絶望的な状況が最悪の状況に変わった位の内容だな。総員に告ぐ! 城壁を死守せよ! それが叶わなくとも住民への被害は出させるな!」

『おお!!』


 スイード王国軍の指揮官が指示を出し、軍隊が一斉に城壁外へと整列した。


「この城壁は絶対通させるものか! おい! アールスハイドへの報告を頼む! 救援要請もだ!!」


 そう言って伝令を走らせるが……走りながら伝令の男は呟いた。


「報告はすぐに出来ても……アールスハイドからここまで何日掛かると思ってるんだ……」


 皆同じ事を考えていたが、今はそれでも魔人討伐の英雄の力に縋るしかない。


 スイード王国兵はそんな一縷の望みに賭けてアールスハイドへ救援要請を出す。


「アールスハイドから防御の魔道具も借りてるんだ! せめて……せめて足止めだけでもしてやる!」


 そして……魔人の集団とスイード王国軍はスイード王国王都の城壁の前で衝突した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 立太子の儀式の最中に恥ずかしい事を言ってしまった俺は、浮遊魔法で移動している最中も恥ずかしさの余り皆の顔を見れずにいた。


 ……アルティメット・マジシャンズって……。


 我ながらこれは非道いと思うが、もう声に出してしまった。


 あそこに集まっていたアールスハイド国民は、俺達が飛び出した後その名を連呼していたから既に浸透してしまっただろう。


 ……これからこのチーム名で活動していかなければいけない……。


 何て重い十字架を背負ってしまったんだ!!


「おいシン、何をさっきからクネクネしてるんだ。気持ち悪いぞ?」

「お前! お前があんな! 急にチーム名を考えろとか言うから!!」

「ふっ、くっ……いや……良いチーム名だと思うぞ?」

「笑いを堪えながら言うな! それと、お前もそのチームの一員だからな!」

「別にいいじゃないか。悪くないと思うぞ?」


 俺達は自分の周りに空気の壁を作り、お互いの声が聞こえるように風の魔法で音声のバイパスを繋ぎながら空を飛んでいた。


 浮遊魔法を開発してからよく皆で飛んでいたので、風の魔法で移動するのも、話をするのも慣れたものだ。


 空を飛ぶと地上を馬車で移動するよりも数倍速く移動出来る。


 通信は一瞬で出来ても、移動はそうはいかない。


 既にスイード王国には魔人が現れている。一刻も早く現地に向かう必要があるので、一番早く到着する移動方法をとっているのだ。


 こんな事なら、スイード王国にゲートを開くポイントを設定しておけば良かったけど……魔人がどこに現れるか分からなかったからなあ……。


「でも実際良い名前。私は気に入った」

「リンに気に入られると益々自信が無くなるんだけど……」

「むっ、それは失礼」

「はあ……もう皆に浸透しただろうし、諦めるしかないのか……」

「そんな事よりシン殿、もうそろそろアールスハイドとスイード王国との国境です。気を引き締めて下さい」


 トールが俺に注意してきた。


「え? もう国境なの?」

「空を飛んでますからね」

「凄いね! 馬車だったら何日も掛かるのに!」


 マリア達もそのスピードに驚いている。


 俺は行った事無いから知らないんだけどね。


「速い事は良いことだ。スイード王国からの連絡を受けてから、遅くなればなる程被害が大きくなるのだからな」

「でも……魔人ですか……災害級を単独討伐出来るようになったとはいえ緊張しますね……」

「大丈夫だよ。マリアは魔人よりも強くなってるから心配するな」

「それはそれでどうなのよ……?」


 女の子としては魔人より強いってのは誉め言葉じゃないのかな? マリアが微妙な顔をしてる。


「私も頑張ります!」

「シシリーは、魔人達に負傷させられた人達を診て貰いたいんだ」

「あ、そうですね。じゃあ、一人でも多く助けられるように頑張ります!」

「うん、頼むな」


 スイード王国に着くまでに役割分担を決めた。俺、オーグ、トニー、ユリウス、マークはバイブレーションソードを装備して前衛。


 シシリーは負傷者の治癒。


 そして残りは魔法による支援という風になった。


「マーク……無茶しないでね」

「分かってる。ウォルフォード君達がいるから心配ないよ」


 ……あ! マークか!


 ッス! って言ってないから誰かと思った!


「……チクショウ……アッチもコッチもイチャイチャしやがって……」


 マリアから怨念の籠った声が聞こえる……


「マ、マリア殿、落ち着いて……」

「大体! このチームの男子はリア充が多過ぎんのよ! 女子余り過ぎでしょうがあ!」


 何かマリアがキレだした。


 確かに……相手がいないのはトールとユリウスだけか……。


「自分、婚約者いますよ?」

「拙者も許嫁がいるでござる」

「全滅じゃねえかよ!」


 うわ、マリアがキレた。


「くそう……待ってろよ魔人共め……私のこの鬱憤を全部ぶつけてやる……」


 うん! 良い感じに緊張が解れたし、結果オーライだ!


 魔人の集団が相手だからな、変に緊張して力を出し切れないと大変な事になるから良い事だろう。


 マリアには是非大暴れして頂こう!


「おい、スイード王国の王都が見えて来たぞ」


 オーグの言葉に俺達は視線を前に向けた。


 確かに城壁に囲まれた大きな街が見える。


 あれがスイード王国の王都か。


 そして……王都の城壁前で魔法が飛び交い、それを防ぐ魔法防御の障壁が見えた。


「あれ? あの障壁って……」

「ああ、お前に造って貰った防御魔法の魔道具だ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「総員! 魔道具の起動準備!」


 魔人の襲撃を受けアールスハイド王国に救援要請を出してすぐ、スイード王国兵がアールスハイド王国より貸与されたもう一つの魔道具である防御魔道具の起動準備に入る。


 一般的な防御魔道具しか知らない彼等は、いくらアールスハイドからの貸与品とはいえこの時点では魔人の攻撃を防げるとは思っていなかった。


「来たぞ! 魔道具起動!」


 スイード王国兵の魔法使いが一斉に防御魔道具を起動した。


 すると……。


「うわっ!!」

「え? マジか!?」

「防いだ! 魔人の攻撃を防いだぞ!!」

「スゲエ! なんてスゲエ魔道具だ!」

「感激してる場合じゃないぞ! 魔人の攻撃を防げても撃退出来なけりゃ意味が無い! 総員、全力で魔人に攻撃しろ!」

『了解!!』

「魔法師団! 魔法準備! ……撃て!!」


 絶望的な状況から、防御魔道具により魔人の攻撃を防げると分かった彼等の士気は一気に上がった。


 そして、時折魔道具の間隙を縫って城壁内に潜り込まれながらも、何とか魔人達を押し留め戦線を維持する事に成功していた。


「耐えろ! 耐えていればアールスハイドの魔人討伐の英雄が駆け付けてくれる! それまで耐えるんだ!」

『オオオ!!』


 彼等は、シン達の到着を、心から熱望していた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ディスおじさんからやけに多くの防御魔法の魔道具を造ってくれと依頼されたと思ったら……各国に配ってたのか。


「それでも量は足りてないだろうからな、魔力障壁の合間を縫って魔人の攻撃も通ってるな」


 確かに、王都に魔法が幾つか着弾してる。これは急がないと!


「全員全速力! 索敵魔法で魔人を選別し撃破するぞ!」

『おお!』


 そして魔力による索敵を始めたところで……。


「ヤバイ! 誰か魔人に追いかけられてる!」


 通常の人間の魔力が二つ、禍々しい魔人の魔力に追いかけられている。


 急げ! 急げばまだ間に合う!


 高速で城壁の上を通り過ぎ、数人のスイード王国兵と思われる人物がこちらを見ていたが構っている余裕はなかった。


 そして索敵した場所に辿り着くと……。


「いやあああ!!」

「アハハハ! ホラホラ、ちゃんと逃げないと当たっちゃうぞ?」

「いや! やめて!」

「ああああん! ママァ!」


 逃げ遅れたと思われる、子供を抱えた母親を、魔人の内の一体が小さい魔法を放ちながら追いかけていた。


 まるで獲物を弄ぶように……。


「ホラ! ホラ! 当たっちゃうぞ?」

「やめて! お願いやめてえ!」

「アハハハ! 早く逃げないと殺しちゃうげべら!」

「いや……え? げべら?」


 子供を抱えながら逃げていた母親がこちらを振り返る。


 俺は……親子を追いかけている魔人にドロップキックをかまし、着地した所だった。


 そして、蹴り飛ばした魔人のいる方を見ながら母親に訊ねた。


「大丈夫ですか? 怪我は?」

「あ、はい……大丈夫です。あの、あなたは?」

「シン殿! イキナリ上空からドロップキックをかますとか、何無茶な事をしてるんですか!」

「悪い、どうしてもかましたかった」

「あ、あの……」

「あ、ご安心下さいご婦人。我々はアールスハイド王国より派遣されてきた者です。誰か! 彼女を安全な所に避難させて下さい!」


 空から降りたって来たトールが母親に説明し、周辺にいた兵士に呼び掛けた。


「は、はい! ご婦人、こちらです!」

「あ、ありがとうございます!」


 兵士と親子が走り去って行った後、改めて周囲を見渡した。


 城壁は魔道具のお陰か、まだ完全には突破されていない。


 しかしオーグの指摘通りに何体かの魔人は障壁の合間を潜り抜け、王都内に侵入していた。


 アチコチ壊された建物や、少なくない数の兵士達や住民達の倒れた姿がここからでも見られた。


 その光景に……俺はかつてない程の怒りを覚えた。


『スイード王国国民、及び魔人共に告ぐ! 私はアールスハイド王国王太子、アウグスト=フォン=アールスハイドだ!』


 オーグと他の皆は地上には降り立たず、周りの高い建物の上にいた。


 そしてオーグは風の魔法の応用で自分の声を拡声し、救援到着の宣言をしていた。


『スイード王国国民よ安心するがいい! 我々は魔人を打倒するだけの力を手に入れこの地に参った! 王国兵と協力し必ずや魔人共を撃退してみせよう!』


 オーグが魔人に襲撃された国民達を励ますようにそう言った。


『そして魔人共よ絶望するがいい! 我々の中には、かの英雄マーリン=ウォルフォードの孫であり魔人を圧倒的な力で討伐したシン=ウォルフォードがいる! 万が一にも勝ち目があると思うな!』


 そうオーグが宣言した時……。


『オオオオオオ!!!』


 王都の中心に近い、王城の辺りから大きな歓声が聞こえた。


 あの辺りに皆避難しているんだろう。


 俺は、いつもなら何大声で宣言してくれてるんだと言っている所だが、今回はそんな気になれなかった。


『魔人共……覚悟しろよ? 一体残らず討伐してやるからな!』


 俺もオーグのように声を拡声させ、魔人に対し宣戦布告した。


 こんな事をする奴等を……許すつもりは無い!


「痛ってえええええ! テメエ! 何しやがる!!」

 

 先程蹴り飛ばした魔人がようやく立ち上がり、俺に向かって吠えてきた。


「何しやがる? それはこっちのセリフだよ。テメエこそ……ここで何してやがった?」

「ああ? 俺は魔人だぜ? 力のねえモンをいたぶって何が悪いよ?」


 立ち上がった魔人は、ヘラヘラ笑いながら一般人をいたぶる事を魔人の特権だと言う。


 魔人になって得た力に酔ってるだけの下衆か……。


「オーグ! コイツらどうすればいい!?」

「勿論! 決まっている!」


 建物の上にいるオーグに確認してみる。


 するとオーグは当然の事だと、こう言った。


「殲滅しろ!」

「了解!!」


 オーグの宣言で覚悟は決まった。


 元は人間だろうが、今のコイツらは魔人。


 しかも力の無い一般人を弄ぶ事を当然だと思っている下衆の集団だ。


 討伐する事に……何の躊躇いも無い!


「は! 高々人間風情が魔人の俺に敵うとでも思ってんのか?」

「うるせえな……大量に討伐しなきゃいけないんだ。無駄口叩いてる暇はねえんだよ!」


 そう言って一番近くにいた魔人に向かう。


 魔法で迎撃しようとするが……遅い!


「ゴアアア!!」


 後ろにいたトールがその魔人に先制の炎の魔法を浴びせた。


「ナイス、トール!」


 魔法を浴びて悶絶している魔人にバイブレーションソードを一閃する。


「どんな気分だ? 高々人間風情に討伐される気分は?」

「そ、そんな……馬鹿な……」


 そう呟くと……魔人は縦に二つに別れた。


 たった今討伐した魔人を見下ろした後、次の魔人を索敵魔法で探す。


 他の皆も戦闘を始めたようだ。索敵に掛かった魔人達の数がみるみる減っていく。


「シシリー! 負傷者の治癒に向かってくれ! 誰か! 彼女を負傷者のいる所へ!」


 そう叫ぶと、近くにいて呆然と俺達の戦闘を見ていた兵士が我に返った。


「は、はい! こちらです!」

「シン君! 気を付けて下さいね!」

「ああ! シシリーも!」

「はい!」


 兵士に先導され、シシリーが負傷者のいる所へ向かって行った。


「邪魔です!」


 シシリーの声と共に風の刃の魔法が炸裂し、魔人が一体、細切れになっていた。


 ……先導している兵士が唖然としてる。


 そりゃそうだろう。見た目大人しそうな彼女が一撃、それも無詠唱で魔人を仕留めたんだから。


 あっちは大丈夫そうだ。これで安心して……。


「殲滅してやる!」


 索敵に掛かった魔人を片っ端から討伐していく。


「トール! 俺は大丈夫だから皆の支援に回ってくれ!」

「了解しました! シン殿、御武運を!」

「ああ! トールも!」


 そう言って俺は単独で魔人に襲い掛かった。


 魔人が魔法を放って来るが、魔力障壁に簡単に阻まれる。


 コイツら……魔人化したカートより格段に弱い!


「くそお! 何でだ!? 何故通じない!? 俺達は魔人だぞ!?」

「は! この程度でよく偉そうに出来たもんだな!」

「ウオオ! チクショオ!」


 魔人を討伐する為に王都中を駆け巡っていく。


 その途中にも、兵士や、逃げ遅れたと思われる住民達の亡骸を見付け、その度に怒りが込み上げてきた。


「俺達は! 世界を統一する為に魔人になったんだ! こんなところで死ねるか!」

「分不相応な夢見てんじゃねえよ! 下衆野郎共が!!」


 バイブレーションソードで魔人を切り捨て……。


「クソッタレが! 城壁もやたら硬い障壁が張られてるし! どうなってやがる!?」

「そんな事、お前が知る必要なんか無い!」

「ガアアアア! オ、オノレエエエ!!」


 炎の弾丸でもう一体を撃ち抜いた。


 世界統一? それが魔人達の、シュトロームの目的なのか?


 そんな事、こんな下衆共にさせる訳にいかない!


 今この場で、その野望ごと打ち砕いてやる!


「ウゴアアアア!」

「おのれ! おのれええ!」

「アアアアア!」


 オーグ達の方も順調そうだ。


 先に決めた役割分担通りに、魔法で先制しその後バイブレーションソードで止めを刺す。


 中には魔法だけで討伐された魔人もいたほどだ。


 この分ならそう時間も掛からずに殲滅出来る!


 そう思った時……。


『退却だ! 退却しろ!!』


 魔人の内の一体がそう叫んだ。


 すると、魔人共の魔力が街の中から外に向かって移動し始めた。


 しかも散り散りに移動するものだから、全員を捕捉する事が難しい!


「クソッ! 逃がすか!」


 逃げようとする魔人に向かって例の指向性爆発魔法を放った。


 城壁を飛び越えようと空中に飛び上がった魔人達を狙ったのだ。


「な! そんな馬鹿……」

「うおおおお……」

「チ、チクショ……」


 何体かの魔人を巻き込みながら爆発魔法は炸裂したが……


「ああ! くそっ! 何体か逃げられた!!」


 城壁内に侵入した魔人共の内の何体かと、城壁外に押し留めていた魔人達を逃がしてしまった。


 全滅させるには至らなかった。


 城壁外にいた殆どを取り逃がしてしまった事に顔を歪ませていると……。


『ウオオオオ!!!』


 周りにいた兵士達が雄叫びを挙げた。


「撃退した! 撃退したぞ!!」

「スゲエ! 魔人討伐の英雄は本物だった!」

「ありがとう! アールスハイド! ありがとう!!」


 半分近くを逃がしてしまい後悔している俺を、スイード王国の兵士達が讃えてくれる。


 彼等は魔人を撃退し、被害が最小限で済んだことに安堵していた。


 しかし、俺は……。


「すいません……外にいた魔人達を捕り逃がしてしまいました……それに、もっと早く来れていたら犠牲者ももっと少なく出来たのに……」


 もっと早く来れば犠牲者をもっと抑えられた、どこに現れるか分からないとか言わずに可能性のある所全てにゲートを繋げるようにしておけばよかったと、俺には後悔と反省しか無かった。


「いやいや! 十分でしょ?」

「というか随分早かったですね? 数日掛かると思っていたのが数時間で来られるとは。近くで遠征でもしていたのですか?」

「いや……アールスハイドの王都から来ましたけど」

「……?」


 第一報から到着する迄の時間が短かった事を不思議に思ってるみたいだな。


「空飛んできましたから」

「空?」

「あ! そういえば何かが飛んできてた!」

「え? 空を飛べるんですか?」

「ええ、まあ」


 その言葉に唖然としてるスイード王国兵達。


 その反応にも慣れて来たよ……。


「シン、無事か?」

「ああ、そっちは?」

「私は大丈夫だな」

「あたしも怪我してないよ!」

「私も」

「不思議な事に私もよ」

「多分、誰も怪我してないんじゃないかなあ?」


 次々と皆が集まってきた。


 いないのはシシリーだけだが、彼女は負傷者の治癒に回っている。


 索敵で位置も確認済みだ。


「皆無事だったんだな」

「ええ、正直魔人が相手ですからね、もっと苦戦するかと思ったんですが……」

「意外と弱かったね!」

「よ、よわ……」


 この中で一番小柄なアリスの言葉にスイード王国兵達は言葉も出ない。


 皆も順調にこういう反応され始めてるな。


「ところで、ここの責任者は誰だ?」

「あ、はい、私ですが?」

「私はアウグスト=フォン=アールスハイド、魔人撃退の宣言をしたいのだがいいか?」

「ア、アウグスト殿下でしたか! これは御無礼を!」

「今はそういうのは良い。それで? 宣言していいか?」

「はい! 是非お願い致します!」


 この辺りの部隊の隊長さんかな? その人から宣言の許可を得て、オーグは再び拡声の魔法を展開した。


「む、無詠唱!?」

「え? 王子様だろ?」

「てか、俺見たぜ。アウグスト殿下メッチャ魔人討伐してた……」


 オーグが何となく引きつった顔をしていたが、上手く取り繕い言葉を発した。


『スイード王国国民達よ! 私はアールスハイド王国王太子、アウグスト=フォン=アールスハイドである! 皆安心するがいい! 魔人は……』


 そこまで言うとチラリとこちらを見た。


『魔人は我々、『アルティメット・マジシャンズ』が撃退に成功した!』


 ……おおい!! 何大声で宣言してくれちゃってんの!?


「アルティメット・マジシャンズ……」

「おお……」

「凄いぞ! アルティメット・マジシャンズ!」

「ありがとう! アルティメット・マジシャンズ!」


 スイード王国兵達が口々にその名を叫び出した。


 やめて!! そんな大声で連呼しないで!!

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魔法少女と呼ばないで
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「哨戒業務」?「哨戒任務」では無く?正規兵では無く,PMCや傭兵なら「業務」で適切なのでしょうが,微妙なので,改訂されては如何ですか?
[気になる点] フと思った この世界は、スイードでもイースでもアールスハイドでも、共通の言語を使用している様子、外国語という概念はなさそう と、なれば、アルティメット・マジシャンズというのは、表現とし…
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